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女王様、狂犬騎士団を用意しましたので死ぬ気で躾をお願いします  作者: 帰初心
第一章 リーゼロッテと愉快な狂犬たち
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間話 世紀末犬(第一部隊副隊長シバ 視点)

 僕はマメタ・フォン・シバ。

 シバ侯爵の末の息子だ。


 高齢になってから生まれた僕は、両親に溺愛されてきた。

 だが決して軟弱な男ではない。

 僕は文武両道・質実剛健なる、立派な和犬男子なのだ。


 しかし現実として。

 実際は母親そっくりの小柄な体と「可愛い」と言われる顔を持て余している。




 どうせ和犬男子として生まれたからには、トサ卿やアキタ卿のような男らしい顔になりたかった。

 しかもシバ一族の中でも僕の両親は「豆柴」と呼ばれる、小柄な家系。


 つまり小型犬だ。


 なぜこの世では、大型犬や小型犬などと、生まれた時から未来の体格が決定されてしまうのだ!

 僕だっていつかはアキタ一族くらい、いやせめてキシュウ一族くらいの大きさに成長したいのに! 


 ……生まれというものはどうしようもない。

 だが、いい年をして犬の姿が「可愛い」と言われる一族なんて……僕は全く納得がいかない。


 何よりも、憧れるあのお方。

 あのお方のような大きくて素晴らしい男になりたいのに!






 僕は新大陸————先住民からすれば「新」も「旧」もあったものではないが————の、ルマニア大陸よりも薄い青空の下に佇む、黒いマントで軍服を包んだ男性を見た。


 背がとても高く、精悍な顔立ち。

 遠くから見てもスッとした背筋。透き通った水色の瞳。

 その清冽な雰囲気は、何よりも彼の持つカリスマと孤高を感じさせた。


 彼は若きウルフハウンド公爵にして、ケンネル王国史上最悪の戦争を見事に乗り切った英雄。

 ダリウス・フォン・ウルフハウンド。

 若き宰相、黄金の麗人ゴールデンレトリバー公爵と共に、国の誇りを取り戻してくださった、希代の犬人。




 荒廃した大地。

 廃墟となった街の傍らで。

 

 彼は表情を変えず、山のように築かれた墓を見下ろしている。

 この街も、到着した頃にはすでに死体の山で覆いつくされていたのだ。


 僕らは生き残った住民を集め、臨時で作った街・ケンネルへ移動させている。

 あちこちで炊き出しが行われ、担架をもった隊員が生き残ったけが人を運び、てんやわんや。

 向こうでキシュウさんが「マメ! 人が足りない! 手伝え!」と声を掛けてきたので慌ててそちらに向かった。






 僕らの敬愛する王、アベル様が身罷れてしまわれた時。

 とうとう僕らを愛してくれた王族かいぬしが、誰も居なくなってしまった時。 


 国民の大部分を構成する犬人の心身に、異常が起きた。

 伝承に残っていた「野犬化」という現象だ。


 人としての、理性が薄れ。

 犬としての、協調性が薄れていく。

 社会を構成する力が弱まり、これ以上他犬と揉めないよう伝説の呪いの山「犬棄山ほけんじょ」に逃げ込む人が続出した。

 

 そのきっかけは—————絶望。

 王族の存在が欠けたことにより、心の中で巨大な空虚が生じ、何千年も掛けて築いてきた犬人の「根幹」を崩してしまうのだ。

 努力・勝利・友情・忠犬。

 初代王アイアル様が僕らの先祖に与えてくれたと言われている、大切な犬人の美徳が次々と零れていくのは……耐えられない。



 我が家では、兄の一人が突然「僕は山に行く」と言い出し、家族がパニックに陥った。

 母が「せめて部屋に閉じこもってちょうだい!」と悲鳴を上げると、目を充血させた兄は叫んだのだ。


「辛くて哀しくて……そして家じゅうの高級骨をやけ食いしたくなって、月に吠えたくなって、敵を求めるのだ! まるで、昔から僕らがそうだったように! 

