第090話 『ハジメマシテをもう一度』⑥
特にアドルはきっちり殺された。
その際に敗者側からみた勝者が、なにを宣おうとも敗者にとってはどれほど度し難いかを思い知ったのだ。
正邪善悪だけでは割り切れない、人間同士の殺し合い。
それをすると決めたのであれば、そこにありもしない憐憫や理解などを匂わせるほど醜悪なものはないと、いやというほど理解させられたのである。
最終的に殺されたとはいえ、それまでに自分が何人の帝国騎士を殺したかなど覚えていない。仲間を、大事な人を殺された激情と、自分を殺そうとしてくる敵に対する当然の反撃として、なにも考えずに殺せるだけ殺した。
敵ならば躊躇などせず必ず殺す。
敵を生かすのであれば、その方が自分たちの利になるという明確な根拠がなければならない。仲間たちを説得する為などではなく、自分が納得するためにこそ。
その覚悟があって初めて、相手は自分たちに敵と見做されることを躊躇うようになる。
余人では得るべくもない「本当に一度殺される」という経験は、かくも人の在り方を変じさせるのだ。馬鹿は死んでも治らないらしいが、逆に馬鹿でさえなければお人好しや楽観主義程度であれば治るものとみえる。
「できればその3年のうちに、専用装備を回収しておきたいところだけど……」
とはいえ結局は力――国家が擁する軍すら歯牙にもかけない圧倒的な暴力を自分たちが持たなければ始まらない。過去に再構築された自分たちの力がどれほどのものなのかは後で試すとして、今はクナドとは違う勇者パーティーとしての5年で知り得た知識がある。
魔王がいる魔大陸へ挑むために揃えた、各々の職に特化した神遺物級武装の数々。
当然それらがどこにあるかなど知る由もなかった1周目は、片っ端から魔物支配領域と迷宮を攻略していくしかなかった。結果として『魔大陸』の大陸周回周期に間に合いつつ、ほぼ完全に大陸再征服を達成できたので最終的には問題はなかっただけで、相当な無茶をアドルたちは敢行していたのだ。
だが今はどこにアタリがあるのかを分かっているし、それぞれの魔物支配領域や迷宮にどんな魔物が湧出していて、最終階層主がどんな魔獣なのかもすべてわかっている。最悪の場合、一国どころかその連合体である汎人類連盟そのものを敵に回す可能性もある以上、自分専用の神遺物級武装を揃えておきたいというのは道理だろう。
「確かにな。だがそれには距離の問題が……」
カインとてアドルの言っていることに異論などないのだが、いかんせんアタリがある魔物支配領域、迷宮はどれもアルメリア中央王国からは遠いのだ。どこも王立学院の夏季長期休暇をすべて使って、攻略も含めて往復可能なぎりぎりの位置にある。よって1年生から3年生まですべての夏季休暇をそれに費やすとしても、せいぜい3つが限界なのだ。
少なくともこの国を掌握できるまでは王立学院で力を鍛えているふりをしておく必要があるので、長期休暇以外は動けない。逆に掌握できたのであれば戦力増強を急ぐ意味は薄くなる。
わりと嫌な二律背反が成立しているのだ。
なかなかに頭の痛い問題だが、カインとしては自分が短距離転移魔法以上を使えればという、忸怩たる思いがあるのだろう。
「それについては俺とカインでなんとかできると思う。カインはすでに超長距離転移魔法をその『魔眼』で見ているだろう?」
「だがあれは『魔導器官』ありきの術式だったが」
だがこともなげにそういうクナドに、カインが怪訝な表情を浮かべた。
クナドは王立学院の3年間、カインの禁呪と古代魔法の再構築にみっちり付き合わされたおかげで、そこらの魔法使いよりもよほど魔法――というよりも構築術式に詳しい。自分の目で見たそれをできるだけ正しくカインに伝えるために、可能な限りの知識を叩きこまれたからだ。
確かにかつての卒業式の日の魔人襲来で、カインは超長距離転移を己が魔眼で捉えた。
だがその構築術式には魔族のみが有する『魔導器官』――外在魔力を吸収して我がものとできる魔族特有の器官――、それもかなり強力なものが必須であり、人間には行使不可能な魔法だとの結論はすでにクナドとも共有している。
にもかかわらずクナドがそんなことを言う理由が、カインにはわからなかったのだ。
「今の俺は『魔導器官』をもっている。ほれ」
だがそういったクナドがわりとアホの子みたいにぱかっと口を開けると、そこには2本の長い乱杭歯――他者の血(命)を吸うための『吸血鬼の牙』が生えている。
それに加えて灼眼に変じているクナドの左眼は、外在魔力を吸収できる。外在魔力が極薄い王都では活動を維持する分にも満たないが、それでも吸収して体内魔石役も兼ねているらしい左眼に蓄積できるのだ。
本来この世界には存在しない『吸血鬼』としての能力は、外在魔力によって行使されるということだ。いや元の世界でも『吸血鬼』は想像上の化物としてだけ存在していただけだったはずだが、今はクナドとしては本当にいたのかもと思っている。
「クナドは魔人に変じたということか……」
カインが呆れたような、それでいてどこか申し訳なさそうな表情を浮かべてしまうのも無理はない。
魔導器官を備えて外在魔力を行使可能な人型となれば、それはすなわち魔人である。
魔人とは人語を解し、人の似姿をしていながらにして明確な格上の存在であり、問答無用で人を殺しにかかってくる化物。そうなると強き者に対する憧れなどは消し飛び、強くて怖い天敵として忌むべき対象となるのは当然の帰結でしかない。
そんな存在に進んでなりたい者など、人である限りいるはずもないのだ。
目的のために手段を択ばないという言葉を擬人化したようなクナドを見れば、自分たちの為にそうなってくれたことを鑑みても呆れの方が強くなるカインなのである。
とはいえカインはもとより、アドルもクリスティアナも、自らがすでに人間離れした力を有しているだけに、クナドが魔人の力を得たからとて今更忌避感情がわく訳もない。寿命と引き換えになんでもできる能力の方が魔人化などよりもよっぽどとんでもないし、今の魔人化――『吸血鬼』化もその能力の一端である以上、まさに今更といったところだ。
「正確には違うけど、まあそんなようなものだな。だからまあ便利さでは劣るけど、今回は勇者パーティーの一員になっても足手まといにはならないと思うぞ。ただし昼はダメだけど」
クナドの方もそういった意味での心配などしてはいないし、なんなら以前よりも安定した戦力として勇者パーティーに加われると確信している。
だが問題がないわけではない。
ひとつは吸血鬼である以上、どうしても昼は無力になってしまうということだ。
いや直接日光に晒されなければ強い倦怠感とほとんどの能力が使えなくなるだけで活動可能なだけでも相当温い、あるいは都合のいい吸血鬼設定が適用されている。最悪の場合、日が沈むまでは己の棺に詰められた土に埋まったまま身動きが取れなくなっていても文句は言えないのが『吸血鬼』という化物なのだから。
『ハジメマシテをもう一度』⑦
1/21 17:00以降に投稿予定です。
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