二
ちゃぷ………ぴしゃん……、と時折微かな水音が発つ。
本当に小さな音がいやに耳について、今が丑三つ時なのだと白亜は実感した。草木も眠る時間である。
白亜は元々夜更かしをしない主義だった。
と言うよりは、起きていられないという方が正しい。
年は十五を迎えたばかり。その年の頃は、一般的に言えば成人し・結婚する頃ではあるのだが、娘の成人を祝う儀である裳着を白亜はまだ済ませていない。白亜の意向を無視して告げるならば、彼女は娘ではなく少女だった。
まだ完全に成熟しない身体が、夜更かしに対応しきれないのである。
実際、今、白亜は睡魔と闘っている最中だった。
ぴちゃ…とまた小さな水音が鳴る。
奏でているのは他ならぬ白亜だった。
すぐ傍にある灯りで、たらいの水面は波を発たせながらも覗き込む白亜の姿を映しだしている。
黒色の瞳は大して珍しくもないもので、ありふれたもの。
それがどれほど幸運なのかと教えるためにあるかのように、白亜の髪は真っ白だった。
まだ老婆と呼ばれるには程遠い若さの白亜にとって、この髪色は自分と言うものを他者へと知らしめる特徴的なものだった。黒目・黒髪が一般的な中、この髪は目立ちすぎるのである。
あまり好きではない自分の姿をかき消すように手を動かす。
そうすると、実際に水面は大きく波打ち、ゆらりと白布が水面下を泳いだ。
以前渡した物が破れた、と連絡が入った。ならば早急に新しい物が要り様だろう。
本人が取りに来るのか代わりの人が来る事になるのか。明日来るのか明後日なのか。それとも仕上げ次第こちらから届ける必要があるのか。
事務的な事を満足に書く余裕もなかったらしい先刻の文には、大事な事がほとんど書かれていなかったし、代わりに気の利いた言葉なども書かれていなかった。
相手方も余程急いで書いたに違いなく、その割には贈り物が添えられていた配慮に白亜は驚いた。
だが、飾り気のない包みで贈られた金平糖は、きっと文に添える為に手配したものではなくたまたま手近にあったものなのだろう。主人が迷惑をかけるという侘びだった。
口に含めば眠気覚ましになるだろうかと置いたままだったそれを手繰り寄せて包みを開き、一つを口に含む。
真っ白な金平糖は、甘い砂糖の味がした。