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女王様、狂犬騎士団を用意しましたので死ぬ気で躾をお願いします  作者: 帰初心
第一章 リーゼロッテと愉快な狂犬たち
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第二十話 リーゼロッテ女王陛下(十才)に国民は忠誠を誓います

 式とは、どうしてこんなにも手間と時間が掛かるのですか!

 どうしてここまで、見栄を張るものなのですか!




 本日は戴冠式。

 数日前からたくさんの儀式をこなしており、今回はまさに見せ場。

 各国・各界の著名な来賓を呼び、新・女王がお披露目される式となります。


 主役である私は早朝からずっと、自室で豪奢なドレスに着られておりました。


 布に真珠をこれでもか! とちりばめられて、ずっしり。

 編み込んだ頭にもたくさんの宝石がついて、ずっしり。


 膝がプルプル、しております。


「重いのです……もう限界です」

「まあ! これでもダメですの? リーゼロッテ様、少々体力が足りなすぎるのではありませんか?」

「申し訳ありません……」


 私は重さに耐えきれず、前のめりに倒れました。

 周りを囲む女性陣がキャー! と騒ぎ、私はテレサさんに抱き止められます。

 テレサさんはグレース様を窘めました。


「グレース様。もう諦めましょう。あの服で行くしかありません。

 戴冠式の途中で倒れてしまわれるよりは、ずっと良いはずです」

「く、悔しいですわ……! リーゼロッテ様の服を輝かせる意匠を、ずっと考えてきましたのに!」


 その輝きとは、巨大な宝石たちのことでしょうか。

 お願いします。女性の夢は、体力のない私には重すぎるのです。

 私はそう、テレサさんの胸の中で嘆いたのです。






 ソファーに下着で倒れているところで、マルス様が扉をノックされました。


「リーゼロッテ大陸のリーゼロッテ王国のトップが、首都リーゼロッテから到着しまして、リーゼロッテ様にご挨拶をと。嵐によりギリギリの到着になったことを謝罪したいそうです」


 この名前、全く洒落ではありません。

 いくら名前を変更しろと言っても、「善処します」といって取り合ってくださらない犬人の皆様。



 

 かの新大陸を、以前私は「世紀末」だったと申し上げました。


 ダリウス様が足を踏み入れた当時。

 政治の腐敗と戦争が極限に達し、民衆が反乱を起こし。

 一時期成功しても、その民衆のトップが腐敗し、下々を虐げるという悪循環。


 国という国の境界線も血であいまいになり、ただ人を殺す理由として使われた人種も民族も、あらゆる建て前も、全てエゴの上にしか成り立たなくなっていたそうです。


 始まりは、格差の是正を暴力で解決したことだったらしいのですが……。

 殺し合いが恒常化すると、憎しみと恐怖の対象が国から民族と人種、更には隣村。

 そして隣人から、家族でさえも。


 最後にはみんなが恐ろしいほど、正義の人となりました。

 自分を害そうとする(かもしれない)ものを排除する「正義」。

 正義など、突き詰め過ぎれば自分以外は皆殺しの理論です。


 故に人口も激減し、ルマニア大陸の三分の一ほどの大陸では現時点で十万人もいないそうです。




 そこにダリウス様が現れ、「王族を探すのに邪魔だから」と部隊を展開して、戦い合うもの全員を捕縛。

 従うものには食料を与えると伝え、生き残りを一つの巨大な町にまとめました。

 そして、軍で運んでいた莫大な糧食を配布し、海の食材を大量に捕獲し加工する技術を教え。

 更には資源開発の技術と伝授し、血の悪夢を終わらせたのです。


 生き残ってみれば、国も民族もバラバラ。

 当時生き残っていた知識人たちが、「再生の一歩として、新しく国を作りたい」と声を上げました。

 そしてケンネル王国を宗主国として崇め、王はあくまで私にしたいと申し出てきたのです。


 そして経済協力をしてくださるダリウス様を、「お犬様」と崇め始めました。

 副隊長として、代理統治のために残ったシバ卿を「お豆様」と崇めたり、ダリウス様が「私の女神だ」と見せた私の似顔絵(へのへのもへじてへぺろ☆)を祀る神殿を立てたりと、精神的な崇拝レベルがどんどん上がって恐ろしいことになっています。




