第十八話 ご主人様。我が愛。我が心。(by ウルフハウンド )
愛する畜生様のために、海を割る勢いで泳いでいく大導師ゴルトン。
その先にはアクロバティックな技を決めて見事に捕まったダメシバ。
片や年齢・性別不詳で精神鑑定が必要な人間。
片や人間換算年齢・約四十四歳オス。駄犬。
その姿を目に焼き付けようと、ときめきポーズを取る純人教の幹部の方々。
ひたすら生温かい視線を送るケンネル王国側。
二人の絆に心打たれ—————は全くしませんが、大変な事態です!
(それにしても、何という我が愛犬の間の悪さ! 他人の神経を逆撫でるのが上手すぎます!)
私は犬人の皆さんを振り返って懇願しました。
「大導師とダシバを助けてください!」
「…………」
彼らは渋ります。動く気がありません。
そこでダリウス様とグレイ様に必死に顔を向けると……彼らは男前な青年とダンディな初老おじ様の姿になり、とても爽やかな顔をして海を見ていました。
戦車たちの砲台の向きは島。
黙ったままの男前が、目を細めて島を眺め、
「今、島を消し飛ばせば……この世は大分すっきりすると思いませんか」
と、訊ねてくるのです!
「却下です!」
「しかしですなあ。これは絶好の機会なのではないですかな? 邪魔者をみんなまとめて始末できますぞ? キシュウとアキタさえ脱出できたら……いけますな」
グレイ様まで!
「いけません! これは犬人の皆様の機会ではありません! 我が国の危機なのです!」
「まあ……でもねえ」
「そうだねえ」
ジョゼ様やマルス様まで!
大導師が死んだらマズイという点には、ようやく了解してくださいました。
ですがダシバについては、まるで平行線です。
みなさん本当に「駄犬」がダメなのです。
特に「駄犬」が「愛犬」なのが、ダメなようで……。
私は白い砂をブーツで強く踏みました。
「おバカの何が悪いのですか! バ可愛いだって有りではないですか! 確かに間の悪さも天下一品ですが……皆様、純人教並みにダシバを嫌いすぎです!」
「だって、あれは無いでしょう」
「無いわ」
「無いよね」
「無いってなぜですかー!」
「ポチ様らしさが一欠片もないなんて、愛犬としてあり得ませんな」
腕を組んだグレイ様が、当然という顔をしてコメントしました。
ポチ。
確かその名は家庭教師で習った歴史に出てきた……伝説級の犬人。
「ポチ様ですか……? 初代王アイアル様の、愛犬の?」
「左様です。歴史的に愛犬とは、本当に特別な立場なのです。
このヘタレなウルフハウンドだって子犬の頃から、先王アベル様の愛犬となるべく血の滲むような努力をしてきましたぞ。
そもそも我々はポチ様のような素晴らしい犬となるべく、幼いころから家庭で教えられ、」
『緊急情報です!』
グレイ様の話の途中で、伝令のグレイハウンドさんが、白い砂を跳ね上げながら走り込んできます。
同時に空から爆音が聞こえてきます。
「ピットブルのバーバリアン様が、大陸と諸島で捕まえたテロリストたちをこちらに運んできました!
『おい、ウルフハウンド。こいつら全員飯を抜いたら大分大人しくなったが、一部がまだうるさいのでもう島に放りだすぞ。いいな』だそうです!」
「ダメですー!」
遠く島の上空に現れたのは五台の戦車。
鮮やかな青い空を背景に、何か大きな袋のようなものを吊り下げています。
少し蠢いているあの塊は、テロリストたち!?
次々と島に投下していきます!
今度は違うグレイハウンドさんが、白砂まみれで駆けてきます。
「ピットブル様より『あーすっきりした。後は皆殺しできないのだろう? どうせ島の仲間の飯を奪い合うか、共食いでもするのだろう? ピットブルに相応しい仕事がないから帰るわ。また見つけたら送る』だそうです!」
「その前に、私の話を聞いてくださいと!」
「無理ですね。あいつは以前のような『絶対零度の微笑みと共に出されるひどい命令』でしか動きません」
「どんな命令ですか! 言っておきますが私はあの時、愛情豊かに微笑んだのです!」
「はあ」
ダリウス様の気のない返事。
その顔は、全然信じてくださらないお顔!
