第088話 『ハジメマシテをもう一度』④
まさかクナドが世界の救済など二の次三の次で、意に染まぬ結末に至った友人たちとやりなおすためだけに一度世界を滅ぼした張本人だとは思うまい。
「世界は滅んだよ」
固唾を飲んで答えを待つアドルたちに、クナドは至極あっさりとそう答えた。
自分が明確な意志を以て滅ぼしたのだ、そこを曖昧にするつもりも意味もない。
言葉を選んだところでなにも変わらないし、だからこそもう一度やり直そうとしていることに対して、これほどシンプルに説得力を持たせる事実もないだろう。
だがそれを聞く方にしてみれば、予想はしていたとはいえ、またクナドがあっさりと答えたとはいえ、やはり本当に世界が滅んでしまったのだという事実は重く響く。それを招いたのが人類の救いようのない部分の発露だったとはいえ、みすみすそれを止められなかった事に責任を感じ、悔やむことまでは止められない。
「……何年、持った?」
だが誰もがスフィアに倣って沈黙に囚われそうになる中、カインだけが絞り出すような声でそう確認した。
自分たちが倒そうとしていた魔王が復活してから、汎人類連盟は少なくとも百年は持ち堪えたのだ。だが勇者誕生を待つという希望があった百年と、勇者を自ら殺し、滅びを待つしかなくなった状況ではまるで違うし、よしんば持ったとてどうなのだという話ではある。あるいはそんな苦難の人生をクナド1人だけに歩ませ、その果てにやはりどうにもならなくて時間を巻き戻したのだとしたら申し訳がなさすぎる。
もしかしたら容姿が変わった事よりも、クナドはずっと長い人生を経て今に至っているのかと想像したら肚の底が冷えたのだ。
「7日」
だがまたしてもあっさりと答えたクナドの答えに、今度こそ誰も沈黙に囚われた。
たった7日。たったそれだけで、勇者パーティーが5年もかけて必死に立て直してきた人の世界は滅んだという予想外の、そして無常すぎる事実。
つまりそれは勇者たちなどいなくてもどうにかできると思いあがった一部のせいで、日々を懸命に生きていた人々もみな、魔族によって殺され尽くしたということか。
「だけど世界を滅ぼしたのは魔族――魔王じゃない」
アドル、クリスティアナ、カインの3人が最悪の想像を思い浮かべる中、クナドがたった7日で世界が滅んだ事実よりも驚愕に値する事実を告げる。
その瞬間、俯いたままのスフィアがびくりと肩を竦め、それをクナドが痛ましげに見つめている。クナド以外ではスフィアだけがどうやって世界が滅んだのか、それを誰がなんのためにやったのかを知っているのだから当然か。
他方、アドルとクリスティアナは驚愕よりも「だったらなにが?」という怪訝な表情を浮かべている。
確かにそれが普通の反応だろう。だがカインだけがはっとしたような表情を浮かべ、瞬時に誰がなんのために滅ぼしたのかをほぼ正確に理解したらしい。
「俺が滅ぼした。そして今の世界を再構築したんだ」
だからこそ続いたクナドの言葉にアドルとクリスティアナが今度こそ驚愕する中、カインだけが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
クナドの能力がどれだけ出鱈目なものなのか、禁呪と古代魔法の再構築に協力してもらっていたカインが一番理解している。だからこそ、その絶対の制限――クナドの寿命を超えることはできない、ということも知悉していたのだ。
確かにクナドの能力であれば、8年前に時を戻すという荒唐無稽も可能だろう。
ただそれを実現させるために、クナド一人の寿命をすべてつぎ込んだところで足りるはずがないのは当然だ。
しかもクナドのみであるならばまだしも、自分たちも死ぬ瞬間までの記憶を継承している事実。それがクナドのみが過去の世界に時間跳躍してきたという仮定を否定する。
つまりクナドが言ったとおりこれは過去に時を戻したのではなく、時間軸としてはきちんと未来に、過去と寸分たがわぬ世界を再構築したということに他ならない。その過程でクナドは自分自身の姿を変化させ、自分たちは記憶を継承することができたのだとカインは理解した。
「そんなことまでクナドにさせてしまったのか、私が不甲斐ないばかりに……」
これ以上ないくらいに驚いてはいるが、アドルもクリスティアナも『吸血鬼』――人の命を奪える化け物の概念を知らない。だからこそ、即座にクナドが世界を滅ぼしたことと、過去の世界を再構築できたことを結びつけて考えられないのだ。
『吸血鬼』を知らないのはカインとて同じなのだが、禁呪と古代魔法を再構築する過程でクナドが何度も「能力の定義とその隙を突いた使い方」――いわゆる不正利用方法(バグ利用)を探求していたのを目の前で見ていたので思い至れたのだ。
世界を再構築するために足りない寿命は、世界中の人の寿命を奪える存在になることで解決する。その吸血鬼化は、クナドの本来有していた寿命で可能だったのだろう。それが今クナドの姿が変わってしまっている理由なのだとまず理解した。
そんな化け物に自ら変じたクナドが世界中の人間の寿命――命を奪うことによって、任意の時間軸の世界を再構築する。その上、自分も含めてカインたちに元の世界の記憶を継承させるという無茶苦茶を可能ならしめるだけの寿命を得たのだ。
あらゆる生命を殺し尽くし、それで得た膨大量の寿命を使って、望まぬ結末に至った世界を一度まっさらにしてやり直せる時点で再構築した。
つまりは喩や嘘偽りなどではなく、正しくクナドが世界を滅ぼしたのだ。
しかもまずは命を借り尽くし、次に世界そのものを分解するという二度にわたって。
「ま、その結果としてさすがに寿命を対価に何でもできる力は失ってしまった。なぜそうなったかはわからないけど、ひとつだけはっきりしているのは――」
まだきちんと理解できていないアドルとクリスティアナをおいて、クナドは苦笑を浮かべながらすべてを理解したらしいカインにそう告げる。
まあそりゃ引くよな、などとクナドは考えているが、カインの感嘆、あるいは畏れの原因はクナドの能力そのものではなかった。
もちろん世界を一度壊して創りなおせる能力にも畏怖はあるが、それ以上にカインが本能的に引いた――畏れたのは、それができるからと言って実行してしまえる、してしまえたクナドの精神性に対してだった。
もちろん自分たちのためにクナドがそうしてくれたのだということくらい、カインだってよくわかっている。それでも自分がクナドと同じ能力を持ち、同じ状況に置かれたとしたら、同じことをできるだろうかと思ってしまったのだ。
なんとかしたいとは当然思うだろう。
それくらいの自信はある。
それだけではなく自分ならやり直す――すべての結末を知った上で、過去の世界を再構築するところまでなら思いつけたかもしれない。実際にクナドがやってのけた結果を知っているからではなく、ノーヒントでも「たった一つの冴えたやり方」になんとか辿りつけると思う。
だけど自分の寿命すべてを捧げてもまるで足りないと知った時点で、すべてに絶望してそこで終わってしまう気がしたのだ。「あいつらの遺志を継ぐ」とか真っ当でも尤もな理屈をつけて、手を下した連中を鏖にした上で、魔王を倒すために自分の寿命を使い切ってそれで満足してしまいそうだと。
だがクナドは違った。
『ハジメマシテをもう一度』⑤
1/19 18:00以降に投稿予定です。
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