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【毎日更新】 勇者たちの功罪 【ハッピーエンド】  作者: Sin Guilty
第七章

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第071話 『勇者たちの死』⑦

 最大の相乗効果である自身(勇者)の魔力共有はこの程度の距離では途切れないし、自分が気付ける程度の殺気に他の3人が気付けぬはずがないからだ。


 加えてこの5年間、アドルなりにやれることはすべてやってきたと自信をもって言い切れる半面、現時点で純粋な戦闘力において最弱は誰かと問われれば「勇者(自分)です」と答えるしかないことも大きい。


 自分がこうして無事である以上、他の3人が窮地に陥っているはずがない。


 なによりも剣聖の盾が抜かれて勇者と賢者が致命傷を負ったとしても、聖女が健在な限りは「はいもう一度、最初からやり直しましょうね」のような理不尽がまかり通ってしまうのが自分たち勇者パーティーなのだ。


 この5年間で「これは勝てないかも」と思った戦闘は幾度もあったが、それらはすべてそんな聖女の奇跡によって乗り越えてきた。その聖女はどんな攻撃を食らっても瞬時で再生してしまうのだから、アドルたちでもどうやったらスフィアを殺しきれるのかなど想像もつかない。


 魔族側にしてみれば、ふざけるなと喚き散らしたいはずだ。

 どれだけ負けてもそれを経験値として一からやりなおせる相手に、最終的に勝てるはずがないのは当然だとアドルも思う。もしも魔王がそんな存在だったらくじけてしまいそうだ。


 だからこそ、アドルは自分たちが魔族に負けるなどとは思っていない。

 それを油断と呼ぶのであれば確かにそうなのだろう。


 たとえその考えがなにひとつ間違っていなくても。


 気配を消したアドルは部屋から廊下へと飛び出し、今では聖剣だけではなくすべてが神遺物級アーティファクトになっている自身の装備をエクストリーム(瞬時に)装備しようとして失敗した。


 ――⁉


 クナドが見たら絶対に羨ましがるだろうというのは勇者パーティーみんなの共通意見であり、武器、魔法双方のクナド用神遺物級武装アーティファクトウェポンを全員が集めているという、今はどうでもいいことを思い出してしまったのは慌てすぎているからか。


 ――神遺物級武装の基本能力すら起動できない。魔法が完全に封じられているってことか? いやだけど内在魔力はある……ってことは術式構築の阻害か⁉


 最近では戦闘時に常に展開しているため、反射で発動している『雷撃閃』も起動できない。どうやってかはわからないが、魔族は術式構築を必要とするあらゆる技、魔法を封じることができるらしい。


 殺気を発している相手がいる場所は大まかであればわかるし、そこを目指せばみんなとも集合できるはずだ。万が一自分だけが素っ頓狂な位置に向かっていたとしたら、いつもであれば溜息交じりにカインが短距離転移テレポートしてきて、みんなのところへ戻してくれる。


 だが術式の構築を完全に無効化されているのであれば、カインはただの人でしかない。

 クリスティアナだって技、魔法、神遺物級武装が無くても剣盾の達人の域にあるが、それが魔人に通じるかといえばまず無理だろう。


 魔人は基礎的な身体性能において人を遥かに凌駕しており、その差は哀しいかな、人が編み出して磨き上げ、代々受け継いできた技術や知識で埋められるものではないのだ。人は魔力に基づく技や魔法を駆使して初めて、魔族と互角以上に戦うことができるのである。


 髪と瞳が金色に染まる『勇者形態』に変われるアドルだけが例外なのだ。


 そこまで思い至った時点で、アドルはにわかに血の気が引いた。


 三か所に分かれている殺気の中で最も近い位置は、同じ男であるカインの部屋周辺だ。

 この5年で上位魔族であればあるほど勇者パーティーの厄介さは身に染みているだろうから、隙を突いての各個撃破に動くことは当然の戦術だと思う。


 自分以上の強者であるクリスティアナ、カイン、スフィアが気配を完全に消していることは不思議でもなんでもない。自分だってそうしているし、魔力の圧から繰り出す技や魔法の規模を悟られるのは悪手だと、この5年で嫌というほどに学んでいるからだ。


