最終話
年末の街は、証拠が多い。
だが、どれも採用されない。
飾り。
音楽。
人の浮つき。
全部、毎年同じだ。
俺は刑事だ。
肩書きは、年末に弱い。
朝、靴下を左右逆に履いた。
途中で気づいた。
直さなかった。
こういう日は、直さない方がいい。
交差点。
人が溜まる。
信号はまだ赤。
俺は、誰が先に動くかを見る。
癖だ。
三人。
フライング。
一人、転びそうになる。
事件性はない。
だが、因果はある。
俺は深読みする。
この街は、焦っている。
正解ではない。
一段目の外しだ。
女は、少し遅れて来た。
遅刻ではない。
計算でもない。
「混んでますね」
確認だ。
意味はない。
「年末だからな」
俺は答える。
いつも通り。
正解かどうかは知らない。
外れでもない。
たぶん。
歩く。
屋台。
匂いが混ざる。
焼き。
甘い。
焦げ。
順番が狂っている。
街も、俺も。
女は立ち止まり、看板を見る。
イベント名を読む。
声に出さない。
俺は、その沈黙を意味に変換する。
危険な癖だ。
彼女は、終わりを確認している。
違う。
二段目の外し。
ポケットで、鍵が鳴る。
違う鍵だ。
家のじゃない。
昨日、取り替えた。
理由は忘れた。
理由は後づけでいい。
現象だけ見れば足りる。
女が歩き出す。
俺も動く。
距離は一定。
詰めない。
離れない。
サスペンスは、距離に宿る。
と、思っている。
根拠はない。
人混みで、肩が当たる。
俺じゃない。
女だ。
相手は振り返らない。
年末だからだ。
女は一瞬だけ、俺を見る。
何も言わない。
黙ってたのは優しさじゃない。
面倒だっただけ。
コンビニ。
入る。
暖かい。
BGMが早い。
焦らせる仕様だ。
俺はレジに並ぶ。
ポイントカードを出す。
違う店のだ。
店員は無言。
年末仕様。
小さな失敗。
助かる。
女は缶を選ぶ。
温かい。
銘柄は覚えた。
覚えたが、意味はない。
意味を持たせるのは危険だ。
外に出る。
風。
強い。
紙袋が破れる。
中身は無事。
俺の気分だけ落ちる。
ここで事件の話をするべきだ。
そう思う。
思っただけで、しない。
説明すると長くなる。
しなくても結果は同じ。
俺のチートスキルが、勝手に動く。
人の動線が、線になる。
交差点が濃い。
今年一番、濃い。
ここで何かが起きる。
起きない。
三段目の外し。
女が言う。
「今年、早かったですね」
感想だ。
供述じゃない。
「早い年もある」
俺の答えは、いつも弱い。
歩道橋。
上る。
息が切れる。
年のせいじゃない。
靴下のせいだ。
たぶん。
上から街を見る。
光。
点。
俺は、配置を見る。
因果を探す。
事件は、すべて彼女に繋がっている。
そう思う。
正しい。
が、使えない。
証明できない正解は、
不正解と同じだ。
女が手すりに触れる。
指先。
冷えている。
「寒いですか」
俺は聞く。
遅い。
「平気です」
嘘かどうかは、判断しない。
保留だ。
保留は、諦めとは違う。
遠くで、カウントダウンの練習。
数字がずれる。
合わない。
街は、もう来年にいる。
俺たちは、まだここだ。
女が言う。
「もし、全部終わってたら」
仮定。
危険。
「終わらないものもある」
俺は答える。
逃げだ。
深読みする。
彼女は、別れを用意している。
違う。
四段目の外し。
ポケットで、携帯が鳴る。
マナーモード。
解除されていない。
着信は、営業。
年末仕様。
切る。
小さな敗北。
シリアスが逃げる。
助かる。
女が少し笑う。
理由は不明。
記録しない。
橋を下りる。
人が増える。
音が増える。
事件は、解決しない。
だが、消えもしない。
俺は刑事だ。
それで十分だ。
女が立ち止まる。
信号前。
「来年も、こういう感じですか」
質問に見せた確認。
答えは不要。
「良くはならない」
俺は言う。
続ける。
「でも、悪化もしない気がする」
彼女は頷く。
それだけ。
信号が青になる。
誰もフライングしない。
珍しい。
年末なのに。
《これは、誰も生き残る必要のない話である。》
街は年を越す。
俺たちは、越さない。
だから。
良いお年を。




