第073話 『勇者たちの死』⑨
そして技も魔法も使えない勇者など、どれだけ強くても数の力で擦り潰せると確信しているのだろう。つい先刻、魔法を完全に封印すると同時に、カインを部屋ごと消し飛ばせたのと同じように。
「どこへやった? あの世へやったよ。魔法を使えない賢者サマなど、不意打ちの砲撃一発でなにもできずに木っ端微塵におなり遊ばされた。お綺麗な剣聖王女様も聖女様も残念ながら同じだろうよ。あの美貌を消し飛ばすのは勿体なかったがまあ仕方がない。心配するな、勇者サマもすぐに後を――ぱぎゅ」
最初は気圧されながらも発した自分の言葉にアドルが反論もできず、挑発されてもなお『雷撃閃』を纏わぬことに団長は完全に安心を得た。
冴えわたる剣技はさすがに見事だが、技も魔法も使えず、賢者も剣聖も聖女も駆けつけてこないアドル1人であれば数で押し潰せる。
魔人すら切り裂ける聖剣でわざわざ急所を狙ったということは、今のアドルには盾や兜、鎧を一刀両断することができないと見誤ったのだ。
腐っても帝国の第三騎士団を束ねる長なのだ。豊富な実戦経験を持ち、でたらめな技や魔法を封じてさえしまえば、ある程度正確に相手の脅威度を読むことなど容易いと慢心していた。
それゆえに勝ち誇り露悪に酔いしれている最中に、無表情になったアドルに一刀で頭から股下までを鎧兜ごと両断されて絶命した。
「だ、団長殿⁉ ほ、包囲しろ、逃がすな! ここで確実に仕留め――ぴきゃ」
「ふ、副長ど――ぷぎゅ」
「あ、あああ――ぺぎょ」
「逃げ――ぽきゅ」
常識では考えられないほどの距離をただの一足で詰め、帝国特有の重装備を縦に割って見せたアドルの剣技に誰もが恐慌状態に叩き込まれる。もはや斬るための武器ではなく、触れたものすべてを潰す武器として聖剣を振り回すアドルは死の暴風となって、元は帝国騎士たちだったモノを撒き散らしながら神速の戦闘機動に入っている。
魔力を基に展開される技や魔法、信仰を基に行使される奇跡を封じてしまえば、いかな勇者パーティーとてただの手練れ4人に過ぎない。
その帝国騎士たちの認識は、別に間違いという訳ではない。
事実、大砲数門で賢者カインを消し飛ばせたことで、完全に帝国騎士たちは勇者アドルを甘く見ていたのだ。
1人だけ必殺の魔道具が準備されていなかった勇者は初手の砲撃で殺しきれなくても、最後に数で押し包んで殺してしまえばいい。伝え聞く限りでは、勇者パーティーの主戦力は勇者以外なのだから、と。
だが未知の手段で技と魔法を封じても、その基となる魔力そのものを消し去れているわけではない。賢者も剣聖も技や魔法、神遺物級武装の固定能力を発揮させるための燃料としてしか使えていなかった魔力を、勇者であるアドルだけは、技や魔法を介さず自身を強化するために使えるのだ。
つまり固有能力を発揮している際に瞳と髪が金色に染まり、純魔力を噴き上げる勇者形態がそれである。だからこそアドルだけが、大砲による斉射を児戯と見做して平然と動き出せたのだ、
その金色の夜叉と化したアドルが考えていることは、至極単純だった。
戦闘が開始されてもカインが現れないということは、信じ難いが本当に魔法を封じられて殺されてしまったのだろう。であればカインと同じくらい魔力を基にした技や魔法、神遺物級武装への依存が大きいクリスティアナも同様だと考えたほうがいい。
技や魔法や封じられたカイン、クリスティアナ、スフィアは大砲の一斉射撃という、本来は人が人を殺すために生み出した兵器によって、同じ人に殺されたのだ。
もちろん怒りはある。
絶望も。
よりにもよって魔族ではなく、同じ人の奸計にはまって仲間たちが殺されたという事実に、まるで自分自身が魔族になったかのような負の感情に支配されそうになる。
だが今アドルがしなければならないことは怒り狂うことでも、報復でもない。
一分一秒でも長く時間を稼ぎ、スフィアの再生を待つことだ。
技と魔法が封じられたとしても、構築術式も魔力もまるで関係なく、まさに荒唐無稽に行使される奇跡まで封じることはできないはずだ。
とはいえ分断された上で完全な不意打ち――間違いなく各々に与えられた部屋の対面には、初めから複数の大砲が設置されていたのだろう――を食らえば、最近は防御をクリスティアナに頼り切っていたスフィアであれば、一旦は消し飛ばされてしまう可能性は否定できない。というかそうであったからこそ、カインもクリスティアナも未だ再生されていないのだ。
だが聖女は細胞一つからでも再生する。
そしてまず聖女が黄泉還れば、その奇跡によってクリスティアナもカインも生き返る。
それを魔族との戦闘で、アドルは自分も含めて何度も経験している。
それを待ちつつ、可能であれば技や魔法を封じている原因を潰す。
おそらくは王都の上空、『魔大陸』の直下に展開されている紅の巨大魔法陣がそれなのだろうが、どうすればそれが消えるかまではわからない。
最悪の場合でも、なんとかして包囲を突破して生き残る。
今は落ち着いて考えることはできないが、そうしなければ拙いとアドルの本能が告げている。それは自分が死ぬこと以上に、世界を左右してしまうほどの事態を招くことに対する恐怖にも似た焦りだ。
どうしてヴァレリア帝国が自分たちを暗殺しようとしているのか。
そもそも術式構築を阻害する魔道具など、どうやって手に入れたのか。
もしかして聖女の奇跡すら無効化できる手段を持っているからこそ、こんな暴挙に出たということなのか?
不審な点は山ほどあるが、それは今考えることではない。
今は時間を稼ぎ、生き残ることがすべてだ。
手加減なんかはしていられない。
必要であればヴァレリア帝国の全軍を滅ぼすことも辞さずにアドルは戦闘を継続する。
だがどれだけ時間を稼ごうが、スフィアがいつものように「びっくりしました」などと不貞腐れつつ現れることはなかった。対して奇跡の加護を受けていないアドルは、自身を強化する魔力は尽きなくても、その強化されるべき体力や気力が急速に尽きつつある。
乗算の基数たる自力が尽きてしまえば、魔力でいくら強化しても意味がなくなる。
ゼロに何をかけてもゼロにしかならないのだ。
加えてクリスティアナに守られていない状態では、いくら潰しても数で攻めてくる騎士たちの攻撃をすべて躱しきることはできない。技でも魔法でもない攻撃など容易く無効化するはずの神遺物級武装たちも、固定能力を発現できなければそこらの武具とそう変わらない。
いつもなら数時間に及ぶ戦闘でもまるで苦にしない無限の継戦能力が、現状では1時間程度ですら維持することができない。最初こそ逃げ惑うばかりであった帝国騎士たちも、尽きぬ金色の魔力を噴き上げながらも確実に弱体化してゆくアドルに、次第に決死の攻撃を仕掛けるようになってきている。
『勇者たちの死』⑩
12/31 12:00以降に投稿予定です。
年内に第七章『勇者たちの死』を最後(『勇者たちの死』⑫/物語前半最終)までを投稿予定です。
お正月が明けたタイミングで後半の投稿を再開いたします。
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