 その現地人の代表。

 サルバイバル・イントラクチア・ウォルフ・ロボ様。

 ご出身の部族では、部族名・氏族名・家名・名前で、名前が最後となるそうです。


 彼は私の国に併合されることを強く望まれたそうです。

 しかし、なにせ併合対象が大陸。

 私がまだ幼いので、女王となって政治をしっかり学び、裁定できるようになるまで待てと説得され、自治政府を作り属国になる形で落ち着いております。

 

 ですがすでに、国民の総意で大陸名・国名・首都名が私の名になっていることに、うすら寒いものを感じます。




 お客様用の準備が出来て、私は応接間にサルバイバル様を呼びました。

 そこに入って来たのは背の高い、灰褐色の目の鋭い男性。壮年の一つ手前というところでしょうか。


 後ろには、代理統治をされているマメタ・フォン・シバ様がいらっしゃいます。

 黒い髪に黒い大きな知的な瞳の美少年です。


 サルバイバル様は灰褐色の髪を短く剃り、部族の盛装である、貫頭衣をシックに輝く帯で締め、見事な刺繍がされたマントを着ておりました。

 彼は周囲を警戒しながら扉をくぐり、銀と紫の王族の服を着た私を見ると、目を見開き。


 そして、スライディング土下座を、なされました。


「女王様! 遅参して申し訳ございませんでしたー! 責任を取って首を切って貴女様に差し上げる所存————! ただせめて! せめて死ぬ前にその香りを存分に味あわせていただきたく!!」

 


 ど こ か で 見 た 光 景 で す !



 まさか……。

 私は「全く責めませんから! お願いですから頭を上げてください」と言っても地面に激突したままの彼の扱いに困り、後で控えていたレオンハルト様とマルス様を振り返りました。


 彼らは土下座をするサルバイバル様を当然の顔で見下ろして、おっしゃったのです。


「彼は古代、この大陸から移民をした種族の子孫です。我々に近い血を持っておられます」

「王族の記憶も口伝で残っていてね。ウルフドッグ文学としてシバさんがまとめられたそうだよ」


 やはり。この過剰な忠義。犬人さん特有の行動です。

 私は後ろで「ちゃんと死に水は取ってあげるからね」と、サルバイバル様に声を掛けているマメタ様に、その前に止めてくださいとお願いしました。

 そして訊ねます。 

 

「犬人さんの子孫は大陸には多いのですか?」

「はい、女王様。大陸を死滅させる総力戦では、最後には兵器の生産すら追いつかず。生き残ったのは身体能力に優れた一部の種族だけでした。その一つが犬人で、人口の半分を構成しています」

「そ、そんな事実が……」

 

 どうりで、あっさりと統治ができたはずです。

 理想の飼い主が出来るかもしれないとならば、喜んでダリウス様の元に駆けつけたのでしょう。


 しかも、何千年とあこがれ続けた存在かいぬしです。

 多少期待値が高すぎて神化しても仕方……ないので、しょうか?


 戸惑う私に、ようやく顔を上げたサルバイバル様が、やけどしそうなほど熱の籠った視線を送ってきます。

 とりあえずレオンハルト様に習ったように、私は彼の大陸での苦労と、ケンネル王国へ友好でいてくださることの御礼を申し上げたのです。


 すると黒髪美少年のマメタ様が、私に「どうか、遠く離れて暮らしてきたこの犬人へのご褒美を、お願いします」と、膝をついてお願いしてきました。

 

 目の前の、ひたすら熱情を宿す男性。

 私は、犬の姿になるようにお願いしました。

 すると彼はダリウス様ほどの大きさの灰褐色の犬に変わったのです。


 この犬は確か絵本で見たことがあります。

 確か……オオカミというのではないでしょうか。

 オオカミは簡単には人に慣れぬと聞きましたが、彼の言うことには「ウルフドッグ」という特殊な種らしいのです。


 私は、少し硬い毛並みを、優しくわしわしと撫でます


「ようこそケンネル王国へ。そしてこれからもよろしくお願いいたしますね」

「ぐるるるる!」


 野性味のある声で、機嫌よく鳴かれるサルバイバル様。

 彼は『どうぞ自分のことはロボとお呼びください』と懇願されてきたので、今後ロボ様とお呼びすることにいたしました。

 彼は来賓の、新大陸側の席へ参ります。






 さて。

 新大陸の事情にびっくりしたところで私は、とうとう激重ドレスを着て、わんこ教の総本山・イーストワンコスター寺院に向かいます。

 

