第2話 ボクの身体=でも恋人
あれから病院ではボクの姿をした真清の指示に従って、ことなかれを貫いて来たんだけど……。それ以降が大変でした。
真清が言うには、ボクと真清の魂が入れ替わった状態で、今のボクは真清の身体に入ってるらしい。
「という訳で、ボクとキミは今から入れかわったということを前提に生活してもらうよ? 良い?」
ボクの姿をした真清がボクと同じ仕草をして、ボクと同じような口調でしゃべってる……。正直見るに堪えません。
「うん、わかったよ。真清」
「ダメだよ! まじめにやる気あるの? ほら、『真清』」
「わ、わかったわよ……。その……す、『直』……」
ダメだ……全然真清になり切れない……。それどころか自分(真清の身体だけど)のほっぺたがひくついてるのがわかる。
「これは猛特訓が必要だね……」
暗い笑顔を浮かべたボクの顔が、冷徹な声を上げる。ボクってこんなに怖い表情と声出せたんだね……ぐっすん。
それから真清は厳しかった。うん、厳しかった。
口調から始まって、動きや仕草とあれこれ指示をして……。できなかったら階段落ちた時に擦りむいた膝で正座させられて、長々とお説教と説明の連続……。
服の着方が分からないなんて言ったらボクの身体で実演指導。正直ボクの身体が服を脱ぎ始めた時は「いきなりなにするの!?」って叫んじゃったけど、「実演指導の方が分かりやすいでしょ?」ってさらりと脱いで真清の服どころか下着まで着用……。
真清は良いよ? いつも着てる自分の服なんだから抵抗ないんだろうけどさ……。いや、女モノのパンツをはく時に「ちょっとコレジャマ臭いんだけどさ」って、その……アレ……を見せつけられた時には「これはヒドイ……」ってがっくりとひざまずいたりした……。
正直言って、真清がこんなに熱い人だったなんて知らなかったよ。いつもは物静かでクールビューティーって感じだったのに……。ボクの大好きな真清……どこに行っちゃったの……?
「あの……ま――」
ギン、とにらまれた。そんなに怖い目でにらまないでよ……。
「す、直はどうしてそんなに注文が厳しいの? ボ、私、こんなに一杯注文されてもすぐには……その、できそうにない……わ」
「あのねえ、真清。ボクは『佐々木真清という人間』が大好きなんだよ!」
「は? ええ……?」
いきなり拳を振り上げてびっくりしたけど、気合入った声でなんてこと言うんだよ!
「容姿端麗、清楚可憐でシッカリ者! 評価も高い! そんな佐々木真清が大好きなんだ!」
余りにも激しい剣幕にボク……ついて行けそうにないよ……。
「あの~……え~っと……わんもあぷりーず?」
「ボクは佐々木真清という人間が大好きなんだ!」
「え~っと……じゃあ『神崎直』は?」
「二番目に好き! 今はカワイイ系の容姿だけど、成長したら絶対イケメンになる! 佐々木真清のパートナーとして相応しいじゃない!」
「あ~……えっと……もしかして真清ってナルシストだったの?」
「え……? それは……その……とにかく! 私は佐々木真清がこの世で一番好きなの! それはもう私が磨き上げた宝石とか丹精込めて作った芸術品のように! いえ、もう芸術そのものよ! だから私は佐々木真清の姿でいいかげんなことをして欲しくないの! わかる!? この気持ちがっ!」
あの……ごめんなさい……まったくもって自画自賛を声高々に叫ぶ心理は正直理解に苦しみます。ていうか、今知らされる真実としてこれはどうなの!? 神さま……。あのボクの大好きだった真清が重度のナルシストだったなんてさ~……しくしくしく……。
「聞いてるの? 直!」
「はい~……聞いてますよ~……『直』さん。ちなみにボクが『真清』だって言ったのは真清だよね?」
「うっ……ついつい熱が入って……とにかくそう言うことだからビシビシいくからね?」
目が座ってる真清が部屋のドアを背に仁王立ちをしています。逃げ出そうにも逃げ場はどこにもありません……。
「さあ……覚悟はいいかな?」
「ひぃぃぃぃいいいいいいいいいいいい……――」
真清の部屋に真清の悲痛な叫びが響き渡った……。