第094話 『Re: Boy Meets Girl......s』③
比べるようなものじゃないと逃げるのは簡単だが、具体的にそういう基準があるとなれば負けてはいられないなあと思っているクリスティアナなのだ。だからこそ、今自分が身内によって殺されたことよりも、アドルが殺されたことにどれだけ憤っているか、2人きりになった時には正直に、正確に伝えようとも思っている。
――よくもくだらない妄執のために、私の想い人を殺してくれましたね。
それが嘘ではないと、第一王女として非主流派たちに対してどれだけ苛烈に対処するかを見てほしいと思う。カタチも立場も違っても、自分だってスフィアに負けないくらいの湿度を持っている自覚があるクリスティアナなのである。
「別に僕はクナドの心配なんてしてないよ。だけど自分の為に世界を滅ぼしてしまえる男ってどうなの? さすがに重すぎない? どんびかれたりしない?」
だがアドルは少々、いや相当に的外れな心配をしているらしい。
クナドのことをそこまで信頼しているのはさすがだが、スフィア、というよりも女の子という生き物に対して、か弱く可愛らしいだけだという幻想を未だに抱いているらしい、アドルは。もちろん戦闘力的な意味ではなく、心の在り方についてではあるのだろうけれど。
というかスフィアのことを心配しているようで、結局はクナドのことを心配しているだけだという事実にクリスティアナはちょっと笑ってしまった。
「あら。アドル様は私の為に、世界を滅ぼしてはくださらないのですか?」
「そのつもりだったけど、世界どころか国や騎士団一つですら無理だった男だよ、僕は」
少なくとも私は引いたりしませんよと軽くジャブを振ったら、予想外のカウンターを決められてクリスティアナは真っ赤になって黙ってしまった。
さすがはクナドの幼馴染というべきか、できなかっただけでそのつもり――アドルもまたクリスティアナを殺した世界を滅ぼしてやろうと思っていたのだ。それを本気で、それでいて悔しげに明言されてしまえば、恋する乙女としては成す術などない。
そんな言葉にただ素直に喜んでしまう自分はずいぶん簡単な女ですねと、クリスティアナはよりいっそう赤面することしかできない。
だがアドルとて適当なことを言っているわけではない。
クリスティアナが殺されたのだと自覚して以降は、一切の容赦も躊躇いもなく帝国騎士たちを殺戮していた自覚がある。クナドのように世界を再構築するためだとか、スフィアに世界を滅ぼさせないためだとか、そんな崇高な目的も意志もまったくなかった。
ただ純然たる憤怒と殺意。
殺してやるとだけ思って、実際に殺せるだけ殺した。
ただそうした本人だからこそ、自分だけは騙せない。
憤怒と殺意に支配されていた時でさえ、自分は世界を滅ぼせると本気で信じていたわけではないのだと。
世界を滅ぼすつもりで目の前の敵を殺し続けたことと、本当に世界を滅ぼすことが同じなわけがない。よしんば根底にあった思いは同じだとしても、至った結果が違い過ぎて、クナドと同列に語ることなどアドルにできるはずもないのだ。
事実としてクナドが今のこの世界を再構築してくれていなければ、アドルは想い人を殺されて自棄になった上、最終的には惨めに殺されてしまった負け犬でしかなかった。
だがクリスティアナの表情と態度を見れば、そういうことではないのだとアドルも理解できてはいるのだ、一応は。
もちろん結果も大事だが、アドルがそう思ってくれた事実こそがクリスティアナにとっては大切だと思ってくれているのだろう。だからこそクナドだって、結果だけを見れば成す術なく殺されて世界を滅ぼしそうになっていたスフィアを見て、どや顔にだってなれているのだ。
おかげで精神年齢的にはいい年をした2人が、見つめあうことすらもできずにお互いに赤面してもじもじするという間抜けな絵面になってしまっている。
だからこそアドルもクリスティアナも、今こうしていられるようにしてくれたクナドには生涯頭が上がらないことを自覚していた。どや顔をされるくらい、むしろ当然だと思ってしまう程に。
「君たちは私が1人だけあぶれているという事実に、もう少し気を使った方がいいと思うのだが」
私はなにを見せられているのだと言いたげな仏頂面で、カインがそうつぶやく。
別に本気で羨ましいというわけではないが、さすがにもう少し独り者に対する心遣いくらいはあってもいいと思うのも本音なのである。
――だいたいこいつらは5年間の旅の途中でも隙さえあればこうやって、らぶらぶちゅっちゅ(クナド語)とまあ、ほんとうに……
「ごめん」
「申し訳ありません」
「素直に謝られた方がより腹立たしいとはな。これは新発見だ」
本気で申し訳なさそうにしている2人を、カインは軽い嫌味で赦してやることにした。
今回の勇者パーティーが5人になるのであれば、2組のカップルが安定してくれている方が自分の心労も少ないだろうと納得したのだ。
――勇者パーティーが色恋沙汰に現を抜かしているのはどうなのだと思わなくもないのだが、こいつらの場合はそれが原動力になるのだからまあよかろう。
実際にクナドがここまでスフィアに惚れてくれていなければ、世界は悲劇のままに終焉していたかもしれないのだ、文句を言える者など誰もいないのだと思うとちょっと笑えるカインである。
「ですがアドル様、カイン様。あまり女の子を侮らないでくださいね? 世界を天秤にかけて迷いなく自分を選んでもらえることに喜びこそすれ、引いてしまうようなか弱い存在ではないのです、恋する女の子は。ただし好きな人相手に限りますけれど」
クリスティアナは真っ赤になりつつも、そのことだけは明言する。
アドルの心配は的外れで、そこまでされて喜びこそすれ引くことなどはありえないのだと。
「私はクリスティアナ殿下の最後の言葉こそ、最も女性が怖いところだと思うよ」
「ただしイケメンに限るってやつだね。クナドが最も忌むべき言葉だって嘆いていたね、そういえば」
どうやら男どもは「ただし」の後がシビア過ぎてへこんでいるらしい。
だがクリスティアナにしてみればアドルは自分の好きな人だし、クナドは言わずもがな、カインは想定する相手もいないのに不思議なことだと思う。
「あら、男性は違うのですか?」
それにそこは殿方とて同じだと思うのだ。
全く同じ行為、言葉、想いであっても大事なのは誰が相手かであって、それらそのものではないのは恋愛においては当然だろう。試験や救世の様に、誰が出した結果であっても同じように評価されるはずがない。
あるいは恋愛こそが、この世に平等などありえないという一番の証明なのかもしれない。
『Re: Boy Meets Girl......s』④
1/25 17:00以降に投稿予定です。
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