 何かが僕を野犬として山野で駆けろ! 山に登り「シロカブト」を倒せと! 心の奥が突き動かしてくるのだ!」


 ちなみにシロカブトとは古代にいたというヒグマーの一種で、伝説の巨大な猛獣だ。

 僕らの先祖は一体何だったと言うのだろう。




 そしてケンネル王国は、周辺国に狙われた。

 犬人を差別するユマニスト王国と領土を狙う帝国が手を組んで、王国に攻めてきたのだ。


 普段なら国民の殆どが軍人のような我が国は、あっさりと追い出せるはずだった。


 だが野犬化が進む騎士団の足並みは乱れ、多くの犠牲者が出た。

 貴族の当主も、中央騎士団の隊長たちも、多くが欠けた。


 そこに現れたのが、亡き王の愛犬として有名だったダリウス様だ。

 立派な体格の巨大犬。

 四肢は逞しく、爪も頑丈で、何よりもその空色の目に宿る光が力強かった。


 愛犬とは、犬の中の犬。

 王から最高の寵愛をいただける最高に「出来る」犬のことだ。

 愛犬の歴史は長く、初代王の愛犬・ポチ様の話にまで遡る。


 彼は威風堂々とした態度で国民に訴えた。

 なぜかしっぽが禿げているのが少し気になったが、彼の威容には些細な事。

 

『ケンネルの国民よ! 我らは諦めてはならない! 我らのかいぬしはこの国にはいない。だが、この世界にいないと誰が言える!?』


 彼は訴える。

 犬人とは、決して王族かいぬしたちを諦めない存在なのだと。

 どんなに離れていようとも、その嗅覚・聴覚、全ての感覚を使って、王族かいぬしを見つけ出せるのだと。


『私には分かる! どこか王族はいるのだ! 騎士団は、必ず王を見つけ出す! だから国民よ、諦めるな!

 そしてこの国を安定させ、王に安心してこのケンネルに帰っていただくのだ!』


 その力強い演説と遠吠えは全国民に希望を与え、勇気を奮い立たせた。

 野犬化しかけた者の目が輝きだし、犬棄山ほけんじょに向かっていたもの達の足も止めた。


 僕たちはあの時、未来を見たのだ。

 きっと王が僕らを待っている。そして、僕らをよしよし頑張ったねと撫でてくれると!


 そこからの反撃は凄まじかった。

 王宮の近くまで迫っていた敵を、子犬隊プッピーズを中心とした火力で追い返し。

 市街地で暴れていた敵を、市民の手で葬り。

 国境に大規模展開する敵を、騎士団と貴族の私設部隊の爪と牙による総力戦で壊滅させた。


 その時僕は少年兵として、中央騎士団第一部隊に配属されていた。

 親の意向と肩書が関係していたのは言うまでもない。

  

 同じような背景でも、あの時大活躍をしたマルチーズ一族の同年代は「白い悪魔」と名を上げて、なんと第五部隊の隊長に引き立てられた。

 羨ましい……だが、自分の実力くらいは分かっている。


 闘う力は弱くとも、知力の高さを買われて近衛に入れたのだ。そこは認めなくては。






 そして。

 戦争終結と共に、ダリウス様は言ったのだ。

 「これからが、我々の仕事だ」と。


 第四部隊が開発してきた移動手段(水陸空マルチな戦車、巨大船、様々な移動手段)が、本当の意味で活躍をする時が来たのだ。



 

 中央騎士団はまず、伝説の旧大陸を探した。

 アベル様の遺児がそこにいる可能性が高いからだ。


 すでに知られていた航路は二つ。

 猫人の国に向かおうとした商船が嵐に飲まれ、たまたま旧大陸に行きついたもの。

 そして、帝国の有名な探検家ラドン・ダ・ガマが「発見」したと宣言していた航路だ。


 初代王の伝承では、ケンネル王国の東海岸から、ひたすら真っすぐ東に進めば旧大陸はあるという。

 実際に猫人商人から聞いた話だ。


 だが、ラドン・ダ・ガマの書いたベストセラー本によると「もう少し南」であると。

 


 

