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LOT・4

警告:LOT4には残酷な描写が含まれています。ご注意ください。

 遺体は、この州の警察機関———州都警察本部(シアーズベル・ポリス)によって回収された。

 州都警察本部に通報したシフォンとミラージオは、重要参考人として事情聴取を受けた。

 遺体の死因は、姉の方が頸部を咬みつかれた事による失血を伴う窒息死で、妹の方は牙で心臓を貫かれた事による心肺機能停止だった。

 シフォンたちの事情聴取を担当した州都警察本部の第三聴取係は、二人の能力では、そんな殺し方はできないと見て、彼女たちが主張した殺人狼の存在の訴えが聞き届けられた。

 州都警察本部の上層部は、この事態に対し、件の殺人狼を指名手配にする事を即座に決定し、その未確認の殺人狼を【双子殺し(ツインズキラー)】と名付け、捜査を開始した。

 情報提供を終えた二人は、その場に居合わせた目撃者として認識された為、実に三時間ぶりに署内の外へと解放された。

 そして、彼女たちはエカテリンブルク伯爵邸に戻って、惨劇の後の夜を過ごし、その翌朝、とある場所へと訪れていた。

 ———そこは、中央区四番地にあるさびれた木造の廃墟の教会だった。

 三角屋根の後方に構えられた一本の尖塔が目印になるその教会は、窓という窓が全て無惨に割れていて、玄関の壊れた扉の上にあるバラ窓も同じ有様だ。

 赤い屋根はくすみ、白い壁は塗装が剥げ落ちて、中も中で割れたガラスと壊れた椅子の山で埋め尽くされていた。まさしく幽霊の住処の様な醜態を晒している。

 しかし、そんな荒れ果てた教会には、一人の少年が住み着いていた。

「オーイ、赤釣り針クーン。いるかーい?」

 廃墟の教会の壊れた玄関扉がコンコンと叩かれる。扉を叩いたのは、ミラージオだった。

 今日の彼は、いつものウイングカラーシャツの首元に、白いタイを結び、白いベストと、黒いスーツ、同色のスラックスを着込んでいた。

 シフォンも一緒にいて、彼女は、当選者発表式典と同じ服装をしていた。

 彼らは、ノックの返事を聞かず、そのまま二人でズカズカと廃墟の中へと入っていった。

「———あ?」

 すると、扉をくぐったシフォンとミラージオの前方に人影があった。

 人影は、木造の教壇に背中を預けながら、教会の床に座っていた。

 左右に飛び跳ねたブロンドの短髪が特徴的な少年だった。

 紫水晶(アメジスト)の瞳を持つ彼は、機嫌の悪そうな表情をしていて、闖入者である二人を忌々しそうに睨んでいる。

 服装は、純白のウイングカラーシャツに身を包み、首元に深紅色のアスコットタイをキツく結び、上着として薄い水色のダブルスーツを、同色のスラックスと一緒に着用していた。着ている者は礼装ではあったが、彼の不機嫌な顔のせいで、柄の悪い喧嘩っ早そうな雰囲気がことさら伝わって来る。

「……なんだ、貴方達ですか。オレの教会に何の用です? お祈りにでも来やがったんですか?」

 今度は、困った様な顔をしながら首を左右に揺らし、両耳の釣り針の形をした赤色のピアスが動いた。

「アイニク、廃墟で祈るシュミは無い。それにしても、いつの間にこの教会はキミの物になったんだい? 買ったの?」

「わざわざ買う必要なんてねえですよ。前の所有者である牧師や聖職者の方々は、ここを放棄していますし、廃墟の為、寄りつく民間人もいない。だから、オレがねぐらとして有効活用しているんです」

「あ、そう。財力的に買うコトも不可能ではないから、奮発したのかと思っちゃったよ」

 そう言うミラージオの顔には、眉間にシワが寄っていた。

 まるで、目の前の男が、大嫌いであるかの様に。

「で、いったい何の用です?」

「ジェニクス・ファイヴ。アナタに【双子殺し】の情報を尋ねに来ました」

 ジェニクスと呼ばれたブロンドの少年は、眉根を寄せる。

【双子殺し】という言葉には、それだけの威力があった。

「ついんずきらー? ……ああ。ああ、ああ。思い出した、思い出した。昨日現れた当選妨害の犯罪者の事ですね。新聞の一面で見ました。当選者が化けやがってるんですって?」

 教壇の上に置かれていた新聞をシフォンとミラージオに持って示す。

「そうです」

 ジェニクスは、ぱっと新聞を床に落とすと、

「情報って……、オレは情報屋や新聞記者(ジヤーナリスト)じゃねえんですけどね」

「……それでも、アナタはその拳で毎日喧嘩に明け暮れていますから、色々な人間(チンピラ)と顔を合わせているでしょう? ……ということは、顔が広いとも置き換えられます」

「そう取りますか……。けどね、オレはただ上下関係を明確にしてるだけですよ。このオレに牙を剥く者は潰し、くだらねぇ笑顔で嘲る者は身の程を分からせる。交流を持った事なんて一度もありやがりませんよ」

 彼は、その過激な言葉を当たり前の様に平然と言った。

 それがジェニクスの生き方なのだろう。

「———従って情報は無い、と言う事ですか?」

「ええ」

「……そうですか。無駄足だったようですね。行きますよ、ミラージオ」

「ああ……。行こうか」

 シフォンとミラージオは、踵を返し、廃墟の教会を立ち去ろうとする。

「……ねえ、君達」

 すると、ジェニクスの呼びかけが、彼女たちの足を止める。

「情報手に入れて、そいつに何しやがんですか? 捕縛? 排除? 脅迫? あるいは、復讐?」

「制裁です」

 シフォンは、何の迷いも無いかの様に、その言葉を堂々と口にした。

「目の前で人が殺されたんです。何もできなかった自分がいるんです。州都警察本部ごときに任せてはおけません。私は私のやり方で、【双子殺し】を罰します。それが、奴を逃がした私の責任です。誰にもその意志を止めさせません」

 ジェニクスは、シフォンの重い決意に、目を見張った。

「ジェニクス・ファイヴ。アナタもできれば、【双子殺し】制裁に協力して欲しいのですが……」

 すると、ジェニクスは嘲笑う様な笑顔を向けると、

「……キョウリョク? ははは、冗談を言っちゃいけねえですよ。確かにオレはケンカ好きですが、殺人犯と闘う程の気構えはありやがりません。オレが得意としてるのは、ケンカであり、殺し合いではないですから。それにそもそも、貴女達に協力する理由が無い」

