第9話 魔力譲渡の条件は、まさかの……
ハンバーガーの衝撃が冷めやらぬ中、
クリスティナが湯気の立つ紅茶を置き、真剣な表情で口を開いた。
「さて……忍をこの世界で維持するための“魔力譲渡”の具体的な方法じゃが……」
アレックスが身を乗り出す。
忍も「これで子供に戻らなくて済む」と期待の眼差しを向けた。
クリスティナは静かに続ける。
「この子が持つ異世界の魔力は、我らのものとは性質が違う。
効率よく馴染ませるには、守護者となる者が――」
言葉を切ると忍とアレックスを一瞥し、
「肌を合わせ、一定時間以上密着し続ける必要があるのじゃ」
「は……?」
「なっ⁉」
一瞬、何を言われたのか理解できなかったが、すぐに、忍の顔が、沸騰したケチャップのように真っ赤になる。
想定外の事にアレックスも言葉を失う。
「肌を合わせ……密着って、それって……」
元は健全な17歳。それなりに知識はある。
忍の頭の中では R18 の場面が浮かんだ。
(///……いや~っ、そういうのは無理無理無理!)
「そう、添い寝が一番手っ取り早いのぅ。手を繋ぐ程度では、漏れ出る魔力を吸うのが精一杯。内側まで満たすには、抱き枕にでもなるのが一番じゃて」
「……あ、添い寝……? そ、そっか……そ、そういう意味……」
一瞬だけ、忍は胸を撫で下ろした。
(よかった……もっとヤバいことかと思った……)
だが次の瞬間。
「そうじゃ、抱き枕にでもなるのが一番じゃて」
「えっ⁉ 添い寝!? 抱き枕!?」
忍の顔が再び真っ赤に染まる。
「ちょっと待って、僕、中身17歳なんですけど!?幼児の身体だからって、精神面まで幼児扱いしないで、このババ……おばあちゃん!」
「ひゃひゃ、照れるでない。これは治療、いわば延命措置じゃよ。……のう、領主殿?」
アレックスは驚愕に目を見開いた後、
スッと忍の小さな身体へ視線を向けた。
その瞳には羞恥心など微塵もなく、
むしろ――
“義務なら仕方ない(いや、むしろ好機!)”
というギラついた決意が宿っている。
(なんだろ……もの凄〜く嫌な予感がするんだけど……)
忍は背筋が寒くなるのを感じた。
「……分かった。忍、今日から私の寝室へ来なさい。
私が君を守護し、魔力を注ごう」
「言い方! 卑猥! 無理無理無理!」
忍は全力で拒否したが、
クリスティナがニヤリと笑って横槍を入れた。
「おやおや、嫌がる子を無理強いしてはいかんなぁ。ならば忍、わしの隠居所へ来るかえ?
同郷のよしみ、魔力の供給者としての資格はあるぞ。アレックスのような暑苦しい男より、年寄りの隣
の方が落ち着こう?」
「なっ……!クリスティナ様、忍は我がコンウォール家で保護すると決めたのです!」
「領主殿、権利を主張するまえに、まずは本人に選ばせねばのぅ」
「ぐっ」
「ひゃひゃひゃ、……さあ忍、どちらの腕の中が良いかのぅ?」
アレックスとクリスティナの間で、忍の争奪戦が勃発する。
一方、忍の脳内は、冷静に“飯の環境”を天秤にかけていた。
(おばあちゃんの家に行ったら、また“無味乾燥料理”に逆戻りするかもしれない。調味料少なそうだし……アレックスの家なら、ボリスと協力して美食三昧。……背に腹は代えられないか……?でもなんか……悪寒というか、身の危険を感じるんだよね……)
忍はアレックスを盗み見る。
究極の選択……
忍は震える声で答えた。
「……わ、分かったよ。アレックスのところでいいよ、ご飯作りたいし!」
「ご飯か……。まあ良い。選ばれたのは私だ」
アレックスは勝ち誇った顔で忍を抱き上げた。
その表情は、
“守護者としての責務”と
“個人的な喜び”
が絶妙に混ざり合っていた。
忍はその意味に気づかないまま、
ただ必死に抗議する。
「だから言い方が卑猥なんだってばぁぁぁ!」
だが、その後――
忍の身体に起きた“副作用”は、
彼自身が想像していたものとはまったく違う方向へ転がっていく。




