3.日常生活
この作品はスカイラークガストで制作されています。
でもサイゼリヤにもたまには行ってみたいです。
3.日常生活
その日の自分はどこか感傷的だった。ちっぽけなことや、一見何の変哲もないささいな物事に、どうしてか意識が向いてしまう。
その平凡な輝きは、心地よい新鮮さを含んでいて…………だが僕は、それに翻弄されないよう淡々とした日常を希望した。
(朱夏って……何者なんだろう…………)
そのガラス窓より向こう側の世界に、彼女はいる。向こう側の世界は夏で、昼休みという時刻柄もあり、どこまでもギラギラとした陽射しに支配されていた。日陰は少なく底面積で、ビル群はアリ塚のように立ち並び、その彼方に見える住宅街を蜃気楼のように遠くした。
樹木はいくつかの公園と、遥か遠い他県の山並みに確認できるだけで…………僕らの街はどこまでも都会的だった。
(両親には疑われている…………残念だけど、今日はあの洋館には行けない…………)
エアコンの冷風に満たされた教室内はまさに快適で、けれど夏とはほど遠い別世界に感じられた。
(…………………………)
僕は淡々と購買パンを5つも食べて、考えごとをしながらその後の授業を過ごした。
物語の世界と違って、本当の学園生活というのは変化がなく、退屈で、イベントに乏しくあまり楽しいものではない。
楽しいドタバタで満たされた生活なんてものは、残念ながら夢物語の上だからこそ成り立つのだ。それを羨望したところで無意味そのもので、自らを不満足にさせるだけだと思う。
現実の教室にはグループごとの対立があり、勉強というシビアな競争があり、生徒も教師も物語ほど理想的な人格者ばかりではない。
「それでよー、親がよー……!」
「あー、わかる、それすごくわかる!」
「だろぉー! だろぉー?! なあ、政もそう思うよな!」
「…………うん」
浅く広い交流関係。クラスメイトとの、どうでもいい会話。どうでもいい話題。どうでもいい趣味や、流行の話。彼らは無邪気で、人の意見に流されやすく、端的に言えば情報に汚染されている。信じたい情報を信じるばかりで、現実を見ようとはしていない。【この嘘ばかりの現実を】
彼女に、朱夏に会いたい。今すぐ学校を早退して、彼女の洋館へと立ち寄るべきだ。だがそれは出来なくて…………だから僕は静かに机へとたたずみ、新鮮だけど味気ない、この奇妙な日常を消化した。
「……」
ふと、あの首吊り死体…………首を吊る影を思い出す。それから校庭の樹木へと視線を落とし、僕は何度もソレの所在を捜し求めることになった。
(やっぱり見間違えだったのかな…………)
あれ以降はもう現れない。
僕はそれが幻覚であることを祈りつつ、しかし心のどこかで何かを期待していた。
朱夏、首を吊る女、両親への疑問。それらは確実な毒となって、古い諏訪部政を汚染していくようだった…………。
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ミラノ風ドリア!!!(貧乏人)