「そうですか。まあ無理強いはしません。私が決めた事ですから。それでは」

 シフォンとミラージオは、今度こそ廃墟の教会から立ち去った。

 二人は、廃墟の玄関前に停められていた黒塗りの馬車の客車へと乗り込み、対面する様に座席に座った。しかし、馬車は発進しなかった。

「さて、次はどこに行きましょうか……」

 ちなみに、今日は休日では無い。シフォンたちは授業をサボっている。

「双子殺し……」

 シフォンは、青いクッションに置かれていた今日の朝刊を忌々しそうに見つめた。


『当選の妨害者・出現。

 昨日の新月の夜、

 エカテリンブルク州、中央区五十番地の路地裏での当選報告中に、

 謎の狼が現れ、当選の途中だった双子を咬み殺すという事件が発生。

 この狼は、偶然事件を目撃した鎖姫様の証言から、

 人語を話し、能力を使用していた事が分かっており、

 州都警察本部は、当選者が変身した獣であると見て、

 州全体にこの狼の指名手配書を配布し、

 更なる目撃情報を募る模様。

 特徴は、

 通常の狼ではありえない暗赤色の体毛。青色の瞳。

 見かけ次第、州都警察本部にご一報を———』


「この双子殺しは、当選の時を狙って、コトを起こした。……ってコトは、次に現れるのは、次の新月の可能性が高い……。どうする、シフォン? 次の新月までヤツの出現を待つなんて悠長な事言っていられないぞ」

「分かっています」

 すると、シフォンは、座席の隅に置かれていた小さい紙袋を手に取り、中身を出した。

 中には、白い表紙のハードカバーが一冊入っていた。

「ん?」

「ミラ、こっちの席に来てください」

 ミラージオは、言われた通りに、シフォンの右隣の座席に移った。

「なんだい、ソレは?」

「当選者の名簿(リスト)です」

 シフォンが持っていたのは、一週間単位でこの国が発行している全当選者の詳細が記されたデータブックだった。

「私もまだ読んでいないんですが、この中に双子殺しがいるかもしれません」

「コレがあったら、わざわざジェニクスの廃墟教会に来なくても……」

「なかったんですよ。これは、今さっき———ジェニクスと話している時に、御者さんに買って来てもらったばかりの物なんですよ。それより前は、本屋は開いていませんでしたから、先に読んでおくのは無理だったんです」

「なるほど」

 横から本を見たミラージオは、シフォンと一緒に、本に載っている全部の州の中からこの州・エカテリンブルクに住んでいる、または、滞在している当選者を選び出す。

 ご丁寧にも、名簿の中の当選者は、どうやら州ごとにカテゴライズされている様だ。

 よって、探す手間は大幅に省けるだろう。

 ちなみに、この国内の州は、全部で五十ある。

「この名簿によると、この州にいる当選者は、全部で二十六人」

「ボクとキミを外すから、双子殺し候補は、その内の二十四人か……」

「待ってください。ジェニクスも違うんじゃないんですか?」

「ジェニクスか……。たしかにアイツが得意とする能力は、動物に変身するようなシロモノじゃないね。ここにもあの能力が書いてあるし、それに変身能力は体得が難しいって言うし……」

「ええ。ですから、ジェニクスは×で」

 ミラージオは、シフォンの言葉に頷くと、他の当選者のリストを見る。

「この中で変身能力を得意とする当選者……か」

 彼は、名簿の中の該当者を目で追った。

「え?」

「……どういうことですかね、これは」

 シフォンの表情と言葉が、より一層真剣な物に変わる。

「……なんだコレ……一人もいない?」

 ミラージオは目を見開いて驚いた様な顔をしながら、言葉を紡いだ。

 当選者名簿のエカテリンブルク州の欄には、変身を得意とする当選者は、ただの一人も載っていなかった。

「どういうコトだ……? 変身の当選者は、この州にはいない?」

 ミラージオの頭の中は、疑問で埋め尽くされているだろう。

 すると、

「———ミラージオ。名簿に載っている当選者は、国や州に対して当選した事を報せた人っていう事は知っていますね?」

 シフォンが、名簿をじーっと見つめながら、ミラージオに尋ねた。

「ん? ああ、知ってるよ」

「でしたら、当選した事を報せていない当選者がいたと仮定すれば、名簿にも載るはずがないとは思いませんか?」

「! ……まあ、それはそうだけど、もしそんなイレギュラーがいたとしたら……」

「これで探しても無意味でしょうね」

 シフォンは、本を閉じて、元々入っていた紙袋の中へとその本を戻した。

「…………名簿外の当選者か」

「一応、州にいる当選者の情報は暗記できました。これから役立つかもしれませんしね」

「で、どうするの? 名簿外の当選者なんて見当がつかないだろう?」

「ええ。とりあえずそっちは置いといて、他の情報源を当たってみましょう」

「情報源?」

 するとシフォンは、御者の中年男性に目的地を言い渡し、黒塗りの馬車が発進した。



「———で、わたしを尋ねて来たの?」

 シフォンが提案した目的地は、アレイダが住んでいるブラックミント伯の別邸だった。

 快く邸宅の中に通されたシフォンとミラージオは、今、アレイダの部屋の中にいる。

 勿論、部屋の主・アレイダも一緒だ。

 彼女の部屋は、広間の様に大きく、部屋の雰囲気を創り出すカーテンや家具、壁紙たちの色が、鮮やかな赤に染め上げられていた。女の子が活用するであろうクローゼットやドレッサーなどの調度品は、寝室の方に置かれている様で、この部屋にあるのはヒッコリーを主な材料にした学習机・椅子・ソファ・本棚くらいだった。

 この部屋で赤色以外に目立つのは本棚の量で、まるで図書館の様にたくさん設えられていて、その数は十架。部屋の壁に沿って置かれ、赤・青・白・黒・深緑の表紙の恋愛小説本たちが隙間無くカラフルに収められているが見える。その蔵書量は、彼女が言っていた『個人図書館』の一角を思わせた。

 アレイダは、その部屋の中央にある赤いソファで足を組みながら、シフォンの言葉を待った。

 事情は、もう話してある様だ。

「アレイダ、アナタの情報収集能力は舌を巻くモノがあります。アナタなら州都警察本部の捜査状況や、双子殺しの事も調べられるんじゃないかと思って」

 シフォンは、立ったままアレイダを真っ正面から見据えて、協力を仰いだ。

 アレイダには、恋愛小説愛好者以外に、情報収集に強い側面がある。

 彼女が張り巡らせている情報網は、この州都全体に及んでいて、その情報源は、彼女が州都全体にバラ撒いた諜報役の使用人たちによるものだった。主に、彼らは、国や州、州都警察本部などの行政機関に関連した場所を担当している。

 しかし、その諜報は、あくまで謀反・賄賂・汚職・改竄などの違法手段を摘発するために行われていて、大本を辿れば、この州の領主/シフォンの父親による要請だった。

 その為、その諜報を統括しているアレイダの頭の中には、この州の機密情報が漏れている訳だが、彼女の人格と性格的に見て、それを反体制組織に暴露(リーク)する様な事は無いと信頼されている。そもそも、貴族の令嬢である彼女が、そんな組織に与する理由が見当たらない。

