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9.怖ろしい噂話

毎日20時更新です。

9.怖ろしい噂話


「わーー速い速いっ! すごい車っ!」


 明るい声を選んで、僕は助手席で嬉しそうに両手を叩いて見せた。


「これな、チューニングに100万以上かかってるんだぜ、俺たち割の良い商売しててよぉ~~っ、なー、やっちゃん!」

「おうっ、俺らの女になれば一生遊んで暮らせるぜ、マジで! 今度俺の車にも乗せてやるからな!」


 すると男たちは機嫌を良くして、これでもかと僕の気を引こうと語り出す。さっきまであんな状況にあったというのに、車をおだてられただけでこうなのだから…………単純なやつらだ。


「ねーー今からどこいくのー? いつもは女の子…………どこにさらってレイプしてるの?」

「はははっ、怖ええ女! そんなこと聞きてぇのかよ?!」

「もちろん、僕怖い話好きなんだぁ~♪」


 上機嫌な改造車は、騒々しいエンジン音を立てながら夜の市道を疾走する。ゴミゴミとした道を、息をするかのように交通ルールを破り、彼らなりの刹那的な人生を満喫しているようだった。わざわざ窓を全開にして、テクノサウンドを町中にまき散らす。


「実はよ、コイツ貿易会社の息子なんだぜ」

「えっ、うそーっ?! もしかして玉の輿ですかぁ~?」

「おいこら、そーいうことは言うなっ、恥ずかしいだろっ!」


 後部座席のその男[やっちゃん]は、ガラの悪いパーカーと無精ヒゲが目立っていたが、確かによく見れば、腕へと高価な時計が巻き付けられている。


「でな、最近不景気でよぉ、空き倉庫の一つをコイツ、親から借りたのよ。そこに女連れ込んで、場合によっては仲間も呼んで好き放題ってとこよ。そこ海岸の外れだし、誰も気づかないしな。ま、今回はラブホだけどよ」


