第083話 『世界再構築』⑦
それでもこの世界に「神を殺せる方法」が存在していることは興味深いが、今の俺には関係ない。世界を過去に戻すことを選択すれば俺の能力は失われるので、もう二度と神様を殺すことはできなくなるだろう。だがそれは俺がというだけで、いつかどこかでまた、俺が今持っているこの能力は誰かに宿るような気がする。
あの日、俺がこの力を得た時の様に。
だから「神殺し」は次の人が頑張ってくれ。
俺は過去に戻すことを選択する。
そのためには、極短時間で世界中の生きとし生けるものすべてを鏖にして寿命を奪う必要がある。
ここでも俺は不正行為を選んだ。
つまり俺の能力で「そうすることができる術式」を生み出したのだ。
ここで大事なのは実行までを望まないことだ。
世界中の生きとし生けるものすべての寿命を奪うという結果までを求めては、それに必要とされる寿命の量は跳ね上がる。さすがに収支がマイナスになることはないだろうが、結果として得られる寿命が足りなくなってしまったら本末転倒で意味がない。
よって術式だけを知り、その準備と実行は自分たちで行った。
そうすることによって、エメリア公国一国分の寿命でなんとか可能になったのだ。
そのいわば「世界を殺す術式」は今、すでにこの場に展開を終えている。
陰陽を軸にして展開されるその術式はまさに『呪術(呪い)』と呼ぶにふさわしく、陰陽それぞれの生贄を捧げることによって発動する。
あとはその生贄を捧げるだけだ。
「……すまない」
クレアとシャルロット殿下は、その生贄となることを了承してくれている。
生贄――種火となるための条件。
それは膨大な魔力を有していることと、種火となる者自身も世界中の命を燃やすことを望んでいなければならない。まず自身の命を焼べて種火を点し、燃されたすべての命を術者が吸収できる焔と化す大火を熾すのだ。
「さすがの私でも、アドル兄さまがいない世界は寂しいですからね」
「クナド様が気になさることはなにもありませんわ。なにもしなければどうあれ世界は終わってしまうのですから」
そんなことは、なんのためにそれをするのかを知ってくれている2人でなければ絶対に無理だ。クレアは俺の我儘に寄り添ってくれ、シャルロット殿下はその我儘が世界を救うことに繋がると赦しを与えてくれている。
それでも俺が俺の望みのために、一度この世界を滅ぼすことは確かだ。
8年前に戻す以上、その期間に世界中の一人一人が自分の意思で選択してきたことも、その結果として紡がれた結果も、そのすべてを俺は蔑ろにする。
日々の些細なことまで俺は覚えていない。
8年前を寸分たがわず再現したとて、誰もがそこから同じ選択を辿り、同じ未来に辿り着ける保証などどこにもありはしないのだ。
それどころか俺は過去の全てが結実した今を否定し、やり直すためにこそ過去を再現しようとしている。
このままでは滅ぶ世界を救うことにも繋がる。再び選択する機会を与えられるのだから、その結果の責任はそれぞれの個人に帰結する。俺は俺ができることをやっただけで、それを止められなかった以上は文句を言う権利などない。
いくらでも俺の選択を正当化する理屈はあるのだろうが、それでも俺がやることはそういうことだと覚えておかなければならないだろう。なによりものその片棒を、その想いに応えるつもりもない2人にも背負わせてしまうことを。
謝るくらいならするなと、自分でもそう思う。
それでも口にしてしまった自分の卑しさが本当に嫌になる。
「私たちは2人とも、クナド兄さまの考えに賛同したのです」
「ですから種火となることをいまさら厭いませんわ」
そんな俺を、2人は真摯な表情で叱責してくれている。
内心では呆れているのかもしれない。
舐めるなよと。
自分たちの選択は間違いなく自分が選択したものであって、俺に謝られるいわれなど欠片もないのだと。もっと話し合う余裕があれば、彼女たちなら「私たちの方がクナド様を利用しているのです」程度のことは平然と言ってのけそうだ。
「ありがとう――始めよう」
だから俺も、自分が楽になるためだけのおためごかしはもう口にしない。
最悪の場合、術式に関わった俺とクレア、シャルロット殿下がいなくなった世界になるとしても、じゃあ止めようとはならないのだから。
世界中を殺し尽くすために、最初にクレアとシャルロット殿下を殺す。
その血を介して、命をすべて吸い上げることによって。
◇◆◇◆◇
クレアとシャルロットの身体がそれぞれ黒焔と白焔に変じ、王立学院の上空に展開された巨大な立体球形魔法陣を黒白の火球へと変じさせてゆく。その様子はまるで焔が火薬で描かれた線を辿りながらその範囲を広げて行っているかのようだ。
エメリア公国一国分の命を対価に用意された「世界を殺す術式」が、2人の命――優秀な魔法使いのすべてを種火として起動しつつあるのだ。
その中心には術式の核となっているクナドが浮かんでいる。
2つの種火がその中央のクナドまで同時に辿り着いた瞬間、クナドそのものを核種として核融合反応をおこしたかのように、莫大な魔力を開放した。
完全に起動した術式は巨大な黒白の入り混じる火球となり、ものすごい勢いで膨張を始めている。
広がる球状の焔に呑み込まれると同時に、王都中で数多の命が消えていく。
なんの苦しみも痛みも感じず、おそらくは気付くことすらなく、人も動物も微生物も、王都外の野良魔物たちですら、ものすごい勢いで焼かれてゆく。
死んでゆく、殺されてゆくのではない。
命を――存在そのものを焔の薪にされていっているのだ。
この短い時間で、すでに王都に生存者は一切存在しなくなっている。
それはまるで黒白の太陽がアルメリア中央王国を爆心地に生まれたようにして広がり、星そのものを包み込むほどに大きくなっていく。その黒白の炎に触れた生き物は例外なく焼かれ、一瞬にして自らの命そのものを黒と白の焔に分解されてその一部となってゆく。
世界が終わっていっている。
『世界再構築』⑧
1/14 18:00以降に投稿予定です。
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