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世界中にこの歌を。  作者: 月浦 風
Ⅰ章 出発
8/9



「ガチャッ」


陽輝がスタジオのドアを開け、櫂と凜も続いて入る。

そこには、凜の歌詞ノートを捲る祐斗と、カロリーメイトをかじる純、そしてスマホを睨みつける琉以の姿があった。


「んじゃあ、始めましょっか」


凜は、小走りで祐斗のそばへ行き、椅子に座った。



「北沢君、みんな知り合いなの?」

「ん、まあ、一応」


あまり歯切れのよくない返事に凜は少し戸惑った。


「祐斗、ちょっと手伝って」


陽輝は、手に束ねて持っていたコードを祐斗に渡し、祐斗はそれを設置し始める。


「じゃあ、待ってる間に、俺達の紹介でもしとこうか」


陽輝は、凜と並んで、紹介し始めた。


「一番右の、ちっこい小学生みたいなのが日野原純ひのはらじゅん。あいつ、ああ見えても女だかんね」


さっきは悪かったな……なんて反省しながら、凜は軽く会釈した。


「ちなみに、ベース担当な」


すると陽輝は、純の冷たい態度に首を傾げた。


「純、どうしたんだよ」

「いや、別に」


別に、なんて言いながらも、純は凜と目を合わせようともしない。


「ま、いいや。

右から二番目の奴が、染谷琉以そめやりゅうい

ま、この通り馬鹿な奴だけど、演奏は問題ない。

で、ドラム担当」


「馬鹿な奴ってなんやねん!」

「関西弁!?」


凜が思わずそれを口に出すと、琉以は気にする様子もなく説明を始めた。


「俺、中2まで大阪のばあちゃんの家居たからさ、未だに訛りが残ってんの」


ははっと笑う姿に、凜はようやく納得した。



「で、この見るからにユルユルなこいつは」


真藤櫂しんどうかい

よろしくね。

一応、歌とギターやってます」

「あ、はい。よろしくお願いします」


すると櫂は凛にニコッと微笑んだ。

その表情は、祐斗や涼達とは違う、少年のような、強いて言うなら「可愛い」笑顔だった。

無意識のうちにそんな顔できるなんてすごい……


「ちょ、櫂さん!

凛にそんな顔しないでくださいよ!こいつ免疫ないんで」


祐斗の声に凛はハッとなって我にかえった。


「もー、祐斗は凛ちゃんに厳しいんだなー。

俺妬いちゃうぞおー」

「そんなんじゃないですから!」

「え?

そんなんってどんなの?」


陽輝はそんな祐斗の様子にちょっかいを出してくる。


「陽輝さん!

そろそろ言ってたやつお願いしますっ!」


祐斗は赤くなってそう言い放った。


「へいへい。

ま、今回諸君に緊急集合してもらった理由は、他でもない、この凛ちゃんのためなわけだが」

「えっ?!」


凛は驚いては陽輝、祐斗の順に見つめてしまった。


「まあまあ。

とりあえず、俺らの演奏を聴いてもらいまーす」

「え、あ、はい……」


すると、純が不服そうに手を挙げた。


「ん、どしたの、純ちゃん」

「なんでこいつの為なんかにやんなきゃなんないの」


絶対さっきのこと気にしてる……


凛は縮こまって下を向いた。


「いやー、純が人見知りなのは重々承知してっけどさ、それはねーぞ」

「だってさ、こいつが「面白いやつ」なんだろ?ぜんっぜんそうは見えないけど」



「まあ見てて下さいよ」




祐斗はそう言うと、純に向き直った。


「たしかに、こいつは見た目こんなんだし、ぼそぼそ話すし、いじいじしてるし……」


凛はますます縮こまった。



「けど、面白いやつですよ」



そう言い放つと、お決まりのようにニヤッと笑った。






「俺もそう思うよ。

わかんないけど、なんか持ってそう」


それまでぼーっと話を聞いていた櫂もそう付け加えた。




「ま、とりあえず俺らはいつもみたいに演奏すればいいんじゃん?

だろ?祐斗」


最後に琉以がそう締めた。



「お願いします」







***











「んじゃあ、今回は特別公演っつーことで」




陽輝は純のほうに心配そうに振り向いた。



「わかってるよ。

要はこいつにうちらのを見せればいいんだろ?

楽勝だっつーの」


そう照れくさそうに言い放った。


「純、言ってること違うじゃん」


琉以が笑ってそう言うと、「うっさい!」と罵声が返ってきた。


「よっしゃ。

櫂、あとよろしく」


すると櫂はメンバーに少しずつ指示を出していく。


「んじゃあどーしよ、クラパのAメロ、ツーエイト琉、純、陽で」

「あーあー、おっけー。

じゃ、琉のタイミングで」

「りょーかい」


さっきまであんなにぼーっとしていた櫂だが(今でもゆるゆるとはしてる)、みんなを引っ張ってる。

てっきり陽輝がこのバンドを引っ張っていると思っていた凛は、少しびっくりしたのだった。



祐斗はというと……

なんとなく嬉しそうにみえる。





「タン、タン、タン、タン」





琉以がスティックを鳴らし、凛にとって初めての「生ライブ」が始まったのだった。










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