 着替える前に、レオンハルト様にお願いをして、義兄とダシバに会いました。

 文官服の義兄は、髪を整えた私を見てまぶしそうにメガネの奥の目を細め、「いよいよやな」と言ってくださりました。


「本当はもう、リーゼは王族になった時点で、俺の義妹いもうとではないんや。でも、俺はずっとお前が大切な義妹いもうとだと思っている」

「私も、唯一の義兄あにだと思っています。こんなところまで巻き込んでしまい、ごめんなさい」

「いいんや。俺は自分の生きたいように生きているだけや。でもこれからはけじめや。「様」付けで呼ばせてもらうで」

「はい」

「会うのもなかなか厳しくなるな」

「はい……」

「泣くな。そのうちお前が気軽に会えるよう、俺が出世すればいいんや。待っていろよ」


 そう言って兄は、何にも考えていないダシバを連れて去っていきました。

 大導師にダシバを「犬守」として預け、純人教を大人しくさせるそうです。


 流石は義兄。

 レオンハルト様も認めざるを得ません。




 そうしてようやく決定した、私の盛装。

 宝石を最低限にする代わりに、布自体に美しい光沢のある、由緒ある白いドレスが用意されました。


 そんなドレスがあるならば最初から……と思いましたが、グレース様は「新しい時代を切り開くようなデザインにしたかったのですわ……」と美しい顔を悲しそうに歪め、嘆かれております。

 今後の体力次第で。

 そうお約束をして、私はそれでも重いドレスに先の細い靴で出立しました。


 ……人目につかない場所でだけ、大型犬になったテレサ様の背中に乗って運ばれたことは内緒です。


 


 外に出て馬のない馬車に乗るのかと思っていましたら「戦車ではなく、ここは由緒ある車にいたします」と、宰相の盛装を麗しく着こなされたレオンハルト様がおっしゃいました。


「そういえば、久しく馬車には乗っておりませんね」

「いいえ。馬車ではございませんよ」

「馬ではないのですか?」

「当然です。ほらそこに」


 指し示されたそこには、ゴージャスに飾り付けられた大きな橇。

 そこにはなぜか、小さな車輪がたくさん付いています。


 まさか……と嫌な予感がする私の前に、マントを付けた犬たちが、ずらりと現れました。

 嫌な予感しかしません!

 

 犬の姿となったダリウス様が、背中に立派な赤いマントを付けて、堂々と宣言されたのです。


『女王様に馬など不要! 我々が運べば良いのです!』


『我々は!』

『女王様の馬として!』

『見事に戴冠式の先導を務め!』

『……!』

『(グレートデンさん、聞こえてないから!)……素晴らしきものに!』

『文句言わないでくださいよ』


 次々と宣言される皆様は、たしか内乱の時の序列争い上位の方々!


 ダリウス様を始めに、グロウリー・フォン・ロットワイラー様、リョーマ・フォン・トサ様、ラスカル・フォン・マラミュート様、アポロ・フォン・グレートデン様、マルス・フォン・マルチーズ様、バーバリアン・フォン・ピットブル様が次々と宣言されます。


 いつも間に、護衛犬であるマルス様もそこに交じっておりました。

 唯一の小型犬として、とても誇らしそうです。


 レオンハルト様は私をそりにエスコートます。


「さあ、リーゼロッテ様。ケンネル王国で一番由緒のある車—————犬ぞりで参りましょう」



 や は り そ う で す よ ね 。

  





 わんわんわんわん! 

 ガラガラガラガラ。


 私は初めて、戦い以外で王宮の外に出ました。

 隣にはレオンハルト様が付き添ってくださいます。


 序列争いで十位だったマゾ・フォン・ボルゾイ様ですか?

 彼はそりの足マットの下に隠れておりましたが、大型犬なので一瞬で見つかり、第八部隊のジョゼ様に摘み上げられてどこかに連れ去らされていきました。


 ジョゼ様は私に微笑んで「ちょっと粗大ごみを片づけてきます」とおっしゃっておられましたが、大丈夫ですよね?






 そして門を出ると—————私がまともに見る初めての王都。

 青空の下には、赤を基調とした色とりどりの屋根と、白い石畳がどこまでも広がっています。

  

 沿道にはたくさんの人、人、人。そしてわんこ。

 たくさんの国民の皆さんが、花を撒き、国旗を振って歓迎してくださいます!


「リーゼロッテ様!」

『女王様!』

「どうぞこれからも我々と共に!」


 老若男女、大型・中型・小型とたくさんの笑顔が私を迎えてくださいます!

