お前、相当性格悪いんだな。そ、そんなことありません。私はただ、周りに合わせようとしているだけです
「あのーすみません。せめてどこへ行くのかくらいは教えてくれませんか?」
「お前と話すのは面倒だ」
いや、ちょっと待ってください。突然ついて来いなんて言われたらナンパかと思うのが普通じゃないですか?
「そ、そんなこと言わないで下さいよ。なら、お名前だけでもいいですか?」
「後で教える」
思ったよりも不愛想な人です。でも、これくらいならまだ全然優しかった方なのです。この後、数秒後には彼の手に引かれたことを本気で後悔するのですから。
「えっと、ならいつ目的地に着きますか?」
「10秒後」
え? 思ったより近い。ってこの浮遊島には私の家しかないんですけど?
「手を離すなよ」
おもむろに浮遊島の端に立った彼は振り向くことなくそう告げました。
「え?」
そして、そのまま空中に身を投げ出しました。
「えーーーー!!」
「うるさい黙れ」
そ、そんなこと言われてもこの高さからなら絶対骨折じゃ済まないはずです。叫ばずにいられませんよ。
「落ちるー!」
だんだんと地面が近づいてくる恐怖は文章に綴って伝えられるものではないでしょうね。
「もうだめ!」
なんで、一緒に最後を迎えるのが出会ったばかりの彼なのでしょう。もう目を瞑って現実逃避します。
「おい、着いたぞ」
「え? い、生きてるの?」
ゆっくりと目を開けると目の前には彼の顔がありました。
「え?」
いつの間にか彼にお姫様扱いされていました。
「下ろすぞ」
「は、はい」
浅くはないクレーターができている地面に降ろされた私は何がどうなったのかわかりません。
「な、なんで……?」
「死ぬとわかってて飛び降りる馬鹿がいるのか?」
むっ。はいはい、そうですね。やっとわかりました。この人ちょっと苦手なタイプです。
「そうですね。それで、ここはどこなんですか?」
「見てわかるだろ、草原だ」
さっきまでここの上にいたんですよ? いくらなんでもそれくらいわかってます。
「それじゃあ、なんでここに来たんですか?」
「そういうことか。なら最初からそう言え。クリエイターは朝になるとここに集まるんだ」
「なるほどです。それでなんですが、クリエイターって何ですか?」
「直にわかる」
また教えてくれないんですか。もういいです。
「じゃあ、ほかのクリエイターさんはどこですか?」
「もうそろそろ来るはずだ」
彼がそう言った瞬間。地面が急に揺れ始めました。
「来たか」
そして地面に穴が開き一人の太ったおじさんが出できました。
「我、到着でございます」
「ほかの奴らは?」
え? じ、地面から人が…………でも、突っ込んじゃだめだよね?
「上っす。もうすぐ来ると思うっす」
「そうか。おい、お前。そこから避けた方が身のためだぞ」
「え?」
余計なことを考えてたから反応が遅れてしまいました。
しかし、何も起こりません。何が何だかよくわからないのですが一応忠告通り避けよう。っと歩き出した途端。
「この、のろまが」
彼が突然、私を投げ飛ばしました。
顔面から地面に落ちた私は当然、彼に抗議します。
「急に何するん——」
しかし、私の声は突然起きた地響きにかき消されました。
「なっ、な、なにこれ⁉︎」
地響きと共に現れたのは民家よりも大きいサイズのドラゴンです。つい先ほどまで私が立っていた場所に落ちて来て大迫力の咆哮を轟かせました。
もしあのままそこに立っていたらどうなっていたことか。言葉にしたくもありません。
「ごめんね。そこの君。まだ、こいつの扱いに全然慣れてなくて」
声はドラゴンの上から聞こえました。そちらを見るとドラゴンの手綱を握っている女性とただ座っているだけの男性が見えました。
「嘘つくな。明らかに狙ってただろ」
「狙ってたのは認めるけど彼女じゃなくて、真夜のことを狙ったつもりだったんだけどね」
私の隣にいる彼は真夜と言う名前だったようです。
ですが、そんなことはもうどうでもいいのです。ただ、何なのでしょう。この世界は。この短い時間で既に2度も死にかけてしまっています。
「まぁ、何はともあれ、これでうちのチームも全員揃ったわけだ」
「これからよろしくね、そこの新入りさん」
ドラゴンの上から聞こえる男性と女性の声。
「は、はぁ」
いくら悪気がないにしてもつい先ほど殺されかけた相手とすぐに仲良くなんてできる気がしないのですが。
「ちょうど時間っす。降りて来てくださいっす」
「はいよ」
穴掘りおじさんの呼びかけに応えた女性は手綱をバチンっと一回鳴らしました。するとドラゴンが姿勢を低くし二人を下ろしてあげるのでした。
ちょうど、その時です。
どこからか大音量の音楽が鳴り響きました。
「おはようございます。クリエイターの皆さん」
そんなセリフとともに空からゆっくりと丸い物体が降りてきました。それはちょうど私の背丈くらいの位置で止まるとさらに続けます。
「今この時、全チームのクリエイターが揃いましたのでこれより、第11回、Re:クリエイションを開催しますです。準備の程はよろしいでございますですか?」
りくりえいしょん? なんのことだろ?
