第1話
朝から、予感だけが先に来ていた。
理由はない。
ただ、こういう日は、だいたい面倒になる。
駅前のイルミネーションを見る。
一つだけ、点いていない。
去年も、ここだった気がする。
直っていないのか。
また切れたのか。
どちらでもいい。
判断するほどのことじゃない。
自販機の前で立ち止まる。
温かいコーヒーのつもりだった。
ボタンを押す。
ぬるい。
冬のせいじゃない。
俺の選択のせいだ。
でも、飲めないわけじゃない。
だから、そのまま飲む。
失敗ではない。
生活の通常運転だ。
現場は雑居ビルの裏。
年末にしては、人が少ない。
人が少ない場所ほど、
後から増える。
規制線の位置が微妙だ。
少しだけ、狭い。
誰かが焦って張った感じがする。
こういうところに、だいたい原因はある。
部下が何か説明している。
声は聞いている。
内容は、聞いていない。
後で書類を読めば足りる。
被害者は一人。
外傷は少ない。
争った形跡も、ほぼない。
きれいすぎる。
「まあ、そうなるよな。朝の時点で分かってた」
誰に向けた言葉でもない。
現場に置いた。
彼女は、すでに来ていた。
地味なコート。
靴だけが、やけに新しい。
視線が合う。
その瞬間、違和感が増える。
嫌疑は、かかる。
でも、薄い。
薄すぎて、逆に残る。
アリバイは完璧だ。
書類がそう言っている。
完璧なものほど、
信用できない。
だからといって、
崩せるとも思えない。
「理解はした。納得はしてない。それだけ」
自分に言った。
彼女には、聞かせていない。
彼女は何も説明しない。
しないというより、必要がない顔だ。
殺し屋だと仮定すると、
全部が楽になる。
楽になりすぎる仮定は、
たいてい間違っている。
俺のスキルが、頭の奥で反応する。
自分以外にしか効かない。
使えば、何かは分かる。
分かるだろう。
でも、分かったところで、
進まない気がした。
「判断は保留にする。諦めるのとは違う」
声に出すと、
少しだけ静かになる。
彼女は、小さく息を吐いた。
安堵か、失望か。
区別はつかない。
今は、つかなくていい。
年末の街は、勝手に進む。
事件も、人も、俺を待たない。
《これは、誰も生き残る必要のない話である。》
(まだ昼前だ。
今日は、長くなる)




