婚約者が男だと王子が泣きついてきたので真水に沈めてみます
「婚約者が……男かもしれない」
エルシリア王国第13王子ユリウス・セオドール・エルシリアは、大層真面目な顔をして言った。
「そういや、婚約したんですねー。新聞で見ました。おめでとうございます」
対する女は、書類がうず高く積まれたデスクに腰掛け、おざなりに祝いの言葉を口にした。ぶつぶつと数字をつぶやいており、こちらを見ようともしない。
「話を聞け」
「聞いてますよ」
「金は払っている、僕は客だぞ」
「わぁ、ずいぶん王族っぽいセリフを言うようになりましたね」
ようやく顔を上げたかと思えば、嫌味が飛んできた。
王立アカデミーでは同じ学生だったが、卒業した今、かたや王族、かたや民間魔術ギルドの職員。
彼女が社会人として無事にやれているのか、ユリウスは若干心配になる。
「悪かった。後生だ、助けてくれ」
「そういうのは王宮付きの魔術師にお願いします。ここは迷い猫に家出少女、パートナーの不倫調査がメインのしがない民間の魔術ギルドですよ」
「君にしか相談できないんだ」
「私の魔力量、朝食後の皿にこびり付いたヨーグルトレベルしかないのに、あまりに捨て鉢すぎません?」
王宮付きの魔術師に相談したら大ごとになる。国王に相談したら外交問題になる。兄上に相談したら腹を抱えて笑うだろう。
残念ながらユリウスが頼れるのは、埃の積もった部屋で王族相手に『お茶はセルフでお願いしまーす』なんて言うリディアだけだった。
「そんなことはない! 学生のころから君は何かと助けてくれただろう」
デスクに手をつき、乗り出してきたユリウスの下から書類を救い出すと、リディアはわざとらしく息をついた。
「仕方ないなぁ。で、今度は何やらかしたんです?」
「僕の名誉のために言うが、僕から何かやったことはない。向こうから来るんだ」
「はいはい。早く用件言ってください」
王族以前に客への態度ではないが、そんなことは気にしない。
ユリウスは、リディアがようやく来客用ソファーの対面に座ったことに胸をなで下ろした。
彼女に話を聞いてもらうことが、この問題の一番の難関だったからだ。
「僕の、その……婚約者は……人魚族なんだ。君、以前、依頼で人魚族の素行調査をしていると言っただろう。彼らは社交的ではあるが、なかなか仲間のことは語らない。彼らについて知っていることを教えてほしい」
「守秘義務があるので無理ですね」
「なら、こちらから質問させてくれ。人魚族と人間の結婚について君はどう思う。異種族間では文化が異なりすぎる。結婚生活を営むのは難しいんじゃないだろうか」
「今、種族間差別うるさいので、そういう発言は控えたほうがいいですよ」
社会人としてまっとうな答えである。
「……そうではなくて、僕の婚約者、レティ嬢は……男だと思うんだ」
「今、性にこだわらない恋愛も認められていますので、そういう恋愛もありですね」
人として寛容な答えである。
が、今そんな答えは求めていない。
「僕は王族だぞ? 跡継ぎの問題もある。夜の営みは大切だろう」
「ギルド職員へのセクハラ発言は出禁ですねー」
「リディア! 頼む! 助けてくれ」
「お帰りはあちらですー」
と扉を指し、やりかけの書類に手を伸ばしたリディアに、ユリウスは恥も外聞も捨てて頼み込んだ。
⸻
「そもそも、なんで婚約したんです? 学生のころ『王族と言っても僕は末席だ。あの人たちと僕は生きる世界がちがう』なんていじけていたじゃないですか」
馬車の中で向かい合っていると、リディアが不思議そうな顔をして尋ねてきた。
リディアは新聞で婚約を知ったらしいが、記事は読んでいないようだ。
ユリウスが三行も読まないうちに床に投げつけた『第十三王子と人気女優のなれそめ』。
大袈裟で紛らわしいあれを読まれていないことに安堵したが、自分への関心の低さに少し悲しくなる。