「そうなの。まあ、あなたもいずれは伯爵の地位を継承するんだから、知っておく権利はあるわね。じゃあ、一つ朗報があるわ」

 アレイダが、人差し指を一本立てながら、悠々と言った。

「何ですか?」

「わたしはもう双子殺しについて調べているのよ」

「!」

「……さっすがアレイダだよねー。手を出すのが早い、早いー」

 学院の校門前で響いた声が聞こえた。

 すると、ピンク髪の男装少女・ラヴィが突然どこからか現れた。

 当選協会の様な、神出鬼没の登場だった。

 しかし、三人は彼女の唐突な出現に対して慣れているのか、驚いた様子も無く、

「ラヴィ。キミも来てたのか」

「うん。舞踏会の飾り付けの相談にねー」

「舞踏会って……予定通り、開催するんですか?」

「するよー。女大公様は、双子殺し事件のことを気にして、欠席するみたいだけどねー」

 双子殺し事件の情報は、この国の中心地にまで伝播しているらしい。

 女大公の欠席は、今回の事件がどれだけ危険視されている事を量るいい目安だった。

「賢明な判断ですね」

「まぁ、それはそれで置いといてさ……。アレイダの話に戻ろうよ」

 ミラージオが、シフォンとラヴィニアに注意した。

「……話を再開していいかしら?」

「すっ、すみません。お願いします」

 アレイダは、シフォンと同じく当選者名簿を調べていて、変身を得意とする当選者が州内に名簿上いない事を知っていた。

「ええ、それで名簿に載っていない当選者が、双子殺しではないかと思いました」

 シフォンは、自分の推察をアレイダに伝える。

「でも、そういう反則をしている人って、徹底的に当選者である事を隠そうとするだろうから、見つけづらいのよね。まして犯罪者ならなおの事」

「キミの情報網でも見つからないの?」

 ミラージオのその質問に対して、アレイダは腕を組んで、うーんと唸った。

「一応、そういう人たちを二、三人は見つけたのよ。でも、変身能力は持ち合わせてないみたい」

「州都警察本部の捜査状況は、どうなんですか?」

「足踏みって所ね。一応、目撃情報は挙がっているみたいだけど、これ、あの新月の夜に見たってモノばっかりみたい」

「あんまりいい情報は無いってことですか?」

「逃げる双子殺しが、四十九番地のある場所で最後に確認されてるわ。近くに狼の巣があるのかもしれないわね。まあでも州都警察本部が捜索してるけど、さっきも言った通り、足踏み状態でいい成果はないみたい」

「四十九番地……。双子が殺されたのは五十番地の端っこだから、その目撃証言は信憑性があるね」

 すると、シフォンは、情報を得られた事に対する喜びを噛み締める様に、凛々しく笑った。

「ミラージオ」

「ハイハイ。行くんだよね? 鎖姫様」

 ミラージオは、ポケットから出したボールチョコを銀紙から取り出し、口に放り込んだ。

「ええ」

 アレイダは立ち上がって、赤の学習机の引き出しから折り畳まれた羊皮紙を取り出すと、それをシフォンに渡した。

「これ、その場所の地図よ」

「ありがとうございます、アレイダ」

 シフォンは、その羊皮紙を受け取り、サマーコートのポケットにしまう。

「さてさてー、じゃー、ぼくも帰ろーかなー」

「いいんですか? アレイダと相談しなくて」

「大丈夫。大丈夫。飾り付けの相談は、もう終わってるから、問題無いよー」

 ラヴィニアは、いつも通りの明るい笑顔で、その質問に答えた。

「そうですか。じゃあ、そこまで一緒に行きましょうか」

「うん。じゃーねー、アレイダー。相談受けてくれてありがとー」

「私とミラージオもこれでお暇します」

「またね、アレイダ。明日の学院には行くから」

「その方がいいわよ。サボり続けてたら、いくらなんでもヤバいから」

 三人は、アレイダの部屋を後にして、南にある玄関門へと向かった。

 半円のアーチを描く玄関門の前には、シフォンとミラージオが乗って来た馬車が停められていた。しかし、ラヴィニアが乗って来たと思しき馬車が見つからない。

「ぼくの馬車は、厩舎の方に停めてあるから、ここでさよならだねー。アレイダの言う通り、明日は学院に出た方がいいよー」

「ええ。さすがに明日は登校しますよ」

「まー、先生が怒ってる様を見るのも、それはそれで面白いけどねー」

 あの強面教師の憤怒を、『面白い』の一言で片付ける彼女は、ある意味大物かもしれない。

「まあでも、赤釣り針クンよりはマシだろ。アイツは、単位がヤバイ時しか、表に顔を出さないから」

 ミラージオは、馬車の客車に乗り込みながら、そう言った。

「ジェニーくんは仕方が無いよー。もともと集団生活が苦手だからねー。学院に在籍してるのも奇跡に近いしー。簡単に言えば、学院というシステムが嫌いなのさー」

「彼は彼で、色々大変なんでしょうね。嫌いな学院に在籍し続けているんですから」

「そーだねー。まー、このことは、あんまり深く考えない方がいいけどねー。どーにもならないしー。個人の協調性の問題だからー」

 ラヴィニアは、「それじゃーね」と言うと、西にある木造の厩舎の方へと駆けて行った。

「ラヴィって、割とドライですね」

「だけど、言ってることは正しいよ。生徒であるボクが言えたことじゃないけど、学院だけが全てじゃないしね」

 シフォンも、客車の中に設えられているクッションの利いた青い座席に乗り込む。

 発車した馬車は、四十九番地に向かう為、ひとまず、三番地を経由する事にした。

 中央区三番地は、都市開発が頓挫された約一平方キロメートルに及ぶ荒野で、州都の中でも荒野があるのは、この場所くらいだ。

 この荒野の面積の式は、シフォンたちが通う学院の初等部二年生が寝ぼけた状態で解けるほど単純な物で、縦・約一キロメートル、横・約一キロメートルから成っている。

 漠々とした石と砂の荒れ地が広がっていて、所々に存在する枯れた植物たちが、寝癖の様に手入れされずに生え散らかっているのが見えた。

 荒れ地の規模は、三番地の七割に及び、残りの三割は、建設が取り止めになって、無様に残っている点在した鉄骨の家屋たちが埋めている。

 頓挫の理由は、構想していた計画費の超過にあった。

 予定を軽く超えてしまう予想外の費用の多さから、州側が開発計画を放棄し、元々の枯れ果てた土地のまま、今に至る。

 昼間は、薄茶色に染まる大地は、夕暮れに差しかかった影響で、砂の一粒一粒が夕陽のオレンジ色の光を乱反射して、わずかばかりの煌めきを創り上げていた。

 その大地を一台の二頭立て馬車が走る。黒塗りの客車が夕陽の光を吸収していた。

 客車の中でミラージオは、スーツの内ポケットから、銀紙に包まれた薄い板状の物を取り出した。包みから出て来たのは、ピンク色のチョコレートで、その香りから苺味と思われる。

「話はズレますけど、ミラージオは、週末の舞踏会、このまま出席するんですか?」

 シフォンからの問いに、彼は噛んでいた口の中のストロベリーチョコを飲み込むと、

「ん? ああ、出席するよ。キミのドレス姿も拝めるからね」

「なッ! ……か、からかわないでください……。無駄口利いてると、アナタにもドレスを着せますよ」

「あはは。分かりやすいね。ドレスは死んでも嫌だから、着させられたら引き裂くけど」

「分かりやすいって……、そんなに簡単に分かられるのも心外です」

「ところで、キミはもう舞踏会当日に向けて、用意はしてるの?」

 ミラージオは、ストロベリーチョコを食べ終え、銀紙を両手の握力でグシャグシャに纏める。

「ええ、まあ。装飾品(アクセサリー)は大方決めてますし、発注したイブニングドレスも舞踏会の時間までには、余裕で間に合います。ですが、ドレスって私、あんまり好きじゃないんですよね。動き辛くて」

