第060話 『初陣』⑥
「慌てて強くなれるんならそれもいいけど、落ち着いているふりをするだけでも、いくらかはその方が動きやすくなるだろ?」
「返す言葉もございませんよ」
だがここは軽口をたたく場面だろう。
アドルもそれを期待して振ったのだろうし、そこは乗っておく。
さて俺は『魔物大海嘯』を相手に正体を隠して派手な初陣を飾るから、人類の希望である勇者御一行様は魔人相手に華々しい初陣を飾ってくれ。
魔人相手にアドルたちでも歯が立たないようならもうどうしようもない、殺される前にカインに俺を迎えに来させてくれ。ぎりぎりまで寿命使ってどうにかするから。
単なる俺の杞憂に過ぎず、魔人が現れなかった場合の苦情は後日受け付けます。
◇◆◇◆◇
「ホントに来ましたね……」
天井の高い講堂の中空に魔力の渦が発生しているのを確認して、クリスティアナがどこか呆れたようにそう呟いている。
「こういう時のクナドは、昔から読みを外さないんだよね」
魔力の渦に対して剣聖、賢者、聖女に前方三方を護られ、いささか勇者らしからぬ立ち位置にいるアドルが、なぜか自慢げにそれに答える。クナドが認められる、というよりも称賛を突き抜けて呆れられるのが、なぜかアドルは昔から嬉しいのだ。
勇者になってから3年が過ぎても、まだアドルの自認は「クナドの一番弟子」であるらしい。
そういう意味では妹弟子にマウントを取る兄弟子の図式だともいえるだろう。
「この期に及んでまだ私は、クナドの力をきちんと理解できていなかったというわけか」
そんな2人の会話をよそにカインがへこんでいるのは、クナドの予想通り魔人がこの場に現れようとしていることについてではない。
クナドが予測した、魔人が魔力探知能力を有している可能性を超長距離転移とは違ってあっさり受け入れたのは、カインも似たようなことができるからだ。
精度はそこまで高くないとカイン自身は思っているが、かなりの広範囲――意識を集中すれば王都周辺一帯にどれくらいの強さの魔物が、ざっとどれくらいの数がいるかくらいは掌握できる。
実際、ついさっきまで王都の全周を覆うようにして迫り来ていた『魔物大海嘯』を大雑把な数――約1万前後の下位魔物の群れとして捉えていた。もしもクナドがいなければ、王都が陥落するまではいかなくとも王立軍にも冒険者たちにも決して少なくない被害を生じさせ、まったく王都民たちに犠牲を出さないことはさすがに不可能な規模だ。
城壁外で迎え撃てるのであればともかく、大量の魔物を王都内に引き込んで戦わねばならない以上、どうしても絶対防衛線を抜ける魔物は出てしまう。
それがほぼ同時、まさに一瞬ですべて消え去ったのをカインは察知したのだ。
王立軍の将軍であろうが筆頭騎士であろうが、冒険者ギルドのA級冒険者であろうが、そんな冗談みたいなことをできるはずがない。そんな突出した個に頼るのではなく、もしも王都外に軍を展開させることができたとしても、日を跨ぐような長期戦となるのが当然の規模だったのだ。
対多数の戦闘に特化している自分でさえ、禁呪を使おうが古代魔法を使おうが、あれほど広範囲に展開した万に及ぶ魔物の群れを、一撃で薙ぎ払うことなどできはしない。
賢者、最近では『万魔の遣い手』とさえ呼ばれるカインですら、どうやったのか、どんな魔法を使ったのか想像すらできない。絶対に事が済んだら詳しくクナドに聞こうと思ったからこそ、カインは先の言葉を吐いたのである。
その言葉の割にアドルとはまた趣が違うとはいえカインもまたどこか嬉しそうなのは、賢者(自分)に魔法を教えることができる唯一の存在であるクナドが、今もまだ格上――『教授』でいてくれることを喜んでしまっているのだろう。
「無理だと思いますよ、クナド様を完全に理解することなんて」
「「「…………」」」
そんなカインに対して天上の笑みを浮かべすぐさま惚気てみせるスフィアに、勇者パーティー残りの3人は無言で半目になり、口を横に開くことしかできない。
まああのクナドを彼氏にするなら、スフィアくらいの規格外でなければ無理だろうなとも思う3人である。視点を変えて考えれば、このスフィアを彼女にすることなど確かにクナドくらいしかできはしないだろう。しかも尽くして付き合ってもらうのではなく、スフィアの方を本気で惚れさせてとなればなおのことである。
聖剣を抜いた勇者、神遺物級武装である大剣と大楯を起動済みの剣聖、すぐにでも禁呪、古代魔法の構築に入れるようにすべての基礎となる巨大立体球形魔法陣を展開している賢者は、それぞれ初陣としてはそれなりにサマになっている。
中でも『自律障壁展開』をすでに済まし、この講堂にいる全員に複数枚を張り付けているクリスティアナは、まさに剣聖――不壊、鉄壁の通り名にも恥じない風格さえ漂っている。こういう時、王族特有のいかにもな雰囲気は奏効するのだ。
だが剣聖すらも超えて聖女が凄い。
なんとなれば宙に浮かんでいる。
加えてクナドに「それで羽が生えたらほんとに天使様みたいだな」といわれたことが気に入ったものか、周囲に展開された奇跡因子を双翼の形に整えて背後に浮かべているときている。なんかもう、本当に降臨した天使様が魔族を滅ぼさんとしているようにしか見えないのだ。
『どうやってこの場から動かずに下級魔物の群れを一掃した? やはり勇者を名乗れるだけの力を有してはいるらしいな』
本当に『大結界』を超えてこの場に超長距離転移してきた魔人たち。その5体の魔人の中でも最も巨躯を誇る個体が感情を感じさせない声で人語を話している。
だがクナドの予測通り5体も顕れた『魔人』を前にしても、護られている要人たちや教師陣、王立学院生たちは、聖女をはじめとした勇者パーティーたちの雄姿のおかげでさほど動揺せずに済んでいる。
それぞれ禍々しい魔導器官――巨大な山羊角や鈎爪の生えた羽根、竜の如き尻尾や牙、猫に酷似した縦長瞳孔の魔眼を備えている姿は恐ろしい。肌の色も黒に近い蒼をしており、本能がシルエットこそ似ていれど、人とは明確に違う存在だと訴えかけてくる。
にもかかわらず流暢に人語を話すのだ、本来であれば恐慌をきたしてもおかしくない。
ここにいる誰もが魔人を目にするのは初めてであり、接敵した者のほとんどが殺されているという事実もある。それでも千年前の救世譚に記されている姿や、極わずかな生き残りが言っていたことは嘘ではなかったのだと誰もが今思い知らされていた。
だがスフィアがあまりにも天使そのものの姿を再現しているため、信仰の濃淡こそあれど誰もが聖教会の信者であるアルメリア中央王国においては、聖典に記された通り「神とその使途に魔族は敵わない」とごく自然に信じられてしまったのだ。
あたり前のように浮かんでいる魔人たちに対しても、すでにスフィアが浮かんでいるものだから、「強い人は飛べるものなんだな」程度の驚愕に収まってしまっている。
大国の要人や自身も魔物と戦える力を有している学院生たちですらそうなのだ、もともと技や魔法、奇跡を荒唐無稽なものと捉えている王都民たちであればなおのことだろう。希望の象徴が派手であることは、時に実利的な効果ももたらすのだ。
『初陣』⑦
12/25 18:00台に投稿予定です。
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