第059話 『初陣』⑤
「ですが罠とはいえ『魔物大海嘯』にはどう対処すればよろしいですか? 私たちが参戦しなければ陥落はしないまでも、相当の被害が出ることは避けられないと思います」
少なくとも勇者パーティーの4人は、俺が想定していることに納得してくれた。
となればスフィアの言うとおり、そこが一番の問題点となる。
当然スフィアの言う被害とは、物的なものはもちろん人的なそれを指している。
俺が全責任を負う立場――国王なのであれば、迷うことなく王立軍や冒険者ギルドに血を流してもらうことを選択する。それでも足りなければ、守り切れなかった王都民にも犠牲を強いることになるだろう。
建前では「王の為に民がいるのではない、民の為に王がいるのだ」などと立派なことも言えよう。
だが現状の体制下では、要人に死なれて国が乱れるくらいであれば名もなき王都民たちを犠牲とすることに目を瞑らなければならない。
いや瞑れなければ王など務まらないというべきか。
俺の想定が杞憂に過ぎず、アドルたちを投入していればその犠牲は発生しなかったとしてもそっちを選ぶ。
だが今回に限っては、勇者パーティーの『初陣』であることは無視できない。
最短でもまだ年単位で魔王軍からの攻撃をどうにか凌がなければならない人類側としては、希望の象徴たちの初陣には華々しい戦果が必須だといえる。勇者たちがいずれ必ず魔王を倒してくれると民衆に信じさせ、以て厳しい状況でも希望を失わないようにするためには、ただ凌いだというだけではまるで足りない。
勝利を。
それも圧倒的な大勝利を必要としている。
「ごめんスフィア。そっちは俺が請け負う。」
そしてここには俺がいる。
寿命さえ使えば、さすがに魔人たちの相手は無理でも『魔物大海嘯』を蹴散らすくらいであればなんとでもできる、おそらくは魔族にも警戒されていない異能遣いが。
思えば厳しい選択を強いなければならない側が、それを補填できる能力を持っているのは有難い限りである。偉そうなことを言いながらも性根はヘタレなので、そうでもなければ「自分の判断で人を死なせる可能性がある正解」なんて、とてもじゃないけど選べなかっただろう。
結果、最悪の事態を引き起こしかねない、優し(あま)い善性に基づいた選択を行ってしまう。
俺も他人事であれば「力のない善人が一番厄介だ」などと知った風な口を利くのだろうが、力がないからこそせめて善くみえる方を選ぶしかなくなるのだ。正しい方の選択肢は、時に血塗られた痛みを強いるものであるからこそ。
そんなことを言っても俺とて寿命が惜しくないわけではないのだが、それと引き換えにできるものが英雄の卵兼友人たちの華々しい勝利と、日々を懸命に生きている王都民たちの命となれば、うんまあ一年や二年は差し出したっていいかな、くらいなら思える。
アドルをはじめとした強い連中は、俺のことを献身者(ツンデレドM)みたいに勘違いしているみたいだが、けっしてそんなことはない。きちんと人並みの生涯を全うできるように寿命の使用は慎重に調整しているし、この力を得てから嫌なことなんかほとんどなくて、嘘偽りなく嬉しいことばっかりなのだ。
孤児院を救えたし、アドルと親友になれた。
王立学院で3年間も楽しく過ごせたし、その間にクリスティアナ王女殿下やカインとも仲良くなれた。まさか自分が聖女様と今みたいな関係になるなんて、孤児院で絶望していたあの頃の自分に聞かせたら「馬鹿にするな!」と激昂する自信しかない。
俺は自分の為にしか寿命を使っていない。
どれほど利他に見えても、結局は俺がそうしたかったというだけだ。
その証拠という訳ではないが俺はこんな異能を持ちながら、一部とはいえそのことを知られながらも勇者パーティーから外されるくらい大事にされている。世界の敵は俺らが倒してきてやるから、せめてお前は俺らの故郷を護っといてくれって、どれだけ甘やかされているんだって話である。
僕はこの力を得てから、いや得る直前から恵まれ続けている自覚がある。
「だと思ったよ」
「ごめ……ありがとうございます」
ほらな?
アドルは呆れたような表情を浮かべているし、クリスティアナ王女殿下は唇を噛んで俯いてしまっている。あまつさえ平民に謝ろうとしかけておられた。カインに至っては声もなく、自分が無力だとかなんとか素っ頓狂なことを考えているのだろう。
いや俺はお前たちに魔王討伐を押し付けて、王都でぬくぬく待っている方だからな?
自分たちが強いられている無理難題を、すっかり忘れ去っているんじゃないだろうな?
「どれくらいですか?」
そんな中、スフィアだけが厳しい口調でそう聞いてきた。
スフィアの場合は俺の為とか世界の為とかではなく、そんなことして私と一緒にいられる時間が減るんじゃないでしょうね? ってことだと昨日から理解というか、そう俺は解釈しているからちょっと怖い。
俺ももしスフィアの奇跡が寿命と引き換えなら、安易に使おうとしていたら腹を立てるだろう。俺に寿命を使わせていると見做して周囲に攻撃的になるのではなく、直接腹立ちを俺に向けてくれるだけ冷静だと思う。
「一年ちょっと。まあ今後はより燃費よくできるように工夫するさ」
「もう」
しかも俺がどういう言い方をしても、曲げないと思ったら背中を押してくれる。
尊敬も感謝ももちろんうれしいが、男――というか少なくとも俺は「もうしょうがないですね」みたいな感じで、惚れた相手に許されるのがなぜか一番安心するのだ。
「慌ただしいことこの上ないが、勇者パーティーの旅立ちとしてはぴったりともいえるな。千年後には救世譚の盛り上がりポイントの一つにはなっているだろうさ」
さてこうなったら急がねばならないのは俺の方である。
『魔物大海嘯』は今この瞬間にも王都に殺到してきているのだろうし、魔人級が王都内に現れるのは王立軍や冒険者たちが魔物と接敵してもなお、アドルたちが前線に出ないと判断した時点になるだろうからな。
「クナドらしいっちゃらしいけど、もうちょっと慌ててくれてもいいと思うよ?」
いやそれなりに慌ててるぞ?
騎士さんたちが慌てて届けてくれた、勇者様の聖剣や剣聖王女様の神遺物級の大剣や大盾、カインの魔杖やいかにも魔術師といった長外套は、ごく普通の武器防具とは違ってエクストリーム着替えができるからいいよな? 蒸着か? 変身か?
もうスフィアに至っては奇跡の力をそのまま光る装備にしているから、冗談じゃなくマジカルメイクアップそのもので洒落にならない。
対して俺は通常装備をせっせと自分で身に付けるしかないんだ、人前でやるとカッコつかないこと甚だしい。その上正体を隠すために、騎士さんたちとここを出た後にもう一回着替えなきゃならんしな。
正体を隠して活躍するってのは、結構わくわくするからいいのだが。
『初陣』⑥
12/25 8:00台に投稿予定です。
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