第十五話 ご主人様はずっと僕のご主人様だよ。自信持ってよ ( by マルチーズ )
離れ島のヨシムネ・フォン・キシュウ様から手紙が来ました。
そこにはダイエット中のダシバの様子が綴られています。
『親愛なるリーゼロッテ殿下
ダシバ様のダイエットは順調です。
お食事量も少々(どころではなく)度が過ぎますので、毎日特別食(軍用食)を丁寧に(口をこじ開けて突っ込んで)食べていただいております。少々(どころではなく)癖のあるお味ですが、栄養バランスは抜群です。
運動につきましては、島の大きな動物さん(人食いモンスター)とも仲良くおなりになり、島中を元気に走られています(立ち止まったら腹の中ですからね)。
実に(ダメすぎて何度しっぽを引き抜いてやろうかと思うほど)マイペースなお方で、我々の腕の鳴る日々です。
戴冠式の前には無事に(五体満足では)お返ししますので、もう暫くお待ちください。
貴女様の忠実な和犬・キシュウ』
……なんとなく言葉の間に()が付いているような気がするのですが。
やはり、和犬の皆さんは頼りになりますね。
ほっとして手紙を畳むと、なぜかレオンハルト様が東に向かって親指を立てておりました。
◇◇◇◇
戴冠式が来月と迫ってまいりました。
招待状配った各国、各界の重鎮の方々からは、色よい返事が返ってきております。
特にリーゼロッテ大陸(仮名です!)の、大国リーゼロッテ(あくまで仮名です!)からは、大陸の各有力者が集まるそうです。高速船の数が足らなくて大変だとか。
向こうの大陸を代理統治されている、出来る柴犬、マメタ・フォン・シバ様からからは順調な内政報告と共に、
『僕を褒めてくださらなくてもいいのですよ! 当然のことをしているだけですから!
ブラシや良い子良い子や、わしゃわしゃもする必要はないのですよ! ええ! 当然のことをしているだけですから!』
という、ツンデレな手紙も一緒にいただました。
……もちろんたくさんお礼をしますとも。
帝国ももちろん出席です。
ユマニスト王国の消滅により帝国と接する国境が増えて、地政学的に緊張が高まった我が国とは、表面上は無難にやっていきたいというところでしょう。
ただ、人口問題・食料問題を抱えるかの国です。
レオンハルト様には、「戴冠式後にリーゼロッテ大陸への植民をさせろとゴリ押ししてくるでしょうから、決して大陸について迂闊な発言はしてはいけません。国境のことは特にです」と念押しされています。
ただ……少々気になるお返事もありました。
大導師ゴルトンです。
かの方は純人教の現トップ。多くの過激な信徒に影響を与えられる方です。
あの時に彼が、私の愛犬に惚れぬいてくださらなければ、歴史に残る大虐殺が起きるところでした。
生き残った信者たちも日々【聖戦】に明け暮れ、我が国はまさに血と肉に塗れた魔境と化していたでしょう。
そんな彼が、また問答のような書簡を送ってきたのです。
『宗教とは人間が信ずるもの。故に解釈一つで分派する。
大変革を行う際には、必ず分派する者どもが現れる。得てしてそれは過激に走りやすく脆い。
うぬぼれが強く、論争よりも暴力に走る輩が多いからだ。
さて、次期女王。私は自分らの派を守るため出来る限りのことをした。後は其の方の努力を見守らせていただこう。
全てを鎮火した頃に、我は純人教大導師として初めて、他国の式に出席をさせていただく。
何かあった際には、その間ダシバ様は預かるので任せてほしい。最高のおやつを用意している』
「純人教・分派のテロの予告か。大導師は全く責任を負うつもりがないな」
「兵を増やすとしても、どこに配置する?」
レオンハルト様とダリウス様が顔を突き合わせて相談しています。
(ダシバはダイエットを頑張っているのです。絶対に預けるつもりはありませんよ)
そう思う一方で、私は隣の部屋で大変な苦行をしておりました。
私だって女の子です。
多くの女の子と同様に、綺麗なものや可愛いものが好きなのです。
特に素敵なドレスや小物などは、見ているだけで心が躍ります。
ですが今。これほどドレスを呪ったことはありません……。
「重いです……」
「あらまあ、リーゼロッテ様。これくらいで弱音を吐いてはいけませんよ。歴代の王は軽々と着こなしてきましたのに」
「軽々なんて嘘です……潰れてしまいます」
グレース・コリー・ピットブル様が呆れたように言います。
後ろで見ていたテレサさんが「リーゼロッテ様はまだ子供なのですから、もう少し軽く仕立て直してもよろしいのでは?」と、助け船をくださいました。もっと言ってください!