「でも出席するんだよね?」

「舞踏会で双子殺しの情報を拾えるかもしれませんからね。それに、本人たちの前では気恥ずかしくて言えませんが、他でもないアレイダとラヴィの招待ですからね。衣服のわずらわしさなんて二の次です」

「友達想いだねぇ、鎖姫様は」

 するとミラージオの表情が、穏やかな物から、憂いを帯びた物へと変わる。

「シフォン」

 自分の名を聞いた彼女は、その顔を見ていた。

 彼女は、その表情を不審がったのか、眉根を寄せた。

「キミはさ、殺人鬼というモノが怖くはないのかい?」

 まるで時が止まった様な沈黙が、瞬間的に走り抜けて行った。

 シフォンの顔には、予想外の発言で戸惑ったのか、目を点にした驚きの表情を浮かべている。

「……なん、ですか、急に」

 シフォンは、震える声音と唇で、言葉を紡ぎ出す。

「キミは是が非でも双子殺しという殺人鬼を追おうとしている。目の前で人が死んだ。その時にチカラがあるのに何もできなかった自分が許せないから、死んだモノの為に立ち上がろうとしている」

「………………」

「協力をしているボクが言うのもなんだけど、無理をしなくていいんだよ。相手は人殺しだ。キミが無理に命をかける必要は無い」

 ミラージオの言葉が終わる。

 言葉の先のシフォンは、目を閉じた。

 それは数秒の事で、彼女は考えを纏め上げた様に目を開けて、落ち着いた表情で言う。

「私は———」

 その瞬間、言葉に割り込む様に、馬車全体を激しい振動が駆け抜けた。

「!!!」

 二人の体は、青の座席の下に成す術無く崩れ落ちた。対面していたにも関わらず、頭同士が衝突しなかったのが幸いだった。

 馬車は、急激に速度を増し、安全運転から、不規則で乱暴な運転に成り変わった。

「……なッ、何が起こったって言うんだ……。この衝撃は一体……?」

 座席の下でうめく様に言ったミラージオは、目を見開きながら、口を開けっ放しにしている。

 シフォンは、床を這いずり、自分の近くにある出入り口の窓から外を確認した。

「何事ですかッ!」

「シフォン様! ミラージオ様! 緊急事態です! 一刻も早く馬車から飛び降りてください! 馬が燃えております!」

 御者の言う通り、二頭立ての馬車の左側の一頭が激しい嘶きを上げて炎上していた。

「なんですって……」

 シフォンは、余りの状況に目を丸くした。

 すると、ミラージオは御者の言葉を聞いた途端、素早くシフォンの手を引き、覆う様に彼女

を抱えて、座席から土砂の地面へ勢い良く飛び降りた。

 重い砂が勢い良く落ちた様な音がして、シフォンとミラージオの体は地面を転がる。

「ぐあぁ……がぁぁああああああああ……!」

 バランスを崩した車体は、二頭の馬と一緒に横転した。

 木材が割れる凄まじい破壊の音が、夕陽の世界に響く。

 飛び降りた二人の元へ横転しなかったのは、不幸中の幸いだろう。

 御者もなんとか脱出したらしく、地面に倒れていた。

 地面に落ちたミラージオは、転がり終えると、守る様に抱えていたシフォンを自分の胸の中から解放し、よろよろと立ち上がる。

「だ、大丈夫ですか……ミラージオ……」

 シフォンは、すぐさまよろける恩人の手を支え、立ち上がるのを手伝う。

「キミは……大丈夫か、シフォン」

「何を言ってるんですかッ! 私よりもアナタの方が……!」

「キミが無事ならいいんだ。……シフォン、アイツが来ているぞ」

 ミラージオの視線の先を見ると、横転した馬車の車体の上に一匹の狼が立ち尽くしていた。

 犬に似た顔、よく引き締まった四本の脚、胴長の体格、毛むくじゃらの太い尻尾。

 燃える馬から迸る紅光の束が、夕陽のオレンジに溶け込みながら、その狼の姿を照らし出している。

「双子殺し……」

 彼女の声に呼応するかの様に、双子殺しは、威嚇の咆哮を上げる。

 その叫びが、夕陽のフィールドを駆け抜けた。

 シフォンの足が、眼前の獣の元へと歩き出す。

「シフォンッ! シフォン、相手は殺人鬼だぞ!」

 シフォンの足は、止まらない。

「ミラージオ、私は行きます」

 シフォンの顔は、凛々しく、揺るぎなかった。

「無理はしていません。ジェニクスの廃墟教会で言った通り、これは私の意志です。ここでヤツに立ち向かわなかったら、あの双子の様な悲劇が繰り返されるんです。ですから今回の私は怖れません。怖れたら、前と同じ事になってしまう気がするから」

「……シフォン……」

「アナタは、御者の方の保護をお願いします」

 シフォンは、ただ前を向き、振り返らない。

「もう殺させません。ここで、この私が諦めない限り」

「オマエ……」

 ミラージオは、彼女の言葉に応える様に、倒れ込んでいる御者の元に近寄る。

「前回は、当選協会に守ってもらった哀れな仔羊が、今度は牙を剥くか」

「仔羊だって、立ち向かう事はできます」

 シフォンの言葉に対して、双子殺しは、自身の瞳を刃物の様に鋭く細くすると、警戒の無い言葉で軽く言った。

「良い眼だ」

 夕陽の世界にくぐもった重い声が響き、

「さぁ、羊は狼に勝てるかな?」

 そして、シフォンと双子殺しは、敵対する相手の元へと勢い良く駆け出した。

「【空鎖迷獄】施錠」

 シフォンがその言葉を放つ。

 金属の錠が閉じられた様な音が、両者の四方から突然響き渡った。

 二日前の当選者発表式典でも同様の事が起こっている。

 あの時のシフォンは、『施錠』ではなく、『解錠』と言っていたが。

「これでアナタは、ここから出られません」

 ーーー【空鎖迷獄】

 それは、当選者であるシフォン・エカテリンブルクのみが使用する事ができる能力である。

 その能力は、彼女が指定する、彼女を中心とした東西南北———四方の空間を、能力でできた不可視の鎖で縛る事により、対象の人物の空間内への入出を制限するというものである。

