エピローグ
1. 跪く盤面、完全なる世界統一
ルミエラ・アルカディア公爵令嬢が、宇宙(成層圏)からの絶対的な数理レーザーによって、数千年間地上を見下してきた【天空都市アンティキティラ】を完膚なきまでハメ殺し、光の塵へと変えてから数ヶ月。
世界は、名実ともに『一つの意志』によって統治されていた。
地上のすべての王族、海上を支配していたすべての商業ギルド、そして雲の上から気象を操っていた天の特権階級にいたるまで、ルミエラに敵対した、あるいは彼女を侮ったすべての勢力は、一人残らずその社会的地位と財産を書類一枚で搾り取られ、完全に破滅した。
ルミエラが設立した『新大陸中央銀行』と『国際通貨同盟』のシステムは、今やこの惑星の血液そのものとなっていた。彼らが発行する『アルカディア金貨』を持たぬ者はパン一つ買うこともできず、彼女の数理モデルに逆らう国家は、一瞬にして通貨暴落を引き起こされて文明ごと干上がらせられる。
武力による流血の征服ではない。
世界の「ルール(市場)」そのものをハメ殺すという、人類史上もっとも冷徹で、もっとも完璧な世界統一が、ここに成し遂げられたのだ。
「――報告は以上です、ルミエラ閣下。旧ルミナス王国の王族、およびバロック商会の残党たちの全資産の没収、ならびに『宇宙開発債券』への強制転換手続きがすべて完了いたしました」
帝国の首都を見下ろす、天空へとそびえ立つ『アルカディア・セントラルタワー』の最上階、総督執務室。
かつてバロック商会を裏切ってルミエラの忠実な僕となったハインリヒ男爵が、極上の仕立てのスーツに身を包み、深く頭を下げていた。
「ご苦労様、ハインリヒ。これでようやく、この世界の『雑音』がすべて片付きましたわね」
窓際の最高級ソファーに腰掛け、特製のハーブティーを優雅に傾けているルミエラは、フッと美しく、そして最高に不敵な微笑みを浮かべた。
今日の彼女は、これまでの総督服ではなく、グラン・エルバ帝国の次期女帝にふさわしい、白銀の刺繍が施された漆黒の極上ドレスを纏っている。知性を引き立てるインテリメガネの奥で、その瞳は世界のすべてを勝ちきった者だけの、圧倒的な覇気を放っていた。
もはや、この惑星のどこを探しても、ルミエラに異を唱えられる存在はただの一人も残されていない。
かつて実家から追放され、無能な婚約者に婚約破棄された少女は、自らの頭脳(数理チート)だけで、世界の神へと上り詰めたのだ。
2. 栄光の戴冠式、ひれ伏す億兆の生命
翌日。グラン・エルバ帝国の歴史ある大聖堂、そしてその周囲に広がる、数百万人の群衆が埋め尽くす大広場にて、人類の歴史を完全に塗り替える『世界統一戴冠式』が執り行われていた。
大聖堂の巨大なステンドグラスから降り注ぐ七色の光の中、中央のバージンロードをゆっくりと歩むのは、ギルバート皇太子、そしてその隣で並び立つルミエラであった。
「見ろ……! 私たちの『新世界の女神』だ……!」
「ルミエラ様! アルカディア中央銀行万歳!!」
大広場を埋め尽くす、かつては飢えと戦争に怯えていた何百万もの平民たちが、ルミエラの姿を見た瞬間、地響きのような大歓声とともに、一斉に大地に膝をつき、狂ったように祈りを捧げ始めた。
ルミエラを裏切り、彼女を陥れようとした旧時代の傲慢な貴族たちは、今や大聖堂の最前列で、首に「債務奴隷」の刻印を刻まれ、家畜のように床に這いつくばって二人の靴を舐めるようにして平伏している。
「皆様、お聞きなさい」
壇上に立ったルミエラの凛とした声が、全大陸、全海洋、そして宇宙の通信衛星を経由して、この惑星のすべての魔導水晶へと同時に強制配信された。
「これまでの世界は、無能な王族の気まぐれや、特権に胡坐をかいた天空の亡者たちの傲慢によって、不当に富が歪められてきました。汗水垂らして働く平民が飢え、何も持たない者が虐げられる――そんな理不尽な『バグ』に満ちた世界は、本日、完全に終了いたします。これからの世界は、我がアルカディアの数理によって、一単位の狂いもなく、完璧な平等と繁栄が『保証』されますわ!」
ルミエラが黄金の魔導ペンを高く掲げると、大聖堂の天井から、全世界の富の結晶である『世界統一皇帝の王冠』がゆっくりと降りてきた。
