第065話 『勇者たちの死』①
アステア大陸汎人類共通暦1103年、盛光期七の日。
アルメリア暦1997年、夏待月七の日。
夜更け。
アルメリア暦1992年にアルメリア中央王国王都アーヴェインから勇者アドル、剣聖王女クリスティアナ、賢者カイン、聖女スフィアの4人――所謂『勇者パーティー』が魔王討伐の旅に打って出てからはや五年と少し。
王都への『魔物大海嘯』を一蹴し、罠にかかった上で当時最大規模だった封印迷宮『奈落』と禁忌魔物支配領域『旧オルタナ皇国領』を攻略して華々しい初陣を飾ったのが勇者パーティーだ。
そんな彼らでもそれだけの年月を費やしてもなお、今もまだ魔王討伐という宿願を果たすことはできていない。
だがついに勇者たちは最終目的地である『魔大陸』――天空に浮かぶ魔族たちの本拠地――に渡るための唯一の手段である、雲海すら貫く魔導塔の下に辿り着いたのだ。
魔導塔はアステア大陸に三か所存在しているが、ここ大陸北端の大国、ヴァレリア帝国帝都ルーヴェンブルグのものだけが、魔大陸にまで届く姿を今なお保っている唯一のものである。加えて20年周期で塔の先端にまで魔大陸がその高度を下げ、一年間にわたってその位置に留まる次の場所でもあり、それゆえに勇者たちはヴァレリア(ここ)の魔導塔を目指していたのだ。
ちなみにそれらの魔導塔はそのまま魔法使いたちによる組織の拠点ともなっており、その組織名もそのまま『魔導塔』を名乗っているのでややこしい。
ともかく魔王討伐の前段階として、人類による魔族からの大陸再征服を成し遂げた勇者パーティーの全員が今、帝城での贅を尽くした晩餐会を経て貴賓室に集合していた。
「さあて、いよいよ魔導塔を経て魔大陸への突入だね」
勇者らしい装備を解除してラフな格好になっている勇者アドルが、そう言って自らの気を引き締めている。
堅苦しい場が苦手なアドルは、下手をすると明日から始まる魔導塔の突破と魔大陸侵攻、その果ての魔王討伐よりも、先ほどまで行われていた晩餐会のほうが緊張を強いられていたのだ。それをどうにかつつがなく済まし、我ながら勇者装備以上に似合わないとへこんでいた豪奢な服を脱げて、一仕事終えた気分になってしまっている自分を戒めたといったところだろう。
孤児院で見出された変わり種ということもあり、アドル本人は上流階級の場に自分は似つかわしくないと思っている。だが引き締まった体躯と少し甘めに整った顔は十分に美しく、誰もが勇者として思い浮かべる理想像から大きく外れているわけではない。
この大陸ではありふれた茶髪茶眼ではあるものの、勇者の力を解放して戦う際には金髪金眼に変じるので、その姿を目にしたことのある者たち――当然そのほとんどを高位武人が占めている――の多くは、そのギャップにしてやられている。
この五年の間に吟遊詩人が披露するようになった勇者一行の英雄譚でも、勇者がその姿を変じるシーンが最大の魅せ所となっているほどである。
まあそんなアドルが自分のことを十人並みだと思ってしまうのは、他の仲間たちがそろって突出した美形揃いであることも大きいだろう。
「思ったより長くかかってしまいましたけれど、どうにか間に合ってよかったです」
まずはそういって整った顔に憂いの表情を浮かべているのが剣聖王女クリスティアナ。
確かに汎人類連盟としてまがりなりにもすべての国家が力を合わせている状況で、アルメリア中央王国からヴァレリア帝国に来るだけで5年もかかるはずがない。
つまり勇者パーティーはこの5年間、大陸中の魔物支配領域や迷宮を攻略して魔族の侵攻に晒されている各国を救済しつつ自身の強化をすすめ、なぜか最奥部、最深部で発見される神遺物級武装や、魔導塔を登るために必要なキーアイテムを集めて回っていたのだ。