 つまり、当選者発表式典会場でこの能力が使われたのは、不審人物の逃亡を妨害するのに最適だったからだ。 

 勿論、普通の鎖で、そんな芸当はできない。

 だが、彼女が創り出す鎖は、炎・水・雷・風・光・音などの通常では拘束できない存在を自在に縛り、封じる事ができる能力を持つ為、空間を縛る事も可能なのだ。

 それ故の、【鎖姫】と言う二つ名だ。

「鎖姫の空間縛りか……」

 双子殺しは、恐るべき速度で肉薄し、シフォンの胴体へと顎門を開け、犬歯を剥き出す。

 捕食者の牙の打ち合う音が、空鎖迷獄の中を、小気味良く駆け抜ける。

 しかし、シフォンは、間一髪、正面からの攻撃を左方向へと跳んで避けた。

「まずは、その危険な口、縛り上げます」

 その言葉の瞬間、双子殺しの上顎と下顎が、鉄製の糸を縫い付けられた様に、牙同士の衝突音を鳴らして、勢い良く閉じられた。

「…………」

 だが、

 不思議な事に、双子殺しの表情には、動揺の感情というものが窺えなかった。

 まるで、何も効いていない様に、平然としながら、シフォンの両の瞳へと右前脚の全鉤爪を疾走させた。

「!?」

 右の上段からの一撃が、シフォンの両目に差し迫る。

 シフォンは、素早く反射を利かせ、顔面を仰け反らす行動に移り、爪撃を最小限に受け流そうとした。

 しかし、受け流しきれない。

「く……あッ……」

 彼女の額に擦り傷が生まれ、彼女の顔が引きつり歪む。

 血が白肌の額を伝うが、傷は浅かったらしく、失血死するほどの出血量ではなかった。

「このッ!」

 額の上に、双子殺しの右前脚がかざされている中、彼女は双子殺しの腹に右拳の一撃を見舞う。

 攻撃の勢いで、双子殺しの体が体勢を崩し、後方へと吹き飛んだ。

 双子殺しの背中は、地面を激しく擦り、硬い地面へと投げ出される。

 シフォンは、この機会を逃さなかった。

 瞼まで流れる血を右拳で拭い、双子殺しの元へと地面を蹴り、駆けつける。

「この大地に、繋ぎ止めます」

 シフォンは、その言葉と一緒に、双子殺しの額を右の掌底で地面へと叩き付ける。

 その攻撃とは別に、金属同士が擦れ合う様な音が重く鳴り響いた。

 シフォンの能力が発動した様だ。

 上手く発動すれば、双子殺しの全身は、不可視の鎖でこの広大な荒れ地に繋ぎ止められる。

 しかし、

「———歯牙にもかけられんな」

 双子殺しの言葉が、冷たく響いた。

「…………!」

 シフォンの右肩を、双子殺しの鉤爪が擦り抜ける。

 右肩のサマーコートを、下のベストとカッターシャツごと破き、彼女の右肩の白肌が、流血と一緒に露出する。

 シフォンは、その勢いに乗って、大きく後方に跳び、距離を取った。

「……なぜ喋れるんですか? なぜ動けるんですか? 私の縛撃は発動していたはず……」

「簡単な事だ。【能力格差】が生じたのだよ。知らんか? ようするに、貴様程度の能力では、私を縛りきれないという事だ。運良く能力が私に効いたとしても、私の能力によって数秒の後に掻き消される」

「【能力格差】……?」

 シフォンは、その言葉に眉をひそめた。当選者である彼女にとっても未知の言葉の様だ。

「……本当に知らん様だな。鎖姫と言う当選者はここまで無知なものなのか……。まあいい。知らんのなら知っておけ。恥をかきたくなければな」

【能力格差】とは、双子殺しの言う通り、当選者の実力によって、行使する能力の効果が変わってくる当選関連の絶対的な差別だ。

 学者たちによれば、その差別の法則はかの当選協会が定めているらしい。

 主にその【能力格差】が顕著に現れるのは、能力の劣った当選者が、能力の優れた当選者と戦闘を行った場合が多い。

 能力の優れた当選者には、能力の劣った当選者の攻撃系能力は効かず。防御系能力は効かず。補助系能力は言わずもがな。仮に効いたとしても、数秒〜数十秒の後に、その効力を失う。

 劣った当選者は、優れた当選者から、確実に差をつけられる。

 だから、【能力格差】なのだ。

「……能力が効かない? 無効化系の当選者でもないはずなのに、そんなバカな……」

「現実だ。自身の低能を理解して、大人しく諦めろ。私の前では、貴様の鎖姫としての実力は発揮できない」

 シフォンは、虚を衝かれた様な顔をして、双子殺しの姿を見ていた。

「……怖れたか? 勝てないと思ったか? この場で対立したのは間違いだったと思ったか? もっと苦悩しろ。そうすれば待っているのは、何もない闇色の自滅の道だけだ」

 四本の脚の裏で地面を強く蹴り、双子殺しは再度シフォンの所へと勢い良く駆けた。

 時速七十キロを叩き出す狼の走速が、彼女との距離を一気に詰める。

 シフォンの両足は、自身の右へと大きく飛び退るが、双子殺しがさっきまでシフォンがいた位置に素早く着地し、すぐさま体を左に捩り、地面を跳ね、シフォンの体へと残酷に牙を剥く。

 標的にされた体の箇所は、彼女の左足だった。

「ぐ……あ……ああああああああああああああ!」

 容赦無く四本の犬歯が、彼女の左足の太腿の部分に突き刺さり、シフォンの悲鳴が広大な荒野の中に響き渡る。

 その悲痛な絶叫が、御者を介抱していたミラージオの顔を振り向かせた。

「……シフォン……」

 眉を吊り上げたミラージオは、御者の元から離れ、遠くで闘っている叫びの主の元へと走り出す。

「なんでだ……。いくら御者が傷ついているからって……、なんでボクは、始めからシフォンと一緒に闘わなかったんだ……!」

 シフォンからの悲鳴は止まない。

 それを危惧したのか、ミラージオの足取りは次第に速くなった。

 だが、まだ彼女の所までは遠い。

 シフォンと双子殺しとの距離は、十九メートルはあった。

 にもかからず。

「———双子殺し。オマエの存在が邪魔だ」

 その瞬間、ミラージオは、右腕に作った手刀を高速で、遠くにいる双子殺しの元へと垂直に振り抜いた。

 空気を斬り裂く様な音が響くと、オレンジがかった地面が不可視の斬撃により、一直線の傷口をつけられる。恐ろしい事に、その斬撃は十九メートル離れた双子殺しの背中へと、地面の上を裂きながら瞬速で疾走し、一気に激突した。

「——————ッ!?」

 衝撃によって、双子殺しの体が強く押し出される。

 その勢いで、地に着いた脚が激しく擦れて、僅かな砂煙を上げた。

 咬みつかれていたシフォンは、ミラージオの加勢のお陰で双子殺しの牙から解放されたが、彼女も衝撃の巻き添えを喰らって、双子殺しから五メートル北に離れた場所で砂だらけになって倒れている。

