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【毎日更新】 勇者たちの功罪 【ハッピーエンド】  作者: Sin Guilty
第十章

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第096話 『Re: Boy Meets Girl......s』⑤

 気に食わなかったら世界をやりなおせるかもしれない相手に、この世界は捨てたものではないと思わせようとするのは、王族の1人としては当然の判断とでもいった所か。


 まあ今回はやむない仕儀だったとはいえ、気に食わないからとポンポン世界をやりなおされてはたまったものではないというのは理解できる。記憶が継続するかどうかも俺次第な訳だしな。いや、記憶が継続していながら何度もやりなおされてしまう方がキツいか。


 とにかく偉い人っていうのは、善かれ悪しかれ信義のみで行動するべきではないのだろう。

 利害損得を絡めず信義のみを声高に語るようになったら、その偉い人が偉くなくなる前兆だと思った方がいいのかもしれない。


 大多数に利を与えられる、少なくとも与えられていると錯覚させてこそ偉い地位を維持できるのだと思う。偉い人はとりもなおさず、偉いと思ってもらえることをできなければならない。それができない偉くないのに偉い地位にいる人は、結局は革命なりなんなりで吊るされることになるのだ。


「よろしくお願いしますセバスさん。とりあえずは2階に誰も上げないでくれれば構いません。書斎は2階ですか?」


 おそらくは俺に対する扱いについてもこの短期間で言い含められているのだろうセバスさんは、適度な距離感――俺がちょうどいいと思う感じに即調節してくれている。

 この人が側に居てくれるというのは、最初の3年間と違ってかなり立ち回りやすくなる気がするな。


 ありがたい、なんとしても味方に引き込もう。


「左様です。ご案内いたしましょう」


「よろしくお願いします。ああ、それと今日、聖女様はこの屋敷には来ていません」


「仰るとおりでございます」


 即答である。


 最初からまるでスフィアをいないものとして扱っていたのは、俺がこう言うことを予測できていたからこそなんだろうな。これでクリスティアナ殿下にお願いしなくても噂雀が騒ぎださないのであれば、セバスさんは王家中枢に対する影響力も強いということになる。ますます味方にしておく必要があるな。


 とはいえまずはスフィアだ。


 素直についてきてくれているから拒絶されているわけではないと信じたいところだが、いくらなんでもいつもと様子が違い過ぎる。聖女モードとしてはもちろん、勇者パーティーの仲間たちといる時の素ですらない。


 正直ちょっと不安ではあるのだ。


 ◇◆◇◆◇


 あまりにも俺には似つかわしくない、立派な書架に古書から新書までがぎっしり詰まっているまさに書斎に気後れしながら、とりあえず応接セットの片方に腰を下ろしてスフィアに対面に座るように促す。


「さて」


 セバスさんが見事な一礼をして退出したタイミングで、俺から会話を切り出した。


「主観的にはほぼ5年ぶり……なはずだけど、その様子からすると、もしかしてスフィアは最後の記憶もある感じ?」


 スフィアは俺の問いに一瞬だけ躊躇した後、まるで人形のようにことりと頷いた。

 まあそれくらいしか、スフィアがこんな様子になる理由なんてないよな。


 即死だったらしいカインとクリスティアナ殿下とは違い、『魔王の槍』に貫かれて死んだのであれば、かなり苦しんだ可能性が高い。そればかりか自分の身体がナニカの器としてヴァレリア帝国と魔大陸を壊滅させ、はては魔王まで瞬殺した記憶があるとすれば、これは相当にきついだろう。


「……やっぱりすごいなスフィアは」


 それでも錯乱状態になどならず、落ち込んではいても自分を保てているのだからたいしたものだと思う。これは贔屓目などではなく、俺は自分が殺されたことをきちんと認識した上でもしっかりしていたアドルにも、本当に感心していたのだ。


 とてもではないが、俺にはそんなふうに在れる自信がない。


 かつて一度だけ本気で死を覚悟した時の俺のみっともなさといったら、どうにか生き延びた後はもうなんか、いろいろ格好をつけるのがばかばかしくなるくらいのものだった。

 あの時の精神状態のまま本当に殺されて、その上で脈絡もなく過去に戻っていたらさぞや錯乱したことだろう。


「……凄くなんかありません。わたくしは死ですら克服できると思いあがった結果、成す術もなく殺されてしまった迂闊者うかつものです」


 とりあえず体感的には、5年ぶりにスフィアの声が聞けてほっとする。


 だけどなるほど、スフィアは自分が殺されたせいでこんな展開になったと捉えているのか。まあわからなくもないけどな。


「それはみんな一緒だろ」


 慰めなどではなく、これは純然たる事実に過ぎない。


 アドルも、クリスティアナ殿下も、カインも、勇者だ、剣聖だ、賢者だなどといわれていながら、たかが一個騎士団程度の戦力にあっさりと一網打尽にされたことは言い訳の余地もない事実なのだ。


「それはっ――」


「もちろん俺も含めてな。今からの王立学院生活の3年に加えてスフィアたちが旅立ってからの5年、合わせて8年も時間がありながら王女、賢者、聖女を殺せる手段があり、それをつかって勇者パーティーを暗殺する陰謀が画策されていることに、まったくもって気付けなかったんだ。なんなら野望の中心地だったはずの王都にいながらにして、って俺が一番迂闊者だろうよ」


 反射的に仲間たちを庇おうとするスフィアをさえぎり、肩をすくめて俺が言葉を重ねる。


 なにも俺はスフィアを含めた勇者パーティーだけを間抜けどもよとわらうつもりもなければ、そんなことができる立場でもない。それどころか自虐でもなんでもなく、間抜けぶりで言うのであれば俺が突出しているのは間違いないのだ。


 ただの冒険者としてならまだ自虐だともいえようが、よりによって俺は『三位一体トリニティ』のリーダーとして、少なくとも王家と魔導塔とは密接な関係にあったのだ。そうでありながらも護国の英雄だのなんだのとおだてあげられてその気になり、まんまとなにも気付けずにいたのだから、どんな罵詈ばり雑言ぞうごんを投げつけられても甘受するしかない。


 お前なんのために1人で王都に残っていたんだよ、って話なのである。


 さすがに俺も含めてみないっしょ、という結論の前にはスフィアも沈黙しか選べまい。

 自罰的な態度を、絶対に優しくしてくれるとわかっている相手にするのはある意味卑怯なのだ。もちろんスフィアはそんなことなど百も承知のはずだけど。


「……ですが私は、ヴァレリア帝国を消滅させました」


 その上でスフィアがそう見える態度を取らざるを得なかったのは畢竟ひっきょう、今絞り出すようにして口にした事実に尽きるだろう。


 クリスティアナ殿下とカインは一方的に殺されただけ。

 アドルは殺されるまで尋常ならざる殺戮を行ったが、その相手は自分たちを殺そうとしていた帝国騎士たちだけだ。


『Re: Boy Meets Girl......s』⑥

1/28 17:00以降に投稿予定です。


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2月上旬まで毎日投稿予定です。

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