一
灯りを消そうとした白亜は、伸ばしていた指先をふと止めた。
「だれ?」と声を掛ける前に、簾の向こうから白亜を呼ぶ声がかかる。
簾の向こう、おぼろげに映る人影は女性の姿。
呼ぶ声は、白亜の良く知る女房の者だった。名前をシノと言う。
もう下がって構わないと下げてしまった者である。寝室である夜の御殿への入室を許しつつ何用か問えば、文が届きました、と女房が白亜の傍へとやってきた。
こちらでございます、と差し出されたのは、赤子の手程の小さな包みに、折った紙を括り付けたものだった。
それを手に取り、白亜はまず文を包みから取り外す。
文が外れると包みの方がするりと解け、ころころと小さな欠片がこぼれた。
就寝直前、今まさに床に入ろうとしていた状態のままだった白亜の膝には、上に掛ける純白の着物――袿が掛けられている。その上に、こぼれたそれらが転がり落ちた。
文を置いて白亜が転がったものの内一つ摘まみ上げたそれは、白色の金平糖だった。
桃色、黄緑色、黄色、薄紫色、水色、橙色、薄藍色と色とりどりで目にも鮮やかである。
真っ白な着物を小さく飾った状態となっている金平糖達を一つ一つつまんで回収し、全部集めたところで、白亜はそれを単純に包んでいただけだった布を縛り、零れ落ちないように施した。
そうして、ようやく白亜は文を開ける。
「……………シノ、たらいに清水を入れたものを用意して」
用事を全て伝え終えてはいなかったが、同じやり取りをもう幾度も繰り返しているのでシノの方も把握しているらしく、ぺこりと会釈をしてから部屋を出ていった。
元々静かな屋敷は、陽が暮れるとさらに静けさが増す。
急がねばと駆けたらしいシノの足音が、距離が開いていくはずの白亜の部屋までいつまでも伝わってきた。
既に寝入りの体勢であった白亜は、それでも徐々に小さくなっていく足音を聞きながら一つ吐息をこぼした。
今夜は殆ど眠れないだろう。
それは予感ではなく、確信だった――――。