「すまない……、シフォン」

 ミラージオの駆ける足は、止まらない。

 彼の姿を、立ち上がった双子殺しが忌々しそうに見据えた。

「…………ミラージオ・トリエステ……!」

 しかし、ミラージオが刻んだはずの斬撃は、双子殺しの背中に傷跡を残さなかった。

「……斬撃が効いていないだと?」

 シフォンたちが遠方にいた為、能力格差の話を聞いていなかったミラージオは、その状況に対して、困惑の表情を見せながら、呟いた。

「【幽剣(カラレスブレイド)】……。奴の斬撃の斬れ味が、ここまで問題外だとはな。しかし、斬撃による衝撃は生じている。そこだけは注意しておくか……」

 すると、砂だらけのまま倒れていたシフォンが、よろよろと立ち上がる。

「……グッ……ゥゥゥ」

 彼女は、自身の歯を強く強く噛み締めながら、呻き声を響かせた。

 おそらく、先程、咬まれた太腿の部分が疼くのだろう。不幸中の幸いは、穴の空いた傷口が、図らずも砂によって止血されているという事だ。

 立ち上がる事で、太腿の痛みは倍増するはずだが、彼女は南にいる敵対相手を睨んだまま、砂の地面を踏む。

「貴族の令嬢にしては、闘いへの執着心が半端ではないな。しかし、いいのか? このまま闘えば、あの当選者を悲しませる結果になるかもしれないぞ?」

 双子殺しは、視線の先のシフォンを睨み返したまま、余裕のある調子で告げる。

「心配は感謝しましょう。ですが、私は対峙します。だからと言って、ミラージオを悲しませたりもしない」

「強気だな。私相手に死を考えていないという事か。愚かな。能力格差の説明をちゃんと聞いていなかったのか?」

「アナタに能力が効かないのは、しっかり確認しましたよ。ですが、他にもやり様はあります」

 すると、二人が話している間に、ミラージオは双子殺しのすぐ近くまで接近して来ていた。

「シフォン、無事か!」

「御者の方の保護は、どうしたんですか!」

 シフォンが、加勢に来てくれたミラージオに向かって、嬉しさと緊張の交じる表情で尋ねた。

 言葉の相手のミラージオは、両腕の手刀を地面に対して水平に交差すると、間近に構える双子殺しの胸の高さへと高速で振り抜いた。

「御者は、応急処置済みだ。大事にはならないはずさ!」

 空気を斬り裂く様な鋭い斬撃音が、三番地の荒野を駆け抜けた。

 しかし、

 双子殺しは、先の斬撃を知っている為か、迎撃の態勢を何一つ取らなかった。

 肉を激しく叩く音が響き渡る。ミラージオの不可視の斬撃が届いた様だ。

 暗赤色の狼が、その衝撃によって大きく後退する。

 だが、能力格差の影響で、双子殺しの体は斬り裂かれない。

「…………なんなんだ、シフォン? アイツ、ボクの不可視の斬撃を浴びて、傷一つ負ってないぞ。どういうコトだ?」

「奴が言うには、能力格差と言うものが生じているらしいです。詳しい説明は後にしますが、見ての通り、能力が効かないんです。斬撃と同時に生まれる衝撃は効いているみたいですが……」

「……へぇ。それは都合がイイな。斬撃が無効で、衝撃が有効なら、殺さずに倒せるかもしれないってコトだろう? ボクとしてはソッチの方がありがたい」

 ミラージオがそう言い終わると、シフォンは目の前の敵に向き直って———

「双子殺し」

 ———殺人鬼としての、その名前を呼んだ。

「アナタ、昨日の新月の夜、当選協会に向かって『噛み殺した双子は邪魔な存在だった』と言っていましたね。この一方的で憎たらしい台詞には、何か深い意味があるんですか?」

「私に質問か? 低能の鎖姫。無駄だぞ。私がその質問に対して、事実を言うか、法螺を吹くかは、貴様たちには看破できないだろう?」

 シフォンは、その言葉に表情を強張らせた。双子殺しの言葉は的を射ている。

「仮に、双子を殺した理由の根本を知った所で、貴様たちには何もできんよ。何もな。それどころか理由を知れば、貴様たちを突き動かす決意は砂の城の様に容易く崩れ落ち、貴様たちが信じる行動は断頭台にかけられた死刑囚の様に果てしなき怖れを伴う」

「……勝手に決めないでくださいよ。『可能(できる)』も『不可能(できない)』もやってみて初めて分かる事です。

それに理由を聞いても、私の決意も行動も揺るぎません」

 双子殺しの決めつけた様な言い方に、シフォンが柳眉を逆立てる。

「アナタが質問をはぐらかすのなら、もういいです。後で州都警察本部に尋問してもらいましょう」

 すると、双子殺しとシフォンの周囲から、金属同士が擦れ合う音が鳴り響く。

 不可視の鎖が出現した音だ。

 しかし、その音の数は半端ではなかった。

 全部で六十五回。

 その連続する音は、二人を球状に囲む様に高速で響き渡り、双子殺しはその異様な状況に顔をしかめる。

「……何のつもりだ? いくら鎖を量産しようと、私は拘束できんぞ」

「拘束するつもりはありません」

「???」

 六十五本の不可視の鎖を出し終えたシフォンは、次の行動に移った。

 双子殺しは、後手を返す事を狙っているのか、様子見をしている。

 シフォンが取った行動は、跳躍だった。

 単に、その場を跳ねた訳ではない。

 彼女は、六十五回、音が鳴り響いた虚空の場所の一つへと勢い良く跳躍し、前屈みの体勢で膝を折り曲げて着地すると、即座に両足のバネを利かせて、そのまま跳弾の様な速度で双子殺しへと一気に突撃したのだ。

「!」

 その速度は、双子殺しの目を釘付けにし、攻撃への対応を遅らせた。

 彼女が突き出した両腕の拳が、双子殺しの顔面へと容赦無く放たれる。

「ぐァごッ……!!」

 顔面に拳撃を受けた双子殺しの体は、その勢いによって反り返り、全ての脚は空中に投げ出され、否応無く宙を仰いだ。

「能力が効かないのなら、能力は自分の補助用として使うまでです」

 シフォンの声が暮れる夕陽の世界に響き、双子殺しの体が砂の地面に摩擦する音と、重なった。

 能力格差とは、上級の当選者には、下級の当選者の能力が効かない、または、効果が薄いという弱肉強食を体現している差別だ。

 しかし、これはあくまで、相手に対して能力が有効か無効かの話である為、能力を相手に当てず、拳や蹴りなどの普通の攻撃を後押しする形で能力を活用すれば、当然、その普通の攻撃は相手に対してヒットする。