それがなんとか『魔大陸』がこの地に来るまでに間に合ったことに、クリスティアナは改めて胸を撫で下ろしているところなのである。もしも間に合っていなければ、次に『魔大陸』へ上陸可能となるのは20年後になってしまうのだから、それも当然だろう。
剣聖王女のフルネームはクリスティアナ・ディア・クリスタニアという。
すなわち勇者一行の生まれ故郷であるアルメリア中央王国王家の第一王女――正真正銘のお姫様ゆえに『剣聖王女』と呼称されているのだ。
ちなみにクリスタニアとは千年前の魔王に最初に滅ぼされた大国、つまりはアルメリア中央王国の礎となった国の名前でもある。自らが王となるまで家名など持っていなかった先代勇者は、王妃に迎えた元王女の家名をそのまま残したのである。
アルメリア中央王国は千年前にも顕われた魔王を討伐した先代勇者が興した国であり、もちろんクリスティアナはその血を受け継いでいる。それだけではなく長らく発現していなかった初代勇者――剣聖とも謡われた剣技をその身に宿し、まさに剣聖として今代勇者パーティーの盾役を務めてもいる。
大楯を駆使して魔物の攻撃を一手に引き受け、常人では両手でも持てない特大の長剣を片手で軽々と扱う戦場での姿からは、とても想像もできない美貌を有している。
姫騎士という言葉が似合いそうなきりっとした顔と金髪碧眼は、ともすれば今代の勇者であるアドルよりも、よほど勇者らしいと言えるかもしれない。
先代勇者の血を継いでいるのでそれも当然と言えば当然なのなのだが、アドルはアドルで勇者の力を使う際に変身するのでお似合いの2人だともいえる。
もちろん魔王討伐を果たした暁には、なんとしても今代の勇者を王家に迎え入れたいという王家の思惑もある。それこそが王族であるクリスティアナが、勇者パーティーに加われた最も大きな理由だと言っていいだろう。
「だがそのおかげで、ほぼすべての魔物支配領域と迷宮を潰すことができたな」
クリスティアナの言葉を受けてそう答えるのは、魔法攻撃全般を担う賢者カインだ。
淡い灰色の髪と瞳をした美青年であり、美少女だと言われても誰もが疑問を持たないほどのその容姿は、美形揃いと言われる勇者パーティーにおいても頭一つ抜けている。
ただカインはその容姿に反して人見知りであり、異性どころか同性とさえまともにコミュニケーションをとれない、引きこもり系天才肌を演じていた。まあその天才性が過ぎたおかげで同級生はおろか教師陣にまで畏怖され、結果として群れることを好まない孤高の天才だと見做されるまでになってしまっていたのだが。
ちなみにその誤解は二重のものであり、カインの本性はそれとはひどく乖離している。
なぜならばコミュ障魔法オタクは、幼い頃に「生きやすく振舞う」ことをスフィアから学んだカインが、極力魔法の研究を邪魔されずに済むように創り出した仮面に過ぎないからだ。
王立学院時代はその美貌すらも長く伸ばした髪で隠蔽し、わざと目を閉じて糸目を装って魔法で視界を確保し、魔法にしか興味がない変人を仲間たち以外には演じ続けていた。
だからこそ逸失古代魔法のすべてを復活させ、神話の時代ですら禁呪とされていた大魔法をすべて行使可能という、文字通り『賢者』の通名にふさわしい偉業を成し遂げられたのだともいえるだろう。
それが勇者パーティーのメンバー+1人に限られるとはいえ、今のように素で会話できるようになっている。それどころか自分たちの5年間の活動が人のためになっていることを理解した上でそのことを嬉しそうにしているなど、王立学院入学前のカインを知る者であれば、とてもではないが信じることなどできないだろう。
『勇者たちの死』②
12/28 8:00以降に投稿予定です。
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