表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

友達と秘密

今回はちょっと長めなので、06から08までです。

前回よりも短いかも。

とりあえず、ごゆっくりどうぞ。

06


さて、皆様。お元気でしょうか?

私は現在、図書委員長こと桐川肇にばったり偶然何の意図も無く普通に出逢ってしまい、とても困惑かつ高揚しています。

私にとって、随分と久しぶりの生身の人間なので、それはもうとても。

とは言え、この図書室に居れば誰か来るに決まっていると想定していたのは間違っていないので、先程の何の意図も無く、というのは撤回させて頂きます。

それがまさか桐川肇だとは思いませんでしたが。


「初めまして、桐川さん」

「……どうも、魔女さん」

「魔女さんだなんて、普通に針木で構いませんけど」

「あながち間違ってはいないのだし、何だって良いだろう」

「そう言われれば、反論する余地は無いんですけどね」

実際どうでも良いですし。私は皮肉混じりに呟きました。

「……俺が此処に偶然来てしまった事って綺麗さっぱり無かった事には出来たり」

「あはは、そんな事出来たら犯罪がいくらでも成立してしまいますよ」

「そうだけれど……流石に俺も命が惜しいんだ」

「大丈夫です、今のところ桐川さんを不死身にしたいとは思ってません」

「これからそう思うような事言うなよ……不吉だ」

「失礼ですね。不死身にしちゃいますよ?」

「本気なのか冗談なのか分からない事言うな!」

そこで私はあからさまに、

「桐川肇のノリツッコミが意外と気に入ってしまったので、不死身にしてそのまま傍に置いて延々とノリツッコミをしていて欲しいと思ったのは内緒にしておきます。」

からかってみます。本気かそうじゃないかは曖昧にして。

「ちょっと待て心の声が全部漏れていたんだが」

「気のせいですよ。それに冗談です」

そういう事にしておきます。

どうぞ分かりやすくほっと胸を撫で下ろしてください。

「ええと、私がお見受けするに、何か用事があって図書室を訪れたように思いますが」

「ああそうだ、一冊本を借り忘れていてな……」

そう言っていそいそと私の前を通り過ぎ、本棚の一番高い所に手を伸ばします。

何にも思わなかったんでしょうか。普通の生徒ならば遠回りしてでも避けて通りそうなものなのに。

題名が何だったかは見えませんでしたが、彼が手にした本はどうやら私の好きな作家さんのもののようでした。

「それ、私も好きです」

「ん?ああ、この作家さんの事か?」

すかさず頷きます、四、五回。

だからと言って、何か話が発展する程の内容では無いのです。

こう言っては何なのですが、私はその本を読み嗜む程度にしか思っておらず、つまり内容なんてものはこれっぽっちも覚えていません。

私がその本を読んで得たのはただの言葉であって、それを読んで人生が変わるなんて事有り得ませんでした。

読んだ者の人生を変える事さえ出来ないのであればそれは作家ではないと私は思います。

しかしそれではいささかハードルが高過ぎるような気もするので、読んだ者に生涯覚えていて貰えるような内容を書ける人こそ真の小説家だと、そういう事にしておきましょう。

それでも十分過ぎる程ハードルは高いですが。

どっちみち今桐川肇が手にした本の作者の事を私は小説家であって小説家でないと思っていると、そういう事です。

「そうかそうか、針木も本読んだりするんだな」

「当たり前ですよ……さりげなく傷つくじゃないですか」

私だって、普通に読みます。

「さりげなくなら問題ないよ、……もっとも、そのさりげなくが普通の人間にはとても大きな事に思えるらしいんだけどな。他人からすればどうでもいい事だと言うのに、本当に無駄な事をしたがるよな」

まるで私が普通の人間じゃないみたいな事、同意を求められても答えかねます。

普通の人間ではないですけど。

「……気付いているのか気付いていないのか知りませんがさらっと傷つける発言止めて貰えますか?」

「冗談だよ」

「………………」

「ごめんって、謝るよ。土下座でも何でもするよ」

笑いながら言わないで下さい。確実に謝る気が無いの見え見えです。

「話は変わって」

「いきなりだな」

「用事が済んだのなら私とお友達になって下さい」

「…………何で?」

「私が桐川さんをそれとなく気に入ってしまったからです。従わなければ即不死身です」

「即不死身って何だよ……それに選択肢がどう考えても一つしかないように思えるんだが」

そうですね、とても理不尽です。理不尽は嫌いですが、私が相手に対して理不尽な事をするのは好きなので問題無しです。

「……すまないが、俺じゃ針木、お前の友達にはなれない」

「なっ、何でですか!」

ついつい激情的になってしまいました。らしくないです。

「俺は誰かと関わりとか関係を持つのが嫌いなんだよ。縛られる気がするから」

「それを言うなら、皆産まれた時から縛られていますし、それに今更一つ縛りが増えるだけなのですから、変わりないと思いますけど」

「その一つが首を絞める場合も無きにしも非ずだろう?」

そうですけど。決して反論はしませんけど。

「だから、針木の友達にはなれない」


07


俺はそう言って、あまり納得の行っていなさそうな針木の目の前をわざと通って、図書室を出た。

我ながら意地が悪い。そういう部分も含めて俺なので、文句は言わないが。

通り過ぎる寸前、俺の手を掴もうとしたのか、腕を僅かに動かしていたがどうも躊躇したらしい。

俺は今日も無事に凡人だ。

しかし、あまり良い気分とは言えなかった。


「お友達にくらいなってあげたら良かったのに」

「嫌だよ。お前との関係は曖昧だから構わないけど、お友達なんていうのは曖昧じゃないだろう? 下手をすれば落ちるところまで落ちてしまう可能性だってあるし、お友達は遊びに出かけたり、相談相手になってやらないといけないじゃないか。そんな面倒臭い事俺は願い下げだよ」