「………………………ッ」

 双子殺しは鼻血を垂らしながら仰向けに倒れ込み、シフォンは空中から地上に舞い戻り、六十五回、音が鳴り響いた場所の中央へと跳躍して退き帰る。

()ゥッ…………!」

 太股の痛みを我慢していたのか、シフォンは退いた途端に、左足の太腿の患部を左手で庇った。

「———まだだよ」

 虚空を裂く斬撃音が轟くと、双子殺しのいた砂の地面が爆発した様に勢い良く飛び散り、双子殺しがその事態に巻き込まれ、散弾銃の様な幾粒もの砂の直撃を喰らった。

「!!!」

 ダメ押しの一撃の中、宙を舞った双子殺しは、攻撃が来た方角を見据えた。

 そこには、ミラージオが、刺突剣(レイピア)の構えの体勢で地を踏んでいる。

「砂の味でも堪能しておけ」

 宙を舞う双子殺しは、そのまま重力に従って、ミラージオの不可視の刺突でできた大穴へと落ちて行く。

 攻撃の影響で砂煙が舞い、周辺の砂の地面が、薄茶色を含んだ白い砂煙の色に覆い尽くされた。

「シフォン、足のバネだけであれだけの突撃力(パワー)が出せるモノなのか?」

「不可視の鎖を創り出した時に、鎖はバネのように螺旋状に巻いて弾力を強化しました。六十五本、全てね」

「なるほどね。だけど、左足には咬み傷があったハズだろう? よく使い物になったな」

「咬み傷があっても足は見ての通り動かせましたから、後は激痛に耐えるだけでした」

「……一刻も早く最寄りの病院に向かおう。双子殺しを捕縛して。キミの鎖は効かないみたいだから、何か縛れるモノを馬車の残骸から見繕って……」

 その瞬間、高熱の紅炎が砂煙を焦がしながら、虚空を素早く走り抜け、シフォンの体へと直撃して来た。

「!?」

「! シフォンッ!」

 空気が悲鳴を上げる様に轟々と燃焼音を響かせ、全てを焼き払う紅の炎撃が激走する。

 燃え上がる紅炎は球の形をしていて、双子殺しが当選協会相手に闘った時にも、同様の能力が使われているのが見られた。

「こ……のッ……!」

 鎖が軋む音が一斉に鳴ると、無慈悲な炎撃がシフォンの直前で、何かに妨害されたかの様に紅い閃光を撒き散らして、唐突に爆ぜた。

 残骸となった火の粉が空中を舞い、辺りを漂いながら紅の光を失い消えていく。

「不可視の鎖を防衛に回したか……。惜しいな。もう少しで貴様の美しい顔が焼け溶ける所だったというのに……」

 砂煙が落ち着き、立ち上がった双子殺しの姿が見えてきた。

「サイテーですね。女のコの顔をダメにしようとするなんて」

 シフォンが、厄介な相手に対して嫌そうに毒づく。

 すると、双子殺しの真上に、幾筋もの黒い電光が突然迸った。

 黒の電光の群れは、火花の音をバチバチッと何度も弾かせながら、急速に渦を巻き出し、天を衝く三メートルに渡る一本の雷の柱を垂直に形成していく。

 さらに。

 水平に二本。左斜めに一本。右斜めに一本。

 樹木から伸びる太い枝たちの様に、当選者である双子殺しを核として、禍々しい五本の雷柱が生え、圧倒的な存在感を夕陽の世界に植え付ける。

 その中の三本の黒い雷柱が、鞭の様に大きく撓むやいなや、空気を焦がす音と共にミラージオの真上へと一気に振り下ろされた———。

「——————ッ!」

「貴様たちには、『牙』と『爪』だけで事足りると思っていたんだがな」

「ミラッ!」

 うねる雷柱の襲撃が凄まじい速さで疾駆し、下にいるミラージオを討ち滅ばそうとする。

「……ッたく、多芸なヤツだ!」

 頭上から迫る黒い脅威に対して、ミラージオは、左手に作った手刀を勢い良く垂直に振り上げた。

 三本の黒い雷柱は見えない斬撃がぶつかった様に垂直に両断され、斬り裂かれた事によって六本になった雷柱が、斜めに地上へと降り注ぐ。

 落ちた雷柱は砂の地面へと衝突し、力の勢いで砂粒を一斉に空中へと舞い上がらせた。

 その影響で、砂煙が二ヶ所で起こったが、ミラージオの場所からは十数メートル離れていた。シフォンの方も大丈夫な様だ。

 砂煙と共に、不気味な黒い火花の残滓が地上を這いながら燻る。

「どうやら能力格差ってヤツは、能力同士の衝突には影響しないようだねッ!」

 上げた手刀を、そのまま自分の胸元に水平に構えると、双子殺しから生える垂直の雷柱へと、高速で振り抜く。

「………………ッァ!」

 漆黒の雷柱が、根元の近くの部分から両断され、建物の大崩落の様に、破片を撒き散らしながら無惨に壊れていく。

「あとは、一本か……」

 最後に残った一本の雷柱は、双子殺しの尻尾と同化していた。

 双子殺しは、空を仰ぎながらけたたましい咆哮を上げると、三メートルに及ぶ黒雷の尻尾をミラージオに向けて右から横凪ぎに打ち払う。

 黒雷の火花の音とは別に、どこからか金属同士が軋む音が響き渡る。

 すると、横凪ぎの雷撃が、ミラージオの左手の直前で急停止した。

「させません!」

 シフォンからの声だった。

 どうやら、彼女の鎖が、間一髪の所で黒雷の尻尾を縛り上げたらしい。

「弾けなさい!」

 彼女の言葉に従う様に、雷の尻尾全体が、物凄い圧力をかけられた様にギュッと縮むと、五秒後に、爆発音と共に放散した。

 これで双子殺しの雷柱は、ひとまず全て消滅した。

 しかし、

「ここまで上手くいくと、気持ちが悪いものだな」

「何を、言っている?」

 双子殺しの口のラインが下向きの弧を描いて、歪んだ嘲笑を顔に浮き彫らせる。

 雷柱は全て破壊され、双子殺しにとっては上手くいく所か劣勢の状況にしか見えないが、その顔は不可解な事に余裕と自信に満ちていた。

 そして、その笑みのまま、双子殺しは告げる。

「愚かだな。目の前の事ばかりに必死になるから、それが囮という事に気付けない」

 地上を燻っていた雷柱の残り滓が突然爆発した様に燃え上がると、丸太ほどの太さをした炎の杭が、弾丸が見劣りする程の速さで爆炎の中から一気に弾き出された。

「!」

 杭の切先は、シフォンの喉元へと狙い定まっている為、そこに当たれば即死は確実だ。

「————逃げろ!!」

 彼女は、右のこめかみから玉の様な汗を一粒流しながら、とっさに自分の首を上体ごと僅かに右へと逸らした。

 しかし、避けきれない。

 肉を突き破る音が、残酷に弾けた。

 シフォンの左肩が、唐突に出現した炎杭の一撃によって容赦無く貫かれる。

「……く……ぐぁあああああああああああああああああああああ!」

「………………!」

 悲痛な叫びと一緒に、服ごと貫かれた左肩には火傷の大穴が開き、重傷を負ったシフォンが失神して、俯せに倒れ込む。

 傷口からは白い蒸気が溢れ、激痛に見舞われているであろうシフォンの顔が引きつっていた。

 皮肉にも、炎杭の熱の影響で傷口は固まり、出血はしていない。

「……シフォォォン!!」

「急所の喉を狙ったのだがな……。やはり、動ける獲物には的確に当たらんか……」

 シフォンの危機に対して、ミラージオの両足が駆け出す。

 迫る両者の距離は、七メートル、六メートル……。

「次は絶命しろ」

 双子殺しの言葉が響くと、大股で走るミラージオの元に、火花から生まれた三本の炎杭が地面から疾走してきた。

