第十七話 ご主人様、救助犬にも恋の病は治せません ( by セントバーナード )
私はケンネル王国の東海岸に来ております。
ダイエットに挑むダシバと別れた海岸から、さほど離れてはおりません。
(ダシバに会いたいですね……もう大分、ほどよくスリムで健康的な豆柴になったことでしょう)
周りにいる部隊は近衛の第一部隊、戦闘の第二部隊、そして救護の第八部隊の精鋭です。
大導師を威嚇しないよう、戦車は少なく、犬の姿をとっておられる方が多いです。
彼らの立派な四肢と、健康的な毛皮を見ていると、素敵に強化された愛犬を想像してしまいます。
和犬のお二人からの電報の返事は【即時撤退をし、ケンネル王国に帰還いたします】だったのですが、私の出発が返事を頂いてすぐだったので、お会いできてはおりません。
どうも行き違ってしまったようですね。
私たちを囲むのは、相変わらずの白い砂、青い海。
それに感慨を持つ暇もなく、私は戦車から身を乗り出して、双眼鏡で周囲を見まわします。
『大導師がやってきました!』
伝令のグレイハウンド一族の誰からの声で双眼鏡を向けると、遠く大導師の一行が馬車でやってくるのが見えてきました。
前回トランシーバーが傍受されたので、今回はグレイハウンド一族が大活躍をしています。ヨーチ様はどちらでも良いようですが、当主は大喜びをしていました。
戦車や武器、通信機、その他テクノロジー。
第四部隊の技術力が凄まじいだけで、この大陸全体の技術は、私がいた国とさほど変わりません。
それだけでも、王国は他国に引けを取りません。
むしろ、帝国の次に勢いがあるのが我が国です。
ただ同時に、第四部隊には「うっかりさん」が多いという致命的な欠点があります。
特に美味しいお菓子やご飯に、誘惑されてしまうのです。
収入は高いはずなのですが「うっかり」釣られる方が多く、日々技術流出の危険に遭っています。
他の部隊が必死にカバーをしても遅く、ごく一部の技術はすでに帝国に渡ってしまいました。
トランシーバー技術もその一つです。
私は戦車から安定して身を乗り出すために、中で肩車をしてくださっているダリウス様に尋ねます。
「帝国の追跡は?」
「無いようです。まさか大導師がわざわざ女王様に会いに来るというシチュエーションは考えられなかったようですね」
「向こうの破壊工作は?」
「大成功です。今、帝国では皇帝と公爵が大喧嘩を始めているそうです。
……あとはこちらの仕事のみ。では、出迎えに参りましょう」
白い小型犬のマルス様には先に出ていただき、私はダリウス様にお尻を押してもらって、えっちらおっちらと体を全部外に出せました。
地面に降りると、腰の白い輪たちが揺れます。
少女用の黒い軍服の腰には、八本の白皮の輪。
わんわんリードの持ち手です。
そこから繋がる線は目には見えませんが、あちこちで活動を開始した隊長たちと繋がっております。
見た目はただの皮ひもだったのですが、しばらくするとひもの部分が消えてしまいました。
どうやら、トランシーバーの電波のようなもの……みたいです。
神具とは、とても不思議な存在です。
実は護衛犬のマルス様も欲しがったのですが、在庫は八本。「いつも一緒にいるからいいではないですか」と言ったら、あっさり納得してくださいました。少し意外です。
その輪の一つを満足そうに見たダリウス様が、超巨大犬に変わります。
そして、私に依頼をします。
『では、次に私に跨ってください。大きな犬を従えた勇ましい女王の登場に、大導師もひれ伏すでしょう』
「無理です」
『私のような犬では格好良くないと?』
わんこで移動する姿を人に見られたら恥ずかしいから、という意味で断ったのですが、相手には全く通じていません。
どうもこの国の歴史では、王族が馬に跨ると、馬に嫉妬するわんこも一部いたらしく。
王族が子供の内は、大型犬の犬人が、馬の代わりを務めることも多かったようです。