「何だ肇くん、いつにも増して冷たいなあ。もしかしてもしかしなくても、機嫌悪かったりする?」

よっと。棗田琴は体育座りから立ち上がる。

ずっと図書室の前で座っていたのだろうか。

「正直な所、肇君の機嫌なんてどうだって良いんだけど。棗田は幻滅したよ。友達の一人や二人、増えようが減ろうが肇くんにとってはどうでもいい事なんじゃなかったのかい?」

「どうでもいいさ。どうでも良すぎて、嫌なんだ」

「ひねくれてるねえ」

お前に言われたくはなかったと心の内で思う。

「……ま、何であろうと棗田は肇くんの理解者だし、肇くんがお友達を作ろうが作らまいが棗田は見ているだけだよ。直接関わる事が出来ないのは煩わしいけれど」

「そうか」

淡々としたくだらない会話だ。

俺は心中で毒を吐きつつ、薄暗い廊下を歩き出した。

その後ろから棗田が上機嫌でついてくる。

「……何だよ、用があるなら他をあたれ」

「いやあ、そんな事言っても肇君以外に今誰もいないし。魔女にはあんまり関わりたくないし」

少し溜めてから、彼女は言う。

「それに、今肇君について行くだけでマックを奢ってもらえるキャンペーン中だし」

「何だよそのキャンペーン、奢らねえよ。マックには行くけど」

「ぶーぶー、けちけちー」

背後で子供の様に喚く棗田を完全に無視して(別に俺は酷くない、寧ろいつも通りだ)、俺は校門をくぐり抜けた。

図書室からじぃっと睨みつけるような視線を送る針木には、あえて触れないでおこう。

この距離でも伝わる迫力だ。正直怖い。

しかし無視をしてしまえば何て事は無い。

棗田と同じ扱いで気付かないふり、及び無視をした。

学校が見えなくなるまで。


08


「そう言えば、体の調子はどうだい?」

「上々。いつも通りだ」

「そうかい。なら良かった。肇くんが実はハーフだということ、くれぐれもバレないようにね。」

「勿論。バレたら一大事だ」

バレてしまえばもうそれは。地下行きだ。

「……ところで棗田、お前何を作ってるんだ?」

「ん? 新しい盗聴器だよ。前に作ったのはどうもすぐにノイズが入ってしまうみたいでね……今回はそういうところを改善して、ひそひそ話まで聞けるようにした。おかげで秘密も私にはばっちり漏れているという事だよ」

最後に可愛らしくしたつもりか、歪んだウインクをかまして、作業に戻った。

末恐ろしい奴だ。

俺は適当に選んだ月見バーガーを頬張る。うん、美味い。

生憎、棗田には何も奢っていない。

散々ねだられはしたが、結局何も奢らずに済んだ。

ねだるのに飽きたんだろう、マックに着く前に止めていた。


棗田琴は、機械の天才だ。

彼女の手にかかれば、どんな機械も材料さえ揃えば一度見ただけで作れてしまうらしい。

但しそれは機械に関してだけだ。

他は何をやらせても駄目だ。

料理も運動も。何もかも、駄目なのだ。

だから棗田は機械だけの天才。

棗田から機械を除いてしまえば彼女に一体何が残ると言うんだろう。

俺だって、そうだ。

俺から図書委員長という立場を除いてしまえば、何の特徴もないただの凡人だ。

強いて言えば、もう既に半分不死身だったりするから、凡人という訳では無いのだけど。

……かなり重要な事をさらっと言ってしまったような気がする。

まあ要するに、俺は不死身のハーフなのだ。

父が不死身で、母は普通の凡人。

父が何故不死身なのか、一度だけ聞いた事があるのだけど、何て言っていたのか今となってはうろ覚えである。

大事な事はすぐに忘れてしまう所は、ハーフと言えど、やはり人間だな、と俺は思う。

正直、ハーフと言っても、普通より傷の治りが早かったりとか寿命が長かったりとか、その程度だ。

それでも、世間にバレてしまえばもう、あっという間に地下行きだったりする訳で。

つまり、凡人でいられなくなる。

それは俺にとってとてもとても、恐ろしい事だった。

長い駄文をお読み頂き、ありがとうございます。

対した文ではありませんが、お楽しみ頂けたら幸いです。


短い後書きとなりましたが、何しろ本編が本編ですので、

あんまりうだうだと長く続けるのも…と思います。

中途半端な切り方ではありますが、次回も何卒、お願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