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世界中にこの歌を。  作者: 月浦 風
Ⅰ章 出発
2/9


「りーんちゃん♪」


凜こと木山凜(きやまりん)は、急に後ろから誰かに肩を掴まれた。

凜は、小さい頃から物静かな性格で、今でも運動は苦手な方だ。

目が悪く、普段から眼鏡を掛ける姿は、一層凜を目立たせないでいた。


「わっ!

びっくりしたぁ……

何?麻里ちゃん」


麻里こと加藤麻里(かとうまり)は、にこにこしながら凜の『ノート』を覗き込んだ。

麻里は、勉強が出来、運動神経も良く、バスケ部のキャプテンをしている。

そんな二人だが、小学生の時から何故か気が合って、今でも凜の数少ない友達である。


麻里は、休憩中に凜の席までやってきたのだった。


「凜、またそれ?」

「あ、うん。

そうだけど……」


凜が休憩中に書いていたのは、何かの詩のようなものだった。


「空には白い雲

君が笑ってる

何も変わらない日々……」

「だめっ!

読んじゃ……」

「えーっ!?

これすっごくいいのに」

「だって恥ずかしいよ……」


凜は顔を赤くして、ノートを鞄に突っ込んだ。


「麻里ーっ

ちょっと来てー」

「あ、ごめん。

呼ばれてるや……」

「うん、気にしないで。行ってきて」


麻里は声の方へ走っていった。

またしばらくすると、今度は違う声が聞こえてきた。


「すごいね。木山さん」


ギョッとしながらも、声のした方を振り向くと、そこにはクラスメートの男子、北沢祐斗(きたざわゆうと)が居て、凜のノート見ていた。


どうやら知らぬ間に鞄から落ちてしまっていたらしい。


祐斗は、成績は学年トップ、スポーツも何でもこなす、いわゆる優等生で、しかもかなりのイケメン。

そんな事もあってか、好きな女子も多い。

しかし、告白すれば全員玉砕で、現在も記録は更新中だという。

告白する人をことごとく振り続ける理由は、『興味が無い』だそうだが、女子達はそれでも想い続けるというから不思議だ。


「きっ……北沢くんっ!?」

「あ、ごめん。

びっくりした?」

「あ、いや……」


祐斗は何気ない口調で話し始めた。


「それ、すごいね。歌か何かの詩?」

「まあ……」

「そっか。

歌も歌うの?」

「えっ!?

歌は好きだけど、下手だし」

「そうかな、そんな事ないと思うけど」

「えっ?」


そう言い残すとこちらも友達に呼ばれたようで立ち去っていった。


「じゃ、また」

「あ、うん」


本人は気付いているかは知らないが、凜には到底真似出来ないような爽やかな笑顔で走って行った。

凜はしばらくの間は何が起きたか解らず、ただぼーっとしていた。




***




『第一回志望校調査用紙』


そう書かれたプリントを、凜は家の机の上で睨んでいた。

第一志望から第三志望まで、それぞれ私立、公立と細かく書かれたそれは、まだ白紙だった。

それもそのはず、まだ凜には進みたい道なんて物は決まっていなかった。


「はぁーっ……」


溜め息をついても何も変わるはずなく、ただプリントと睨み合いをするだけだった。


好きな事は、歌の詩を考える事。

苦手な事は、運動する事と、歌を歌うこと。


メモ帳にそう書き出しながら、凜は進みたい道、という物をぼんやりと考えていた。


その時、


『♪~』


最近ダウンロードした着信音が鳴った。

非通知と表示され、不審に思いながらも電話に出た。


「もしもし?」

「北沢です。

木山さんですか?」

「あ、はい。木山ですけど……」


まさかの祐斗からの急な電話に驚きながらも、とりあえず話を続けた。


「良かった……

あのさ、さっきのノートもう1回見せてくれないかな」

「えっ!?

恥かしいし、やだよ……」

「そんな事ないって。

理由は後で説明するからさ、児童公園の前で待ってるから。じゃあ」

「え!?

ちょっ、ちょっと!?」


何故あのノートが必要なのか、それに、何故凜の携帯番号を知っているのか不思議に思いながらも、仕方なく外に出る準備を始めた。


準備が済むと、凛は軽く遊びにも行けるような、カジュアルな格好に着替えて家を出た。





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