私のクレームが届かないうちにと、空飛ぶ戦車は去っていきます。
ああもう!
わんわんリードをまずつけておくべき犬は彼でした!
ガクリと脱力した私は、腰の白い持ち手を握りながら、伝令の皆さんにお礼を申し上げました。
といいますか、グレイハウンドさん。
トランシーバーなしで、どうやって空のバーバリアン様の台詞を届けたのですか?
—―――後日、グレイハウンド一族の当主より、
「我々が、たかが電波野郎に負けるわけにはいかんのです。なあに、ちょっと空の戦車に何人も待機させ、必要に応じて地上に落ちれば良いのです」と、解説いただきました。
もちろん今後は降下禁止です。
袋に山盛りのテロリストたちが島に落下した後に、微かに
『この不信心者め! 今すぐ告解だ! 死ぬほど懺悔をさせてやろう!』
と、島に到着した彼の方の声が聞こえてきました。
正しくはジョゼ様の持つトランシーバーからです。
その繋がっている先は、和犬のお二人の通信機とになります。
「そうです! キシュウ様とアキタ様はどうされたのですか!?」
ジョゼ様がトランシーバーからの情報をまとめてくださいます。
あの島はやはり、大変な状況になっているようです。
「この通信機はキシュウ卿と繋がっているのですが。
————どうも食料の供給を断たれたテロリストたちに睨まれ、追いかけっこになった模様です。
しかしあっさりとテロリストの携帯食料の匂いに、喜んで捕まりました。
キシュウ卿は『状況は致し方なく。自分らも敵の攻撃を避けるだけで手いっぱいです。ジャングルの木陰に隠れて(早く駄犬がテロに殺られてくれないかなあと)様子を見ています。可能な限り(見捨てたいけど)ダシバ様と大導師を保護し、島から撤退いたします』と、伝えてきていますね」
「なんてこと! ダシバ……! 皆さま……!」
「けが人も多く発生しているようですね……。テロリストの連中にただ死なれても面白くありませんので、まずは私が参りましょう。和犬二人の体調も気になります。いいですね? ウルフハウンド卿」
そこにグレイ様が副隊長のジェントルマン・フォン・ピットブル様を連れて手を挙げました。
「儂もフォローしよう。用意はできているな? ジェントルマン」
「は! 兄の失敬には、私の行動にて払拭をさせていただきたく!」
バーバリアン様の弟でいらっしゃるジェントルマン様は、とかく兄の不敬な言動や私設部隊を恥と思っており、ピットブルは狂犬騎士団内でこそ活躍すべきと主張しています。
ですので、兄弟喧嘩が常に絶えず、今も口の端が切れております。
恐らく「つまらない」と帰ってしまったバーバリアン様にも、同じような傷が付いていることでしょう。
「では二人に任せた。脱出に成功した際には、合図に狼煙を頼む」
「了解しました。……本当に彼らはすぐに死んでしまいますから。あれだけ偉そうな癖に、ミニチュアダックス一族よりも弱いから、厄介です」
ジョゼ様は「いいですか? リーゼロッテ様は私たちが還るのを待っていてくださいね。決して島に来てはなりませんよ」と言い残し、グレイ様と共に第八部隊・第二部隊の精鋭を連れて島に向かわれました。
海岸に共に来た戦車も、これで私のリーゼロッテ号と汎用タイプの二台のみ。
それ以外にはシンプルな馬のいない馬車や、丸い輪が二つ付いている不思議な一人用の乗り物。
精鋭部隊が乗ってきている乗り物は、どれもこれも珍奇な形で私にはよく分かません。
義兄はこういうものが好きそうですが。
(これらに乗って、皆さんを助けに行けたらいいのに……)
私は白い浜辺でただ待つことしか出来ません。
何もできない自分に落ち込む私を、マルス様が慰めます。