「……兄上の代理で、人魚族の劇場のこけら落とし公演に行ったんだ。その時に、主演女優のレティ嬢に惚れられた」
「惚れられて即婚約ですか?」
「……断ったんだが……レティ嬢は南海に生息する人魚族で、族長の親戚筋らしくて」
「あぁ、あそこは鱗真珠に玻璃珊瑚が採れますからね。で、方々から圧力がかかり、婚約を押し切られた、と。相変わらず押しに弱いですね」
じろりと見てくるリディアの視線に耐え切れず、ユリウスは視線を落とした。
リディアのように好きなように生きる人間からしたら、自分はふがいなく見えるだろう。
「……まぁ、王子ですし仕方ないか」
学生時代から、彼女は巻き込まれる自分に呆れながらも手を貸してくれた。
「人魚は恋多き種族ですし、嫉妬深いですから、誤解されないようにしないといけませんねぇ」
馬車が向かう先は、レティ嬢の所属する人魚族の劇場。
ちょうど今公演している劇にレティ嬢が助演女優として出演している。
「浮気した船乗りを船ごと沈めたって噂もありますし、バレたら王子、沈められてしまいますよ」
数年前に起こった海難事件を思い出し、体が震えた。
「兄上に頼んで王族専用の部屋を手配した。遮視魔術もかかっているから舞台から見えない。誤解されることはない」
劇場内で鉢合わせしないように気をつければ、何も問題はないはずだ。
漠然とした不安を振り払うように、ユリウスは深く息を吐いた。
⸻
「人間の劇場とはまた違いますね」
馬車から降りると、海に面した人魚族の劇場が広がっていた。
場内には水路が張り巡らされ、色鮮やかな花々が飾られている。
「あの水路、なぜ二本並走しているんでしょう?」
「劇団員の通路としても使われているらしい。淡水由来の人魚と海水由来の人魚で水路を分けているそうだ」
「へー、間違って違う方に入ったらどうなるんでしょう?」
「それは……知らないな」
リディアは劇場には初めて来たようで、好奇心を瞳に宿し、周りをきょろきょろしている。
いつものどこか斜に構えた態度との違いに、ユリウスは胸が弾んだ。
こうやって二人で出かけるのは、アカデミーを卒業して以来初めてだ。
できることなら、こんなに切羽詰まった状況でないときに来たかった。
「あれ、この花、香りしませんね」
「人魚族は嗅覚が過敏だから、香止めの魔術がかかっているらしい」
「なるほど。なら王子の匂いも覚えられているかもしれませんね。レティ嬢に気付かれないようにしないと」
リディアの言葉に強くうなずいた。
「そういや、肝心なことを聞いていませんでした。なんで王子はレティ嬢を男だと思ったんですか?」
「レティ嬢と食事をしたんだが、その帰りに……」
「ホテルにでも行ったんですか」
「……もう少し慎みを持ってくれ」
女性であるリディアにどのように話すか悩んでいたら、突拍子もない発言に思わず顔を覆った。
「レティ嬢をエスコートしたんだが、僕の腕が彼女の……胸に当たったんだ」
「ラッキースケベですね」
「いや、ラッキーと言うには、正直……その、妙に硬かったんだ」
何を言っているんだ、と言わんばかりのリディアの視線が突き刺さる。
「他には、何を根拠に男性だと思ったんです?」
「……ない」
「はい?」
「いや、だから、その……触った感触だ」
「王子」
「なんだ」
「最低です」
「僕だって好きでこんな相談をしてるわけじゃない!」
⸻
「……立派な胸をお持ちのように見えますけど」
リディアの視線の先には、長く豊かな髪をくゆらせて大水槽で舞う美しい人魚がいた。
紺碧の鱗に、白真珠で縁取られた二枚貝の胸当て。
ユリウスの婚約者レティ嬢は、人間の姿と人魚の姿を使い分けながら堂々たる演技をしていた。
人魚の姿に戻っているレティ嬢は、身体の線が遠くからでもはっきりわかった。
「いや、でも硬かったんだ! それに隠れているんだから、見なきゃわからないだろ!!」
