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目覚めたら記憶喪失でした  作者: じゅり
― 舞台の裏側で ―
39/43

39.瀬野優華の目覚め

【書籍発売記念SS】


29話で晴子と入れ替わり(元に戻り)、優華が目覚めたシーンとなります。

 わたくしは深い深い闇の中にいました。眠りさえすれば、嫌な現実の全てから逃げ出せると考えたからです。楽しみもないけれど苦しみもない。そんな世界でも、そこに身を委ねている方がずっと楽だったのです。

 けれどそのわたくしを優しく揺り起こされたのが晴子様でした。


 わたくしは闇の中で、晴子様のして下さった事を見てきました。晴子様の優しさに、強さに、そして温かさに凍り付かせたはずの感情が溶かされ、何度も揺さぶられたのです。思いを込めてわたくしに語りかけて下さるお姿に何度も心打たれたのです。



「晴子さん、本当に無茶をして」

「ったく。何でアイツは一人で先走るんだよ」

「本当よ! 起きたら絶対叱ってやるんだからっ」


 そんな声が耳元に届いて意識が浮上します。皆さん、怒った声ですけれど、とても心配なさっている気持ちを含んでいるのが分かります。

 そう、この皆さんの感情は今まで私の中にいらっしゃった晴子様に向けられたもの。わたくしのために、周りの人のために一生懸命だった晴子様に向けられたもの。


 晴子様は人のために一生懸命になられる方だから、きっと周りの人も晴子様に一生懸命になられるのですね。この皆さんのお気持ちを本来受けるべき方は晴子様。わたくしがそれを受け取るのは間違っています。

 しかし目覚めなければ、わたくしは晴子様に何一つ恩返しができません。ですから今はわたくしが目覚めることをお許し下さいね、晴子様。


 目を開くと、長らく感じなかった世界の眩しさに怯み、そして瞼を閉じてしまいました。けれど、わたくしの中にはもういない晴子様に頑張れ頑張れとどこかで応援されたような気がして、再び目を見開きました。

 この世界の光はわたくしにとってまだまだ刺す様に痛く、手をかざし、何度も瞬きしてしまいます。すると、身じろぎしていたわたくしに気付いた悠貴さんが声を上げました。


「晴子さん!」


 その声と同時に他の方々も顔を覗き込んできました。松宮さんに水無月早紀子様です。


「良かった。目が覚め……ゆ、うか? 優華だね!?」

「え? ……瀬野なのか?」

「優華さん!?」


 やはり真っ先に気付いて下さったのは悠貴さんです。でもどんな表情を浮かべればいいのでしょうか。全てを放り出して逃げていたのに、事態が落ち着いた頃に晴子様を追い出してしまったわたくしを見てどう思うのでしょうか。とても怖い。……けれど今、わたくしにできる事はただ一つだけなのです。


「はい。優華です。ただいま……戻りました」

「っ……。お帰り、優華」

「……申し訳ございません、悠貴さん」


 悠貴さんは強く抱きしめてくれます。そしてわたくしはおずおずしながら二人を見上げました。彼らに責められても仕方がありません。


「申し訳ございません。わたくしは晴子様を――」

「そんな顔をするな」


 松宮さんはわたくしの言葉を遮りました。そして彼は笑みを作ります。


「木津川晴子はお前が戻る事を本気で望んでいたんだから」

「そうよ。晴子さんもあなたが目覚めて、きっと喜んでいるわ」


 そう続けて下さったのは早紀子様。

 悠貴さんはわたくしから離れると、身体を起こしてくれました。そして両肩に手をかけ、わたくしを見つめます。


「晴子さんを見つけよう。彼女は携帯も使いこなしていたし、きっとこの時代のこの世界のどこかにいるはずだから。――絶対に見つけてみせる!」


 晴子様を通して遠い意識の中で見ていたとは言え、悠貴さんの変貌ぶりに驚きを隠せません。彼はもっと冷めた考えをする方だったのですから。きっと晴子様が彼を変えてくれたのでしょう。そしてわたくしも変わりたいのです。


「はい!」


 きっと見つけてみせますわ。ですから待っていて下さい、晴子様。


(終)

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