今着ているドレスは、分厚い生地を何層にも重ね、宝石で飾り立てたゴージャスなもの。
王————特に女王の戴冠時に着る伝統あるデザインは、他国へ国力を見せつける目的もあるので、半端なお金を使っていません。
なので、とても……とっても重いのです!
見事な宝石なんて要りません! 銀糸な刺繍なんて要りません!
着た瞬間に膝が折れた時はびっくりしました。
とても私の足では支えられないのですから。
「残念ですわ。帝国に舐められないよう、とことんロイヤルに仕立てましたのに」
美しい顔を残念そうに顰めたグレース様が、私の両脇を支え、ひょいっと持ち上げます。
「うーん、もうちょっと頭も飾れますわね」と、持ち上げた私を眺めて呟くグレース様。
彼女は、ケンネル王国の中でも流行の最先端を作り上げておられます。
いわゆるファッションリーダーであり、ファッションデザイナーでもあるのです。
彼女は来月に迫った戴冠式の盛装を、あれでもないこれでもないとずっと悩んでおります。
もういい加減にお着替えは飽きました。
しかし私はまだ小さく、国の仕事ができない身。人形状態も致し方ありません。
(ああ、仕事がしたいです……出来れば書類仕事がやりたいです)
レオンハルト様に何度もお願いをして、女王に戴冠した後に、少しずつ仕事を分けてくださることにはなっております。
義兄は「せっかくの良い身分なんやから、好きな勉強にもっと時間を使えばええのに」と言ってくださいます。しかしそんな兄は、もう職場を得て忙しく頑張っておられます。
だから、この国で出来ることをもっとやりたいのです。
—————そうしないと、私は居場所が実感できないのです。
皆さんが私を必要だと、おっしゃいます。
義兄とダシバ。二人は傍にいてくださいます。
ですが……私が、自分に全く自信がないのです。
女王だなんて言われても、一人のリーゼロッテは、ただの無表情で不器用な女の子です。
もう少し喜怒哀楽がはっきりと、せめて愛想笑いの一つでも出来れば、お義母様とも上手くやれていたかもしれません。
この匂いがなかったら?
王族だと犬人さんたちが言ってくださらなかったら?
……だから私は実感が欲しいのです。
少しでもここにいていいのだという、実感が欲しいのです。
(でも……)
「はあ残念。ではこの衣装はなしですね。箱に詰めて移動しますわ。皆さんやってちょうだい」
グレース様が重苦しい衣装を侍女たちに渡すと、彼女らは恭しくそれを伝統柄でデザインされた頑丈な宝箱に運んでいきます。
「リーゼロッテ様の着た衣装が宝箱に入りました~」
「リーゼロッテ様の着た衣装を宝物庫へ移動します~」
「リーゼロッテ様の着た衣装に展示ナンバー666と仮で銘打ちます~」
こういう【やれること】はもう結構です!
私の匂いのついた衣服が宝箱に詰めて運ばれていく様子に、いたたまれなさしか感じません!
