第085話 『ハジメマシテをもう一度』①
「ハジメマシテ。今紹介してもらったとおりアドル――勇者サマの幼馴染のクナドという。同じカルス孤児院出身だ。勇者サマの推薦で王立学院に入学できることになったので、勇者パーティー候補の1人として今後もどうぞよろしくオネガイシマス」
ああ、確かに最初の挨拶はこうだったな俺。
我が事ながらこれはないわってくらい、かーなり感じ悪い。
緊張と、特権階級にいる同世代と席を共にすることによって生まれた、劣等感と優越感が綯交ぜになったもやもやしたなにか。それがあまりにも美形揃いで身綺麗な3人を前にして、敵愾心の形をとらざるを得なかったのだと今なら理解できる。
要は子供だったのだ。
力を得てから初めて、自分自身の感情が記憶による擬態を凌駕した瞬間でもあったかな。
だが今はそんなことよりも、俺は成功したのだ。
成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した成功した――やった!
元ネタのように失敗じゃなくてよかった。
俺の記憶は間違いなく、あの世界の終焉から継続している。
そして今王城の貴賓室で俺の前に座っている3人と、隣で天を仰いで俺のあまりにもな態度に呆れているアドルも完全に過去の記憶と一致する。
つまりあの救えない不幸な結末に至るまで8年間の猶予と、それをひっくり返すために必要な中で、外すことのできない知識の確保はできたということだ。後は俺が失った力の代わりになにを得ているかと、俺以外のみんなの記憶の継承がどうなっているかだ。
そういえば、最初のハジメマシテの時のみんなはどうだったか――
確か。
俺がこんな感じ悪い挨拶をしたのにもかかわらずクリスティアナ殿下はとびきりの笑顔で挨拶を返してくれて、王族の腹芸に所詮庶民の俺が太刀打ちできるはずはないと諦めたんだった。アドルがどうやら一目惚れしているのもわかりやすかったので、これは協力して双方に恩を売った方が得だと当時の俺は判断していたはずだ。
カインの野郎は俺の出自など知った事かとばかりに俺の能力について怒涛の質問をしてきて、どんびいたことを覚えている。その受け答えの中で、おためごかしではない「実力主義」を感じて嬉しかったことも確かだ。
そういやカインは初顔合わせの時は容姿についても隠しておらず、おかげで王立学院の入学式では唇を噛んで堪える羽目になったんだった。いくらなんでも本来のこの容姿と一人称が私キャラを、あんなもさもさとコミュ障に装うのは無理がありすぎるだろ、極端なんだよカインは。もうちょっとちゃんとスフィアを見習え。
スフィアはにこにこと笑顔を浮かべて俺をじっと見つめながら、当たり障りのない受け答えをしてくれていたな。そのくせその瞳にはまったく興味の色が浮かんでおらず、あくまでも聖女として、勇者パーティーの一員として当然の義務を果たしているだけだというのが、嫌というほどよくわかったものだ。
実は第一印象が一番悪かったのはスフィアだったんだよな。
自分の態度を棚に上げてなにを言っているのだという話ではあるが。
そのスフィアは今らしくもなく下を向いて誰とも顔を合わせず、よく見ると微かに震えてさえいる。前回とのあまりに違うその様子は、記憶が継承されていることの証だろう。
さすがにスフィアとは後で2人きりで話す必要があるな、いろんな意味で。
「…………クナド、ありがとう」
俺がハジメマシテをもう一度行った瞬間に硬直した3人の中で、最初に俺に対するリアクションを取ったのはやっぱりアドルだった。最後に見た時よりも3年も幼いはずなのに、その顔には万感の想いが宿っていてとても王立学院入学前の子供には見えない。
まあそれもしょうがないよな。
それなのに、あんな終わり方をしたのに、本人の感覚からすれば生き返って最初の言葉が俺への感謝ってあたり、まさにアドルってところだ。
「……お前らしいよ」
だけど人前で泣くな。首に縋りついてくんな。
これで記憶の継承が俺とアドルしか成功していなかったら、どんな幼馴染関係なのだと思われるだろうが。……いやこれ、みんなの記憶が継続していても同じじゃないか?
まあ俺もアドルの死に方を追体験してしまっているから、気持ちはわかる。
わかるんだけどな? ちょっと落ち着け。
「これは……私たちが初めて会った日か? クナド、これは君がやったんだ……な⁉」
「クナド師匠、そのお姿は一体なにがあったのですか⁉」
だが俺とアドルのやり取りに驚きながらも、カインとクリスティアナ殿下もそれぞれの疑問を俺に問うてきた。まあ確かに時間が巻き戻るなどという荒唐無稽なことが起これば、真っ先に俺の能力を思い浮かべるのは当然といえば当然か。
つまりカインもクリスティアナ殿下も、無事に記憶の継承には成功しているらしい。
親しくなるまでのカインの俺の呼び方は「クナド殿」で、こいつは初対面で呼び捨てなど絶対にしない。
クリスティアナ殿下が俺を師匠呼ばわりするようになるのもこの後いろいろあった後だ。それまではこともあろうに第一王女殿下から「クナド様」などと呼ばれて、たいそう尻の座りが悪かったのだ。いや師匠呼びも大概といえば大概なのだが、ちょっとふざけているニュアンスが入る分まだましだった。
それにクリスティアナ殿下に指摘されるまで気が付いていなかったが、どうやら俺の容姿は吸血鬼化したままらしい。カインが最後言葉に詰まったのも、変わり果てた俺の姿のせいだなこれは。
確かにこの日中の気怠い感覚は、俺は見た目だけではなく能力においても吸血鬼のまま再構築されたと考えるべきだろう。後でいろいろ試そう。
そりゃまあ赤毛茶眼のありふれた容姿だった俺が、白髪で左眼だけが灼眼、その上吸血鬼補正で妙に美形に仕上がっていたらびっくりしない方がおかしい。後、あの深刻展開が仕事をさぼらない状況だったからこそ許されたこの黒一色の中二病衣装だが、今の空気で見るとカッコいいよりも痛々しさの方が勝るのだから不思議なものである。
ああ、こんなバカなことを考えられるようになってよかった。
「…………」
だが今なお黙って俯いたままのスフィアには誰も触れない。
全員がなにかとんでもないことが起こったことを理解した上で、議事進行はこの状況を生み出したに違いない俺に任せる判断をしたのだろう。
取り乱さずに俺の言葉を待ってくれているのは正直助かる。
「ほっとしたよ。無事過去を再構築できたことにもだけど、カインもクリスティアナ殿下もなにが起こったかわかっていないってことは、苦しんではいないんだな」
なので、まずは状況を把握できていない2人に対して説明を行うことにする。
だがとりあえず俺は、言った通りのことに一番胸を撫で下ろしていた。
『ハジメマシテをもう一度』②
1/16 18:00以降に投稿予定です。
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2月上旬まで毎日投稿予定です。
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