ショックを受ける超大型犬に、同じく大型犬のグレイ・フォン・マスティフ様が怒ります。
『ずるいぞ、ウルフハウンド! 儂だって! 初代王のように女王様にトマホークを担いで乗って欲しかった!』
「勘弁してください」
もっと恥ずかしいから、お断りです。
ですが、二人はヒートアップして、女王様の馬は私だ! と論議を始めます。
ダリウス様はリーダー犬のはずなのですが……まだまだ、ベテラン勢をコントロールしきれないことがある模様です。
近くにいた小型犬のマルス様は、「どうせ僕は小型犬ですよ」とへそを曲げています。
この件に関しては常に大型犬が有利ということで、小型犬・中型犬の皆様は、昔から不満を溜めていたそうです。
体格に関する問題は、いつか解決しなければならない、犬人社会全体の問題なのかもしれません。
(さて、ここは白い輪を引っ張って、二人を怒るべきでしょうか……)
リードの扱いに悩んでいると、背中に黒い大きな鼻が押し当てられました。
そこには同じく大型犬の、ジョゼ・フォン・セントバーナード様。
第八部隊として、首に医薬品を詰めた小さなバッグを結んでいます。万が一、人の姿になれなかった時のための非常用だそうです。
『男同士の序列など、付き合わなければいいのです。それならば女同士。私の背中に乗ってください。テレサ様ほどではありませんが、私のふっかり毛並みも良いものですよ』
優しいジョゼ様の瞳を見てから、毛並みを見ると確かにふっかり。
ふらふらと手が伸び、うっかりと乗ってしまいました。
こ、これはふっかり……とても良いです。
争っていた二人の大きなわんこが、私とジョゼ様の様子に気が付き、抗議をします。
『ずるいぞ、セントバーナード!』
『羨ましいぞ、セントバーナード卿! 私がリーダー犬なのに!』
『黙りなさい! そもそもリーゼロッテ様は可愛い女の子なのに、男がいちいち乗せたがるな! これ以上は私が相手になるからね! それとも二人とも、テレサさんに吹っ飛ばされたいの!?』
『う、それは……』
『ご主人様にその疑問を持たれないうちに、乗せてしまいたかったのに……』
彼女の落雷のような怒鳴り声に、二人のわんこが小さくなりました。
(……ジョゼ様は「女性だから」と序列争いに混じっておりませんでしたが、もしかして二人よりも強いのでしょうか。それにテレサさんも……)
背中に乗りながら、ふとそんな疑問が湧きました。
……後日マルス様に聞いて知ったのですが、彼女のパンチは凄まじく重く、体重を掛けて打たれると内臓破裂では済まないそうです。
それにしても、馬乗りで揉めるなんて。これ以上精神力を削られたくありません。
結局「もうこのままで良いです。今後もこれで良いです」と、ジョゼ様の背中の、もふりとした毛皮を強く掴んだのです。
―————卑劣悪撲滅作戦。
簡単に言えば、暴力といじめが大好きな彼らを本拠地の島に全員押し込んで、社会的にも精神的にも追い詰め、【反省】していただく作戦です。
この作戦で大切な点は二点。
ただ殺すのではなく、「彼らの信条を破壊し、援助者たちに手を引かせること」です。
難しい作業ですので、私にすぐに成果を見せたくなるわんこたちを、適度に抑えていかねばなりません。
テロリストの本拠地と同時に攻めるべきは、ルマニア・ドラゴニア帝国中枢部。
他の分派した純人教の動向の調査と共に、「真・純人教のバックボーンに帝室が関わっている」疑いを調べるためです。
にわか集団が、中堅国とはいえ軍事力の高い我が国の王宮を簡単に襲えるはずがありません。
それは大きな後ろ盾の存在があることを示しています。
特にトランシーバー技術は、戦時中に帝国に奪われ流出したもの。
「今回の黒幕は、帝国がほぼクロ」と研究所も判断しています。
レオンハルト様は隠密活動が得意な第五部隊と、破壊工作部隊である第六部隊とに指示を出しています。
目的は帝国の真・純人教との繋がりの確認と、帝国内の分断工作。