ギルバート皇太子がその王冠を手に取ると、世界中の誰もが見守る中、ルミエラの美しい赤髪の上に、優雅に、そして絶対的な重みとともに戴冠させた。
「これより、この星のすべての主権は、我が最愛の妻であり、新世界の唯一の女帝たるルミエラ・アルカディアへと奉献される! ――全土に告ぐ、我らが至高の女帝に、命を賭して忠誠を誓え!!」
ギルバートの咆哮とともに、大聖堂の鐘が鳴り響き、数百万の群衆、いや、世界全土の何億という人間が、一斉に大地に額をこすりつけて平伏した。
圧倒的なカタルシス。かつて悪役令嬢としてすべてを奪われかけた少女は、世界のルールそのものをハメ殺し、世界でもっとも高貴な『唯一神の座』へと君臨したのだった。
3. 世界の特等席、極上のハメ殺しの後で
戴冠式が終わり、狂熱に沸き返る帝都の喧騒を遥か眼下に見下ろす、アルカディア・セントラルタワーの最上階。
全面ガラス張りのプライベートルームは、月明かりと星々の輝きだけが静かに降り注ぐ、世界でもっとも静かで、もっとも贅沢な空間であった。
「――ふぅ。ようやく、お上品な仮面を脱ぐことができましたわ」
ルミエラは頭上の重い王冠をソファーのテーブルへと無造作に放り出すと、ドレスのコルセットを少し緩め、ふわりと大きなベッドの上へと身体を投げ出した。
すべてを勝ちきった後の、極上の脱力感。世界を掌の上で転がし終えた彼女の表情は、昼間の冷酷な女帝のそれではなく、ただ一人の男にだけ見せる、最高に無防備で妖艶な少女のそれであった。
「本当にお疲れ様、私の美しい女帝。君のあの完璧な演説と数理ロジックには、地上の王たちだけでなく、私の魂まで完全にハメ殺されてしまったよ」
部屋の影から、漆黒の外套を脱ぎ捨て、白いシャツの胸元を大胆に開けたギルバート皇太子が、ゆっくりとベッドへと近づいてきた。彼の極夜の瞳には、世界を統一した覇者としての冷徹さはなく、目の前にいる最愛の婚約者に対する、狂おしいほどの独占欲と、熱い情熱だけがギラギラと渦巻いていた。
ギルバートはベッドにしなやかに這い上がると、ルミエラの細い身体を、その大きな身体で上から完全に組み伏せるようにして抱きすくめた。
彼の広い手が、ルミエラのドレスの裾から滑らかな太もも、そして細いウエストへと這い上がり、彼自身の所有物であることを確認するように強く、深く愛撫していく。
「んっ……、ギルバート殿下、少し強引すぎなくて? 今日から私は『世界皇帝』なのですから、もう少し敬意を払っていただきたいものですわ」
ルミエラはクスクスと喉を鳴らしながら、ギルバートの引き締まった胸にその白い手を添えたが、彼を拒むような力は1ミリも入っていなかった。
「ふっ、世界がどれほど君を神と崇めようとも、この部屋の中では、君は私の腕の中で鳴くことしかできない、ただの愛しい私の妻だ。君が世界を完璧な数理で縛り付けたというのなら、私はその君の身体を、終わらない私の愛(重力)で永遠に縛り付けてみせる」
ギルバートは低く狂おしい笑みを漏らすと、ルミエラの細い顎を優しく、しかし逃がさないように力強く指先で持ち上げ、そのまま彼女の唇に、深く、激しく、互いの魂を融解させるかのような独占のキスを落とした。
「ん、むぅ……――っ」
息が詰まるほどの熱い抱擁の中で、二人の髪がベッドの上に美しく絡み合う。
無能な連中に裏切られ、どん底から始まった二人の共犯関係は、世界のすべてを勝ちきった今、誰にも邪魔されることのない、永遠の蜜月へと昇華した。
「ねぇ、ギルバート殿下。世界をすべて手に入れてしまった私たちは、これからどうしましょうかしら?」
キスの合間、少し上気した顔でルミエラが妖艶に微笑むと、ギルバートはその潤んだ瞳を見つめ、彼女の首筋に深く、熱いキスマークを刻み込みながら囁いた。
「決まっているだろう。これからは、私たちが作ったこの完璧な箱庭の中で、永遠にインフレし続ける、最高に贅沢で甘美な『二人の時間』を貪るだけだ。君が飽きるその日まで、私は何度でも、君のすべてをハメ殺してあげるよ」
窓の外には、二人の足元で静かに輝く、完全にコントロールされた美しい惑星の夜景が広がっている。
天を仰いでいた少女は、今や世界の理そのものとなり、最愛のパートナーとともに、永遠の栄華のなかへと溶けていくのだった。
完




