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目覚めたら記憶喪失でした  作者: じゅり
― 舞台の裏側で ―
38/43

38.松宮千豊君にお願い

【書籍発売記念SS】


22話で晴子が松宮に電話で協力をお願いするシーンとなります。

 携帯番号を聞いていた私は松宮氏に電話を掛ける。三コールしてから彼は出た。


「松宮さん、こんばんは。ごめんなさいね、遅くに」

「いや。電話してくるって事は、もしかして何か進展があったのか?」

「そうですわね」


 進展があったというか、これから進展させると言うかね。


「ああ、そう言えば、俺も談話室でのお前の話を聞いたぞ」

「あら、そうですか。どんな形でお聞きになりました?」


 また悪い方向に噂されていないといいけれど。その気持ちが電話を通しても伝わったのか、彼は笑う。


「心配するな。悪い意味じゃなかったから。下級生が困っている所を助けたってさ」

「そうですか」


 ほっと息を吐いた。


「だったら良かったのですけど」

「……本当に何かお前、変わったよな」


 松宮氏の何となく疑い深そうな声に慌てて話を変える。


「そ、そうでしょうか。あ、それより一つお伝えしたい事がございましたの」

「何?」

「二宮悠貴さんと柏原静香さんの婚約話についてです。……これは内密にして頂きたいのですが、この婚約話はとある・・・事情で白紙に戻っていたそうです」

「え? そうなのか?」

「二宮さんからも直接お話を聞きましたので、確かです」


 松宮氏はふーんそうなのかと呟いた。

 しかし彼は空気を読んでいるのか、それとも彼らの世界ではよくある事なのか、はたまた暗黙の了解なのか、その事情までは問い詰めて来ない。もっとも悠貴さんでもその事情は分からないと言っていたから、尋ねられたとしても答えられないのだけれど。


「ところで今日はお願いがございまして、お電話致しました」

「お願い?」

「ええ。明日はお休みですが、お時間ありますでしょうか。少しご協力して頂けたらと思うのですけれど」

「ああ、大丈夫だ。どんな協力が必要なんだ?」

「ありがとうございます。実はですね。私の跡をつけて欲しいんですの」

「はっ!?」


 電話からでも驚きの様子の松宮氏を容易に想像できて、おかしくなる。


「少し気になった事がございまして」

「気になった事?」

「わたくし、最近、人に尾けられている気がしているんですの」


 優華さんのノートにはそう書いてあったから。そしてまた、私自身も一人の時は奇妙な人の気配を感じるから。


「え!? ……大丈夫かよ」


 気遣いが込められた彼の低い声が耳に届く。いやー、良い子だなー。


「ええ。危害を加えられたりとか、無言電話などの嫌がらせをされたりとか、そういった類いの事はございません。ですが、もしかすると今回の件と何か関係があるかと思いまして。ですから少し離れた所から私の跡をつけて欲しいんですの」


 女子寮内で感じた事はないから、おそらくその人物は男性だろう。


「ふーん。分かった」

「ありがとうございます。明日、わたくしは一人で行動します。まず図書館に行きますが、そこを出ましたらご連絡致しますわね」


 図書館内まで松宮氏に付いてきてもらうと、相手に気付かれる恐れがあるもんね。


「分かった。それで目星はついているのか?」

「おそらく。ただ誰かと明確には言い切れませんわ」


 しかし少なくとも悠貴さんが頼んだ人物だろうと思う。これまでの優華さんの情報はともかく、今回私が江角氏と接触した時にやけに食い下がってきたし、どことなく私の行動を知られている気がする。おそらく誰かに私を尾けさせ、経緯を聞いているのだろう。


 この私に対して、いい度胸しているじゃないの、青二才めが! 悠貴さん、覚悟なさい。あなたのそのお綺麗な――。


「化けの皮を剥がしてくれるわっ! ふはははは!」

「……俺はもうお前の事、魔王と呼ぶぞ。いいな?」


 いつの間にか口に出して高笑いしていた私に対して、どん引きした松宮氏の言葉が私の耳をそっと通り抜けた。


(終)

『目覚めたら記憶喪失でした』改め

『目覚めたら悪役令嬢でした!? ~平凡だけど見せてやります大人力~』

の1巻発売記念の小話です。

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