 ダリウス様は、この航海で、若くして宰相の座と家督を継いだゴールデンレトリバー公爵のレオンハルト様と二つの船団で別れることを提案した。


 ルマニア大陸内ならば、隊長クラスが動けばいい。

 だが目の前に広がるのは、古代の犬人が奇跡の渡海を果たした広大な海。

 「これを乗り越えるには、きちんとしたリーダー犬がいなくてはならない」と、ダリウス様は言った。


 そこで第一部隊を中心に構成された一団は、ありとあらゆる最新機器と大量の糧食、更には現地の食料を加工する技術・動く工場を持って、「もう少し南」に向かったのだ。




 結果がここ。

 旧大陸とは別の大陸。現地の言葉でジスタイス大陸。

 随分と遠い船旅でたどり着いた先。


 —————大戦乱の世界だった。

 元々の住民は二千万人。そして、生き残った知識人と言われる者によると現在九万人。


 僕らはここを「暗黒大陸」と仮初かりそめに呼んでいる。

 




 僕は少しひんやりした朝の空気の中、炊きだしをしながら周囲の光景を見る。

 見慣れぬ鮮やかな服装の、しかし度重なる戦乱に心身の摩耗を隠さない先住民たち。

 基本は変身をしない人種のようだが、たまに見慣れぬ姿形をしているものもいる。


 新しく発見された新大陸では、話される言語はなぜか殆ど同じだった。

 独特なイントネーションがあるが、おかげで意思疎通は難しくないが、不思議な気分だ。


 第一部隊に同行していた研究所所長、シュナウザー博士は自慢の髯を撫でながら分析した。


 太古の昔に行われた、古代純人教徒による暴虐の嵐。

 この災いから、命をかけて大陸を脱出した変身人種たちは、この新大陸にも到着していた。

 ルマニア大陸の様に、そこから独自の国や文明を築いた。

 つまりはそういうことであろうと。

 

 

 ではなぜこの大陸は戦乱を極めてしまったのか。

 それはこの大陸における純人教の独自の発展による。

 ルマニア大陸では「理性」と「純粋さ」を尊ぶ原理主義が台頭しているが、ここでは各国の統治の理論として使われた。


 人間とは「正義」を知り、行える生き物であると。


 そんな人間像を追及した究極の結果として。

 互いの正義を否定し、自分の正義の名のもとに過剰な自己防衛に走った。


 きっかけは国の上層部の腐敗であった。

 自分たちの生活を脅かすものへ正義の鉄槌を落そうと、軍隊が暴力を選んだ。

 だが、結局自分たちがトップになって甘い汁を吸いたいだけだった。

 軍隊の腐敗は一瞬で進み、更には革命家が暴力を選んだ。

 しかし革命によって、軍隊の上層部や制度を壊しても、彼らは自分の仲間しか守らない。

 粛清の嵐が進み、やがて市民運動家が台頭し……。

 

 ここから自分の部族、氏族、家族、自分そのものと規模が細かくなっていく。

 あらゆる人間が自分を守るための「正義の闘争」を行い……。

暗黒大陸には血の染み込む、荒廃した大地が残ったのだ。

 

 


 しかし僕らは迷わない。

 犬人にとって、探すべきは王族かいぬし

 ただ他人を攻撃するための理由に、構っている場合ではない。


 ダリウス様は言った。


王族かいぬしを探すのに邪魔だ。攻撃を仕掛けてくる奴はみな捕縛しろ。ただし、一か所にまとめて食料と武器と賛美を与えろ」


 正義の論理で侵略者インベーダーにされても面倒だが、究極の正義は相手の言い分を認めないこと。

 話の通じないものは、みな武器を与えればいい。

 弱者を巻き込まないように狭いところに閉じ込め、そして一人一人を力強く肯定するのだ。


 そうすれば……。




 ダリウス様の元に、脇にレポートの束を抱えた第七部隊のグレイハウンド隊長が報告に来た。

 ツンツン頭を掻いて、「正義のランデブーが終わりましたよ。最後に一人残りましたけどね。しかもあいつ、素手で武器をもった連中を皆殺しにしました。記事にしていいですか」と言うグレイハウンド隊長。

