第072話 『勇者たちの死』⑧
なによりもアドル自身の考察が正しいのであれば、今回仕掛けてきている敵は魔族以外だということの証左になるのではないのか? 今この瞬間を最大の好機として、勇者パーティーを一網打尽にすることによって利を得ることができるのは、本当に魔族だけなのか?
次々と浮かんでく不吉な思考を、敢えてアドルは強制的に停止させる。
――ありえるはずがない。
もはや自分の思考を否定して、本能が脳内に鳴り響きかせている緊急事態警報に怒りさえ覚えながら、アドルはカインの部屋へと続く廊下へと躍り出た。
「――は?」
思わず声が出た。
アドルの目に飛び込んできた光景が、あまりにも想像とかけ離れたものだったからだ。
カインの部屋があった空間は完全に消し飛び、そこから外――寝静まった帝都が見えている。その上空には見たこともない巨大な魔法陣が、赤黒い魔導光によって広域展開されている。
賢者が全力を出した魔法戦闘であれば、この程度の破壊は可愛らしいものである。禁呪や古代魔法をぶっ放した場合、帝城どころか帝都全体が消し飛んでもおかしくない。
カインの部屋であったはずの空間と廊下を挟んで反対側の部屋も、扉のみならず壁もすべて吹き飛んでいる。その室内にはいくつもの大砲が並んでおり、それらすべての砲口から砲煙の残滓が立ち昇っている。
つまりはアドルの部屋と全く同じ状況だ
だがここにはカインはいない。
それだけならまだしも、魔人はおろか魔物や魔獣すらもいない。
いたのは何人もの完全武装した帝国騎士たちだけであり、カインの部屋であった空間を半包囲して緊張した空気を漂わせているのだ。
「なに、が――?」
この期に及んで状況が理解できない――いや理解したくないアドルが、最後尾で無防備に背中を晒している帝国騎士に声をかける。
「勇者アドル!」
歴戦の騎士らしからず、飛びあがるようにして振り返った騎士が驚愕の表情を浮かべてアドルの名を叫んだ。その様子にはアドルたちが帝国に到着した際に多くの帝国騎士たちが見せていた敬意や親しみなどかけらもなく、それこそ魔人に背中を取られたかのような敵意と恐怖、恐慌が滲んでいる。
「どうして生きているのだ?」
「わ、わかりません」
あっという間にこの場にいる数十名にも及ぶ帝国騎士たち全員がアドルを認識し、あからさまな警戒の視線を向けてきている。
この場にいるのは帝国第三騎士団の精鋭たちとその団長。
団長らしき男が部下に問いただしている内容からすれば、アドルはすでに死んでいるはずだった――つまりなんらかの手段を講じていたのに、効かなかったということに他ならない。
「あ、あの――」
だがアドルは事がここに至ってもなお、先制攻撃を仕掛けられずにいる。
それどころかまだ無駄な会話を続けようとすらしている。
普通に考えればなにが起こったのかなど明確だ。
だがそれを信じたくない、信じられないという想いがアドルに極まった馬鹿のような行動をとらせているのだ。
なによりもこの勇者に任じられてからのこの8年間、嫌というほど魔族とは戦ってきたが、人間と敵対したことなどなかったことも大きい。
殺すべき敵は魔族。
人は誰もが味方で、自分たちが護るべき対象。
そんなありえないことを信じてしまえるくらいに、どれだけ戦闘は過酷でも人に恵まれて今日までアドルは勇者として生きてきたのである。
つまりは鈍ったのだ。
勇者とされるまでのアドルであれば、魔族などより人間こそが最も恐ろしいことなど、至極当然のことでしかなかったのにも関わらずだ。
「殺せ!」
だが団長の号令で同時に3人が切りかかってきた瞬間に、アドルは躊躇なく聖剣を抜き放ち、神速の三閃でその3人を床に転ばせた。
それは峰打ちができない両刃の聖剣の腹で昏倒させたわけでもなく、手首や肩下を浅く斬って継戦能力を奪ったというわけでもない。容赦なく急所――頸を切り飛ばし、一切の反撃の可能性を摘み取る致命の斬撃を叩きこんだのだ。
アドルは確かに対人戦においては鈍った。
だがクナドとともに幼少時から魔物を狩っていた頃、魔物は獲物に過ぎず、敵といえば子供から無理やり搾取しようとする、クソみたいな同じ人どもだったのだ。
故に明確な殺意を向けられれば、反射で無力化できる(殺せる)。
心はどれだけ鈍っていても、魔族との戦いを経て研ぎ澄まされた身体能力は桁違いに上昇しており、技や魔法を使わなくとも帝国騎士3人程度であれば、反射で瞬殺可能な域に今のアドルはいるのだ。
「貴様よくも!」
3人も仲間を殺されて非難の声を上げる帝国騎士たちだが、あまりにも大きい彼我の戦力差を叩きつけられて明らかに怯んでいる。その証拠に口々にそんなことを言いながら、誰一人としてアドルに斬りかかって行こうとしない。
そもそも自分たちが殺そうとしておいて殺されたのだ、よくも、もへったくれもあったものではない。
「――カインになにをした。どこへやった?」
アドルはそんな有象無象どもを完全に無視して、間合いの外だと信じ切っている位置で部下たちに囲まれている団長に底冷えのする声で問う。
「なにをした? 魔法を封じたのだ。勇者サマも使えまい?」
明らかに鼻白みながらも、居丈高にそう言い放てるのは団長の地位に在る強者だからなのか、あるいは勇者アドルがその言葉通り、技も魔法も使えなくなっていると確信しているからなのか。
間違いなく後者だろう。
それをとんでもない剣閃で帝国騎士を瞬殺してのけた勇者が、もはやその象徴となっている『雷撃閃』を纏っていないことを見て、改めて安心したのだ。
『勇者たちの死』⑨
12/31 8:00以降に投稿予定です。
年内に第七章『勇者たちの死』を最後(『勇者たちの死』⑫/物語前半最終)までを投稿予定です。
お正月が明けたタイミングで後半の投稿を再開いたします。
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