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【毎日更新】 勇者たちの功罪 【ハッピーエンド】  作者: Sin Guilty
第十章

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第097話 『Re: Boy Meets Girl......s』⑥

 スフィアだけが、罪のない――とスフィアは思っているのだろう――ヴァレリア帝国全土で暮らしていた人々を巻き込んで消し飛ばしたことは、それは確かにそうなのだ。


「それについちゃ俺の方が上だな。俺はヴァレリア帝国どころか世界を滅ぼした」


 だからこそ、俺はあえて気楽にそう言い放つ。


 こう言えばスフィアは、少なくとも俺に対してだけはそのことを気に病むことはできなくなる。たとえそれが無理をした、ただのふりだとしても。自分よりやらかした奴が側に居れば、そんなふりとていくらかはやりやすいはずだ。


 いくら考えてもどうしようもない、言ってみれば絶対に消えない傷痕のことなど、どれだけ気に病んでも仕方がない。だったら理由をつけて、忘れたことにしておくのが一番マシだと俺は思う。


 無責任とのそしりは甘んじて受ける所存である。

 残念ながら俺たちを弾劾できる記憶を持った者など、ただの一人もいないわけだが。


 そういう問題ではないということも当然理解しているが、俺が再構築した世界では全員が生き返っているのだから、あのまま世界が終わってしまうよりはいくらかはマシなはずだ。


 だがこれからの8年間でかつてと選択肢を違える者がいれば、生まれていたはずの命が生まれず、手に入れていたはずの幸福を逃す人だっているだろう。

 当然その逆もしかりだろうが、それをもって許してもらおうなどとは俺は思っていない。

 放っておけば、最終的に世界が滅んだであろうことを免罪符に掲げるつもりもない。あくまでそれは自分を納得させるための一つに過ぎず、他者に振りかざす気はないのだ。


 俺は世界のためなどではなく、あくまでも俺の望みの為に世界を滅ぼしてやりなおすことを選択した。そのためだけにこの8年間、世界中で生きていたすべての人たちが真剣に選択した結果の積み重ねである現実を拒絶したのだ。


 俺以外の、ほぼすべての人たちの8年間を否定したようなものだ。

 そのことだけは誤魔化さずに心しておかなければならないと思う。


 反省なんかするはずもない。

 だが俺は知らねえ、そんなつもりじゃなかったんだ、とも絶対に言わない。


 俺は言葉遊びではなく、実際に「世界より大切なものがある」を実行したのだ。

 それを誇らしく思っている時点で、俺はいい人なんかではない。少なくともこの世界にとっては間違いなくそうだろう。


「ですけれど、それは私の――」


「――せいでもためでもないよ」


 そしてこれだけはスフィアに明言しておく。


 スフィアが俺のやらかしたことを自分のせいだと思ってしまうこと、自分のためだと思ってくれることは素直に嬉しい。


 だが間違いなく世界を滅ぼした本人である俺が、誰かの「せい」だとか「ため」だとか言い出すのは一番やばい。いや口に出さずとも、思っているだけで個人的には十分アウトだと思う。


 他責思考というのは、一度やったらやめられない麻薬の如きたちの悪さがあるのだ。

 「せい」はまだ見苦しいだけで済むが、「ため」とか言い出した日には自己犠牲に酔いしれる気持ち悪さも加わるのでホントに手に負えない。


 もうこれ以上、要らん黒歴史を作るつもりはないのだ、俺は。


「それに本質的にはアドルだって俺とそう変わらないぞ? あいつ、クリスティアナ殿下が殺されたと理解して以降は本気でブチ切れて、帝国騎士を殺しまくっていたからな? クリスティアナ殿下もカインも、生き残っていたらきっと同じことをしていただろうし。まあその2人はこれから王家と魔導塔に対する自分の態度でそれを示そうとするだろうから、楽しみにしていようぜ」


 なにも俺は自分一人だけでご立派に、世界を滅ぼす覚悟が決められたという訳ではない。


 当の本人は忸怩じくじたる想いを持っているのだろうけれど、アドルが最後に巻き散らかした純然たる殺意が、俺には心地よかったのだ。


 クリスティアナ殿下にだけは機会があって本人が望まれるのならば話していいとは思うが、それ以外にはたとえスフィアであっても言うつもりはない。それほどまでにクリスティアナ殿下を殺された後のアドルは、金色の夜叉そのものであったのだ。


 一番大事な人がいなくなった世界など、たとえどうなろうと知った事か。

 自分もいなくなるまで、壊せるだけ壊しつくしてやる。


 そんな考え方が正しいとか間違っているとか論じるつもりなどない。

 まあ通り一遍に言えば、多分間違っているのだろう。


 それでも俺はそんな風に見えたアドルがいてくれたからこそ、ほとんどためらうこともなく、俺の気に入らない世界を生贄に捧げてのやりなおしを選択できたというだけだ。


「でもクナド様は――」


 そういって言葉に詰まり、切なげに目を伏せるスフィアはなんだかんだ言ってやっぱり、聖女と呼ぶに相応しい心根の持ち主なのだと思う。


 なぜならば俺がスフィアと世界を天秤にかけてスフィアを選んだことに対して、罪悪感を抱いていると思ってくれているらしいからだ。


 申し訳ないのだが、まったくそんなものはない。


 いや正直に言えば申し訳ないというよりも、俺をあんまり過大評価、あるいは過小評価してくれるなという気持ちの方が強いか。


 スフィアを含めた友人たちと、それ以外の世界なんて比べるまでもない。

 一緒にいて楽しい相手もいない世界をそれでも守らなければならない理由なんて、悪ぶっているわけでもなんでもなく全く思いつかないのだ。

 

 『平等』なんぞという寝言は、普通に生きてりゃお題目に過ぎないってことに誰だって気がつく。誰だってなんにでも優先順位をつけて暮らしているし、それが悪いことだとも実は誰も思っちゃいないだろう。


 もしも自分の命と顔も知らない他人の命が同じ重さだと真顔でいう奴がいるなら、そいつは重度の精神病質者サイコパスか極度の自己陶酔者ナルシストだと思う。少なくとも俺はそうだと見做す。


 同じ綺麗ごとでも、目指すのであればまだしも『公平』の方がましだろう。

 それとても実現できるなどとは到底思えないけれど。


 要はできるかできないかだけで、誰だって俺の力を与えられていたら同じようなことをすると俺は思っているのだ。


 いやそれも正確ではないな。

 別に「誰だって」などと、無駄に主語を大きくする必要なんてない。


 俺が思っている、いや信じているのは――


「俺は勝手に信じているんだよ。俺と同じ立場だったらスフィアも同じ選択をしてくれるってな。それはアドルやクリスティアナ殿下に対してだってそうだ。そういう意味ではカインが一番すごいのかもしれないな。だって俺にとってのスフィア、アドルにとってのクリスティアナ様のような存在がいないのに、そうしてくれるって信じられるんだからさ」


 俺がしでかしたことを、俺と同じ力を持っていて同じ状況に置かれたらためらうことなくやってくれる。いや俺よりももっと冴えたやり方を見つけてくれたかもしれない。


 俺が世界と天秤にかけるまでもなかった連中が、俺と同じことをしてくれると信じることができれば、後はまあ大体のことにしり込みする必要などなくなるのだ。


 少なくとも俺は。


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