とにかくかの皇帝には、帝国があのテロリストたちを応援するのは「損」だと思っていただかねばなりません。
詳細は、シュナウザー博士の作った私専用の教科書『良い子の後ろめたい外交戦略Ⅱ』に書いてありますので割愛します。
私は命令を出すのが仕事です。
出発前に、王座の間で私は命令を出しました。
特に今回の要となる二人。
頼りなげな雰囲気の小柄な青年、リリック・フォン・コーギー隊長。
そして、月も霞むような繊細な美青年、マゾ・フォン・ボルゾイ隊長。
「コーギー卿、ボルゾイ卿、貴方たちの成果をお待ちしています」
「は、はい!」
薄茶のふわりとした髪を揺らし、円らな瞳のリリック様が、少しどもりながらお返事をされます。
表情がとても不安そうです。
彼は長らくマルス様の下で副隊長をしておられたのですが、生来の気質で不安症を抱えておられます。人目が気になるので、普段は王宮でも姿を現しません。
『仕事はできるのだけどね。見ていてよくイライラする』とは前隊長のマルス様の評価です。
今回の任務では国内の第四部隊、第七部隊との連携を密にして、迅速な情報収集を担っています。
その一方で―――――。
「ご命令はありがたく。しかしご主人様。ご褒美はどうされます? 出来れば……」
「そう簡単には差し上げません! まずはしっかりと、宰相の指示をお守りください!」
マゾ様は油断も隙もありません。
私が簡単に踏んでくれると思ったら、大間違いです!
外見は風が吹けば倒れそうなほど繊細な美貌を持つ反面、中身はどこまでも肝の太い彼は「残念です」と顔を陰らせ、美しい敬礼をしました。
実は彼の得意な技は、宮廷工作です。
各国の華やかな舞踏会や集い、または秘密クラブに潜入して、上流社会の人間関係を把握。
そこから潰すべき相手を見定めて、夫婦や家族、主従のラインから信用できる人間を裏切らせていくのです。
『戦時中は敵の武器や設備を壊す作業もしますけどね。私は基本的に人間関係を壊すのが得意です』
恐ろしい技術です。
そしてそんな彼には、友人がいません。
―————実に恐ろしい、孤独耐性。
……彼と一緒にされたくありません。
私は、ぼっちではありませんから。決して認めません。認めませんとも。
さて、作戦の全体図はこうです。
私の最初に立てた「テロリストに反省をしてもらう」方法は、こうでした。
① 帝国という支援者を切る。
② 本拠地に追い詰める。
③ 大導師にお願いして、改めて破門をして貰う。ダメなら「あれは、真の純人教徒とは完全に別だ。むしろあれは純人教ではない」という言葉だけでももらう。
④ 本拠地で孤立させて、食料を制限。犬人からの施しを受け入れず、殉教されるならそれも良い。もし食べたのなら、その様子を一瞬に絵にしてしまう機械で何枚も写し取り、全世界の純人教徒にばらまく。過激派の復古主義(変身人種差別)を無視する輩として、今後は活動の名目を失う。
⑤ 行き場の失った彼らに手を伸ばし、人の情に人種など関係ないのだと実感してもらう。
これをシュナウザー博士に細かい修正をお願いいたしましたら、赤ペンでちょいちょいと書き直されて会議に提出されました。
① 帝国の兄弟(皇帝とハウヌウェレ公爵)の仲に軽く罅を入れておく。ケンネル王国にちょっかいを出すどころじゃなくなれば良い。ただ、内乱は困るのでほどほどに。
② ありとあらゆる潜伏した真・純人教信者を、我々の鼻で探し出して、本拠地の島に閉じ込める。
③ 大導師を駄犬ネタで脅し、確実に「破門」を宣告させる。出来れば駄犬を引き取ってもらう。
④ 社会的にも孤立させて、本拠地に閉じ込めたら、駄犬も入れて島ごと一斉にファイヤー! 島もみんな消し飛べばよい。一匹たりとも逃すな。
⑤ 良い純人教徒は死んだ純人教徒だけだ。反省など不要。
会議は大いに盛り上がりました。
女王様はやる気だ! と。
「素晴らしい! なんという完ぺきな指針! 我々は女王様のお考えに従います!