「えー、あの貝を取れと? それは犯罪です。王子のエッチ」
「ち、ちがう! というか棒読みで言うな!」
なんで女性を相手にこんなことを議論しなければいけないんだ。
罪悪感でユリウスの胃のあたりがきりきりと痛んだ。
「僕は依頼者だろ。もっと寄り添ってくれ!」
「あっ、気付かれた」
水中にバラバラになり漂う髪、不機嫌そうに下がった口の端。
見開かれた金色の瞳がこちらを向いていた。
『う わ き』
「っ! なぜ気付かれた? この部屋は遮視魔術がかけられているんだぞ!?」
「王宮付き魔術師の魔法も恋の前には形無しですねー」
焦る自分とは違い、のほほんとした空気を醸し出すリディアの次の言葉に、ユリウスは動きを止めた。
「王子、このままだと海に沈められてしまいますねー」
「こ、困る!」
「しょうがない、彼女に会いに行きましょう。誤解をそのままにしておくのは得策ではないので」
こっそり見るはずが、とんだことになってしまった。
「浮気じゃないんだ!」
「私に言われても。それに真実かどうかは問題でないです。今重要なのは、レティ嬢が浮気と認識してしまったことです」
人魚は恋多き種族で激情型が多い。
二週間で婚約にこぎつけたレティ嬢が嫉妬に駆られるとどうなるか。
海に沈む自分の姿を想像し、ユリウスは血の気が引いた。
⸻
「大きな水槽ですね」
「水路や舞台につながっているからな。劇の合間に人魚の姿に戻って、休憩できるようどの部屋にも作られているらしい」
第一幕が下りる前に、ユリウスとリディアは観覧室を抜け出し、レティ嬢の楽屋へとやってきた。
ユリウスが劇団の看板女優と婚約をしたということはスタッフにも周知の事実らしく、疑われることもなく通された。
リディアは怪訝な目を向けられたものの、『王子の連れ』ということで咎めるものはいなかった。
『ここは海水なんですねー』と水槽の水に触れた指をぺろりと舐めたリディアは、身体を起こし、人差し指を立てた。
「いいですか、王子。まず第一声はごめんなさいですよ。水に沈められる前に真心こめて謝罪。スピード勝負です」
「わかっている。疑われるようなことをしたのは僕だ」
レティ嬢の性別はさておき、傷つけたのは確かだ。
誠心誠意、謝らねば。
頭の中でレティ嬢への謝罪を繰り返した。
だから、反応が遅れた。
リディアの背後で水槽の水が揺らめいた。
紺色の糸が水中から伸びてきたかと思うと、リディアの首に絡みついた。
「っ!?」
焦った声と同時に、リディアが水槽に激しく打ち付けられる音が響いた。
身体が水槽に引きずり込まれてしまう。
「リディア! 動くなよ!」
彼女が返事するのを待たずに、首に絡みつく糸を部屋にあった果実ナイフで断ち切った。
床にどさりと転がったリディアを抱き寄せる。
腕の中でげほげほと咳き込む彼女の無事を確認し、前を向いた。
水槽の紺色の糸の塊の中からのぞく金の双眸と対峙した。
数秒、視線が絡み、それは水槽の奥へさっと消えていった。
ナイフに数本の紺色の髪が絡まっていた。
人間のものとは違い、独特な光沢を放っているそれは、レティ嬢のものだ。
「……浮気した恋人ではなく、浮気相手を沈めるパターンでしたか」
「……浮気じゃない」
肩を激しく上下させながらも、リディアの顔に怒りは浮かんでいない。
「だから、恋する乙女の前に真実は関係ないですって」
「……そういう問題じゃない。君は殺されかけたんだぞ…………婚約は解消する」
「男かもしれない人と婚約させられても耐えていたのに、私がちょっと襲われたくらいで婚約解消するんですか?」
何と言われようとかまわない。
「……君を巻き込むのが嫌なんだ」
「……今さらですねー。大丈夫ですよ、怪我していませんので。あえて言えば、めちゃくちゃ匂いを嗅がれたくらいです」
「匂い?」
「えぇ。それにしても……硬かったです、胸」
「そ、そうだろ!」
