第062話 『初陣』⑧
クナドが訓練の際、くどいくらいに「初手で仕留める、あるいは可能な限り数を減らすのが一番大事!」だと言っていたのはそのためだろう。アドルとしてはクナドがまだ単独の時に魔人と接敵した上で生き残っていてもさして不思議とは思わないので、「さすがだな」程度の感想である。
なぜならば今接敵している魔人たちの力がそう大層なものとは感じられず、これならあの頃のクナドでも倒せるのは当然だと思っているからだ。
「怪我したら言ってくださいね?」
そのアドルの判断が油断ではなく妥当であることを、まずはスフィアが証明した。
自分に向かってきた1体を、突如天から射しこんだかのような強い光――天使の階段のような現象を以て一瞬で消し去った上で、のんびりとそんな事を口にしている。
「こっちが有利な戦場なら、禁呪も古代魔法も必要ありませんね」
カインもまた自分に向かってきた1体を禁呪も古代魔法も使わず、既に展開させていた巨大球形立体魔法陣から構築した光魔法の一撃で消し飛ばしている。
「それでも魔物や魔獣に比べればずいぶん強いです」
クリスティアナが一番慎重な発言をしているが、それは今まで隔絶した存在と見做されていた魔人が、魔物や魔獣の延長線上に過ぎないと言っているに等しい。
外在魔力が薄い戦場であることが前提とはいえ、魔人の実力が初陣の自分たちでも圧倒できている程度であることは朗報である。
実はクリスティアナの倒し方が一番えげつなく、展開していた『自律障壁展開』――掌大の無数の障壁で迫ってきた魔人を押し包み、そのまま圧殺してのけている。大剣を防御を軸に使用し、大盾の固定能力を攻撃に転用するというあべこべさが、それを見る者に余裕を感じさえる圧勝である。
聖女と賢者は一瞬で始末しすぎていてよくわからなかったが、剣聖の残酷すぎるともいえる処理の方が、観衆たちにはより勝利を実感できるらしい。
もっともその勝利に対してみながお気楽に歓声をあげられているのは、そちらへ向かった魔人をアドルが『雷撃閃』で阻止したからこそなのだが。
「僕だけ、まだなにもしてないよね⁉」
にもかかわらずアドルがそう言って苦笑いを浮かべているのは、他の3人とは違って魔人を瞬殺することができないでいるからだ。
「アドルがいてくれないと、私は禁呪も古代魔法も撃てないのだが?」
「アドル様がいてくださらないと私の装備も能力も機能しません」
それに対して、カインとクリスティアナが即座に突っ込みを入れているが、それらは別にフォローなどではない。
今回は自前の内在魔力で魔人を倒せたカインとて、今後禁呪や古代魔法を自在に駆使するのであればアドルは欠かせない。クリスティアナに至っては現時点でも剣聖としての技はもちろん、神遺物級武装である大剣と大盾を起動させることすらアドル抜きでは不可能なのだ。
奇跡を駆使する聖女スフィアだけは別だが、勇者パーティーの戦力は文字通り勇者ありきで成立している以上、アドルが恥じるべきことなどなにもないのである。
加えて言うのであればクリスティアナもカインも、聖女スフィアが勇者パーティーに参加してくれているのはアドルがクナドの親友であるからこそだと知っている。そういう意味でもやはりアドルこそが、今代の勇者パーティーの要であることは揺らがない事実なのである。
「やっぱりまだ実戦では魔力貯蔵庫役だなあ……」
フォローどうも、とばかりに苦笑いを浮かべたアドルは、一撃では屠れないまでも聖剣を駆使して最後の魔人を追い詰めていく。勇者としての技と魔法を組み合わせたこの剣技こそ、アドルがクナドと共にこの3年間最も鍛え上げてきた最も自分が信頼できる力だ。
だがそれではまだ魔王討伐には届かないことも自覚しているが、一方で自分の成長がここで打ち止めだとも思っていないので、別にアドルは悲観などしていない。幼い頃からクナドとずっと一緒に戦っていただけに、比較して自分の方が弱いことなどいちいち気にしていられない。大事なのは成長を続けることと、今この瞬間に弱いなりにも役に立って勝つことなのだ。
今自分がするべきことが、要人たちの方へ向かわせないようにしながら時間がかかってでもこの魔人を単独で仕留めることだと理解しているアドルは、うだうだ悩まない。
だが神速で繰り出される剣閃を、爪や尾も駆使しているとはいえ身一つで凌いでいる魔人は、やはり普通の物差しで測ればとんでもない強さを有している。頼りになる仲間たちが頼りになりすぎているだけで、これが普通だよなあとアドルは内心で嘆息していた。
もっともこの最後の魔人が最も巨躯を誇る唯一言葉を発した個体であり、勇者自らが自分たちを護る立ち回りをしてくれていることから、学院生はもちろん王たちですら、現時点ではアドルが勇者パーティーで一番弱いなどとは気付けない。
それどころか剣技で優位に立ち回りつつ、保護対象に攻撃が向ける余裕を無くしてくれていることがわかるので一番かっこよく見えてすらいる。
なんといっても宙に浮いている魔人へ自身は浮かべないアドルは都度跳躍し、空中で剣閃を交わして地上に着地し、瞬時で再度跳躍してその場に魔人を釘付けにしているのだ。『雷撃閃』が発する雷光を迸らせつつ超高速機動をつづけるアドルは実際とんでもなくかっこいい。日頃の茶髪茶眼が白に近い金色に変じていることもそれに拍車をかけている。
死の象徴ともいえる魔人の攻撃を苦も無く弾き、逆に剣技であっという間に追い詰めていく様は、人の希望に燈を灯す。人が魔族に狩られるだけの存在ではない事実を目の当たりにすることは、今後王立軍や冒険者となる学院生たちには計り知れない価値を持つ。
故に剣聖、賢者、聖女の3人は勇者一人に最後の魔人を任せ、要人たちの防御に徹していた。この戦闘をデモンストレーションとしてみれば、勇者パーティーのメンバーそれぞれが1vs1で魔人を倒す事は外せないのだ。
アドルもまた守りを意識する対象が自分だけになったことで、攻撃の密度が跳ね上がった。こちらもクリスティアナと一番練習していた、敵と自分の周辺に展開させた掌大の無数の障壁を足場にして空中から降りないままに攻撃を継続できているからだ。
そのまま一気に畳みかけて防御一辺倒になった魔人の腕と尾をほぼ同時に切り飛ばし、そのままの流れで鳩尾に聖剣を突き立てる。
牙の生えた口から蒼い血を吹き出し四肢から力が抜けた最後の魔人が、どちゃりと鈍い音を響かせて地に墜ちた。
『……このまま成長すれば貴様らは魔王様すらも超えるだろう。その時が楽しみだ』
それでもまだ絶命せず、変わらず感情を感じさせない声でそう告げる。
かつての救世譚に記されている通り魔人が嘘をつけないというのが真実であれば、殺しに来ておいてこの言い草はないだろうと、すぐそばに着地したアドルは呆れた。
そんな嘘をつく目的もわからないが、人間のことをよく理解出来ていないなりに今の時点でも魔人を鎧袖一触した勇者パーティーを増長させ、油断させるといったところか。
まだ絶命しない最後の魔人に油断することなく、アドルはとどめを刺そうと動き、他の3人も包囲するように動いて、万が一にも自爆などされないように構える。
だがその慎重さが裏目に出た。
『初陣』⑨
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