上
三年前の今日、僕の彼女はこの世を去った。
死因はあってはならないよくある飲酒運転、一人自宅からバイト先へ向かう途中に車、電柱、塀の順番でぶつかり潰され即死だった。彼女の家族は勿論、僕も一緒に男とか大人とか関係なく泣き喚いたのを今でも良く覚えている。
だって最愛の娘を亡くした家族、互いに将来の事も考え愛し合った僕、顔の原形を失い死んでいった彼女。僕が彼女の両親に「護る事が出来ずにすいませんでした」と涙と鼻水でぐしゃぐしゃになり、嗚咽入り混じる枯れ始めた声で言うと、「せめてきみだけは幸せになってくれ」と同じ様な顔と声で言われた。あの時には涙も声もが出なくなるくらい泣いた。
そうして彼女を失った未だ少し立ち直れないまま三年が過ぎた今日。
毎年欠かさない彼女の墓参りに行ったその帰り道、僕は全力で暗くなった夜道を走り駆け抜けていた。
確かに学生時代は運動部に所属していたが、別に体育会系という訳ではない。彼女と事を思い出して涙をこぼさぬ様衝動的に走り出した訳でもない。
理由はきゅうりが追って来たからだ。
僕が公園に寄り道しベンチに腰を下ろそうとした時、植木の影から大きなきゅうりが姿を現し何故か僕の方へ一直線にやって来たんだ。怖さと意味のわからなさで思考は硬直放棄したが、身体というか本能は「危険」から逃れるべく脚が縺れながらも公園を飛び出し今に至る。
「な、なんなんだよあれ!」
息を荒げながら漏れた本音という恐怖心。ベンチに置いてきてしまった未開封のジュースとか、夕飯用に買ったコンビニ弁当とかどうでも良かった。というかそんなこと考える余裕がなかった。
「!?」
呼吸も乱れ、脚も限界が来たのだろう。僕が住んでいるマンションまであともう少しの所で、まっ平らなアスファルトに躓き僕は一度前転をする程盛大にすっころんだ。
「がほっ」
痛みや暑さに恐怖や羞恥。いろんな感覚が僕の中でめぐり混乱する中、例のきゅうりが僕を追い抜き何処かへ消え去る。それと同時に現れた一人の女性。
「なにしてんのよあんた」
口元を手で押さえ、完全に笑いをこらえた顔をした女性。
「え……」
僕の彼女がそこに居た。