第4話
年末の夜は、冷え方が中途半端だ。
厚着を後悔するほどではない。
薄着を悔やむほどでもない。
その判断が、まず失敗だった。
駅前の自販機。
温かい缶コーヒー。
売り切れ。
「多分、俺が間違ってる。でも直す気もない」
そういう顔で立つ。
少し離れた自販機。
同じ配置。
同じ売り切れ。
不幸は連鎖しない。
ただ、並ぶ。
歩道橋を上る。
人の流れが遅い。
急ぐ理由はないのに、急かされる。
段差。
一段、数が合わない。
軽くつまずく。
転ばない。
でも、格好は悪い。
証拠は残らない。
「ここで驚くほど、若くない」
誰にも聞かれていない。
改札前。
ICカードが反応しない。
もう一度。
もう一度。
後ろが詰まる。
詰まる理由は俺。
通れた瞬間、
さっきより少しだけ、肩が重い。
彼女は、改札の向こうにいた。
待っていたわけじゃない。
結果として、そう見えるだけ。
「今日は遅いですね」
彼女は言う。
「判断は保留にする。諦めるのとは違う」
会話としては成立していない。
歩き出す。
歩幅が合わない。
合わせる気もない。
コンビニの前。
自動ドアが一拍遅れる。
彼女は普通に入る。
俺だけ、半拍引っかかる。
小さな失敗。
誰も気にしない。
俺以外は。
棚。
限定パッケージ。
中身は同じ。
それを選ぶ。
理由はない。
「正解かどうかは知らないけど、外れではないと思う」
レジ前で言う。
店員は聞いていない。
彼女は聞いたふりをする。
会計後。
袋が少し薄い。
角が手に食い込む。
破れない。
でも、信用できない。
外に出る。
風が強い。
彼女の髪が乱れる。
直す。
直しきれない。
そのまま。
「一回考えた。十分だった」
自分に言う。
信号待ち。
青になる。
渡り始めた瞬間、点滅。
急がない。
渡り切れる。
けど、余裕はない。
彼女は一歩前にいる。
距離は、縮まらない。
別れ際。
言うべきことは思いつかない。
「理由は後づけでいい。現象だけ見れば足りる」
的外れ。
分かっている。
彼女は少し笑う。
昨日より、ほんの少しだけ。
背中を見る。
追わない。
今日は、そういう日だ。
《これは、誰も生き残る必要のない話である。》
風が強くなる。
手袋を忘れたことを思い出す。
だから、考えない。