 だが技や魔法のことごとくを封じられているらしい現状。


 その状況下では確かに魔力も消費せず、当然技や魔法と違って構築術式も展開されない大砲による不意打ちは、魔族との戦闘に特化している勇者パーティーに対しては有効な手だと認めざるを得ない。


 そしてアドルがその攻撃を無力化してから、けして短くない時間がすでに経過している。なによりもここまで魔人たちに接近を赦しておきながら、誰も戦闘を開始している気配がないというのはどう考えてもおかしい。


 魔法遣いとして間合いを詰められることをことのほか嫌うカインは、敵と見做せば無詠唱で弾幕を張ってまずは距離を確保する。その初手で決着してしまうことも多いのだが、カインの部屋と殺気を放っている敵たちの距離は、十分にカインの絶対防衛線を割り込んでいる。


 そしてその状況はカインに限らず、クリスティアナもスフィアも同じなのだ。


 当たり前の話だ。


 人は技や魔法に頼らず、生身のままで大砲の一斉射撃を凌ぐことなどできはしない。

 剣聖だの賢者だの聖女だの言ったところで、それらはすべて術式展開を必要とする技や魔法、深い信仰に基づく奇跡があってこそなのだから。


 それらを封じられた瞬間に、先刻のような一斉射撃を受けたとしたら――


 信頼とはかくも恐ろしい。

 ともすればそれは油断という最も忌むべき言葉を、最も美しく響く言葉で着飾らせたものなのかもしれない。


 ここまで思考を展開させておきながら、先入観を完全に取り除いて考えれば常ならざることが生じているのは火を見るよりも明らかでありながら、この期に及んでアドルの理性は自身が危機的状況に置かれていることを否定している。


 それを認めることはとりもなおさずカインが、あるいはクリスティナもスフィアも、すでに敗北している――殺されていることを意味するからだ。


 そんなはずはない。


 大結界の内側でそんなことができる方法を有しているのであれば、ここに至るまでに何度も勇者パーティーをみなごろしにできる機会はあったはずだ。いや5年前の旅立ちの日、まるで装備の整っていない、今とは比べ物にならないくらいに弱かった自分たちなら苦も無く瞬殺することだってできただろう。


 確かに最初の『奈落』の時から、取りようによっては戦力の逐次投入という悪手によって、魔族はまるで勇者パーティー(自分たち)を育てているようにも見えると話し合ったことはある。


 それならそれでこんな中途半端なタイミングで、まるで急に飽きたかのように始末することなど理解が及ばなさすぎる。


 力を有した者たちをあえて育てるのであれば、そこにはなんらかの目的の為に利用するという理由があって然るべきだ。それともこんな人間の勢力圏内で、殺しさえすれば利用できる準備を整えたということなのか?


 ――ありえない。


 アドルの思考はあらゆる根拠によって否定を繰り返しているが、身体は嫌な汗をかき、この程度の戦闘機動なんてどうということもないはずなのに脈拍が大きく乱れている。


 敵を魔族だとすれば、アドルの理論武装はなに一つ間違っていない。


 では敵が魔族だとして、どうやってアドルたちが与えられた部屋を正確に把握する?

 それどころかその対面の部屋に大砲を敷き詰め、術式構築を封じると同時に斉射する仕込みをすることを現実的だと思うのか?


『勇者たちの死』⑧

12/30 22:00以降に投稿予定です。


年内に第七章『勇者たちの死』を最後(『勇者たちの死』⑫/物語前半最終)までを投稿予定です。

お正月が明けたタイミングで後半の投稿を再開いたします。


この後の展開に興味を持っていただけたら、応援いただけると嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

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2月上旬まで毎日投稿予定です。

よろしくお願いいたします。


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