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「お待たせっ」
自転車で慌てて駆けつけると、そこには遠くからでも美形と分かる、目鼻立ちがくっきりとした祐斗がベンチに腰掛けていた。
「いや、呼び出したの俺の方だしね」少し微笑んだその姿は本当に絵に描いたようだった。
「あ、これ。
言ってたノート」
水色の表紙のそれは、凜の趣味で書いていた歌詞帳で、なぜこれを裕斗が必要としているのか、凛にはよく分からなかった。
「ありがとう。
ちょっと見せてね」
裕斗はペラペラとノートを捲っていき、あるページで手を止めた。
「永遠なんて言葉
口には出してみるけれど
私にはまだ分からない______」
「っ!!」
凜が恥ずかしくて目も開けられないでいると、祐斗は声に出すことを止めた。
「あっ、ごめん!!
嫌だった?」
「あ、いや、恥ずかしくて……」
「そう?
これ、良いと思うけど」
またノートに目を落とした祐斗を見て、凜は一番気になっていた事を聞いた。
「どうしてこれを?」
すると祐斗はゆっくりと顔を上げて、何かに気付いたような顔をした。
「ごめん、言ってなかったか。
喉乾いたしさ、スタバ行こう。
奢るしね」
「えっ?
あ、うん……」
あたしで良いの?
そんな考えてが頭よぎるも、凜は素早くそれを振り払った。
駅の近くにあるこの世界的に有名なコーヒーショップは、まだ割と空いていて、凜はカフェラテを、祐斗はアイスコーヒーをそれぞれ注文した。
「それでさっきの事だけど……」
「うん。
実はさ、俺、曲を作ってるんだ」
「曲!?」
「ああ。
作るのが好きで。
小さい頃から割と最近までピアノとか色々習ってたし、独学だけどなんとかなってる。
何曲かは出来たんだけど、木山さんみたいな良い歌詞も思いつかないし。
で、さっきあの歌詞帳をチラッと見て、素直にすごいな、って思って。
そんで、出来た歌を歌ってもらえたら良いな、って。
だから加藤に番号教えてもらって、今にいたるということです」
成る程、麻里ちゃんが犯人か……
何て呑気に考えるも。
「えっ!?
ちょっと待って。
あたしが?
歌うの苦手だし、大体楽譜もろくに読めないし、無理だよ」
「今まで何もやってなかったの!?
てっきり……」
「あ、ギターなら少しだけ…」
「ギター出来るの!?」
急に裕斗の声のトーンが上がり、凛は思わずたじろいだ。
「え、うん。
お父さんがやってたのを小さい頃から見てたら自然に……
すごい昔のことだけど」
「見ただけで出来たの!?
そっか……」
「いや、今はどうか分かんないけど。
それに、歌うのはホントに苦手で……」
「それはない。
保証するから」
「え?」
「ま、いいや。
今から俺んち来ない?
ギター弾かせたげるし」
「えっ!?
い……家?」
「うん。
そうだけど」
祐斗がこういう話には超が付くほど鈍感だという事に気付くのは、まだ少し先の話。
「おじゃましまーす」
「あ、今誰も居ないし気にせず入って」
「そうなんだ。
……すごっ」
外から見た時もすごかったが、中へ入ると、そこはもはや凜の想像を遥かに超えていた。
超豪邸で、玄関は人が10人は入れそうな位の広さで、床は一面大理石。
裕斗に続いて、人が一人寝られそうなほどの幅のある廊下を進んでいくと、幾つかの防音仕様の扉が現れた。
裕斗はそのうちのひとつのドアを開け、中へ入っていく。
凛も続いて入ると、思わず立ち止まってしまった。
そこは凛にとって、今までの生活とはかけ離れた、全く違う場所だった。