第5話
第5話
交差点の信号が長い。
年末仕様だ。
人を急がせない代わりに、考えさせる。
良い設計とは思えない。
朝、缶コーヒーを買った。
微糖。
なぜか今日は、やけに甘い。
「なるほど。新商品」
誰にも聞かれていないのに、そう思う。
彼女は少し遅れて現れた。
約束はしていない。
でも、だいたい同じ時間、同じ場所にいる。
そういうことだ。
「今日は人が多いですね」
彼女が言う。
正確すぎる観測。
「年末だからな」
信号が変わる。
渡り切ったところで、彼女が足を止めた。
路地。
規制線はない。
でも、人が避けて通っている。
「事件ですか」
声は低い。
感情が乗っていない。
「まあ、そうなる。分かってた」
自分でも、刑事としてどうかと思う言い方。
路地の奥。
血はもうない。
洗い流された跡だけが残っている。
時間は経っている。
でも、匂いが残っている。
順序が分かる。
動線が見える。
迷った一秒。
俺のチートスキル。
役に立つけど、気分は良くならない。
「犯人、女ですね」
彼女は軽く言う。
天気の話みたいに。
「理解はした。納得はしてない。それだけ」
視線は合わせない。
合わせる意味がない。
彼女の靴底が濡れている。
雨じゃない。
さっきまで降っていなかった。
「疑ってるんですか」
「判断は保留にする。諦めるのとは違う」
正解じゃない。
でも、外れでもない。
彼女は一歩近づく。
距離が詰まる。
香水じゃない匂い。
洗剤でもない。
完璧なアリバイ。
完璧すぎる。
「黙ってたのは優しさじゃない。面倒だっただけ」
それは、自分に向けた言葉だ。
パトカーのサイレンが鳴る。
一台だけ。
遅れて聞こえる。
彼女が歩き出す。
俺も少し遅れて歩く。
並ばない。
でも、離れない。
「正解かどうかは知らないけど、外れではないと思う」
何について言ったのかは、説明しない。
《これは、誰も生き残る必要のない話である。》
年末の街は、
何事もなかった顔をしている。
だから、深追いはしない。