 勢い良く走るミラージオは、炎杭の攻撃を避ける為に、眼前のシフォンの方———砂の地面へと身を投じる。

 燃える炎の杭が、さっきまでミラージオがいた場所を駆け抜けた。

 砂だらけになったミラージオは、砂を振り払わずにそのまま身を起こす。

 彼の目前には、シフォン・エカテリンブルクの姿があった。

 すかさず彼は、血塗れでぐったりしているシフォンの体を、背中に抱える。

「逃げるぞ、シフォン!」

 ミラージオはそう言うと、シフォンを背負いながら双子殺しとは逆の方向へと駆け出した。

「迅速な判断だ」

 双子殺しの言葉が、闇を受け入れ始めた夕陽の世界に重く響いた。

「———だが、四十四の炎杭相手に、貴様の足は走りきれるのか?」

 夕闇の中、地面の上に燻る火花の残滓たちが、四十四回の燃焼音と共に一斉に燃え上がった。

「走りきらなきゃ、シフォンは助けられないだろうが!」

 シフォンを抱えながらミラージオがそう吼えると、即座に左手に手刀を作り、その矛先を駆ける地面に向けて、力強く一気に刺し貫いた。

 鋭い斬撃音が迸り、幾粒もの砂が反動で飛散すると、生じた砂煙によってシフォンをおぶうミラージオの姿が消える。

「隠れたか……」

 すると、双子殺しの鼻がピクッと動いた。

 どうやら、(じぶん)の嗅覚を使って、砂煙の中にいる標的の居場所を看破するつもりの様だ。

「クッ……。砂の臭いばかりで、嗅ぎ取れんか……」

 双子殺しは、舌打ちをすると、目の前の砂煙を忌々しそうに見つめた。

 砂煙の中から更に斬撃音が生じると、立ち込める砂煙の規模が朦々と増えていく。

 斬撃の音は一度限りで終わらず、二度、三度……と、数を増して、辺りの薄暗い景観を砂煙によって更に覆い隠した。

 何度も起こされる砂煙は、北から南に向かって、今もなお生じている。

 双子殺しに、向かう方角を見抜かれれば、先回りされる可能性もある。

 しかし、双子殺しは北の方角にいた為、北から南を直線を描く様に生じる砂煙の最終地点は、最初に起こった砂煙によって隠れていた。

 すぐさま、双子殺しは連続する砂煙の西側へと移動すると、視線の先———砂煙の最終地点の方に、傷ついたシフォンとミラージオと御者の姿があった。

 三人は、残骸となった馬車のすぐ側にいて、燃えなかった方の馬へと鐙を踏んで乗り込もうとしている。

 乗馬の定員は、完全に超過しているが、そんな事を言っている状況では無い。

 乗り込んだミラージオは、馬の腹帯から馬車へと通じる黒紐が出発の邪魔になる為、黒紐を手刀の一撃で素早く裂いた。

「炎杭!」

 双子殺しがそう叫ぶと、叫び声を合図にする様に、四十四片の火花の残滓が一気に燃え上がると、火炎から生まれた同数の紅の炎杭が馬の元へと襲いかかる。

「…………走れ!」

 乗馬の最前列のミラージオが、手綱を握って、両足で進行の合図を馬に出す。

 馬がけたたましい嘶きを上げると、蹄鉄の音と一緒に勢い良く駆け出した。

 御者は、打撲を負っているらしく、顔を歪ませながら右腕の上腕を左腕で庇っていた。

 その為、ミラージオが御者の仕事を代行している様だ。

「ミラージオ様、炎の杭がそこまで来ています!」

 西側から四十四本の炎杭が爆走して、駆ける馬と乗馬している三人を串刺しにしようとする。

「! ぶつかります!」

 ミラージオの額から大粒の汗が流れた。

 その時、金属同士が擦り合う様な音が響くと、四十四本の炎杭が馬の直前で急ブレーキをかけた様に突然止まった。

「!?」

 ミラージオと御者と双子殺しが、驚いた様に顔を引きつらせる。

 すると、夕闇の世界に、楽器を鳴らす様な美しい声が小さく紡がれた。

「……殺させ……ません……」

 それはシフォンの声だった。

 さっきまで彼女は失神していたが、なんとか意識を取り戻したらしい。

 空中で止まっている四十四本の紅炎の杭は、四方八方から重圧をかけられた様に形が崩れると、それぞれの中心へと縮んでいき、弱々しい火の粉となって全て消失した。

「……シフォン! 気が付いたのか……、よかった……」

「……ミラー……ジオ……ウグ……ゥゥゥゥ……」

 シフォンは左肩に開いた火傷の大穴を辛そうに右手で庇いながら、呻き声を上げた。

 重傷の彼女の顔に、苦悶の色が際限なく浮かぶ。

 患部を一秒でも早く冷やすのがベストだが、冷却できそうな丁度良い物が無い。

「しっかりしろ、シフォン……」

「お嬢様……! すぐに医者の元に向かいますので、お気を確かに!」

「ハァ……ハ……、ゥ……ア……双子……殺し……アナタは……私が……」

 こんな時にでも、双子殺しの事が気になるらしく、断続的に荒い喘ぎ声を上げながら、強敵の名前を悔しそうに紡ぐ。

「バカヤロウッ! 今は自分の体を心配しろ!」

 ミラージオが怒鳴り声を上げると、彼の顔の両脇を二粒の水滴が水平のラインを描く様に舞い踊った。

「……ミラ……?」

 すると、ミラージオの両瞳(りようめ)の目尻に、透明な温かい涙が溢れていた。

「……バカヤロウ、が……自分のコトを、大切にしろ……。ボクたちは、いつも一緒だろ……? ボクはキミに、もっとこの世界を見せてあげたいんだ……。女大公が住んでいる王宮……。凛々とした首都騎士団……。南の州にある一面に咲く青い薔薇の花畑……。西の州には菓子職人の街もある……」

 泣いていた。

 その言葉は、本心から出てきた言葉なのだろう。

 なぜなら、ミラージオは、シフォンの事が好きだったからだ。

 シフォンと一緒に世界を見て回りたい。

 その想いが湧き出してくる様に、ミラージオの涙は止まらなかった。

「あり……がとう……」

 後列からの言葉に、ミラージオの顔ははっとした。

 シフォンが、ミラージオの白ベストの裾を固く握っていた。

「……一緒に……行きましょう。私、頑張りますから……」

 彼女は、深刻な状態であるにも関わらず、ミラージオの背中に向かって優しく微笑みかけた。

 その微笑みは弱々しく儚い物ではあったが、不思議と芯のある『何か』を感じさせた。

 その『何か』とは、きっと……。

「…………ああ!」

 ミラージオの両瞳にある大粒の涙が、空気に溶けながら消えていった。

「一緒に行こう」

 彼の頼もしい言葉が、夕闇の世界に強く響いた。

「行かせない」

 馬が向かう先に、最悪の魔狼が先回りしていた。

 その暗赤色の姿は、夕闇の薄暗さによって、暗闇の中に飛び散った血痕の様に、異様な雰囲気と禍々しさを作り出している。

 獲物を前にした双子殺しは、砂の地面に力をかけ、餌の元へと瞬速で飛び掛かった。

「悪いね、殺人鬼。今のボクは、ムシの居所が悪いんだ」

 ミラージオは、立ち向かう敵の姿を憎々しく見つめると、手綱の制御から、左の手を自由にする。

「……ォォオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 双子殺しが振るう鋭い爪撃と、ミラージオの左手が放つ手刀による斬撃が激突し、二つの咆哮が重なり合った———。

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