第063話 『初陣』⑨
『こうなっては是非もない、我々は魔王様の命令を果たすのみ。如何な勇者パーティーとて、『奈落』から生きて帰れるかな?』
淡々と魔人がそう告げると同時、止めを刺すために近づいたアドルの足元に強力な魔法陣が展開される。それは狭い範囲ながらも一瞬で広がり、包囲していた勇者パーティー全員を捉えた。
アドルはためらうことなく魔人にとどめを刺したが、どうやら魔道具によるものらしく魔法陣は消え去らない。またクリスティアナによる各種防御魔法も、スフィアによる奇跡も、それ自体には害のない魔法――超長距離転移魔法の発動を止めることができない。
「あー、いきなり封印迷宮に飛ばされるのはさすがに予想できてなかったな」
アドルは常人離れした脚力にものをいわせて飛びのいたが、魔法陣に捉われた証拠とでもいうべき魔導光が消えないので肚を決めたらしい。
「どうしてそんなに嬉しそうなんですか⁉」
だが笑っているアドルの様子に、クリスティアナが突っ込んでいる。
さすがに初戦でこんな仕込みをされては、クナドとて読み切ることなどできないのは当然だ。それを嬉しそうにするアドルの感覚がわからないのだろう。
防御魔法も奇跡も効かないということは転移そのものに害はないのは確かだ。
だが魔人が口にした『奈落』とは魔物支配領域となっている旧オルタナ皇国領に存在する最大規模の迷宮である。攻略階層はまだ二桁にも至っていないにも拘わらず、他の迷宮の最下層主級の魔物が湧出しているので封印迷宮とされている。
魔物支配領域は禁忌、迷宮は封印が冠せられた対象は死地。
そこへ飛ばされたことを周囲の者たちにも聞かれた以上、予想外ではあったが勇者たちにとってはたいしたことではないと思わせる必要がある。だからこそアドルは、あえてそんな表情を浮かべたのだ。
「とはいえこれはわかっていても避け難いと思うがな」
それを理解したカインも、苦笑いと共に「厄介だな」程度の余裕をあえて見せる。
まだ初陣を終えたばかりの自分たちが、いきなりそんなところへ飛ばされるのが危険でないはずがない。この場では圧倒できた魔人たちでも、外在魔力の濃い迷宮最下層で接敵した場合は桁違いの強さを発揮するだろう。
この場に送り込まれた魔人たちは威力偵察を兼ねた捨て駒に過ぎず、勇者パーティーを強制的に「奈落」最深部へ引きずり込むことが、魔族にとって最悪の場合――勇者パーティーが強すぎた際の最終手段。
そう考えればアドルたちの初陣は見た目こそ勝利だが、その実完全にしてやられたともいえるのだ。
だからこそ、少々無理筋でも周囲にそうは思わせないことが肝要なのである。
そのあたりをすぐに判断できるアドルは、やはり勇者パーティーの要なのだ。
「クナド様ときちんとお別れをできていません!」
だが最も効果を発したのは、本気で取り乱した聖女スフィアのこの台詞だろう。
ニュアンスが少し違えば今生の別れとなるかもしれない機会を失う悲嘆にもとられかねないが、死地だの危機だのをまるで感じさせないスフィアの素の慌てぶりが、それを見る者たちに微笑ましさすら感じさせることに成功している。
実際、転移陣によって勇者パーティーが目の前から消えたにもかかわらず、この場にいる者の誰もが表情、あるいは内心で苦笑いに近い表情を浮かべていた。
その代償として、王都に残るクナドは「あの聖女様にあれだけ思われておられるとは、羨ましい限りですな」などと偉い人たちから言われ続けることになる。
ちなみに王立学院生たちは国家、冒険者ギルド、魔導塔、聖教会すべてからこれ以上ないくらいに厳しい緘口令が徹底されたため、クナドが勇者たちに魔人を任せてどこかに消えていたことと、冗談ではないレベルで聖女スフィアと相思相愛な事実が市井に漏れることはなかった。
逆に知っている者たちの間では聖女との仲は現実よりもとんでもなく進んでいることになり、姿を消した件はそう時間をおかずにクナドが実力を隠しているという事実に基づく噂の温床となった。
こうして勇者アレン、剣聖王女クリスティアナ、賢者カイン、聖女スフィアの初陣は大勝利で終わった。最後に攫われるような形になりながらも世界中がそう認識しているのは、それから一月も立たぬうちに勇者パーティーが封印迷宮『奈落』と、禁忌魔物支配領域『旧オルタナ皇国領』を開放したからである。
つまりこの日を境に、一気に人類の大陸再征服が始まったのだ。
『初陣』⑩
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