 相当面白い現場だったらしく、目がキラキラしている。


「駄目だ。記録は残すな」

「面白いスクープなのですけどね。多分あいつ、犬人です」


 自滅した正義の代行者たちの中で、最後まで力で残った人間がいた。

 彼の名は、サルバイバル・イントラクチア・ウォルフ・ロボ。


 暗黒大陸————リーゼロッテ大陸を統べることになる男との遭遇だった。






 サルバイバルが臨時のテントに連れて来られた。

 着替えをさせられたらしい彼は、清潔だが着古した貫頭衣を被っている。

 僕らの用意した服を、施しはいらないと頑なに拒むからだ。


 ダリウス様の横に控える僕は、孤高の部族長の様子を観察した。


 灰褐色の髪、灰褐色の目。

 鍛えられ上げた体は野性味を備え、ダリウス様よりは少し背が低いが、十分に背の高い大男だった。

 

 椅子に座るダリウス様の前で座らされた彼は、落ち着いている。

 そして決して頭を下げようとしない。

 すっとしたその背筋と見据える鋭い視線に、彼の誇り高さを感じた。


「サルバイバル殿でいいか」

「構わん」


 ダリウス様とサルバイバルは距離を置き、水色と灰褐色の目で互いを観察し合う。

 それは群れリーダー同士が、互いのテリトリーを把握しているかのようだ。

 スン、とダリウス様が鼻を動かし、訊ねた。


「貴公は、犬人だな?」

「姿を変えることを言うのならば、そうなのだろうな」


 彼はその場で巨体の犬の姿になった。


 灰褐色の毛皮に、小さな瞳孔。その色は灰褐色だが、よく見ると金色にも見える。

 第四部隊のハスキー副隊長の顔立ちに少し似ていた。彼は青目だが。


「この大陸での犬人の扱いはどうなっている」

『……悪魔と言われている。それこそ知られたら火あぶりの刑だな。俺たちの部族では、子供が生まれればまず教え込むのが犬の姿を取らないことだ』

「この現状をどう思う?」

『俺たちは生き残るために戦った。そして戦いに弱いものは敗れた。俺も、お前に何度も負けて捕獲され、こうしてこの場にいる。それだけだ』

「なるほど。一つ聞くが、お前は純人教をどう思う」

『あれは宗教ではない。単なる暴力装置だ』

「よし、理解した」


 ダリウス様はなんと、彼を釈放することにしたのだ。

 戸惑う彼に、ダリウス様は犬の姿を取る。

 

 巨大な犬の姿に目を見開くサルバイバル。


 それはそうだ。

 僕たちは、この大陸に来てから一切犬の姿を取っていない。

 純人教の存在を知ってから警戒を続けてきたからだ。

 僕らもそれに従って、犬の姿を取る。

 

 大きな犬と四人の和犬が、灰褐色のサルバイバルに姿を見せた。


『お前たちは……!』

『我らは犬人の国家からきた。貴公に頼みたい。この大陸の覇者になれ』


 この大陸では我々が勝利した。

 だが、ここでやらねばならぬことは大陸経営などではない。

 人探しだ。


 大分時間を掛けてしまったが、ようやく腰を据えてかかれる。


 手伝いはいくらでもしよう。

 だから、代表はお前たちがやるのだ。 


『人探しとは……?』

『我々の生きる意味。喜び。そういう存在だ』

『喜び』

『貴公は知らないだろう。だが、知ってしまえばもう遅い』


 ダリウス様は人の姿になり、左胸のポケットからある布を取り出した。

 それは……!

 僕の驚き以上に、サルバイバルが強い反応を示した。その香りに動揺を見せる。


『なんなのだ、それは……心を強く揺さぶるその香り! 嗅いだことがない匂い!』

「アベル様の靴下だ」

『アベル様とは何だ……!?』

「私の敬愛するご主人様だ」

『ご主人……様……』

「貴公は恐らくウルフドッグ。決して飼いならされないオオカミの血を強く引く。だが、この香りにこころを動かされるのならば、つまりそれは犬。自覚しろ、貴公たちは犬なのだ」


 靴下を凝視している、サルバイバル。

 ダリウス様はこれ以上自分の宝物を見せるつもりは左胸ポケットにしまい込み、「さて。復興はどうでもいいが、それよりも捜索だ」と話を切り出すと、


『宰相から緊急通信です!』


 特別製のカプセルを抱えた伝令の兵士が駆け込んできた。




 大陸間通信カプセル。

 ケンネル王国の火薬一年分を使用し、その爆発力でメッセージを入れたカプセルを隣の大陸まで飛ばす。

 まさにメッセージを打ち込む大陸弾道通信。グレイハウンド一族の当主が最新の電報になりたいと中に入りたがり、揉めたアレ。


(……流石は第四部隊。一発で成功するとはね)


 中には溶けないよう工夫された金属の板と箱が入っていた。

 板は手紙。そして金属で覆われた小さな箱を壊すと、そこには……!