この数日、人に言えず抱え込んでいた悩みが、ようやく人と共有できた。
思わず声が大きくなってしまった。
「……で、王子はどうしたいんです? 断罪します? 円満解決? それとも続投? 何を望みます?」
感情の見えない瞳が見上げてきた。
今まで考えてこなかった問いを突きつけてくる。
「僕は……王族の役目なら、婚約はやむを得ないと思っている……」
「全身から嫌そうな気配が漂っていますねー」
否定することも、肯定することもできなかった。
「……本当に王族は面倒ですねー」
ぼそりとしたつぶやきが耳に届いた。
彼女の顔を見られず顔を背ければ、額を軽くつつかれた。
「辛気臭い顔しないでください。気を取り直して、お仕事終わらせますよ」
「……仕事って何をするつもりだ」
「レティさんとお話をするだけですよ。何事も会話が大事です。とくに異種族間であるなら、なおさらです」
リディアの瞳が弧を描いた。
「そういや、人魚族って性別が変わる種類もいるらしいですよ。子どもの頃は男で大人になったら女、その逆もあるそうです」
「……それは聞いていない」
明日の天気を言う感じで言われたが、今、リディアはものすごく大事なことを言ったんじゃないのか。
濡れた髪をはらうリディアを、ユリウスは凝視した。
「聞かれませんでしたので」
「知っていたのなら、なぜ言わない!?」
「だって、さすがに人魚族に重要な交易品を握られているとはいえ、王子に男性の婚約者をあてがうことはないと思いますよ」
「……それはそうだな」
「まぁ、詳しいことは本人に聞きましょう」
「素直に話してくれるか?」
「任せてください。私、『話し合い』得意なんです」
嫌な予感しかしない。
⸻
「ちょっ!? 何これ!? なんで海水じゃないのよ!」
「王子のわずかにある権力をちらつかせて、真水の水槽を用意してもらいました」
終幕までの間に真水を用意して、レティ嬢を楽屋で待った。
まさか自分の婚約者を真水に沈めるために権力を使うことになるとは、昨日までは想像もしなかった。
「あっ、他の人魚への影響をかんがみ、水路につながる扉は閉めておりますのでご心配なく。真水なの、ここだけです」
水槽に引きずり込まれないよう距離をとりながら、リディアは中にいるレティ嬢に顔を向けた。
水槽の中では、レティ嬢の肌が徐々に赤く色づいていく。
「早くしないと体内の塩分濃度が下がって大変なことになりますよー。真実を話してくだされば、今ならこの海塩プレゼント」
これがリディアの言うところの『異種族間のコミュニケーションには会話』なのか。
僕には脅迫にしか見えない。
「王子、助けて!」
レティ嬢の叫び声に良心がとがめる。
思わず横にいるリディアに視線を送った。
「問題ありません、短時間なら耐えられるそうですから。でも、あとどれくらいでしょう。30秒くらいですかねー」
嬉々として言うリディア。
アカデミー時代にも、希少な研究対象を目の前にこんな顔をしていた。
「……外交問題にならないといいが」
「一切の問題が起こらないよう徹底してやるんですよー? 私、魔力ないので」
「お前は他にもないものあるだろう。倫理観とか常識とか」
悪気を少しも感じていなさそうな顔に、ため息をこぼした。
⸻
「平ですね」
「平だな」
水槽の縁から顔を乗り出し、荒い息を吐きながら肩を上下させるレティ嬢。
かなり無理をさせたかもしれない。
申し訳なさに罪悪感が湧いた。
ユリウスが謝罪を口にしようとした瞬間、ばさりと髪を振り乱し、レティ嬢が勢いよく顔を上げた。
「そこのあなた、私と結婚してください」
はぁはぁと息も絶え絶え、頬を紅潮させているレティの視線の先には、リディアがいた。
予想もしなかった言葉に、部屋に沈黙が広がった。
「君、僕を好きって言ってただろう! 浮気か」
思わず声を張り上げてしまった。
結婚ってどういうことだ!
