第064話 『初陣』⑩
「あー、超長距離転移魔法をそういう風に使うのか……まあ勇者サマたちは大丈夫だと信じることしかできないな」
『魔物大海嘯』を寿命約1年分費やして瞬殺してのけたクナドは、王城の貴賓室に通された上で勇者パーティーと魔人たちの決着を聞かされていた。
どうしてもカインも使える短距離転移魔法の使い方に思考を引っ張られてしまっていたクナドも、超長距離転移を罠の様に使うことができるところまでは思い至れなかったのだ。
確かに敵地へ特攻して発動させる犠牲を厭わなければ、自分たちが最も有利な場所へ、万全の準備を整えて敵を誘い込むことが可能な最強の罠ともなる。
すでにしてやられてしまった以上、クナドとしてもアドルたちがその罠を食い破ってくれることを信じることしかできない。魔人は誘い込む先を『奈落』だと言っていたらしいし、アドルたちであれば魔大陸ではなく地上である限りは凌げるとクナドは判断している。
最悪の事態は魔王以下の全戦力を集中した魔王城に飛ばされる事だったが、さすがに『魔大陸』まで一気に飛ばすことは不可能だったのか、もしくはそれ以外の理由があったものか。
クナドとしては魔人がアドルたちを油断させるために口にしたという言葉が気になるところだが、今は考えても仕方がないと割り切っている。
「クナド殿、今後についての打ち合わせをお願いできるか」
沈思黙考したクナドに声を掛けられる者がいないまましばらくの時が流れたが、意を決してアルメリア中央王国現国王ライオヌスⅢ世が願いを口にした。
その部屋にはすでにアルメリア中央王国国王、聖教会のアルメリア教区を預かる司教枢機卿、アルメリア魔導塔の塔主、冒険者ギルドのアルメリア地区本部長が揃っている。
それぞれがクナドの実力については勇者、王女、賢者、聖女から報告を受けていたものの、『魔物大海嘯』を一撃で薙ぎ払えるとはまでは誰一人として思っていなかったのだ。
だが自分の目でその凄まじいまでの結果を見てしまった以上、クナドの扱いが国賓級になるのは当然の結果でしかない。これから魔王が討伐されるまでは、クナドを囲い込むことにこの3年難色を示していた身内もいなくなるのだ、できる限りの手は打ちたい。
最悪の想定として勇者パーティーが魔王に敗れ去った場合、クナドこそが最後の希望になるし、無事凱旋してきた場合でも勇者パーティーは全員クナドに懐いているのだ、厚遇しない理由などどこにもありはしない。
こうなっては聖教会も、クナドと聖女との仲を黙認ではなく公にするように動くべきかどうか悩ましいところだろう。
王家としてはクリスティアナの妹姫をクナドと行動を共にさせる方向ですでに動き出しているし、魔導塔は勇者の妹であるクレアを全面的にバックアップする構えだ。
冒険者ギルドは明日から冒険者としての生活を始めるクナドを全面的にバックアップすることによって、その信頼を勝ち得ようと画策している。とりあえず担当受付嬢は相当な美人が充てられることになるだろう。
「あ、こちらこそお願いします。勇者様たちが魔王を討伐してくれるまで、私たちは彼らが帰ってくる場所を死守しましょう」
クナドは当然、そのあたりの思惑をすべて理解した上でうまく立ち回ろうとしている。
魔王討伐は難事だが、アドルたちなら絶対にできると信じている。
スフィアもやる気になっているからには、時間はかかっても必ず成し遂げるだろう。
つまり平和な時代が訪れ、クナドの大事な友人たちはその中で勇者王とその正妃、聖教会と魔導塔の象徴として生きていく時間の方が、今日始まった魔王討伐の旅よりもずっと長いものになるのだ。
そして人間の社会とは正義や清廉、平等や公平とは程遠い。
だがクナドはそれを正そう、美しい世界にしようなどとは思っていない。
英雄となって帰ってくるだろう友人たちが、少しでも生きやすい世界にしたいだけなのだ。
そのためならどれだけ自分の寿命を使っても構わない。
世界を救った英雄たちには偉業に対する当然の権利として、死ぬまで笑って生きてほしいと思うから。
『勇者たちの死』①
12/27 22:00以降に投稿予定です。
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