 彼と比較すれば、運転席の男の方が悪人らしかった。長身にドレッドヘア、パンクな服装、アクセサリーをやたらと身に付けていることもあって、妙なすごみがある。


「えーーーっ、僕そこがいいなぁ……♪ 倉庫で僕を……えへへ、メチャクチャにしてよぉ……っ♪」


 男たちへと向けて、僕はキャミソールの端をずらして見せる。下着は着ていない。


「まっ、マジで?!」

「ヒャハハーッ、OKOK、じゃあいっちゃう?!」

「いっちゃうっ、早くいこっ、もっともっとスピード出しちゃえっ♪!」


 刺激的な部分を見せつけられて、男たちは僕に誘導された。さらに速度を上げて、タバコ臭い車は海岸へと走り抜ける。

 …………そして速度と精神的な高揚もあって、すぐに僕らは海岸の倉庫地帯へとやってきた。


「なぁ~触らせてくれよ、いいだろ、なっ?」

「ダーメっ、着いたらいくらでもさせてあげるから……♪ 我慢した方がもり上がるよきっとっ」


 後部座席の彼は、ついに我慢し切れなくなって、背後から僕の身体を触ろうと必死だった。というより、もう何度か触られてしまっている。


「そうだけどよぉ…………なぁ、もう俺たまんねぇよ、もっと急ごうぜ」

「いや、でもよ、さすがにこのへん明かり少ないし……海岸だしなぁ…………」


 あんなにスピードを出していた車は、ゆっくりと速度を落として目的の倉庫を目指していた。時速にして15kmも出ていない。


「……………………」


 後は何をするべきなのか、僕は驚くほど冷静だった。驚くほど残忍で、驚くほどその無謀な計画に自信を持ってしまっている。

 そう、僕はこれから…………とんでもないことをする。


「ねえ……お兄さんたちに質問なんだけどさ……」

「サツキちゃんは好奇心旺盛だな、んで何だよ?」


 僕は声のトーンを落として、静かに彼らへと質問した。

 名前はサツキという偽名を使った。


「人…………殺したことある…………?」


 運転席の彼へと、僕はニヤリと笑いかける。


「………………あるよ」

「…………あるね」


 彼らは素直だった。挑発的なその質問に、あっさりと乗ってきた。


「それは…………さっきみたいな子…………?」

「…………そうだよ」

「……そうだね、さっきみたいな子だったなぁ」


 その返答に、僕の心はさらに冷たく、鋭敏に張りつめた。恐怖ではなく、怒りでもなく、無感動にも近い奇妙な境地へといたっていた。


「何だ、怖くなったのかよ?」

「ううん、違うよ」

「もう逃げられないぜ」

「ううん、逃げる気なんてないよ」


 僕と男たちは静かに会話する。空気が張りつめているのがわかる。でも彼らに警戒はなかった。僕が小娘に過ぎないからだ。


「…………………………」

「………………」


 車は倉庫街を進む。場所柄もあってステレオはボリュームを大きくしぼり、かすかな音量で急テンポな曲を歌う。

 深い沈黙が訪れて、僕らは静かに暗闇の中を進んでゆく。ゾワゾワと立ち込めてゆく、その限りない不穏の匂いに僕は…………心より愉悦した。


「お兄さん…………」

「なんだ……?」

「あのね…………」

「何だよ…………?」


 どことなく、二人は不安げな表情を浮かべる。そんな中、僕だけが妖しく口元だけを微笑ませ、この怖ろしい時間を満喫していた。


「これから…………」


 次は海岸の角を右折。さもなくば停止。通常の人間なら、それ以外の選択は絶対にしない。でも、でも今の僕は狂気という加護の下にあった。

 車はゆっくりと進む。ゆっくりでなくては、いけないからだ。ゆっくり進まなくては、大変なことになってしまう。


「クス…………」


 僕は思った。


「怖ろしい噂話が生まれるよ」


 コイツらは死ねばいいと。


「何だよ、ビビらせようったって…………」


 助手席から腰を浮かせた。そしてそこから先は簡単だ。アクセルの場所を確認して…………暴力的に、力ずくで、肉体の瞬発力の限りを使い果たして…………。


「バーーンッッッッ!!!!」


 車のアクセルをフルスロットルまで踏み込ませた!! 車のハンドルを奪い、直進状態へと固定させる!! 全ての窓を閉じさせて、それから自分側の助手席だけ窓をあらためて開かせた。


「っっ?!! お、おい止めろバカかお前っっ、おいっっ足を離っっ、うわっうわぁぁぁっっ?!!!」

「………………えっ?」


 運転席の彼は、僕をアクセルからどかせようとしたが、残念ながら全てが遅過ぎた。


『ゴボボボボ…………ッッ』


 改造車は海中へと転落する。内部の空気が浮力を生み出したが、開け放たれていた助手席の窓より、すぐに浸水が始まった。


「なっ…………」

「え……………………?」


 彼ら二人は怒りもせず、ただ唖然とするばかりだった。そうしているだけで、車はさらにさらに海底へと沈んでゆく。


(そうして、彼らは真っ暗闇の世界へと沈んでいきましたとさ、めでたしめでたし)


 助手席からの浸水は水圧が高く、車内が海水が満たされるまでは脱出できない。しかし車内に止まればその浸水でいずれ死ぬ。でも、僕は死なない。この状況を生みだした本人なのだから。

 車のドアは全てロックされており、運転席の彼が機転を利かせない限り脱出は不可能だった。


「何てことするんだよぉぉぉぉっっ?!!!」

「ヤバイヤバイヤバイヤバイ何も見えねぇ冷てぇ、ヤバい沈んでるよ、やっちゃぁんっっ?!!! オボッ、ゴホッ、ひぃっ、水がぁぁぁ!!!」


 やがて車内へと海水が満ちる。水圧が下がり、パニックの彼らを置き去りにして、僕は助手席の窓から車外へと出た。

 防水仕様の学生カバンはちょうど良い浮力となって、僕は暗闇の深い海中から浮上した。ずいぶんと沈んでしまったらしい。水面は遠く、カバンの浮力がなければ上下の感覚は正常に作用しない有様だった。

 ただその浮力と自分自身を信じて、最低限の無理のないばた足で海面を目指す。


 ……………………。

 …………。


 遠い。いくら浮上しても、気体で満たされた世界はやってこない。呼吸が息苦しくなり、しかし僕は無心で泳ぐことだけを考えた。


(これでもし…………もし生き延びたら…………)


 僕は全ての呪縛から解放される。そして朱夏と同じ、闇の住民としての生を得るのだ。


//次ページ

本作はスカイラーク・ガストで制作されています。

だからトイレの水を流せと何度言ったら・・・!!

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