特に赤い字にはやる気が満ち溢れておりますね!」
「違います! こんなのは違います! 私の考えは黒ペンの方ですから!!」
興奮して盛り上がる上層部に必死に反対します。
結局、③④だけは私の案を受け入れていただけました。
①②は、条件付きで私が赤ペンを受け入れ、⑤は却下! です。
つまり、こういう結果です。
・帝国を混乱させて、こちらにちょっかいを出している場合ではなくする。
・本拠地の島に、テロリストを集める。
・大導師の協力を仰ぎ、『分派』ではなく、完全に『純人教とは別』の宗教扱いにする。これで他の純人教徒から狙われません。
・完全に孤立したテロリストを【とにかく反省】させる。
最後はいささか曖昧な表現になりました。
……仕方ありません。時間がないので、その時の状況で考えましょう。
ただ一番の難関が、「あの大導師の協力を得られるのか?」ということ。
アプソ大司祭も、「ゴルトン殿のような宗教者でなければ動かせないこともある」と助言をくださいます。
ただ、彼は実に独特な思考をされる方。
一体どのように説得すればいいのか……。
大司祭はもっさりとした白い眉毛の奥を細め、途中でシュナウザー先生とレオンハルト様を交えて講義をしてくださいました。
「いいですか。私も長年聖職に就いておりますが、聖職者は特殊な感覚を持っておられます。私が言うのもなんですがね、『無知蒙昧な者たちを教え導いて、あげよう』という意識です。それは下手な教師よりも厄介でして……」
大導師から、いかに全面的な協力を得るのか?
ただ、そのための講義だったはずなのですが……。
(なんという、大人の世界。皆さん汚なすぎます)
会議と講義を終えて、私は頭を抱えて椅子に座っておりました。
テロリストたちを、ちゃんと【反省】させたい。
ただの皆殺しは簡単。しかし、第二、第三の卑劣漢に、さらなる攻撃の理由を与えぬように。
だからこそ、手段は選ばない。
(……きついのです)
でも、私が怖がって参加しないのであれば。
犬人たちが、また私のためと、勝手に血塗れの争いを起こしてしまうでしょう。
―———恐らく我が国が国力を出し切って戦えば、この大陸の制覇も可能です。
特にバーバリアン様たちのように、戦いに常に飢えていらっしゃる方は、いつだって私に血塗れの大陸を献上したがります。
(でもダメです。ダメなのです!)
私は血に沈んだ大陸で、少数で生き残った犬人たちと天下を分かち合いたいのではありません。
世知辛さを感じつつも、たくさんのわんこと一緒にのんびりと暮らせる世界が良いのです。
私はちゃんと、戦いに参加をします。
参加をして、皆さんのリードを預からせていただき、飼い主の責任も果たします。
そんな決心で挑む私に、第一部隊副隊長のリョーマ・フォン・トサ様がフォローしてくださいます。
「ご安心を。女王様の計画を、最大限に成功させるのが我々の務めですから。テロリストはちゃんと(地獄で)反省させることができますよ」
……そうですよね。
誠実な和犬の方の言う事ですもの。信じてみようと思います。
そう述べたリョーマ様は、計画の②について最悪な武闘派のバーバリアン様に相談されていましたが……信じてみようと思います。
さてだいぶ前の回想に耽っておりましたら、大導師が到着しました。
馬車を降りた黒服の彼は、相変わらず何も映していないような、片方の漆黒の瞳を私に向けてきます。
「次期女王よ、再会にはいささか早いな。戴冠式は今日であったか?」
「私も、まだお会いするつもりはありませんでした」
彼は大きな犬に跨った私に、何の違和感もなく接します。
そもそも、犬人そのものに無関心のようです。
以前は変身する方全てを、汚物のように見ていたということですから……随分と態度がましになったのでしょうね。
いつかテレサさんが少女小説を一緒に読みながら、
「あまりに好きな人が出来ると、その人以外は塵に見えるから、嫌悪や憎しみすらどうでも良くなることもあるのですよ」と言っていました。
それなのでしょうか。
ならば、全ては私の愛犬ダシバのおかげです。
宗教による大殉教を仕掛けてきた彼は、ただのダシバの、あまりに駄犬な姿に感銘を受けて思いとどまりました。
「あれこそが純粋の犬の姿。彼を愛犬とする飼い主の統治下なら我慢してやろう」となったくらいです。
お手紙の中で『夢にダシバ様が出てくる』『ダシバ様以外どうでもいい』『ああダシバ。貴方はどうして駄犬なの』という文言も混じるくらいです。
最近は『純人教をピュアダシバ教にしようと思っているのだか、どう思う?』というお手紙ももらいました。
「どう思う?」じゃありませんよ。
どこの恋する乙女ですか。
しかもそれは施設で見た、全身に好きな人の名前のタトゥーを入れるレベルの病み方です。
一見冷静に見える彼はやはり、ダシバのことを聞いてきました。
「ところで、ダシバ様はどこだ」
「あの島です」
私はテロリストの島を指差しました。
「貴方様が分派した人たちを、ちゃんと教育されないから。ダシバがテロリストに浚われました」
「なんだと……!?」
無表情だった大導師が、驚愕の表情を浮かべます。
もちろん嘘です。
ダシバはとうに王宮に帰っているはずです。
ですが、ここは交渉。
彼によってはっきり真・純人教を憎み、縁を切っていただかなければ!