「皆が帰ってくるまで待つしかないよ」
「はい……」
「大導師との会食用に用意したお食事があります。そちらをいただきましょう」
「でも、ダシバや和犬さん、ジョゼ様やグレイ様たちが大変な思いをしていると思うと……」
「リーゼロッテ様」
ダリウス様が、少し厳しく注意します。
「女王様の第一の仕事は、無事に健やかに成長されることです。
本当なら王宮で大切に守られていて欲しいのですが、「どうしても参加されたい」という貴女様の意を汲んで、このような作戦を練ったのです。
我らの家であるご主人様には、どっしりと構えていてくださらないと」
ダリウス様は私の手をそっと握り、手の甲に祈るようにキスをしました。
私の横のマルス様も同意見のようで、目を伏せてじっとしています。
「女王様(マイ、プレジャー)。アベル様が亡くなり、貴女が見つかるまで。私はどこまでも昏い世界をさ迷っていました。お願いです。私の心は貴女なのです。私のそばで幸せになってください。貴女が居てさえくだされば、世界に何が起ころう何を失おうと、私は生きていけます」
私の腰にぶら下がった白い輪。
その内の二つがふるりと揺れたように感じました。
「ダリウス様……」
「なのでまずはお腹に何かを入れてください。朝もあまり食べていなかったではありませんか。せめてまずこれを」
差し出されたのは、私専用「35kg牛乳」。
いつも手書きの「35kg」に届かない現実に、申し訳ない気持ちになります。
仕方なく「はい……」と受け取りテトラパックにストローを刺して、ちゅー。
マルス様が白い犬に変わり、すりすりと足元で甘えてくださります。
『ねえご主人様。食欲が湧かないなら、僕も一緒に食べるからさ』
「お前は少し遠慮しなさい」
『えー』
(皆様どうぞご無事で)
パックをちゅーちゅー吸いながら、島に向かって祈りました。
白い海岸に佇むリーゼロッテ号の横に作られた白いパラソルと、可愛らしいピンクの簡易犬足テーブル&チェアーセット。
トランシーバーをテーブルに立てて通信を聞きながら、膝にマルス様を置いて座ります。
同じ海岸の離れた席には、ひたすら島を拝む純人教幹部様のテーブルを用意してあります。
こちらの方たちも犬人の兵士たちには全く興味を示しませんが、「私が」用意した食事には、無事に手をつけてくださいます。
ダリウス様はいそいそとテーブルに美しい皿を置き、昼食を準備していきます。
ちゃっかり私の足元に「だりうす」と書かれた、自分用の深皿を置いておくのも忘れません。
トランシーバーからはヨシムネ・フォン・キシュウ様の、私宛ての実況解説が飛んできます。
『あっさりと捕まって人質になったダシバ様に、残り少ない携帯食を奪われたテロリストが怒っています。
彼は木の根元で降参ポーズをして、おかわりを要求していますが全く通用していません』
『大導師がこちらに来ました! 今、普通の豆柴体型になられたダシバ様を見た大導師が発狂!』
『「なんと痩せてしまわれて! ダシバ様になんという拷問を!」と、武器を持ったテロリストを素手で殴り、「懺悔!」「懺悔!」と叫びながら次々と沈めていきます』
『しかも倒れたテロリストの耳を引っ張り上げて何かを囁いています。内容を知りたくもありませんが、囁かれたテロリストは顔を真っ白にさせて「それだけは」と涙を流し始めました』
『そうして「宗教権威者が右頬を殴ったら、次は権威者に阿って左頬を差し出すのが純人教の務め! これぞ純粋なる人間らしさ!」と拳で気絶させました』
実に嫌な宗教です。
人間らしさとはなんなのでしょう。
