下
二人乗りバイクを走らせ数分、僕たちがよく来た河原に到着した。
「懐かしいね、ここも」
舗装された道を通り、近くにバイクを止める僕に微笑みかける彼女。僕はそうだねと呟き返す事しかできない。
辺りを見渡せば花火をしに来た親子とその友達数人一組と、肩を寄せ合う若い男女。
ああ、僕たちもあんな風に良くここで話したなぁと思っていると、彼女の方も同じ事を思っていたらしくあの二人、私たちみたいだねと笑った。
「……じゃあ、始めようか」
「あ、ちょっとまって」
そう言うと彼女は僕の視界を塞ぎ、やわらかな感触を僕の唇に残す。
「これでよし。じゃあどうぞ!」
よしってなんだよ、と苦笑しつつ僕は息を吸って、吐いて、ギターを弾き始めた。
突然一人歌いだした僕を、花火の親子が、寄り添う男女が驚いてこちらを見る。
最初こそは静かに聴いていたが、僕の様子を見て気味悪がったのだろう。ちらちらと僕の方を見てはそそくさと退散して行った。
僕は形振り構わず歌って叫んで泣いた。
自分以外、周りに誰も居なくなっても。
ただただ真っ直ぐ前を見て、歌って叫んで笑った。
夏の終わりの話。