第074話 『勇者たちの死』⑩
そうして自分たちの命と引き換えに少しずつアドルを削り、やがて総戦力の半数と引き換えに戦闘不能状態まで追いつめることに成功した。
「この化物が。一人で何人殺しやがった」
最終的にはこの暴挙を主導した第三騎士団全軍、第四騎士団と第五騎士団の約半数、その総数の三分の一がアドルに肉塊に変えられている。3人の首謀者である各団長、その筆頭だった第三騎士団長を初手で殺されてしまったことも痛い。
これではこの後、力圧しで他の騎士団や皇家をなし崩し的に共犯に巻き込むことも覚束くまい。
だがある意味、目障りだった第三騎士団長がいなくなったことを喜んでいる第五騎士団長が、倒れ伏したアドルに剣を向けて勝ち誇っている。
この手の実力行使に出る者は、基本的に底が抜けたような楽観主義者が多いのだ。
「君、らは、人、だろう――なぜ――」
全身を血に染め、複数個所に取り返しのつかない重症、欠損を得ているアドルはもう助からない。本来であればここからでも簡単に全快してしまうのだが、その奇跡を起こす聖女が封じられてしまってはもはやどうしようもない。
極度の疲労と流しすぎた血によって、もはやまともに思考することもできなくなっているアドルが、それでもこれだけは問わずにはいられない。
どうしたって避けられぬ死を前に、せめて自分が――この結果を遠い王都で聞くクナドが納得できる理由があってくれることを望んだのだ。
そうでなければ、きっと――
「なぜ? 勇者サマ御一行に救世の英雄になられて、安全な大陸中央で平和を謳歌しているアルメリア中央王国にアステア大陸を支配されちゃ困るからに決まっているだろう」
「そん、な、こと、で?」
だが勝利に驕った表情を浮かべた第五騎士団長から帰ってきた答えは、アドルの想像よりも数段くだらないものだった。
自分たちが他国の下に置かれることが我慢ならないから、勇者たちが救世の英雄になることが許せないから、多くの人々が望んでやまない魔王討伐の邪魔をする。
自分たちこそが魔王を討てるというのであれば、アドルたちと競っていたはずだ。
それもせずに勇者パーティーを暗殺――というには派手になりすぎたとはいえ背中から刺すようにして始末するということは、魔王討伐をできもしないのに、いやできもしないからこそ、人々の苦渋の上に成り立つ自分たちの活躍の場を維持したいだけ。
アドルは今、これまでで一番絶望を感じていた。
簡単にしてやられてしまった自身さえも含めた、人という存在そのものに対して。
「そんなことだと?」
だがヴァレリア帝国の高級軍人である第五騎士団長にとっては、それはそんなこと呼ばわりされる謂れなどない、至上のものなのだろう。
死にかけのアドルを見下ろす目は嗜虐と優越に濁っており、人の醜さを練って固めたような姿になっている。それは騎士団長を囲む騎士たちもみな同じだ。
「まあいい、アンタもいいように利用された犠牲者だということもできる。なにも知らずに殺すのも哀れだ、最後に教えてやろう」
だからこそ、嘲笑しながら吐き捨てる言葉は、慈悲などではない。
愚かな勇者に吐きかける、傲慢な勝者の唾の如き醜悪ななにかだ。
「すべての技や魔法が発動不能になる広域結界装置は『魔導塔』が用意してくれた。王女様なんかは代々、勇者の力が顕現した者には自爆術式が何重にも仕込まれているんだってよ。その起爆術式を提供してくれたのは第一王子サマだ。一番厄介だった聖女の奇跡をすべて貫いて無効化する『魔王の槍』も『聖教会』が提供してくれた。賢者サマも剣聖サマも聖女サマも、力を封じてしまえば中級魔物も殺せない大砲の斉射で粉々におなり遊ばされましたよ。ざまあみろだ!」
唾を飛ばして興奮している騎士団長は、勇者たち「選ばれし者」に対して尋常ならざる怨嗟を抱いているらしい。それは最初の頃は純粋な使命感に突き動かされて世界のため、国のため、部下のため、自分のためと戦っていたうちに、凡人である自分の掌から零れて行った大切な者たちのせいなのかもしれない。
なぜ世界は自分の救いたいモノを救える選ばれし者たちと、自分すら救えない者たちをこうも残酷に分かつのか。できる限界を超えて努力を積んでも、笑えるくらい簡単に死んでも護ると誓った相手が死んでいく。
だからこそ、多くの者は自分のできないことを勇者に委ね、自分でつかむのではなく与えられる平和であってもよしとする。それでも自分にでもできることに懸命に取り組み、それらが組み合わさった結果こそが、きっと平和を実現するのだろう。
だがその過程で壊れてしまった者はすべてを呪い、共に壊れるまで踊り続けることを望む狂者に成り果ててしまう。そしてそんな成れの果ては、ヴァレリア帝国だけではなく、世界中にいくらでもいるということなのだろう。
どんな組織でも、あるいはどんな状況でも、非主流派は必ず存在する。
そして自分たちが主流派に対する監視、抑止を担うだけではよしとできず、不当に、あるいは自分たちを支持しない衆愚どものせいで不遇を託つ羽目に遭っていると勘違いした時から、深刻な暴走を始めるのだ。
当然中には始まりは非主流派であっても、最終的には主流派となる例も多くある。
時には非合法な手段を使わなければ、既得権益を握っている老害たちを打ち破れぬこともあるだろう。
だがそんな場合は必ず、自分たちだけのお気持ちや正義ではなく、世に満ちる声なき声を聞ける組織だからこそなのだ。
主流派になってから腐敗するかどうかはこの際問題ではない。
だが多くは都合のいい理屈をがなり散らし、自分たちがなぜ主流派になれないのかという自己分析、批判を放棄してまつろわぬすべてに牙を剥き、やがて周囲に犠牲を巻き散らかしながら自滅する。
「どう、して――」
だがそういう小難しい話はクナドやカイン、クリスティアナに任せがちで、「アドルお前、魔王討伐の暁には国王になるってわかってんのか?」とちょくちょくクナドに呆れられていたのがアドルだ。
血塗れになってもなお『勇者形態』が解けないアドルが哀し気にそう呟けば、立派だと信じていた組織すべてに裏切り者がいた事実を受け入れられず、嘆いているようにしか見えない。
「ははは。さすが神に愛されし勇者サマ、人の集合体である組織が一枚岩だとでも思っておられましたか。そんなはずがないでしょう。誰もが得をしたい、楽をしたい。そう思って生きている。我々は屈辱を食んだ上で成り立つ平和など願い下げだ! 血を流し続けた英雄たちが居場所を失うことになる安寧など、叩き壊してくれる!」
だからこその騎士団長は、そんな戯言を信じられるほどに恵まれていた勇者が血に塗れ、自分たち同じ人にしてやられて死んでいくことに愉悦を覚えている。
だがこの騎士団長が叫んでいる狂気の言葉は、それでも真実の一端を示している。
理想通りの一枚岩ではないからこそこの騎士団長のような者がいるということは、裏返せばアドルが信じていたような人々こそが主流派だということだからだ。
『勇者たちの死』⑪
12/31 17:00以降に投稿予定です。
年内に第七章『勇者たちの死』を最後(『勇者たちの死』⑫/物語前半最終)までを投稿予定です。
お正月が明けたタイミングで後半の投稿を再開いたします。
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