先日帝国から来た、ハイヌウェレ公爵の私を見る、気の毒そうな視線が忘れられません。
(皆さん、犬性に正直すぎます……)
下着姿になった私はがくりと、ソファーの背もたれに抱き着きました。
上級貴族(特に男性)と狂犬騎士団の皆さんは、わんこの本能に正直すぎます。
せめて人の姿の時だけはやめて欲しいのですが、彼らは全然聞く耳を持ちません。
王にひたすら狂う「狂犬」であることが誇り。
女王の犬であることが誇り。
少しはその気持ちを理解しようと王宮のあちこちに置いてある、月刊【犬道】(グレイハウンド出版)を読んだことがあるのですが……内容は異世界でした。
私が発見される前のバックナンバーでは、
『犬であることは本能を解放し自由を得ることであり、一方で所属を実感できる素晴らしい束縛である』
と、哲学的な文章が飾り、
『今日の素敵なブラシ特集!』
『ファッションリーダー、グレース・コリー様の今日の一言』
『経済指標に豚骨の売り上げはアリか』
など、実に現実的なものが多かったのです。
なのに、私が王宮に来た途端に、
『犬とは女王様への愛であり、夢であり、浪漫である。つまり、リーゼロッテ様が全てである』
と支離滅裂になり、
『リーゼロッテ様の着古したファッション!』
『リーゼロッテ様に【良い子良い子】をされたいと、日々妄想に悶える貴方にドリーム小説』
『リーゼロッテ様味と名のついた豚骨が出回っている。けしからん、もっとやれ』
となっています。明らかに色々おかしいです。
更に、質問コーナーには、
『(質問)ドッグランコートで匂いを嗅ぎたくて死にそうだけど、最近ビットブルの警備が厳しい。どうにかして。ついでに王宮の警備隊はみんなうちの一族で良くない? セオリーでしょ?(byドーベルマン一族の誰か)』
『(回答)今から死ねば嗅ぎたくもなくなる。ちょっと待っていろ(byピットブル一族の誰か)』
『(質問)自分は兵士に向かないのかな、と悩んでいます。最近鼻も詰まっているし、ぶちゃいくだし、戦車もテロリストに奪われちゃったし。田舎に帰った方がいいでしょうか(byパグ一族の誰か)』
『(回答)その前に、僕に借りたリーゼロッテ様味ガムのお代を返してよ。きっちり800ワンだよ!(byチワワ一族の誰か)』
……色々とカオスです。
グレース様が次の新作の手直しに入りました。
休憩にテレサさんがお茶の準備を始めます。
隣の部屋では、レオンハルト様とダリウス様が警備について指示を与えに出かけたところでした。
(ダシバもいないし、つまらないです……)
ソファーにぐったりと全身を投げ出して、足をブラブラさせていると、ふと神出鬼没なパパラッチ犬さんの声が頭に響きました。
『ご主人様、最近の衣装騒ぎで飽きているのではないですか? 外に行きましょうよ! 今なら宰相も団長もいないし。素敵なものが手に入りますよ~!』
「俺もいるで~」
「お義兄様!!」
私はソファーから飛び起きました。
テレサさんが止めるのも聞かず、客間に突進します。
『おっと僕も一緒に行動するからね』と、隣の部屋で待機していた白い小型犬のマルス様が私の足元を走ります。
ドアを開けると豪華な客間のソファーには、ふんぞり返って、背もたれの後ろに両腕を回している義兄がいました。
恰好が見習いから普通の文官服に代わっています。ですが大きな態度は相変わらずです。
隣にはヨーチ・フォン・グレイハウンド様。犬の姿で首輪にメモ帳を下げてソファーの上におすわりしています。長い耳には紐で引っ掛けたペン。
人の姿に戻れば、何故か消えていたいた衣類や小物も元に戻ってしまう彼らですが、ヨーチ様は紙とペンがあってこそマスコミですから、と頑なにこのファッションを守っていらっしゃいます。
そんな彼らは、実は結構仲良しだそうです。
「いやー前からグレイハウンド卿とは馬が合って」
『バド君は実に有望ですよ。できればグレイハウンド出版に就職してほしいのですが、「今は確実に出世するか、確実に儲かる手段を見つける方が先や」と断られてしまいましたよ。あははは』
「はあ……」
『僕ともたまにご飯食べるよね』
「第一食堂では、文官のチャウチャウ君と、グレイハウンド卿とマルチーズ卿。四人で食べること多いんよ」
マルス様もご一緒ですか。
構図としては十才以上年上のヨーチ様が、怪しいところに年少組三人を連れて行っては遊ぶという感じだそうです。
(男の子はいいなあ……)
マルス様がソファーに乗っかって、ヨーチ様の細長いしっぽにじゃれつき始めます。
その様子を羨ましそうに見ていると、義兄が爆弾を落としました。
「お友達っていいですね……」
「リーゼはあっちでは、ダシバ以外に友達いなかったものなあ」
「お義兄様! そ、それを言ってはいけません!」
「ぼっちだったものなあ」
「ち、違います……!」
私は決して、ぼっちではありません!