 思わず感動をして、涙が出そうになりました。 


「私……私……」

「リーゼロッテ様。国民は貴女が来てくださったのを喜んでいるのです」

「私、幸せですね……。皆さんが、私を待っていてくださったなんて」

「……アベル様の手記を読まれたのですね」

「はい。レオンハルト様がお見せ下さる前に読んでしまい、申し訳ありません。でもおかげで心が決まりました。私はここで生きていきたいのです」


 パパラッチ犬のヨーチ様は、あの後大変なお叱りにあったと聞いております。

 なんとか取り成しましたが、彼の行動がなければ、私はテロと戦う覚悟が出来なかったでしょう。


 レオンハルト様は薄茶の目を少し哀しそうに眇め、おっしゃいます。


「……無理やり私が連れて返った頃。貴女はいつも寂しそうな瞳をしていました。ここが居場所ではなく、自分は客人だ—————そう思われていたことは知っておりました」

「レオンハルト様」

「犬人に取って大切なのは上下関係です。友達という横のつながりは、王族との関係では生じません。だから貴女は犬人に好かれる度に、寂しい思いをされていたと思うのです」


 確かに。

 私には友達がおりませんでした。

 すべては不器用な自分がいけないのですが、寂しい思いをしておりました。


 そしてここに来てから求められるのは、「上に立つ者」であること。

 可愛がり、褒め、叱る。

 どこまでも飼い主である自分。

 そこには友達という関係ではありません。むしろ親であり、命令をする関係。

 

 同等である王族たちが亡くなり、最後の王族となられたアベルお父様。

 まだ見ぬ私をひたすら求めたのも、もしかしたら、とても寂しかったからかも知れません。

 

 ここに来て犬人の思わぬ形の愛情に慣れるまで、しばらく掛かりました。

 それでも……。


「レオンハルト様。それでも私は感謝しております。こうして貴方が私を見つけてくださらなければ、とうに私は死んでおりました」

「いいえ、それだけでは……」

「それに、私は皆様が大好きになりました。大好きだから、一緒にいる。そこに上下関係などいらないではありませんか。私は、この国で、好きな人たちと一緒に暮らしたいのです」

「リーゼロッテ様……」


 私は怖く見えない様に、必死に口角を少しだけ上げて、微笑みました。


「それに、皆さん個性的ですし? どこか抜けていらっしゃいますし? 

 レオンハルト様だって、いつもダリウス様にライバル心をもっていらっしゃるのは知っていますよ。執務室で『あいつだけリーゼ様呼びしている!』って愚痴っていらっしゃいましたよね?」

「いつ聞かれたのですか!?」

「内緒です。レオンハルト様だって、リーゼと呼んでくだされば良いのです。少しずつでも、皆さんと近づければ、それでいいのです」

「リーゼ様……!」


 感極まったレオンハルト様が思わず私に抱き着き、くんくんくんくん匂いを嗅がれます。

 「ちょっと、ここは沿道ですよ!」と、声を上げる間もなく、犬そりがストップしました。


『宰相!』

『レオンハルト貴様!』


 レオンハルト様は強制的に、ダリウス様に犬ぞりの犬に編入させられ、たまたま沿道でパパラッチをしていたヨーチ・フォン・グレイハウンド様が隣に座らされました。

 「当事者になったらパパラッチする意味がないのに!」と嘆かれておりましたが、仕方ありません。






 到着するとそこには巨大な教会。

 輝く太陽に反射した、ステンドグラスの見事な荘厳な建物です。


 私がヨーチ様のエスコートでそりから降りると、斜め前には不機嫌なハイヌウェレ公爵が顔に青あざを作って立っていました。あれは確か兄弟げんかの痕。


 彼は帝国の代表として、来賓の席にいるのではなかったのですか!?

 とっさに「失礼だぞ!」と私を囲むそり犬たち。


 彼は「まだここはぎりぎり来客席だ。所用のため式を見たらすぐに他の公使に交代するので、今は簡単に挨拶を」とおっしゃり、軽く礼を取りました。


「今回、女王にはすっかりやられてしまいました。何をとは言いませんが。しかしこれで益々侮れなくなりましたね。今後ともどうぞ、貴方とは『良い』関係を築いて行きたいものです」

「私も『平和的に』交渉してくださる国は、大歓迎です。どうぞこれからもよろしくお願いいたしますね」


 火花が散るような会話を続け、無事に来賓の席に戻っていただきました。

 

 一度に解決できることはありません。

 ですが、仕掛けられたら、手痛い仕返しをするのは致し方ありませんね。

 私のわんこたちは、私が守るのです。




 そう決意した私が歩むのは、天井高く奥行きもあるカテドラル。

 華やかな来賓に囲まれた絨毯の道を歩むと、様々な思惑の籠った視線がぶつけられます。


 ドレスは重いし、足は痛いし。

 期待は重いし、猜疑の目は痛いし、しんどいのです。

 まだ十歳ですけども、もう戦争もテロも経験してしまいました。

 

 それでも歩くしかありません。


 視線の中には、「なんでこんなガキが」という視線や、「神よ……!」という視線や……ん?


