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第二話 タロットマスター 1


 杷月と霞は、那々の神級天然ボケにしばらく茫然としていたが、いきなり喧嘩を始めた。

「どうなってるのよ、霞!」

「どうなってるって言われてもさ…」

「学校に凄い子がいるって大騒ぎしたのは、あなたでしょう!」

「確かにそうは言ったけどさ、何も調べないでスカウトした杷月さんが悪いんじゃないか!」

「あなたがスカウトしろって言ったんじゃないの!」

「わたし知らない! わたしは悪くないもん!」

「…どっちもどっち」

 マリエットの一言で、二人共うっと黙った。

「…とりあえず、そこの悪霊を除霊しなさい、マリエット」

「はい」

 マリエットが、さっきから床に寝転がって少女達を舐めるように見ている親父の幽霊に近づき、タロットカードを一枚出して、それを親父の目の前にかざした。カードの絵柄から白い光が漏れて親父を照らす。

「ギャアァーーーーッ!!」

 光に照らされた途端に、親父は陸に上った魚のようにのたうちまわり、さらにクーちゃんが飛んできて、顔や頭を突いて追加攻撃を行う。

「ここに入ってくるとは、阿呆な浮遊霊だ」

「最後に美少女達が見られて大満足しているに違いないわ」

 杷月は消え行く者を見ながら言った。やがて親父の霊は完全に消滅する。

「ああ!? 変質者が消えた!?」

「だから、幽霊だって言ってるでしょ!」

 霞がすかさず突っ込むと、那々はまだ分かっていないような顔をしている。杷月は頭が痛かった。

「この子、どうしましょう……」

「自分からスカウトしておいて、今すぐ首って訳にはいかないわよね」

「流石にそれは酷すぎるわね…」

「杷月さんなら平気でやると思ったけどね」

「あなたを今すぐ首にしてあげましょうか?」

 杷月が眼鏡を光らせて言うと、霞は、「すいませんでした」と頭を下げた。

「ものは考えようよ。これだけ高い霊力を持っているのだから、何か一つでも霊術を覚えさせれば、こっちのものよ」

「とりあえず、幽霊と変質者の違いを教えた方がいいと思います」

 マリエットが言うと、杷月は肩を落とした。

「まずはそこからか…」

 その時、事務所の鳩時計が鳴き始める。杷月がはっとして見ると、もう夜の七時になっていた。

「あ、まずい!? 依頼の事忘れてた!?」

「除霊失敗した上に忘れるとか、こりゃ無償ものだね」

「流石にお金は取るわ、割引はするけど」

 杷月は手早く新しい契約書を作って、マリエットに渡した。

「マリエット、頼むわね」

「はい」

「那々には先輩について除霊の勉強をしてもらうわ。マリエットと一緒に行きなさい」

「はい、分かりました!」

「本当に分かってるのかしら…」

 マリエットが先に外に出て、那々が遅れていると、

『早くしろ那々、このうすのろ!』

 マリエットの頭の上でクーちゃんが言った。

「ご、ごめんなさい、今行きます!」

 那々は小鳥に命令され、躓いて転びそうになりながら出て行った。

 

 那々たちが現場につく頃には、辺りはかなり暗くなっていた。

「あれ、誰か家の前にいますよ」

 那々たちが駆け寄ると、依頼主の男性が家の入り口の前で蹲って震えていた。

「大丈夫ですか?」

「ああ、あなたは!?」

 声をかけられ、依頼主はびくつきながら顔を上げる。するといきなり目の前に小鳥を頭の上に乗せた可愛らしい少女が現れるので、声を失った。さらに先ほど適当な除霊をした那々までいるので、依頼主は恐怖で声を震わせながら言った。

「ど、ど、どうなってるんですか! 前よりも余計に酷くなっていますよ!」

 依頼主をじっと見つめていたマリエットは言った。

「正常みたいですね、よかったです」

「ちゃんと家があるのに、こんな所で夜を明かそうなんて、異常じゃないんですか?」

「悪霊に取り付かれていないっていう意味ですよ」

 依頼主にはマリエットの言っている意味がよく分からないし、さらに那々がおかしな事を言うので、恐怖よりも苛々が勝って立ち上がった。

「君たち一体何しに来たんだ!」

「除霊です」

「き、君がやるのか?」

『当たり前だ!』

 クーちゃんが言うと、依頼主は唖然としてしまった。頭の上にインコを乗せた少女はそれはもう可愛らしかったが、大ボケの那々よりも頼りなさそうに見えた。

「遅れてしまって申し訳ありませんでした。すぐに済みますので」

 マリエットが頭を下げて言うと、クーちゃんがずり落ちそうになって飛び上がる。

「大丈夫なんですか? 家の中は本当にとんでもない事になっていますよ……」

「問題ありません」

 マリエットはクーちゃんと那々を連れて、真っ暗な家の玄関から入っていった。

 家の中に入ると、明らかに温度が下がっていた。妙に湿っぽく冷えた空気が少女達を包み込む。マリエットはすぐ近くにあるスイッチを入れるが、明かりは付かなかった。

「この家は電気代も払えないほど貧乏だったんですね」

「那々さん、違いますよ。悪霊が悪さをしているんです」

『上にいるぞ!』

「そう、上だね」

「クーちゃんは何で上とか言ってるの?」

 マリエットは頭上のクーちゃんを指差して言った。

「クーちゃんは、霊の居場所が正確に分かる霊能力インコなのです」

「霊レーダーインコ!?」

「それはちょっと言い辛いですけど、合ってます」

 その時、二階の方からガラスの割れる音や、何か大きなものが落ちるような音が聞こえてきた。

「かなり禍々しい気を感じます。那々さん、さっきこの家で不審なものを見かけませんでしたか?」

「頭が二つある変質者がいました!」

「それは幽霊です」

「う~ん、幽霊と変質者の違いって、全然わかりませんよぅ」

 那々は頭を抱えて本気で悩んでいた。

「…それは追々説明するとして、今は除霊が最優先です」

 マリエットは腰につけているカードホルダーからタロットカードを一枚取り出すと、それを上に放った。

「アルカナフォース、サンのカードよ、聖なる輝きで闇を打ち払え」

 マリエットの言葉と共に、中空のカードがオレンジ色の輝き発し、辺りを真昼のように照らし出した。やがて落ちてきたカードはマリエットの掌の上で浮遊し、直立した状態でゆっくり縦回転した。

「すごい! マリーちゃんは手品が出来るんだね!」

「手品じゃなくて霊術だよ」

 マリーが手を上げると、白熱灯のように温かみのある輝きが二階の階段の上まで照らし出す。

「悪霊は二階にいます。行きましょう」


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