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目覚めたら記憶喪失でした  作者: じゅり
― 番外編2 ―
42/43

42.晴子のブラック上司、瀬野貴之

【書籍発売記念SS:2】


社長秘書の職にも少し慣れてきたある日の事。

「以上が、本日のスケジュールです」


 社長のデスク前にてスケジュールを確認していると。


「分かった。それと木津川君、今度の日曜日だが――」

「あ! こ、今度の日曜日はお天気が良いらしいですねー。楽しみだなぁ。私、スイーツ巡りしようと思っているんですよ。ああ、久しぶりのお休み、嬉しいなあっと!」


 まず間違いなく社長の私用にお付き合いをさせられると分かった私は社長の言葉を遮って、先にそう言い切った。

 しかし社長は表情一つ変えない。


「そうか」

「はい! 社長もここのところ、まともにお休み取られていませんものね。たまにはゆっくりお休みなられた方がいいかと」


 日本語訳:私はここのところ、まともにお休みを頂いておりませんからね。たまにはゆっくり休ませろー!


 もちろんこんな事を言ったところで、俺は大丈夫だから付き合えとおっしゃるのは分かっておりますよ。また今週もお休み返上か。とほほ……。

 力なく笑っていると、社長は意外な言葉を口にした。


「それもそうだな。君も色々疲れているだろう」

「……はい?」

「君も疲れているだろうと」

「は、はい。……そう、ですね?」

「今週の日曜日はゆっくりするといい」


 社長は口元に小さく笑みを浮かべる。

 あ、あれ? 今日はやけにあっさり引き下がるな。少し拍子抜けしてしまうんですけど。でもやったー! 休みが取れるのは素直に嬉しい。何でも言ってみるもの――。


「そう言えば俺も少し疲れているかもしれないな」

「え?」


 社長がそんな事を言うのは珍しくて、目を見張った。


「社長、お身体の調子が?」


 健康管理も社長秘書の仕事の一つだと思っている。やはりスケジュールを詰め込みすぎたせいか……。見直さなくては。


「私の管理が至らなくて、申し訳ございません」

「いや、君が気遣う事ではない」


 頭を下げる私に社長はそう言った。


「でも……」

「精神的な疲れだ。君が気にする必要はない」

「え?」


 社長が精神的な疲れ? はて、何の冗談ですか?

 頭を上げて社長を訝しげに見やると、社長は長い足を組み、椅子の背に身を任せた。


「君が赤信号を無視で横断歩道を渡って起こした事故で車の違反点数を取られ」

「……へっ?」

「あまつさえゴールド免許を剥奪され」

「うっ」

「ボンネットに跳ね上がってきた君を見て精神的ダメージを負おうとも」

「うぐっ」

「君が悪いわけではない。俺が注意を怠ったからだ。気にしなくていい」

「ぐはっ」


 それと、社長は思い出したように続けた。


「車の修理に少々金がかかったが、君に請求しようなどとは微塵も思っていないから全く気にする事はない」

「ごふっ!?」


 しゅ、修理代!? 高級車の修理費ってどれくらい? うん十万円? も、もしかして、うん百万円とかじゃあ!? いや、億越えする車なら、さらに桁が違う!?


「ああ、そう言えば――」


 怖い! もうやめて! 私のライフはゼロよぉぉぉ。

 さらに何かを口にしようとする社長の言葉を遮る。


「しゃ、社長様!」

「何だ?」


 どくどく高鳴る心臓を深呼吸して落ち着かせた。


「わ、わたくし、木津川晴子は寛大なお心を持つ社長様に心より感謝し、この身を粉にして社長様に精一杯仕えさせて頂く所存でありますっ!」

「気にするなと言っているんだが、君がそこまで言ってくれるとはありがたいな」

「……はいぃ」

「では今度の日曜日は」

「もちろん、社長様に喜んでお供させて頂きます……」

「そうか。悪いな」


 社長は口の端を上げる。

 一度は人の気持ちを持ち上げてからの突き落とす手法。さすがですわー。ダメージがでかいです……。それにしても社長様。悪いのはあなたの黒い笑顔の方ですよ!

 そう言ってやりたいけれど、私は泣く泣く答える。


「勿体のう御言葉でございますぅ」


 あー、この先もこんな調子で社長にやり込められるのかなぁ。

 ちょっと遠い目をした私だった。


(終)

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