 後者の視線を送った方をそっと探しましたら—————いました。

 ロボ様です。


 新大陸は、何か大変なことになっているとしか思えません。

 今は忘れることにします。






 そして。

 このお話の冒頭のシーンに戻ります。




 

 大司祭様による承認の儀式と宣誓の儀式が終わり、頭部にはずっしりとエメラルトが輝く、赤い宝冠。

 王座に座る私の横に立ち、宰相のレオンハルト様が宣言されます。


「今日という素晴らしい日に、リーゼロッテ女王陛下が、ここに誕生されました」


 わあ! と、盛り上がる来賓の方々。


 しかしその次の忠誠の儀式。

 外部から来られた方々に、戸惑いが広がり始めました。 

  

「忠誠の儀式って足先にキスするものでしたっけ」

「しかも女王陛下は十歳の女の子ですよね?」

「大丈夫かこの国」

 

 そうなのです。

 立派に逞しい狂犬騎士団や、格式ある高位貴族たちが、次々と私の足先にキスをしていくのです!


「女王陛下、私の永遠の忠誠を」

「私の命は、女王陛下のものです」

「いつでも死ねと命じていただければ、華々しく死んで見せます」


 そう言いながら熱の籠った視線を送り、足にキスをしていくわんこたち!

 せめて、手の甲に! 

 手の甲にお願いします!


 そしてとうとう。

 やはり言われてしました。あれは旧ユマニスト領の貴族たち。


「あの方たち……ロリコンなの?」

「ロリコン国家? 私たちはロリコン国家の一員?」

「それは国として終わっていないか? いいのか? ロリコン国家で」


 あーあーあーあー。聞きたくないです!

 でもこのシチュエーションでは耳が塞げないのです!


 来賓の方で「自分も是非、忠誠を! 忠誠を誓いたく!」と飛び込もうとする方がいました。ロボ様です。

 流石に取り押さえられましたが、後で受け取ることになりそうです。


 聞こえてしまう小声と、続く羞恥プレイに視線が遠くなり、意識が空の果てに飛んでいきそうになった頃。 

 無事に戴冠式は終わりました。






 ですが死にかけた意識は、国民の皆様に助けていただきました。


『『女王陛下、万歳!!』』


 外に出ると、そこには見渡すばかりのわんこがいたのです。


 超大型犬、大型犬、中型犬、小型犬、超小型犬。

 沿道にも、家の窓にも屋根にも、柵の上にも!

 全てが犬の姿になった国民でした。


 高位貴族以外の犬人は、滅多に犬の姿は取りません。生活しにくいからです。

 しかし今回は私という飼い主が出来たことをお祝いして、皆犬の姿を持って、私に「貴女の犬です」と示してくださったのです!


 これには外から来た来賓の方々がびっくりしています。

 犬そりに乗って移動すると、「わんわん!」とご挨拶をされたり、「わおーん」と遠吠えが響いたりと、大変にぎやかです。

 花が舞い散り、そこかしこに笑顔が溢れています。


 私は、国民の皆様に向かって手を振りながら、所信を表明したのです。


「皆さま! 私リーゼロッテ・モナ・ビューデガーは、皆様の良い飼い主になれるよう、頑張ります! 

 だから、皆様も一緒に頑張りましょうね! これからもよろしくお願いいたします!」






 —————そうしてケンネル王国において、私、リーゼロッテ女王の治世が始まりました。


 国の外でも中でも、まだまだたくさんの問題が起こると思います。

 歴史はいつだって繰り返します。


 ですが、わんこの皆様がいるのです。

 義兄だって、ダシバだって、私の傍には大切な人たちがたくさんいるのです。


 少々狂犬な方たちの躾はとても大変ですが、みんな私を好いてくれるからこそ。




 私はこれからの長い人生。

 女王様かいぬしの日々を、一所懸命、頑張っていく所存です。


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