第080話 『世界再構築』④
「猊下にお聞きしたいのは秘匿聖遺物『魔王の槍』のことだけです。どこに保管されていたのか。どうやって封印していたのか。どうすればそれを解除できるのか。なぜ秘匿され、聖遺物でありながら、魔王の名を冠されているのか」
名前だけではなく、それがどういう物かを知っていなければ、封印という言葉は出てこない。勇者パーティーの暗殺に関わっていたことは露見しても、さすがに『魔王の槍』についてまでクナドがある程度知っていることは、ウィリアムズにも想定外だったらしい。
「な、なぜそれを貴様が知っている。それに知ったところでいまさら――ぎゃあぁああ!」
だがクナドが再び以前のような丁寧な口調に戻ったことで本能が弛緩していたウィリアムズの右腕が、簡単に斬り飛ばされて宙に跳んだ。
クナドが『魔王の槍』の存在を知っているということは、それをなにに使ったのかもすでに知っているということに他ならない。
そのクナドに「もう遅い」などと口にしようとすればどうされるかですら、酒と薬と色欲に濁った頭では理解できなかったものとみえる。
その代償としてあっさり右腕を失ったのだ。
「次、余計なことをしゃべったら殺す。すぐに答えを返さなくても殺す。なに、猊下に与した者たちはすでに全員把握できているから、俺は順番にそいつらに聞いて回るだけだ」
特に激昂もせず声は平坦で表情も凪いだまま、別にウィリアムズを覗き込むでもなく淡々とクナドがそう告げる。
ウィリアムズから噴き出した血を浴びて絶叫を上げ始めていた修道女たちが、たったそれだけで息をのんで硬直した。クナドの言葉がウィリアムズに対してだけではなく、容赦なく自分たちにも適用されることを本能で悟ったからだ。
それにクナドは殺すとは言ったが、楽にとは言っていない。
ただ情報を得ることだけを諦めて、人間をどこまで残酷に殺せるかにだけ集中するのだという、人でありながらも獲物を嬲りながら喰らう、賢い肉食獣のような眼をしている。
確かに今のクナドは、人の命などなんとも思っていない。どのようにして何人殺そうが、クナドにとっては遅いかはやいかの差でしかないからだ。
だが殺される方にとってはあっさりか、惨たらしいかで大きな差はあるだろう。
もはや乞うべきは「殺さないで」ではない。
「せめて楽に殺して」こそが、真摯に乞うべき生涯最後の願いとなっているのだ。
「い、言う。言うからやめ――あぁあああぁ」
だがウィリアムズはまるでそのことを理解できていなかった。
阿呆は死ぬまで、いや死んでも治らないというのは、あるいは至言なのかもしれない。
結果、『聖教会』で司教枢機卿まで上り詰めることができた己の才能――治癒の奇跡を必死で展開しながら、恐慌状態に陥っていたウィリアムズの左腕も跳んだ。
相当な重傷でも治せるほどの奇跡ではあるが、さすがに欠損を再生させるようなことまではできない。斬り飛ばされた腕を拾って押し付ければどうにかつながるかもしれないが、斬り飛ばされた腕はその直後に容赦なく微塵に切り刻まれて血煙と化している。
奇跡によって痛覚を鈍化させているウィリアムズが、それでも涙を流しながら絶叫を上げるのは、痛みではなく自身の四肢が永遠に失われたことに対する絶望ゆえだ。
「猊下は馬鹿なのですか? 誰が命乞いをしろと言いました。次はありませんよ?」
ため息交じりでそういうクナドは、本当に次は殺しにかかるだろう。
その言葉には次に行くのが面倒くさい、程度の感情しか存在していないのだ。
さすがにそれを悟ったウィリアムズは今度こそ問われたことだけを、自分の知る限りにおいてできるだけ正確に答えた。
「なるほど、よくわかりました」
『魔王の槍』とはなにか、どんな能力を有しているのか。
今は偽物が収められている保管場所と、その場所を出入りするための具体的な方法。
偽物を誰がどこで、どうやって準備したのかまで。
さすがにウィリアムズは聖教会における非主流派の中心人物だっただけに、相当に詳しく秘匿聖遺物についても知っていた。それを使ってことをなした中心人物なのだから、それも当然と言えば当然だろう。
ただなぜ秘匿されていたのか、聖遺物とされながら教義では最終的な敵と見做している魔王の名が冠されているかまでは本当に知らないらしい。ウィリアムズが知っていたのはその管理体制と、あらゆる『奇跡』を無効化するというその能力だけだった。
だがクナドとしてみれば満足している。
やはり情報を得るのであれば、必要なものが揃うまで偉い順に殺していくのが一番効率がいい。
あとは嘘をついていないかを実際に確かめるだけだ。
「た、助けてくれ! 頼む、助け――」
だから必死で命乞いをしているウィリアムズを一撃で殺してやった。
やるべきことがあるのに、いまさら拷問などをしている時間が惜しくなったからだ。
もうクナドにやれることがなにもなければ、丁寧に丹念に拷問したかもしれない。
だが今は仇であるウィリアムズも、たまたま同衾していただけの修道女たちもなにも変わらない。この後騒がれないように、ただできるだけ静かに殺すだけだ。
今クナドがしようとしていることを邪魔するのであれば、邪魔になる可能性があるのであれば、なんの躊躇いもなく敵として殺す。そこに一切の例外はない。
見敵必殺。
そして今のクナドにとって、世界の大部分は敵なのである。
「これであとふたつ」
深夜の教皇庁最奥で、クナドはウィリアムズに吐かせた情報が嘘ではなかったことの確認を済ませていた。
まずはスフィアを殺した聖教会の『魔王の槍』についての必要な情報は得た。
あとはクリスティアナを殺した王家の『呪い』と、カインを殺した魔導塔の『術式封印』についての情報。
それが揃い次第、クナドはこの世界を終わらせる。
アドルもクリスティアナもカインも、もういない。
スフィアはあんな姿になり果ててしまった。
クナドはもう、こんな世界なんかいらないのだ。
『世界再構築』⑤
1/11 18:00以降に投稿予定です。
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