第3話
年末の街は、理由もなく忙しい。
理由がないのに、人だけが多い。
駅前のイルミネーション。
毎年同じ配置。
毎年、少しだけ信用できない。
事件は起きていない。
少なくとも、表では。
俺は立っている。
刑事の顔で。
実際にそうだから困る。
「なるほど。そういうことか」
独り言。
誰にも聞かれていない。
屋台の湯気が視界を遮る。
証拠みたいに。
触れたら消えるタイプの。
通行人の流れ。
右が速い。
左は遅い。
理由は不明。
だから観察する。
彼女は、先にそこにいた。
いつからかは分からない。
そういうのは大体、後づけだ。
「また会いましたね」
声は軽い。
軽すぎて、重さがある。
「こういう日だって、前から知ってただけ」
俺は答える。
質問にはなっていない。
彼女は笑う。
年末用の笑い方。
少し余白がある。
俺たちは並んで歩く。
意図はない。
結果だけが並ぶ。
屋台の列に止まる。
止まった理由は一致しない。
彼女は甘いものを選ぶ。
俺は選ばない。
判断を保留にする癖がある。
「理解はした。納得はしてない。それだけ」
自分に言う。
彼女には向けていない。
風が吹く。
コートの裾がずれる。
証拠にならないタイプのズレ。
彼女の指先。
冷えている。
それだけで、少し情報が増える。
「刑事さんって、年末も仕事なんですね」
探る気はない。
でも線は引く。
「生活の通常運転だ」
本音。
隠していない。
信号が変わる。
誰も急がない。
急がないことが、少し不自然。
雑踏の中で、彼女が言う。
「何か、起きますか?」
「正解かどうかは知らないけど、外れではないと思う」
推理のふり。
結論は出さない。
彼女は納得した顔をする。
していない可能性も含めて。
別れ際。
時間だけが先に行く。
「期待してないわけじゃない。ただ、回収する気がない」
的外れ。
分かっている。
彼女は一瞬だけ止まる。
それから歩き出す。
背中。
人混みに溶ける。
溶け方が、少し綺麗すぎる。
俺は立ち止まる。
追わない。
追う理由が、まだ足りない。
街は年末の音を出している。
事件より先に。
《これは、誰も生き残る必要のない話である。》
屋台の灯りが揺れる。
だから判断はしない。
年末は、そういう免罪符だ。