向こうのテーブルで聞き耳を立てておられる幹部のたちが、頬を紅潮させておりますが……。
貴方たちの指導者が大いに暴力を奮っていますけど、いいのでしょうか。
(……いいのですよね、きっと)
たしか純人教原理主義では、人間らしく理性的に行えば許されるとありましたっけ。
理性とは、なんなのでしょう。
『セントバーナード卿が大導師にやられたテロリストを治療しています。
どうも大導師の徹底した「告解」は強烈過ぎるらしく……。
心が折れた人間が片端から「私は純人教徒失格ですごめんなさい」「もう純人教やめます」「わんこの女神様助けてください」と泣いています。
周辺を警備するマスティフ様は、その光景にすっかりあきれ「もういっそ全員殉教すればいいのに。とりあえず大導師から」と愚痴っています』
聞き耳を立てている純人教の幹部たちが、それを聞いて怒り出しました。
「背教者め」
「根性なしだからあっさり分派するのだ。注目集めるためだけに簡単に暴力に走るのだ」
「人間を追及できないやつらが純人を名乗るな」
「せめてダシバ様のおしっこを飲ませてやりたい」
(多少理解できるところもありますが……最後のは「爪の垢を煎じて飲む」の間違いでは)
そう遠い目をして、次にスープの飲もうとした、その時でした。
突然私の近くの浜辺が盛り上がり、白い小山に変化します。
「ご主人様!」
「テロリスト……いや、帝国か!?」
足元で「まるす」と書かれた深皿に顔を突っ込んでいたマルス様が、人の姿になってスプーンを持ったままの私を姫抱きにします。
給仕しようと深皿とお玉を持ったダリウス様が、とっさに私の前に入りました。
隣のテーブルの幹部たちも、警戒を始めます。
いきなり現れた侵入者。
私は、険しい顔をしている褐色の美少年を見上げて確認します。
「帝国ですか!?」
「いや、あれは……うちの地下道用掘削車だね。第四部隊所属のやつだ」
「なぜこんなところに……」
「なぜここに現れる!?」
前におられるダリウス様の背中が、激しく動揺します。
(――――怪しいです)
わんこの勝手な行動の、予感がします。
盛り上がる白い砂から現れたのは、ドリルをつけた戦車。
動きを止めると、中から「安全第一・ご飯は大事」と書かれた黄色いヘルメットをかぶった犬人が出てきます。
ヘルメットを取ると、赤毛の硬そうな蓬髪頭が現れました。
ぶんぶんと振って、そばかすのある可愛らしい顔に、満足げな表情を浮かべます。
「ぷはー! ようやく出口まで掘れたどー!
……おや、なんだかいい匂いがする。おお、ラッキー! 女王様だ! こんにちはー」
『ばか! 違うよ、ダックスフンド! 出口はもっと先だよ!』
黒と茶色の犬の姿で必死に垂れ耳を振り乱して走ってきたのは、第四部隊のピーター・ビーグル技官です。
ちょこちょことした短い足で掘削車に登り上がり、赤毛の男性を叱りつけます。
『出口はあっち! もっと内陸だから!』
「いいえ、ここです」
『だってほら、設計図!』
「ばかあ、職人ですよ? 間違えるはずがないのです! 出口はここ! ぼくの直感が『ここを掘れ』と言ったのです! 女王様も近くにおられて良いシチュエーションではないですか」
『だから女王様にばれちゃダメなんだって!』
「そうですか。バレちゃ、だめなのですか。――――何が、ですか?」
『女王様に内緒で島の地下深くに爆薬を仕掛けてみんな吹き飛ばしちゃおうって、ウルフハウンド団長の計画ですよ! ……あ、言っちゃった! 言っちゃったからもう良いですよね? 仕方ないですよね?』
「ダメだなあ、ビーグル技官は。ぼかあできる職人だから、もう爆薬の仕掛けも完了しちゃったけどね!