「おや? 始めてお会いする方がいるみたいなので自己紹介から始めさせていただきますです。私はこのチームの採点を担当する、採点ロボでございますです。改めて簡単なルール説明を始めたいと思いますです。質問は最後に確認しますのでそれまでは我慢してくださいませです。では、早速説明を始めさせていただきますです。この世界は皆さんご存知、『君の為ならたとえ緋の中、水の中』の中の世界でございますです」
え? さっきまで読んでた本の題名じゃないですか。
「その主人公に当たるのが皆さん、クリエイターでございますです。クリエイターは5人1チームとしてリクリエイションに参加しますです。そして、全10章、ヒロインで換算しますと10人全員を攻略した時点で、点数が最も高いチームのみがこの世界から出ることができますです。以上が簡単な説明になりますです。質問はございますですか?」
ん? これでおしまいなの? なんといいますか、結構説明不足な気がするのですが。
「点数とやらは何をしたらもらえるんだ?」
真夜さんが質問しました。
「色々ありますです。一番簡単なのはヒロインに何かしらの好印象を与えられれば点数が入りますです」
「なるほどな。それならうちのチームは結構有利かもしれない。なんせ女子なら、成奏と新人の二人がいるしな」
先ほどドラゴンに乗って登場した男性が手綱を握っていた女性、成奏さんと私を交互に見ました。
『私、本当は女じゃないんだけどね』
成奏さんの女性らしい声でそう聞こえました。
「え!? 成奏さんって男性なんですか!?」
「え? なんで……? じ、じゃなくて、そんなわけないでしょ!」
「おい、のろま。どういうことだ?」
の、のろまってなんですか⁉︎
「真夜さん、のろまはやめてください。私には星見月火憐っていう名前があるんです。火憐って呼んでください」
「お前、本当に面倒くさいな」
め、面倒くさい……結構ぐさってきます。
「で、なんでそう思ったんだ?」
「思ったも何も自分でそう言ったじゃないですか」
「火憐氏、何言ってるんすか? 成奏氏は何も話してなかったっすよ?」
「え? でも、確かにそう聞こえたんですけど……」
あれ? 聞き間違いかな? でも、確かにこんな美人な人が男性なわけないよね。声も女性くらい高いし。
「彼の性別は男性で間違いございませんです」
「なっ! はぁ。もういいよ。確かに私は男だよ」
「え? まじで!?」
「まじですか!?」
大声をあげて驚く、ドラゴンに乗っていた男性と穴掘りおじさん。結構ショックみたいです。
私もすごくショックです。私より美人さんで、スタイル良くて、それでも男性って……
「おい、火憐。お前はさっき声が聞こえたって言ったな?」
「え? あ、はい」
「どうやら火憐さんの能力は人の心の声を聞くことでございますです」
の、能力? それはなんでしょう。今までこんなことはなかったんですけど。
「あの、能力ってどういうことですか?」
「はい。ここに来るクリエイターは全員、誰にも負けない何かを持っていますです。そして、それがこの世界に来て与えられる能力に強く影響を受けますです。例えば、陸上十種競技日本代表の真夜さんなら能力は身体能力が人並み外れて強化されていますです」
だからってあの高さから飛び降りても怪我一つしないって凄すぎます。
「なるほどです。なんとなくわかりました」
そう言われれば私がこの能力を得たのもそれとなく納得できます。
「お前、相当性格悪いんだな」
ちょ、真夜さん。その言い方はいくらなんでもひどいですよ。
「そ、そんなことありません。私はただ、周りに合わせようとしているだけです」
「それで、その能力か。火憐ちゃんって見た目からして学生だもんね」
それって子供っぽいってことですよね? うー。やっぱりそう見えますよね。
「あっ、てかまだ自己紹介してなかったね。俺は、楠って言うから。よろしくね」
「はい。よろしくお願いします」
手を取る私と楠さんの横で採点ロボットがピクリと動きました。
「どうやら他のチームの説明も終わったようでございますです。10秒のカウントダウンの後、Re:クリエイションを開始しますです」
「え? 私まだ全然わからないことだらけなんですが」
ただただ戸惑う私に構うことなくカウントダウンの数字は減っていきます。なんだかものすごく理不尽な気がするのは私だけでしょうか?
そんな私をよそに他の皆さんは何かしらの用意を始めています。真夜さんは軽い準備運動を、穴掘りおじさんはキャンパスに絵を描き始め、成奏さんと楠さんはドラゴンに乗りました。
「後は俺たちで説明する。とりあえず、成奏のドラゴンに乗せてもらえ」
「え? なんでですか? どこかに移動するんですか?」
「いいから乗れ」
私の手を強く握った真夜さんはそのままドラゴンの上へと投げ飛ばしました。そして、私がドラゴンの硬い鱗にお尻を強打した時、開始のブザーが鳴り響きました。
「それでは、第11回、Re:クリエイションを開始しますです!」