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「ガチャッ」
陽輝がスタジオのドアを開け、櫂と凜も続いて入る。
そこには、凜の歌詞ノートを捲る祐斗と、カロリーメイトをかじる純、そしてスマホを睨みつける琉以の姿があった。
「んじゃあ、始めましょっか」
凜は、小走りで祐斗のそばへ行き、椅子に座った。
「北沢君、みんな知り合いなの?」
「ん、まあ、一応」
あまり歯切れのよくない返事に凜は少し戸惑った。
「祐斗、ちょっと手伝って」
陽輝は、手に束ねて持っていたコードを祐斗に渡し、祐斗はそれを設置し始める。
「じゃあ、待ってる間に、俺達の紹介でもしとこうか」
陽輝は、凜と並んで、紹介し始めた。
「一番右の、ちっこい小学生みたいなのが日野原純。あいつ、ああ見えても女だかんね」
さっきは悪かったな……なんて反省しながら、凜は軽く会釈した。
「ちなみに、ベース担当な」
すると陽輝は、純の冷たい態度に首を傾げた。
「純、どうしたんだよ」
「いや、別に」
別に、なんて言いながらも、純は凜と目を合わせようともしない。
「ま、いいや。
右から二番目の奴が、染谷琉以。
ま、この通り馬鹿な奴だけど、演奏は問題ない。
で、ドラム担当」
「馬鹿な奴ってなんやねん!」
「関西弁!?」
凜が思わずそれを口に出すと、琉以は気にする様子もなく説明を始めた。
「俺、中2まで大阪のばあちゃんの家居たからさ、未だに訛りが残ってんの」
ははっと笑う姿に、凜はようやく納得した。
「で、この見るからにユルユルなこいつは」
「真藤櫂。
よろしくね。
一応、歌とギターやってます」
「あ、はい。よろしくお願いします」
すると櫂は凛にニコッと微笑んだ。
その表情は、祐斗や涼達とは違う、少年のような、強いて言うなら「可愛い」笑顔だった。
無意識のうちにそんな顔できるなんてすごい……
「ちょ、櫂さん!
凛にそんな顔しないでくださいよ!こいつ免疫ないんで」
祐斗の声に凛はハッとなって我にかえった。
「もー、祐斗は凛ちゃんに厳しいんだなー。
俺妬いちゃうぞおー」
「そんなんじゃないですから!」
「え?
そんなんってどんなの?」
陽輝はそんな祐斗の様子にちょっかいを出してくる。
「陽輝さん!
そろそろ言ってたやつお願いしますっ!」
祐斗は赤くなってそう言い放った。
「へいへい。
ま、今回諸君に緊急集合してもらった理由は、他でもない、この凛ちゃんのためなわけだが」
「えっ?!」
凛は驚いては陽輝、祐斗の順に見つめてしまった。
「まあまあ。
とりあえず、俺らの演奏を聴いてもらいまーす」
「え、あ、はい……」
すると、純が不服そうに手を挙げた。
「ん、どしたの、純ちゃん」
「なんでこいつの為なんかにやんなきゃなんないの」
絶対さっきのこと気にしてる……
凛は縮こまって下を向いた。
「いやー、純が人見知りなのは重々承知してっけどさ、それはねーぞ」
「だってさ、こいつが「面白いやつ」なんだろ?ぜんっぜんそうは見えないけど」
「まあ見てて下さいよ」
祐斗はそう言うと、純に向き直った。
「たしかに、こいつは見た目こんなんだし、ぼそぼそ話すし、いじいじしてるし……」
凛はますます縮こまった。
「けど、面白いやつですよ」
そう言い放つと、お決まりのようにニヤッと笑った。
「俺もそう思うよ。
わかんないけど、なんか持ってそう」
それまでぼーっと話を聞いていた櫂もそう付け加えた。
「ま、とりあえず俺らはいつもみたいに演奏すればいいんじゃん?
だろ?祐斗」
最後に琉以がそう締めた。
「お願いします」
***
「んじゃあ、今回は特別公演っつーことで」
陽輝は純のほうに心配そうに振り向いた。
「わかってるよ。
要はこいつにうちらのを見せればいいんだろ?
楽勝だっつーの」
そう照れくさそうに言い放った。
「純、言ってること違うじゃん」
琉以が笑ってそう言うと、「うっさい!」と罵声が返ってきた。
「よっしゃ。
櫂、あとよろしく」
すると櫂はメンバーに少しずつ指示を出していく。
「んじゃあどーしよ、クラパのAメロ、ツーエイト琉、純、陽で」
「あーあー、おっけー。
じゃ、琉のタイミングで」
「りょーかい」
さっきまであんなにぼーっとしていた櫂だが(今でもゆるゆるとはしてる)、みんなを引っ張ってる。
てっきり陽輝がこのバンドを引っ張っていると思っていた凛は、少しびっくりしたのだった。
祐斗はというと……
なんとなく嬉しそうにみえる。
「タン、タン、タン、タン」
琉以がスティックを鳴らし、凛にとって初めての「生ライブ」が始まったのだった。




