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勇者たちの功罪  作者: Sin Guilty
第十章

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第099話 『Re: Boy Meets Girl......s』⑧

 間違いなく俺を俺と認識していたとは思うが、俺がどう思ったかよりも朧気にでも記憶があるのであればスフィアから聞いた方がより正確だろう。


 ある意味人間社会や魔王には今のままでも対処できる自信はあるが、スフィアのアレにだけはまだ具体的にどうすればいいという妙案はないままだ。


 思えば前回も「スフィアが苦も無く抑え込めているからまあいいか」と判断していた俺とカインが甘かったのだ。そのスフィアの意識がもしも完全に失われてしまえば、おそらくは撫でた程度でヴァレリア帝国を消滅させたアレが完全に野放しになる。


 それは世界の終焉と同義だろう。

 もちろん俺にとっても。


 あるいは本当のラスボスにもなりかねない、アレについての情報は多いに越したことはない。スフィアの意識があっても条件次第で乗っ取られる可能性を否定できない以上、俺にとっては『魔王の槍』の対処と並んで最優先事項の一つではあるのだ。


「あの、どうしてクナド様はうれしそうなのですか?」


 だがスフィアが困ったような、それこそちょっと引いているような表情でそう問うてきた。


 あれ、自分深刻そうな表情になっていないですか?


 スフィアとて、いやこそが俺の問うた内容が重要かつ楽しいことではないことなど、十分に理解しているだろう。にもかかわらず俺がにやけ面を浮かべていれば、それを疑問に感じても当然である。


「いやまあそりゃ、さすがに嬉しいだろ? 文字通り死んでもスフィアが俺のことを覚えていてくれたんだからさ」


 本音が表情に出ていたのであれば、今更言葉でだけ誤魔化してもしょうがない。

 故にこんな話題をしながらも、俺が締まらない表情を浮かべてしまった理由を正直に答えておく。


 大人げなくアドルにどや顔をしてしまう程、俺は嬉しくもあったのだ。

 スフィアがあんな風になってしまっても、まだ俺のことを認識してくれたことが。


 いやまあそれは当然、やり直せるという前提があったからこそだ。

 もしもそうでなかったら、その方が絶望は深かったかもしれない。


「……クナド様のせい、あるいはおかげです」


「?」


 だが俺の言葉に応えつつスフィアが浮かべた表情も、会話の内容にそぐわないという点では俺に並ぶだろう。


 顔を真っ赤に染めて、少なくとも俺には嬉しそうに見えるからだ。


「私が一度『魔王の槍』によって死んでしまった――殺されたことは間違いありません。即死ではなかったのでとても痛かったのですけれど、それよりも自分がどんな人間かを思い知らされた方が辛かったです」


 確かにそれはそうだと思う。


 死を覚悟した瞬間に、自分の正体をたたきつけられることを俺はよく知っている。

 俺はただ運良く死なずに済んだだけで、その瞬間に自分がなにを考えたのかを忘れることなんて、それこそ死ぬまでできないと思う。


 それが文字通り死に至る激痛の中でとなると、生き延びた後に自己嫌悪などという生温いものではない感情を得てしまうのも当然だろう。


「……ごめん」


「クナド様はなにも悪くありません。ですがその時私がなにを思って死んでいったのかは誰にも――いえクナド様だけには言いたくありません。ごめんなさい」


「……うん」


 それは俺だってそうだ。


 きっと俺の場合は生き延びた、スフィアの場合は生き返った時に感じた安堵以外の感情もあるからこそ、どうにか平気な顔をして生きていけるのだろう。

 だけど死に限界まで晒されたことによって自分の醜さと、その瞬間になにを悔いるかを思い知ったお互いだからこそできることも、築ける関係もあると思うのだ。


「ですが死の瞬間は明確に『許さない』と思いました。私を殺したものを。クナド様との約束を果たせなくしたものすべてを。ですから少なくともヴァレリア帝国を滅ぼしたのは、間違いなく私の殺意です」


 だからこそ最初、スフィアは沈んでいたのだろう。死の瞬間の自分の感情が、罪なき民草をも巻き込んで一国を消し飛ばしたとわかっていたから。


 だがそのことは片が付いた。


 あくまでも俺とスフィアの間でというだけだが、逆に言えばそこさえ折り合いがつけば外野からなにを言われてもどうでもいいのだ。


 だからこそその言葉とは裏腹に、今のスフィアは熱に浮かされたような潤んだ瞳でどこか恥ずかしげな表情を浮かべているのだろうが、その理由がいまいちぴんと来ない。


 俺のせい、もしくはおかげ?

 それはどういう――


朦朧もうろうとはしていましたが、生き返ってからも意識はずっとありました。なぜならクナド様がつけてくださった印がずっと熱くて、自分が自分であることだけははっきりしていたからです。その状態でなにをやったかのかもすべて覚えています」


 ……ああ、なるほど。


 俺は死んでしまったスフィアの身体にアレが引っ張られた結果だと思っていたけれど、ああなってもまだ主導権はスフィアの方にあったのか。そりゃそうか、アドルだってスフィアの奇跡によって右脚一本から蘇っているのだ、身体が蘇生されれば意識もまた戻るのは道理ではある。


 ただしスフィアの場合は蘇生によって朦朧としている隙に神様的なアレに一時的に支配され、あの姿に変じてしまったのだ。またスフィアが初めて感じた痛みや恐怖、それに基づく怒りがアレと合致したことも、初手でヴァレリア帝国を消し飛ばしてしまった理由の一つではあるのだろう。


 ……そんな状態でもスフィアの方が支配権を取り返せた理由があの印だったのなら、スフィアがこんな様子になるのもまあ仕方がないか。


 ――ないのか?


 強い想いとか感情だけではなく、かなり直截的な、身体に刻まれた印のおかげで自分を取り戻せたというのは確かにちょっと気恥ずかしいよな。


 でもまあ実際のところ、心こそが高尚で肉体は卑俗なものだという考え方そのものが、複雑な思考を手に入れたが故の人間の傲慢さを象徴してもいるのだろう。俺だってスフィアだって、身体に引っ張られたことを気恥しいと思ってしまうのは、少なからずそういった思想に毒されているからなのかもしれない。


 いや、これはお互いが体に付けあった痕という生々しさが恥ずかしいだけか。


 人間だって所詮は動物の一種なのだ、肉体の呪縛から逃れられるはずもない。

 神様らしきアレだって己が器としてスフィアの身体に執着しているのだから、肉体とそれに基づく本能こそが、心や精神を生み出す根幹にあるのだと思う。


 それは決して逆ではないのだ。

 だからこそスフィアは、印のせい、あるいはおかげで自分を取り戻せたのだろう。


『Re: Boy Meets Girl......s』⑨

2/2 17:00以降に投稿予定です。


タイ出張で体調崩しておりました。

33℃と5℃の落差はダメだ……


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2月上旬まで毎日投稿予定です。

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