私は暗い顔を作り(そもそも表情があまり変わりませんが)、彼に切々と訴えたのです。
「私の愛犬を、あいつらは『つまらない犬人だ。格好良すぎて、しかも賢すぎて話にならん。こんな犬苛め抜いて殺してやろう』と連れて行ったのです!」
「何をしている! 其方は無能だ、次期女王!
許さん……。許さぬぞ、ダシバ様を! 純人教にとってあの方はまさに聖犬! 聖畜生!
なのに、その良さが分からないなんて……。あいつらは純人教徒ではない!!」
私は下のジョゼ様に合図を送りました。
絵と音が記憶できる装置を、樽の中に入れてもらっているのです。
(大丈夫ですか?)
(ちゃんと撮れていますよ)
私は張り切って彼に、ダメ押しをしました!
「そうなのです! やつらを反省させねばなりません! ですから、まず世界に向けて『あいつらは純人教徒ではないと』宣言して、ですね「うおおおおおおおおおおおお」」
大導師ゴルトンは突然、海に走り出しました。
周りにいた兵士たちも唖然としています。
「ちょっと、待ってください!」
「ダシバ様! 今助けます!」
大導師が予想外の行動に出ました!
そのまま海に飛び込んだのです。
見事な泳法で、ぐんぐんと島に向かっていきます。なんという力強い泳ぎ!
ダリウス様とグレイ様の指示で、水泳が得意なウォータースパニエル一族の方や、テレサさんの親戚のニューファンドランドの方が追いかけているのに、まるで追いつけません!
一台戦車を向かわせておりますが、それでも追いつけません!
『なんという恋心……。やりますね、大導師ゴルトン。私、見直しました』
ジョゼ様が感心しておられますが、それどころじゃありません!
【大導師が、次期女王に呼び出されて死んだ】となれば、宗教戦争の悪夢再びです!
私は叫びました。
「ごめんなさい! ダシバはそこにはいないのです! ダシバは王宮に……!」
『キャイーン!』
「え?」
長年、よく聞いてきた愛犬の鳴き声が、島から響きました。
人の姿になったジョゼ様が、慌ててトランシーバーで確認。
真っ青な顔で、報告をくださいました。
「大変です。あの駄犬。
帰り際に島から脱走して、うっかり巨大なコンドルに捕まり、戦車でコンドルを砲撃して墜落させたらまた逃げて、次は巨大なサメに襲われ、それもキシュウ卿が倒したらまた逃げて、次は巨大イカに襲われて、アキタ卿が倒したらまた逃げて、次にイルカの群れに流されて、それも砲撃で脅して散らしたら、いつの間にかあの島に漂着。島内のジャングルを迷っているそうです」
そして、テロリストに見つかった、と。
彼女は静かにトランシーバーを下しました。
「我々の嘘が、全て本当になりました。ただし、全て駄犬のせいで」
「ダ、ダシバ……。我が犬ながらなんという……」
ダーメーシーバー!!!