はい団長ボタン。
後は遠隔で発破一発! 元気一発打ち上げちゃえ! あっはっは」
ダリウス様に発破ボタンを放り投げ、楽しそうなに会話をする穴掘り犬たち。
彼らを笑顔(自社比)で眺めながら、私は目の前で固まった大きな背中に問います。
「ダリウス様……」
「はい……」
「反省してください」
私は思わず腰の、「ダリウス」と書かれた白い輪を引っ張りました。
「きゅうん!」と黒い超巨大犬に変わったダリウス様が、前足を揃えて伏せをしています。
私は複雑な表情を浮かべるマルス様に断り、地面に降りて近寄ります。
彼の前足の前には、白い砂に半分埋もれた、白い四角い箱の発破ボタン。
持ち上げると、真ん中に赤く丸いボタン。
ボタンの下には丁寧に【ここを押してね。優しくね】と書いてあります。
これはダメです。
狂犬騎士団の団長————リーダー犬が、こっそり飼い主に隠れてお馬鹿をやりました。
穴掘り犬の二人が、私に向けて説明します。
『女王様! それをポチっと押せば綺麗に島が吹っ飛びますよ! 破片にぶつからないよう気を付けてくださいね!』
「おめでとうございます! これで綺麗に片が着きますね! みんな跡形もなく消えますよ!」
新しい技術を試せる喜びで、落ち着きのない二人の声。
私はフルフルと震えながら、巨大な体をひたすら小さくしているわんこを見下ろしました。
マルス様が慌ててトランシーバーを取り出し、島の部隊と連絡を取り出します。
「ダリウス様! あれほどやってはならぬと言ったではありませんか! 宗教戦争になるからと! 私の命令に従いたいのではなかったのですか!?」
「くうん」
超巨大わんこは、ふるり、と震えながら、小さくなって伏せています。
でも私には分かりました。
彼は命令違反になろうとも、駄犬を消し去りたいのだと。
これではまるで、子犬です。
「私の愛犬の座は、最初からダシバのものです」
「キャン!」
「貴方がとっても寂しがりの犬だとは分かっております。どこまでもべったりくっ付いて暮らしていきたいということも。そして先王—————実の父の愛犬であったことも」
「……」
ダリウス様が哀しそうな瞳で、私を見上げます。
その目には過去の悲しい記憶をたどり、私に重ねているように思えました。
「私はアベル王ではないのです。ダリウス様が愛犬の座を奪われたわけではない。分かりますね」
『……はい、そのつもりです』
「いいえ、まだ貴方は混乱している。貴方にとって王族とはアベル王しかいなかった。だからこそ、混乱しているのです」
私は腰を下ろして、子犬に戻ったダリウス様の堅い毛並みを優しく撫でます。
彼は目を見開いてじっと私を見つめます。
そして、私は額をくっつけて、こう言い聞かせたのです。
「愛犬という言葉に貴方たちは囚われ過ぎです。
みんな、みんな私の犬なのです。
そしてダリウス様。貴方はリーゼロッテのただ一人のダリウス様です。
—————一緒に頑張りましょう、ダリウス様。
先王のようには行きませんが、私と貴方で一から新しいパートナーシップを築きあげていきたいのです。
それこそリーダー犬として成長する貴方と、女王として成長する私。
どちらが欠けてもこの国は上手くいかないと思います。
もちろん、出来るわんこも大好きですよ。
でも、我慢しすぎて爆発してしまう姿は見たくありません。
ダシバに不満を感じたら、まずは甘えにきてくださいね。
いつだって私はわんこを歓迎しています」
『リーゼロッテ様……!』
「寂しければリーゼでも構いませんよ。」
『リーゼ様……!』
男泣きをしながら、超巨大犬のダリウス様が突然私にのしかかります。
重い! 苦しい! 潰れる!
顔中を舐めながら、超巨大わんこが愛情表現をしてきます!
『リーゼ様! 大好きです! 愛しています!』
「分かりました! ぷはっ。分かりましたからちょっと離れてください! 骨が、息が……!」
「団長! それは反則だよ!」
この事態に気が付いたマルス様が、トランシーバーを放り出してダリウス様を引き剥がします。
思わず砂地に放り出された私は、尻餅をついてぜいぜいと息を乱しました。
目がチカチカします。
大きなわんこの愛情表現は、重すぎます。
そして気が付くと、両手が空になっていました。
発破ボタンを、放り出してしまったのです。
「あ、島の爆破ボタンは……!?」
「ほう次期女王。良いものを用意していたな。いただこう」
斜め前に転がっていたそれを拾い上げたのは————。
ダシバを救出にいったはずの、大導師でした!
彼の後ろではなぜか再びデブになりかけているダシバが、幹部たちの与える極甘バナナ(超デブの元)にかぶりつきながら尻尾を振っています!
ふと顔を上げて私を見て、また美味に戻ります。
ダメシバが、
ちょっと離れていただけで、
飼い主の顔を忘れています!
「ダシバー!」
「……では、ダシバ様も救出できたことだし」
大導師は底なし沼のような漆黒の瞳でボタンを眺め————。
躊躇なく、ボタンを押したのです。
「私の『告解』でも従わぬ背教者には、死を!」
「「ダシバ様バンザイ!」」
島が、爆発しました。