ちょっと、友達が少なかっただけです!
少数精鋭なのです!
いつもこの動かない表情で、頭でっかちで、実際に堅苦しいことばかりを言うから、人間の友達が出来なかったなんて、私は認めたくありません!
私は必死になって否定いたしました。
ですが、否定すればするほど、男子三人が生温かい目で私を見守ってくださいます。
やめてください!
その視線は、ひたすら胸をえぐります!
そうして、素敵なものをくださるというヨーチ様が連れて行って下さったのは、王宮の一角。
歴代の王族の肖像画が飾ってある一室です。
そこには初代王アイアル様から始まって、私の実父までの絵が揃っています。
王族と公爵家にしか入れない特殊なドアを開けると、百二十五枚の絵の並ぶ、壮観な光景が目の前にありました。
そして、真正面に飾ってある第百二十五代目王の肖像画。
名前はアベル・ビューデガー。
私の実父です。
近寄ってじっと見ると、銀の髪、紫の瞳。
確かに私の色と同じです。
そして硬質な整った顔も、よく似ています。確かに私と彼は親子なのでしょう。
でも……。
「やっぱり私のお父様は、ハイデガーの父なのです。ごめんなさい」
私は決して動かない、絵の中の実父を見上げて呟きました。
思い出や家族の愛は、皆カインお父様が下さったのです。
愛犬家としては素晴らしかったとダリウス様から聞いておりますが、私にとっては見知らぬ他人。愛犬家の先輩として尊敬することはあれども、未だ実感が湧きません。
そう思って眺めていると、足元で「クーン」と白い犬のマルス様が哀しそうに鳴きました。
私は彼を持ち上げて「ごめんなさい」と、正直な気持ちで謝ります。
『その絵の裏を見てみてください。今朝、私が発見したんですよ! 恐らく当時のウルフハウンド卿が隠したものでしょうね!』
私の足元にすり寄り、ヨーチ様がおっしゃります。
(あれ? 王族と公爵家しか入れないのでは? ……まあ、深く突っ込むのはやめましょう)
マルス様に肩車をしてもらい、絵の裏を覗くとそこには……一冊の手記。
少し黄ばんでおりますが、そこまで古いものではないようです。
「取っても良いのですか?」
『ええ、いいのですよ。だってそれはリーゼロッテ様のために、アベル様が病床で書かれたものですから』
「私のために?」
『病床での日々で彼の方は良く書き物をされていたそうですね』
木組みに引っかかる構造になっていた手記を取り外し、私は床に下してもらいます。
両手で持つと薄い手帳です。
ぱらりと開くと、最初のページに【いつか会える君へ】と書かれています。
(君とは……もしかして、私のことでしょうか)
そこにはこう書いてありました。
『いつか会える君へ
僕は今、多くの王族を死においやった病に侵されている。
明日死ぬかもしれないし、今この瞬間に、魂が召されてしまうかもしれない。
だけど僕は希望を捨てない。
僕の子供である君が、この世界にいてくれると信じているから。
いつだって僕は夢を抱いている。
君と語り、君と笑い、君と世界を見て回ることを。
僕は君を腕に抱いて、生きている喜びを味わい、ダリウス達と笑いあう。
そんな日々をずっと夢見ている。
それだけで、僕を侵し続けるこいつにだって勝てると信じている。
早く会いたいね。
最初に何と言おうか。
「僕がお父さんだけど、いいのかい」かな。
「初めまして」かな。
……多分何も言えないだろうな。
強く抱きしめて、何も言えなくなるだろう』
そこから始まる文章は、私に語り掛けるような文章で埋め尽くされていました。