「もちろん、王子のこともお慕いしております! 先日のデートの日から王子がつれなくて、婚約破棄されたらどうしようと眠れぬ日々を過ごしました!」
「奇遇だな、僕も眠れなかったさ!」
こっちは外交問題とか国民の理解とかが頭の中を占めていたがな。
「リディアに求婚してどうする、彼女は女だぞ。いや、君は男なのか?」
「王子。愛に性別は関係ないんですよ。私、王子は顔が好き。リディアは香りが好きなんですの」
恥ずかしそうに頬に手をあて、尾ヒレを激しく揺らすレティに、ユリウスは開いた口がふさがらない。
「改めまして、リディア。さきほどは楽屋で失礼しました。あまりにもあなた、いい香りがするから……つい」
「うっかりなら仕方ありませんね」
「……うっかりですませていいのか」
死にそうになったのに、リディアは気にしていないようだ。
「劇場でどうやって私と王子を認識したか疑問だったんですが、嗅覚だったんですね」
「はい。舞台で演技をしていたら、横っ面を張り倒されるような蠱惑的な香りを感じて驚きましたわ。しかも、となりに王子の匂いもあってびっくりしました」
「三角関係はごめんだと言いましたが、矢印の向きが予想とちがいましたね」
あまりにも堂々と二股宣言をされてしまった。
恋多き人魚と言うが、あまりにも節操なしじゃないのか。
「リディア、あなたが望むのなら、ちゃんと性別の切り替えしますわ。どちらがお好みです?」
「いえ、望みませんし、プロポーズにお答えもできません」
リディアは自分と違い、あっさりとレティ嬢をお断りした。
その自由さを少し羨ましく思う。
いや、ちょっと待て。
今、何と言った?
「性別を変えられるのか!?」
「えぇ、私はどちらにでもなれますわ」
「魚は好きな相手に合わせて性別が変わる種類もいると聞きましたが、人魚もそうなんですね」
ここ数日の悩みの答えが、あっさりと出てしまった。
「レティさん、性別の切り替えができるのなら、なぜ王子とのデートの際、男性の姿で行ったんですか?」
「私、王子に押し倒されるより押し倒したくなってしまったのです。男としてお慕いしております」
「そ、それは王族として困る!!」
「なるほど、王子の婚約者男性疑惑の謎は解けましたね。これにて一件落着ですね」
「落着させるな!」
幸せそうな顔をしてリディアの腕に張り付くレティを引きはがした。
さすがにこれは断っても怒られないだろう。
外交問題に発展しないし、国民への理解を求める必要もない。
兄上には爆笑されそうだが。
⸻
「とんだ災難だった」
「そうですか? とても面白い方じゃないですか」
彼女をギルド事務所に送るまでの帰り道。
『直帰します』と言うリディアを呼んだ馬車に無理やり押し込んだ。
自分が頼んだ依頼で大変なことになったのだ。これぐらいさせてほしい。
リディアはレティと友達になったらしい。
自分を水に引きずり込もうとした人魚と仲良くなるなんて、肝が据わっている。
レティは『友達からスタートですね!』と不穏な言葉を吐いていたので、しばらくは注意しておこう。
結局、昔からこうなのだ。
リディアは自分が困っていると、文句を言いながらも最後には助けてくれる。
「……きみは昔から変わらないな」
「褒めてます?」
「今度食事でもどうだ。学生の頃みたいに」
アカデミーの食堂で肩を並べていたことを思い出す。
いつでも会えていたあの時間が、どれほど貴重だったのか、今になって思い知らされる。
少しでも彼女が自分と同じ思いを抱いていればいい。
「お断りします。王族は面倒なんで」
悩む暇もなく一刀両断された。
少しだけ胸が痛んだ。
「……面倒ごとを持ち込まず、普通の客として来てください、ユリウス」
「わかった」
思った以上に弾んだ声が出たことに、気付かれないといい。
「ちなみに、次は何に巻き込まれるんです?」
「それは……わからない」
「やっぱりお断りします」




