第092話 『Re: Boy Meets Girl......s』①
「……さて、あの2人になにがあったと思う?」
クナドとスフィアが扉の向こうに消えてからしばらく沈黙を維持した後、カインがこの場に残ったアドルとクリスティアナに当然の疑問を投げかけた。
ちなみにカインは状況を理解すると同時にこの場に魔法防御陣を展開しており、クリスティアナはあらゆる敵意や攻撃の照準が自分に集中する剣聖の技を発動させている。
王城内で武器を抜くにも等しいこの行為は本来許されるものではない。
だが魔王に勝てると判断できるまで成長していたカインとクリスティアナは、技や魔法の発動を隠蔽する技術にも長けている。
だからといって、まだ今の時点では派手な宣戦布告をするつもりなどない。
それでも最大限の警戒をしておくべきだと判断したのだ。
なんと言っても自分たちは同じ人間、どころか身内の裏切りよって殺されたのだ。
もはや王城など、魔王城よりも油断できない場所でしかない。
また苦もなく技や魔法の隠蔽ができたことによって、自分たちの力が再構築される寸前――つまりは殺された瞬間のものを引き継いでいることも確認できた。
つまり勇者パーティーは『強くてニューゲーム(無双)』状態ということである。
「まず間違いなくアレが原因だろうね」
カインの問いかけに対して、アドルが真面目な表情でそう答える。
そのアドルは自身も本来の今の時期よりもはるかに強化された状態であることを確認するために、勇者モードと通常モードを交互に切り替えている。クナドがその様子を見ていれば、まず間違いなく「お前は切れかけの電球か」と突っ込んだことだろう。
その結果、確かに強くてニューゲーム状態であることは確認できたが手元には聖剣しかなく、全身を固めていた神遺物級武装は魔物支配領域や迷宮の最奥に今はまだ設置されたままだ。
それらすべてを封じられた勇者は、魔王どころか帝国騎士団の一つや二つですら潰すことができずに殺されたのだ。今はまだその程度の戦力でしかないことを嫌というほど思い知らされたアドルは、とてもではないが安心する気になどなれない。
今この瞬間にもクリスティアナを殺せる仕掛けがあると思うと居ても立っても居られないのだが、その態度から潜在的な敵どもに警戒されることこそ、今一番避けねばならないことくらいはわかっている。
だから今は、勇者に選ばれるという幸運に幸せ絶頂の田舎者を演じなければならない。
思えばこの頃の自分は能天気にクリスティアナに見惚れてばかりで、あの間抜けぶりを今の自分が再現するのはなかなか難易度が高い。不安材料さえなければ簡単なのだが。
ともかくアドルが口にしたアレとは、時折スフィアに降りてきていたナニカのことだ。
カインが禁呪や古代魔法を発動させると自動的に排除するべく顕われ、苦も無くスフィアに抑え込まれていた、おそらくは聖教会が神と崇めている存在であろうアレだ。
つまりは『奇跡』の源泉。
アドルは死の瞬間、そのナニカを最も警戒していた。
勇者とはいえ死んだらおしまい。
それは剣聖でも賢者でも変わらない――変わらなかった。
その事実はクナドの話からも確定している。
どれだけとんでもない力を有していようとも基が人である以上、死から逃れることは能わないのだ。
だが聖女だけはその限りではない。
なるほど『魔王の槍』とやらは、あらゆる奇跡を無効化するとんでもない切り札だったのだろう。実際、為す術もなく一度スフィアは殺されたのだ、その力に偽りはない。
だが帝国騎士団は念には念を入れるつもりで、最も余計なことをした。
『魔王の槍』に貫かせたままスフィアの身体が朽ちるまで放置しておけば、今代の聖女――神の器を完全に殺しきることもできたかもしれない。だが大砲の斉射で吹き飛ばしてしまったおかげで、スフィアの身体と一緒に奇跡を封じていた『魔王の槍』もバラバラにされてしまったのだ。
あるいは欠片になってもなお『魔王の槍』は本来の力を発揮していたのかもしれない。
だがバラバラになって槍から離れたスフィアの身体に効果を及ぼせないことは、直接貫くまで効果を発揮できなかったことからも明らかだ。近くに在るだけで封じられるのであれば、常時少しだけ浮かんでいるスフィアは即座に異変を察知できただろう。
そしてスフィアの奇跡が別に体の主要部分からでなくとも欠損個所を再生できることを、油断して左脚しか残らなかったところから再生してもらったことがあるアドルはよく知っている。
だがスフィアはああ見えて普通の女の子だ。
あまりにも強力な奇跡が、戦場に身をおいてでさえ普通の女の子であり続けることを可能にしてしまったのだ。だからこそ我が身に突然降りてくる神とされるナニモノカの悪意を、クナドに嫌われたくないという想いだけであっさりと抑えこめていたのだともいえる。
だが『魔王の槍』に貫かれて、その普通の女の子――スフィアは死んだ。
生まれた時から桁違いの奇跡を起こせ、また自動的に発動する奇跡に守られていたスフィアは、激痛などというものをまるで知らなかった。それが即死すらできず、初めての激痛の中で奇跡は起きぬままに、スフィアは一度完全に死んでしまったのだ。
よって肉片からでも再生された『器』から、スフィアの魂とでもいうべきものはすでに抜け落ちてしまっていたとしても不思議ではない。そこに己が愛し子を、器を破壊されて怒り狂った神が降りたとすればどうなるか。
クナドが語ってくれたとおり、『魔大陸』ごとヴァレリア帝国を消し飛ばすくらいは平然とやらかすだろう。つまりは死の瞬間にアドルが畏れたとおり、人は自らの手で魔王よりも恐ろしいナニカを生み出してしまったということになる。
だとすればクナドがまだやりなおせる過去を再構築するしかなくなったことも、再構築されてからのスフィアの様子がおかしかったことにも説明がつく。
あるいはスフィアに――もとはスフィアであったナニカに世界を滅ぼさせないためにこそ、クナドは自ら世界を滅ぼすことを選択したのかもしれないのだ。
「だからクナド様は、自らが世界を滅ぼすことに躊躇なさらなかったのですね……」
クリスティアナもスフィアに時折降りてくるナニカについては当然知っていたので、アドルがたどり着いた予想と同じ場所にたどり着くのはさほど難しくはない。またクリスティアナもその前提に立った方が、クナドの思い切りが良すぎる行動と、先刻のスフィアのらしくない様子に納得がいくのだ。
「まあそれについちゃ、その結果として過去を再構築するという目的の為だっていうのもあるとは思う。だけどまあ、ぶっちゃけると僕らも含めてそれはおまけのようなものだろうけどね」
「それはそうだな。クナドの思い描く理想に、私たちだけではなく世界も含まれていたことをまずは感謝すべきなのだろう」
『Re: Boy Meets Girl......s』②
1/23 17:00以降に投稿予定です。
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