まずは自身のことについて。両親や兄弟、たくさんの親戚たちの話。
犬人たちとの日々。ダリウス様たちの幼少時代。
拡大する流行病と、死に行く王族たちの様子。生き残り、即位した時の心境。
そして母との出会いと、失恋。
見ることのできない子供への思いが、毎日の生活の記録共ににじみ出るかのような……。
最後には、自身の病の進行について淡々と描写し、判読の辛い字で、
『君がいつか戻ってきてくれると信じている。
モナは僕をもう見ないだろう。
だけど、君がいつか僕を父と呼び、抱きしめることが出来る日が、いつかくると信じている』
このページを最後に白いページが続いています。。
……力尽きてしまわれたのでしょうね。
—————ここまで読んで、動揺が止まらなくなりました。
恐らく本当は、自分の子供と会えるとは思っていなかったのでしょう。
私の生存を信じることが、彼にとっては生きる希望であったと……。
再び読むことができず、震える手で本を閉じます。
手帳をそっと胸に抱いて顔を上げると、ヨーチ様も、マルス様も、義兄も、優しく見守ってくださっておりました。
ヨーチ様は首輪のメモ帳を揺らして、機嫌よく言います。
『この手記は私としては大発見ですね! まあ、宰相が戴冠式の後に渡すつもりだったみたいですけど。
でもどうせ戴冠式に臨むなら、先に読んでおいた方が心の準備が出来ていいでしょう? 先王のことをもっと知って欲しいと思っているのは、私だけではないはずです。
パパラッチ犬としては【素敵な情報は迅速に! スキャンダルはもっと迅速に】ですからね!』
私は彼の気遣いに感謝いたしました。
「ありがとうございます。
私は……見たことのない父にも……愛されていたのですね」
「良かったやん。リーゼのことを強く想ってくれる父親が、二人もいたんやで」
「はい……」
いつもおぼつかない足元が、しっぱりと床を踏みしめます。
この国に自分のルーツを、ようやく確認できたような気がして—————。
滲み始めた視界を拭おうとハンカチを探していた、
その時です。
「みんな伏せて!」
「きゃっ」
マルス様が突然ドアにカギを締め、私を抱きかかえて床に伏せました。
遠くドカンドカンと連続して爆発音が鳴り、窓からは白い煙幕のようなものが見えています。
「どうしたん!?」
「敵だ!」
「このでっかい王宮に!?」
「ヨーチ、やばい。この刺激臭は……」
「胡椒爆弾ですね。犬人専用に作られた純人教の強力な武器です」
「この王宮が襲われているのですか!?」
褐色の腕に抱えられた私は小声で悲鳴を上げます。
大導師ゴルトンが忠告していた、「暴力に走った分派」がやってきたというのでしょうか!
ヨーチ様が部下、マルス様がレオンハルト様たちにトランシーバーに安否を報告すると、この部屋に向かって足跡が聞こえてまいります。
「良かった、警備の方が……」
「いや違う、敵だ! トランシーバーが傍受されたみたいだ。窓から逃げるよ!」
「きゃあ!」
マルス様が私を抱え、窓から飛び降りました! ここは五階です!
義兄を背中に抱えてついてくるヨーチ様が、愚痴をこぼします。
「また第四部隊は、最新機器を敵に盗まれましたね。今度の新聞には一面でクレーム記事を書いてやりましょう。
【メカオタでザル頭なマラミュート、いい加減埋めた宝の場所を忘れるな】とね!」
「その前に人事異動した方がいいんちゃう?」
全くです!
姫抱きの状態の私は、必死に頷きました。