「こ、この香りは……!」

『先ほどの布よりも、更に香しい!』


 小さな白いリボンだった。

 王族の、香りのするリボン。

 更に金属に焼き付けられた、画像があった。


 無表情の小さな痩せた女の子。

 銀色の髪に菫色の瞳。

 どこか寂し気な雰囲気で、遠くを見ている。

 

(ご主人様だ……!)


 理屈じゃない。

 ただ、本能でそう思ったのだ。


 案の定、ダリウス様もサルバイバルも、和犬の先輩たちも息を飲んだ。


「レオンハルトが、とうとう王族を発見した。無事に保護されたらしい」

『おお……!』

「すぐにでも戻りたい。だが、レオンハルトは彼女のことを『生真面目で、弱いものを放置できない。むしろそんな人間を軽蔑する』と記してある」


 ダリウス様は眉間に皺をよせ、苦渋の末の決断を下した。

 再び巡り合う、ご主人様の心象を少しでも良くすることにしたのだ。


「捜索は中止だ! だが、帰還する前にこの大陸を生きる大地に立て直す! サルバイバル、お前が先頭に立て」


 リボンをガン見しているサルバイバルに、ダリウス様は宣言した。

 

「リーダー犬は私だ。サルバイバル、私の指示に従ってもらう。この大陸を整備して、ご主人様に進呈しよう。そして褒めて撫でてもらうのだ」

『……そうだな』


 先住民サルバイバルが、故郷の所有権を放棄した!




(まあ、仕方ないな。僕だってあの香りの子のために、何かをして差し上げたくてしょうがない)


 力のない、豆柴だけど。プライドだけは一丁前だけど。

 僕はあの寂しそうなご主人様に、自分が何を差し上げられるのだろうか。

 必死に考え始めたのだ。






 —————最終的には僕は暗黒大陸に残り、大陸の安定に努めることにした。


 政治的な不安材料を減らして、彼女には安心してもらいたい。

 ケンネル王国の自治領としてサルバイバルと共に、この地をご主人様の名、リーゼロッテ大陸のリーゼロッテ国、首都リーゼロッテと定め、共同執政を始めたのだ。


 ダリウス様が写しを作ったリーゼロッテ様は、「私の女神」と祈るダリウス様を称え、女神リーゼロッテと言われるようになった。

 すぐに神殿が建ち、「リーゼロッテ教」は純人教を駆逐していった。ダリウス様も「お犬様」と崇められ、女神様の使いとして扱われている。


 ちなみに教条はわんこ教に似ているが、一番の違いは「リーゼロッテ様という神」がいることだろうか。具体的に偶像がなかった宗教とは一線を画している。

 幼女を狙う性犯罪者は即死刑、という決まりも特徴的だ。

 



「お豆様。書類に判子くれ」

「ロボさん。その名前止めてくれません?」 


 僕の名は、シバと言っているのに、なぜか「お豆様」と言われるようになった。

 主に支配しているのが犬人であることを誇示するために、しょっちゅう犬の姿でいたのがまずかったらしい。


 僕は相変わらず可愛いと言われている。

 仕方ない。国民の人気取りのためには、多少の屈辱は甘んじなければいけない。

 すべてはご主人様のため。


(いつかは、僕も頑張っていることが認められて、彼女の愛犬になれないかな)


 そんな淡い夢を抱いたりもしながら、大陸運営をしていたのだ。





 そんな僕に、しばらく誰も教えることはなかった。

 既に彼女には愛犬がおり、しかも豆柴であることを。


 更には、犬人の考える素晴らしく出来る犬とはまるで違う、この世の終わりのような最悪の駄犬であるということを……!

  


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